表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生桃太郎 オレに侯爵令嬢なんて無理だから婚約破棄上等! それより鬼退治だ!  作者: 柊遊馬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/121

第14話、桃太郎、桃に遭遇する


 アイバンの町を出て、しばらく東進。カグヤが言うには、キヌウスのダンジョンがあるという。


「どんなダンジョンなんだ?」

「ダンジョンとしては、ありふれた洞窟型のダンジョンね」


 カグヤが後ろ――お鶴さんの馬車に座りながら言った。


 お鶴さんはアイテムボックスという何でも入る魔道具を持っていて、作業道具ほか、旅のお役立ちなもの一式を取り揃えているそうな。なお、馬車は、イッヌが引っ張っている。狼車になるのかな、これ。


「ところどころ、天井から落石系トラップがあるって評判なんだけれど、最近、新たな地下階層が見つかったって話よ。しかもまだ奥まで攻略されていないのよ。つまり――」

「まだお宝があるってことだな」

「その可能性は高いわね」

「そりゃ楽しみだ」


 桃が出てこないかなー。この世界にはない果物である桃。この世界のダンジョンのお宝には、異世界物もあって、中には果物などの食べ物も希少物ということで発見されることもあるという。

 それでなくても、お宝って響きは好きだけど、金銀財宝だけじゃないってのも、楽しみの一つだよな。


 カグヤは、竹取物語でいわれる五人の婚約希望者に告げた幻の五つの宝、それを見つけて自身にかけられた呪いを解かなきゃいけないらしい。

 それと比べれば、オレには切迫感はないかもだけど。


「あなた、また桃のことを考えてない?」

「考えてる。いいだろ? モチベに繋がるからさ」


 桃を求めて、異世界でのんびり冒険者ライフってやつさ。

 イッヌが牽く車は、川沿いの道を行く。舗装されていない、土が剥き出しなだけの道だけど。一応これも街道のうちに入るのかな。


「……んー?」


 お鶴さんが目を凝らした。何か見えたか? オレも目を細める。ん? 川から何か流れてくるぞ……? ピンクの塊が、どんぶらこどんぶらこー。


「ええっ!?」


 それを見たオレが素っ頓狂な声を上げても、無理もないと思う。いや確かに、考えたよ、考えたけどさ――


「な、何ですかあれは!?」

「も、桃だ……!」


 夢にまで見た桃……と言うには、あまりに大きなそれ。それはまるで……まるで――


「へえ、異世界の桃って大きいのねぇ」


 カグヤが、緊張感の欠片もない声で言った。


「しかも川から流れてくるって、桃ちゃんが言っていた通りなのねー。私、そんなわけないって思ってたんだけど」

「いやいやいや……! んなわけねえじゃんよ!」


 確かに、昔話の桃太郎じゃ、でっかい桃の中から生まれた男の子が桃太郎って話なんだけど、俺は正真正銘、人間の両親から生まれたんだぞ! だいたい何で、でっかい桃から子供が生まれるんだよ? そっちがおかしいだろうが……って、そんな場合じゃねえや。


「どうするの、あの桃。このままだと流れていっちゃうわよ?」


 カグヤはやはり他人事だ。俺は御者台から飛び降りた。


「もちろん、拾う!」


 桃は桃だからな! カグヤの言う通り、実はこの世界の桃は、とても大きいのかもしれない。……あー、頼むから、中に赤ん坊だけはやめてくれよ……。


 ザブザブと川に入り、流れてくる巨桃に手を伸ばす。片手で押さえて、もう片方の手と合わせて、抱きかかえる。


 瑞々しい桃の香り。胸が躍るはずなのに、この何というか腕にずしりとくる感覚が、猛烈に嫌な予感を呼び起こす。大きさといい、中に桃以外の何かが入っているんじゃないか、これ……。



  ・  ・  ・



 犬車を止めて、道の端。オレたちは、巨桃というには大きすぎる桃を囲み、見下ろしていた。


「桃ちゃんさん、よかったですね。お探しの桃が手に入って」


 お鶴さんが笑顔で言う。う、うん……。


「で、これ。今、食べるの?」


 カグヤが聞いてきた。イッヌもまた、オレを見ている。


 拾ってから言うのもなんだけど、嫌な予感がするんだよな。もちろん、予感に従ってスルーしていたら、それはそれで『拾っておけばよかったんじゃないか』って後悔していた気がする。つまり、どう転んでも、モヤっていたわけだ。

 ええい、こいつがただのデカい桃であればいいわけだ!


「切るぞ!」

「包丁、ありますよ」


 お鶴さんが、用意してくれた。しかし、もしこの桃の中に、昔話の桃太郎のように赤ん坊が入っていたら、すぱっと真っ二つでスプラッターなことになるんじゃないか……?

 ゆっくり、慎重に……。


「大丈夫? 包丁使える?」

「うっせぇ!」


 中身がわからないんだから慎重にだな……。


「私、わからないことがあるんだけど――」


 カグヤがお鶴さんに話している。


「桃ちゃんから聞いた桃太郎だけど、桃に入っていた赤ん坊ってどうやって息していたのかしら? 窒息しない?」

「どこかに穴が開いていたんじゃないでしょうか?」


 お鶴さんもわからないという顔をしている。いや、そこはね、昔話にツッコミを入れることが野暮なんですよ。それを言ったら、桃から生まれた桃太郎ってフレーズ自体、アレでしょうが!


「桃ちゃん、まだぁ?」


 はいはい、切りますよ。切りますともさ――


「南無三!」


 オレは桃を切った。縦じゃなくて、横に切ってやったぞ、ざまあみろ!


「うわぁぁ――」


 中身が見えて、俺はその場に膝から崩れ落ちた。……入ってる。入ってやがる……!


「あらま」

「可愛い赤ちゃんですね」


 カグヤとお鶴さんが、それぞれコメントした。大きな桃の中に、赤ん坊がすやすやと眠っていた。


「まるで昔話みたいだ」

「で、どっち?」

「……ついてますね、これは」


 男の子です。


 まさか天下の桃太郎さんが、昔話よろしく桃から生まれた子供を拾うことになるなんて……どういうことだよ、異世界!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >まさか天下の桃太郎さんが、昔話よろしく桃から生まれた子供を拾うことになるなんて……どういうことだよ、異世界! ・今は女性なので名乗るなら「桃子」さんですかね?。 桃から出て来たから、名前は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ