第18話、桃太郎、水上遺跡を発見する
キヌウスのダンジョン未踏場所を探索中。途中、イッヌが何かに気づいて、それについていったら、またまた開けた場所に出た。
「おっと、水?」
「地底湖の一種かしらね」
カグヤが目を細めた。
「そして遺跡みたいな建物があるわ」
地底湖に浮かぶ水上遺跡。風情があるねぇ、こういうの探検家が心を弾ませるロマンってもんだろう。
「あそこも探索するんだよな?」
「当然! タンジョンの未踏カ所にある遺跡なんて、大体宝物があるものよ! つまり、当たりかもしれないわ!」
カグヤはテンション高かった。彼女の場合、お探しのお宝が五種類。何が見つかるかわからない現状、宝物獲得チャンスが多いほうがいいに決まっている。
が、割と大きな地底湖で、水上遺跡まで距離があるので、装備つけて泳ぐはさすがにナンセンスだ。水の中に何かモンスターがいるかもしれないしな。
人工物があるのだから、それに繋がっている橋がないか、ぐるりと回って探してみる。そうしていたら、青色の不定形モンスター――スライムが三体現れた。
「おおっ、こいつがスライムか!」
前世では、よく漫画やゲームでモンスターの代表みたいに現れたものだ。ゲームじゃとりあえず、雑魚イメージがあるが、漫画や小説だと物理耐性があったりで、前衛型には厳しい敵という印象だ。この世界じゃどっちだ?
「カグヤさんよぉ、何かアドバイスとかある?」
「とりあえず、打撃はほぼ無効。斬撃も途中で止まる。あと、酸を持っている場合も多いから、近づくのはおすすめしないわ」
「ゲッ、酸持ちかよ、それは厄介」
そう聞いたら、素手でも触りたくないな。
「となると、魔法頼りになるか?」
「何か火がつくものを持っていれば、それで燃やせるわよ。松明とかもスライムには有効」
あー、そういえばスライム系って火に弱いんだっけか。対処法を知っていれば、実は大したことないやつ。
「って、おい、イッヌっ!?」
イッヌが大口を開けて、スライムを一呑みにした。一瞬、イッヌの口が、普通より大きくなったように見えたけど。
「まあ、イッヌもフェンリルだからね」
カグヤが肩をすくめた。
「伝説だと神さえ呑みこむなんて言われる狼だもの。スライムなんて、軽く一呑みでしょうよ」
残る二体のスライムも、イッヌは平らげてしまう。青いゼリーを食ってるみたい。
「お、おい、イッヌ。スライムなんて食って大丈夫か?」
酸とかあるもの食って、胃とか臓器は大丈夫か? ……大丈夫? そうかそうか、ならいいんだ。よしよし、イッヌを撫で撫で。
「というか、お前、確か火を噴けなかったっけ?」
町に乗り込んできた時、炎のブレスを吐いていたような。スライムが火に弱いなら、そっちのほうが安全じゃなかろうか。
スン、とイッヌは息をついた。わかった、と言っているような気がした。……何となく。
探索を続ける。ぐるりと回っていたら、岩陰から、またもスライムが飛び出してきたが、イッヌが鼻息を飛ばすと、何故かスライムが燃えてカスになった。
口から炎を出せるイッヌは、鼻息にも少量の熱、炎を混ぜて飛ばせるらしい。スライムが鼻息で燃えカスになるシュールさよ。
「おっ、あれは橋か……?」
水上遺跡に繋がる桟橋のような橋が見えた。いざ宝物を求めて――と思っていたら、岸に巨大シオマネキ――片方のハサミが大きなカニのモンスターが上がってきた。
「シオマネキって、肉食だっけか?」
「さあね。でもダンジョンに出てくる奴は、大抵襲ってくるものよ」
カグヤが言った時、イッヌが前に出た。巨大シオマネキたちは、フェンリルが近づいてくると、ささっと水に戻った。逃げおった……。
何で出てきたか知らないが、イッヌが追い散らしたので無視して橋を渡ってしまおう。それで遺跡に乗り込む。
「おー、ガチで遺跡っぽい!」
「ぽい、じゃなくて遺跡よ」
カグヤに突っ込まれた。
遺跡の壁を見れば、よくわからない文字のような模様が掘られていて、今はなき古代文明か何かなんだろうと思う。場所によっては、イッヌにはちょっと狭いところもあった。
ところどころ水路があって、さっきのシオマネキの子供みたいなのが、ビッシリいた。……うへぇ。
イッヌがピクリを耳を動かした。オレにも何か聞こえる。ブ、ブブ――虫、ハチの羽ばたき音!
上から全長80センチくらいの巨大バチが飛んできた。わざわざ尾の先のトゲを見せびらかすようにして飛んでくるなっての!
「成敗! 成敗!」
巨大バチを銀丸で両断。このサイズの針に刺されたら、人間なんて軽くショック死してしまうんじゃねえか? 殺人蜂ってやつか。
「桃ちゃん、リザードマン!」
「ち、ここにもいやがったか!」
ぶっちゃけリザードマンというより、もどきに近いのが、また天井やら壁に張り付いて向かってきた。
こいつら亜人的な知性とか欠片もなく、ただ目の前に獲物が現れたから襲うみたいな雰囲気だ。ちと素早いのと、壁や天井に張り付いて、不意を突こうとしてくるのが厄介。
「だが個々の力は、弱い!」
銀丸で一刀両断だ。リザードマンもどきを返り討ちにしつつ、奥へと進んだ。
「何か如何にもな場所だな」
「ねえ、桃ちゃん、アレ!」
カグヤが指さした。部屋の奥に大きな箱らしき物体があった。
「これか? ダンジョンのお宝って?」
「たぶんね。記念すべき一つ目よ!」
その口ぶりだと、複数ありそう。もちろん、初めて来たわけで、カグヤの言う通り、まだあるかもしれないし、これが最初で最後かもしれない。
オレたちは、宝箱らしきそれを見やる。金属と木で作られた頑丈そうな箱だ。結構大きい。
「桃ちゃん、何が入っていると思う?」
「オレにわかるわけがないだろ。……大きさからして、桃じゃないのは明らかだ」
「そうかしら? あの赤ちゃんが入っていた桃とか、あるいは桃が山盛りに入っているかもよ?」
そうか、一個とは限らないわけか。金貨ザックザクみたいに、沢山入っている可能性もあるわけか。
「いやでも、さすがに桃はなくね?」
「私たち、このダンジョンに来る前に、川で大きな桃を拾ったじゃない? もしかしたら……」
期待値上げるのやめてくれる? オレもさすがに一発ツモはないと思ってるんだからさ。
ともあれ、特に嫌な予感もしねえし、罠とかはなさそう?
オレはカグヤを見る。彼女が頷いたので、箱の蓋を持ち上げる。しれっと重い。中身は……。なにこれ?
「石臼……か?」
記念すべき宝物第一号が、臼だって? これ、何の冗談だ?




