第121話、エピローグ
鬼ヶ島、じゃなくてランコーレ島の鬼は退治された。
先に討伐隊として乗り込んだ連中は全滅したかと思われていたが、労働奴隷として生きていた者たちがいた。
顔見知りであるオウロやク・マが生存者の中に含まれていて、オレは正直ホッとしている。倒れちまった者たちは、気の毒だけど、やっぱ知り合いがいなくなるのは寂しいもんだからな。
助け出された連中をスキーズブラズニルに乗せて、レッジェンダ王国に帰還。その前に祝勝会を開いて、生還を大いに祝った。
オウロは知っていたけど、他の連中はオレたちニューテイルの面々と人数を見て、ランコーレ島の鬼を制圧しちまったことを驚いていた。
そりゃ討伐隊の総勢と比べたら、こっちの人数なんて一握り程度だもんな。女と子供と、フェンリルと機械ゴーレムの組み合わせは、奇異に見えただろうよ。
どうやって鬼退治をしたのか聞かれたから、話してやった。まあ、たぶん信じられないだろうけどな。
オーガジェネラルは下っ端で、上級の鬼どもが本番。オレにとっちゃあ三鬼将の羅刹との戦いが、ぶっちゃけラスボスだったけど……。本当の総大将である霊鬼は、うちのカグヤさんの魔法で消滅させてやったぜ、へへーんだ。
予想はしていたけど、半分くらい信じてもらってない印象だった。でもいいんだ。ランコーレ島の鬼どもの惨状が全てを物語ってる。それがわかりゃ、あとはどうでもいいってな。実際にジェネラルも三鬼将も討伐されているわけでからな。
やり方云々は冒険者特有の誇張とでも思ってもらって別に構わない。そのうち尾びれも背びれもついて、誰が聞いても与太話だろうってくらい大きく、荒唐無稽になるから。
んで、遥かな未来に、昔話として真実とはちょっと、いやかなり? 違う風に伝わるんだと思う。
「まあ、俺は信じるよ」
オウロが、二人の時にそんなことを言った。
「強い強いとは思っていたけど、モモたちでランコーレ島のオーガを全滅させてしまうとはなぁ」
「こちとら鬼退治の専門家なんだよ。前世、前々世からな……」
「前世か……。おれにもあったのかな」
オウロは少し羨ましそうに言った。別にあってもなくても、それが全てじゃねえんだからどうってことはないんだけどな。
「オレはてっきり、お前も前世持ちだと思ってたんだけどなぁ……」
「そうなのか? いや、そう言ってたな確か」
「そうだぞ。オレがお前のことをゴールドボーイって呼んだのも、それ繋がりだったんだけど」
結局、今に至ってもオウロのままだから、前世要素が被っただけで、まったくの別だったんだろうな。
「キンタロウ、だっけか?」
「よく覚えているじゃねえか」
初対面での話をさ。熊までつれているから足柄山の金太郎と思ったんだけど、わからないって言われて……。まあ、太郎にも言ったけど、前世は前世。別にそれに縛られることもない。思い出せないのか知らないかなんてのも、些細な話で気にしなくてもいいんだ。
「それで、これからどうするんだ、モモ?」
「これから? ……まあ、各地にいるオーガ軍団の残党を片付けて、適当に冒険者じゃねーかな」
鬼退治は鬼退治で、今の仕事は冒険者だし。他にやること、なさそうだし。
「お前は?」
「俺も当面は同じだと思う。オーガ退治と、冒険者」
「そうか」
沈黙。話すことなくなっちまったな。酒でも取ってくるか。
「ちなみにモモ。君は、家を持つとか、考えていないのか?」
「あ?」
「誰か意中の相手がいたり、とか……?」
オウロが目を泳がせながら言った。酔っちまったのか、お前。顔が赤いぞ。
「いねーよ、そんなの」
「そ、そうか。なら……俺は、どうだろうか?」
おい、こいつ本気で言ってるのか?
「どうした、いきなり。お前、オレのこと好きなの?」
「す、好きというか。いや、強くて頼もしいというか……なんというか」
それ、女に言うセリフか? いや男女関係ねえか、そういうのは。
「はっきり言うと――」
オウロは背筋を伸ばし、真っ直ぐオレを見た。
「この気持ちは、君に惚れたんだと思う。結婚しよう」
「はえーよ、バカ!」
け、け、け、結婚だぁ? い、いき、いきなり何てことを言うんでしょ、この人は。悪い奴じゃないのは知っているけど、オレにはそういう感情はなくてだなあー!
「あああ、わかった。これはアレだ。オウロ、正気になれ!」
「俺は正気だが?」
「バカ! お前は今、一時の気の迷いで、そんな気持ちになっているだけだ。だ、だから少し間を置いて、冷静に考えろ」
そうしたら一時の感情で早まっているだけってわかるから。
「いいか、ゴールドボーイ。吊り橋効果ってのは知っているか? お前は鬼に捕まって、極度の緊張の中にいた。そんな状態だと異性を見たら、どんな奴だろうと好きになっちまうもんだ。要するに生存本能の一種で、本当の気持ちかっていうと疑わしい。案外時間を置くと冷めちまうもんなんだ」
だから時間を置こう、な? そうすりゃ、気持ちも落ち着くってもんさ。
「気持ちが変わらなかったら?」
「そん時はそん時だが……。今の時点の言葉は、何を言っても鵜呑みにはできねえんだよなぁ」
ま、考えておいてやるよ。そん時はさ。
・ ・ ・
レッジェンダ王国に凱旋。国王陛下に鬼退治の報告をした。
残党狩りが残っているとはいえ、敵の総大将と幹部連中が討伐されたことで、レッジェンダ王国やその近辺の国々は、オーガ軍団を撃滅できるだろう。
討伐隊の生存者たちの帰還と、ランコーレ島の制圧という証言もあり、オレたちニューテイルは、レッジェンダ王国から賞賛と、莫大な報奨を手に入れた。
プロセッサ王、オルガノ団長からも激賞され、国を代表して感謝された。……でも息子さんたちはいらないです。オレ、当面結婚とかするつもりないんで。
そういえば、レグルシ王子が人間の姿に戻っていた。……まあ、やったのね。ナニがあったからは聞かない。
言葉には出さないし、会釈でしか挨拶しなかったけど、よかったねとだけ言っておくわ。
祝勝会やら何やら数日、王都で過ごした後、新たな旅立ちの日がやってきた。
「じゃ、行くか」
「ええ」
カグヤが頷いた。お鶴さんに、太郎、イッヌ、サル。――ニューテイルの仲間たちと、オレはいる。
飛空船スキーズブラズニルに乗り込み、冒険者としてこの世界を駆ける。オレたちの物語が後世にどう語られるかは知らねえけど、オレたちは新たな物語を刻みながら、生きていく。
最終回でした。この手の鬼退治も伝説になって、この世界ではいずれ、昔話になったりするんでしょうか(笑)
ここまでお読みいただきありがとうございました! あまり読まれない作品だったのは残念ではありますが、ここまで読んでくださった皆様には感謝でございます。
まだ評価されていない方がいましたら、最後なので入れておいてくださると嬉しいです。
 




