第120話、桃太郎とニューテイル、鬼ヶ島を攻略す
オレが羅刹を倒した頃、サルは般若をやっつけ、イッヌは邪鬼を退けていた。……あの邪な鬼の気が消えているってことはそういうことなんだろう。
援護役のカグヤは無傷っぽいし、どうやら三鬼将との戦いは、オレ、サル、イッヌで対処できたみたいだ。
残すは、前々世の因縁、霊鬼となった大鬼のみ。
「さて、覚悟するんだな、霊鬼!」
『フッフッフ、さすがは桃太郎。我が配下を打ち倒すとは……』
霊鬼の声は、相変わらず地獄からの怨念のようだ。迫力は一人前。前々世で散々経験していなかったら、ビビったかもしれないが、もう効かねえんだ。
「前々世と同じく、ここでお前をぶっ倒す!」
『フハハ、やれるものならやってみるがいい! 霊体となった我は、貴様の剣では切れぬぞ! フハハハハッ!』
やたら笑うじゃねえかよ。しかし、確かにこいつは死んだ鬼の怨念のような存在だ。アンデッド、ゴーストみたいなものか。恐ろしく執念深いヤツだが。
『我が闇の瘴気を喰らうがよい! 触れれば呪われ、理性を失い、我が下僕となるのだっ!』
ぼうっ、といつぞやのドス黒い瘴気が、霊鬼の体から出てきた。……こいつ!
「お前か! この瘴気の根源は!」
オレたちが最初に遭遇したのは、イッヌが冒されていた瘴気。理性を失うというのは、ガチだ。次に見たのは、シドユウ・テジンのダンジョン、その一角、毒沼の竜の祠での、多頭竜とおぼしき死骸。
『ほう、我が蒔いた瘴気をどこぞで見たか? ならば知っていよう、この瘴気の恐ろしさを! それそれっ、呪われてしまえぇい!』
霊鬼がこちらへと瘴気の手を伸ばしてくる。
そう、オレたちはこの瘴気を見ている。そして一応の対処方法もな!
「カグヤ、出番だぜ!」
「任せて!」
妖光! ――柔らかな月の光が、闘争心を奪う。そしてそれは瘴気そのものさえうち祓う!
『なっ、なにぃーっ!?』
霊鬼が声を震わせた。
「へ、その様子じゃ、瘴気の対抗手段があることを知らなかったみてぇだな!」
いい具合に温存していたからカグヤも遠慮なく、妖光を瘴気とその後ろにいる霊鬼に当てる。
『ぐっ……ううぅー!』
おー、効いてる効いてる。カグヤは浄化魔法ではないって言っているが、効果覿面だなぁこりゃ。
『ば、か、な――怒りが、憎悪が……消えていくっ……! ぐおおっ! 恨みが、き、消え、る! 怨念がぁぁっ!』
あー、なるほどなぁ。霊鬼ってのは、怨霊、悪霊の類いで、実質、復讐心の塊だ。妖光は戦意や怒りを根こそぎ霧散させて戦えなくなる魔法。感情、精神が霧散してしまうのなら、霊鬼にも効くわけだ。
その霊鬼が作る瘴気も、その憎悪と生き物を狂わせる負の感情が混じっているから、それが妖光で浄化できたんだな。
「霊体だから剣じゃあ倒せない? まあ、そうだな。だが残念。こっちには精神に影響を与えるスペシャルな能力を持っているカグヤさんがいるんだぜ!」
『ぬおおおおぉぉ、ぁああああぁぁぁ――!!!』
断末魔の声と共に、霊鬼の体が浄化された。
「呆気ない最期だったな、霊鬼」
ま、相性で言ったらオレみたいな戦士系じゃ、圧倒的に不利だったからな。こういう時、適材適所で動ける人材がいるってのは、チームの強さだよな。
「おめでとう、カグヤ。首級を討ちとったぞ」
「私?」
カグヤがキョトンとした。
「別に攻撃魔法でもなかったんだれど……そういうこともあるのね」
『お見事でした、カグヤ様』
サルが言った。
『あの手の実体のない相手には、攻撃が当たらないですから』
イッヌも何か言っている。まあ、たぶん褒めているんだろう。
ともあれ、鬼ヶ島――ランコーレ島の鬼ならびにオーガ退治に決着だな。
「ねえ、桃ちゃん。霊鬼で、本当に最後?」
カグヤが率直に問うてきた。まあ、そうだよな。お前さんは鬼のことを知らないからな。
「あぁ、霊鬼は前々世の大ボス。あいつより上はいなかったし、今回の鬼たちを見たところ、その主従関係に何ら変わりはなかった」
霊鬼より上に何かいることを臭わせる発言もなかったしな。
「ま、仮にいたら、そいつも倒せばいいってことよ」
別に今回が最後の鬼退治ってわけじゃないんだしな。……とはいえ、一応、残党が島に残っているかもしれないから、調査はしておくか。
・ ・ ・
鬼軍団の城は、すでに崩壊していたが、調べてみたら地下室があった。
中には数体のオーガがいたので、これらをバッサリ返り討ち。鬼でもないオーガじゃあなあ……。
と、さらに奥に進めば地下空洞があって、そこに別の城があった。どうやら建造途中らしいそこへ行けば――
「人間だ……!」
鍛えられた体の男たちが数十人ほど、枷をつけられ、こちらを見た。そしてその中に――
「モモ! モモじゃないか!」
「オウロ!」
ゴールド・ボーイことオウロもいるじゃねえか。こいつは嬉しい再会!
「なんだよお前、生きてたのか!」
「ご挨拶だな。……ああ、何とか生き残ったよ」
「捕まってんじゃねえかよ。捕虜だったのか?」
「あぁ、討伐隊として島にやってきたはいいが、半分はやられ、残りは捕まって、ここで奴隷労働さ」
オウロや、討伐隊の生き残り、そして余所から連れてこられたのは、この地下で城作りをさせられていたらしい。
「……つーか、痩せたなぁ、お前」
「食事が不味い上に粗末でね。過酷な労働に耐えきれず、多くの者が命を落とした……」
「ク・マもか……?」
姿は見えないが、オウロの相棒の熊獣人の戦士がいた。
「あ、彼は生きているよ。ク・マは俺たちよりタフだから」
そいつはよかった。一瞬肝が冷えたぜ。
「ところでモモ。お前たちがその格好でここに来たということは――」
どんな格好だよ。普通だろ。
「オーガの軍団は?」
「もちろんオレたちで始末したぞ」
「じゃ、じゃあ――」
「おれたちは自由か!?」
周りで黙って聞いていた男たちの顔が綻ぶ。そうだ、と頷いたら、男たちは歓声を上げた。
「やったぞぉぉっ!」
労働ご苦労様。それじゃ、美味いものを食ってないというし。
「祝勝会でもするか?」
次話、最終話になります。




