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異世界転生桃太郎 オレに侯爵令嬢なんて無理だから婚約破棄上等! それより鬼退治だ!  作者: 柊遊馬


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第118話、桃太郎 対 羅刹


 羅刹は2メートルの長身に加えて、長刀を武器にしている。


 大力の持ち主である、と言えばパワータイプに思われがちだが、こいつの場合は万遍なく強い。

 巨躯に見合わぬ踏み込みや素振りの速さ。バランス良く整った上での強さ。それで武器のリーチの長さもあるんだから、最初から対等な条件なんて見込めない。


 人間の大半より体に恵まれ、そして自身の体が苦にならず動き回れる運動能力がある。はっきり言う。これで武芸を極めているのだから、世界でも五指に入る剛の者だ。もしかしたら最強ってヤツかもしれない。


 んで、オレはその強い鬼とタイマン張っているわけだ。しんどい……。


『フハハー、やるなぁモモタロウ! ここまで我と戦えたヤツは初めてだーっ!』

「へっ、弱い者いじめ自慢かよ!」


 銀丸と奴の長刀がぶつかる。

 身体能力をパラメータ化してみることができたなら、間違いないこいつのデータは吹っ切れるレベルで超えているだろうよ。

 人間の最大値を超えている。自分より格下パラメータの奴しか戦ったことがない奴が強さ自慢しても、誰も驚いちゃくれねえぞ?


『その剣もまた、よくここまで耐えた! 称賛してやるッ!』

「そいつはどうも!」


 お鶴さんが作り直した剣だからな。仲間が褒められるのは悪い気はしない。


 が、ぶっちゃけそれでも、羅刹の攻撃に耐えきれなかっただろう。オレが自身の力を剣に注ぎ、ブーストしているから折れずにいる。


 つーわけで、オレは普段の倍近い速度で疲労している。あんまり長期戦は向かないってことだ。それでなくても、羅刹はタフネス馬鹿だから、長引かせるのは得策じゃねぇんだけど。


 金属音が連続する。オレも大力だが、奴も大力。そんなものが武器を振り回せば、まあ場も荒れるってものだ。


 地面が割れ、瓦礫が真っ二つに裂ける。もちろん、オレはそんな無駄打ちはしない。オレの攻撃は全部、羅刹に防がれてはいるが、奴の攻撃はオレが躱しているから空振りも多い。


「つーか、堅ぇ守りだ……!」

『根本から違うのだ!』


 羅刹が咆える。鍔迫り合いになり、その力で押される。なんだ、身体の差ってのに自覚あってやってるのか。やっぱ弱い者いじめじゃねーか!


 気合いの一撃。見えないそれは、しかしオレに幾通りの斬撃を浴びせたようなプレッシャーを与えた。


 距離を取る。相手に切りつけたイメージを与える気迫。これだけで並の戦士なら、やられた、勝てないと戦意喪失をしちまうところだろう。

 だがあいにくと、そいつは前々世でも経験しているんでな!


『ほほぅ、まだ我に刃を向けられるか!』

「たりめーだっ! お前は前々世じゃ、オレに負けてるんだよ」

『前世のオレを倒したか。ならば、その力で我を葬ってみせよ!」


 やってやらぁ! オレは魔力ブーストで一気に羅刹に踏み込んだ。しかしその速さでさえ、奴は目で捉えていて、口元をニヤリとさせて防御の構えをとった。


 はっ、お前は勝ちでも確信したか? オレの渾身の一撃を防いでみせて、無力感を煽りつつ、さらに強い力で捻り潰すのが好きなんだろう?


 馬鹿め! その油断が、慢心が命取りだ! 銀丸にさらにパワーを注ぎ込む。お前はオレの剣をその長刀で防げると高をくくってるんだろう!


「斬!」


 ガキィィーンと甲高い金属音が響いた。……な、んだと……!


 威力をさらに倍化させた銀丸の一撃が、止められた! 羅刹の野郎は笑った。


『桃太郎よ』


 静かに、羅刹は呼びかける。


『前世の記憶がないと言ったな。……あれは嘘だ』

「!」


 羅刹の蹴りが、オレを蹴り上げた。吹っ飛ばされる。地面にぶつかり、跳ね飛ばされながら、人間ってこんなに飛ぶんだって感じた。


『我は、貴様のことを覚えているぞ、桃太郎。人類最強の剣士。見た目は変われども、確かに貴様は桃太郎だ』


 羅刹は悠々と歩み寄る。痛ぇ、全身がイテぇぞこん畜生め……!


『前世で我を打ち倒した者よ。貴様を相手に一分の油断もできようか!』


 敢えて、前世を知らないフリをして、オレの攻撃を誘ったわけだ。こっちが力を武器に注いで威力を倍化させる攻撃――それは前々世でオレが羅刹を仕留めた技。

 それを防げるだけの力を得た羅刹は、その攻撃を待ったわけだ。こっちがそれで勝てると思い込ませるために、前世を知らないと嘘をついて。


 ……へっ、考えたな。そりゃ前世を覚えているなら、オレも対策されているかもと別の手を使ってきたかもしれない。

 己の恵まれた体と才能だけで勝ってきた前世の羅刹と違うってわけだ。失敗は成功の母ってか。


 オレに対策させず、自分はしっかり対策を立てているんだから、戦う前から1歩先を行かれている。


 しかもあれだろ。オレが桃太郎としてこの世に転生しているの、たぶん知らなかっただろうし、今日が初対面だった。それがいきなり遭遇で対策を披露できるって、よっぽど前世でオレにやられたのが悔しかったに違いない。

 二度と会うことがないだろう相手の対策を考えていたなんてな……。笑えるぜ。


『ほぅ、この期に及んで笑うか、桃太郎』


 羅刹は真顔だった。お前の蹴りは効いたぜ。全身痛くて、ボロボロだ。魔力で再生回復しないとやべぇくらいの蹴りってどんなんだよ……。


「蘇った後も、オレのことを考えていたなんて、ずいぶん鬼からも愛されていたんだなぁって思ってな」


 気になる相手を振り向かせたいってやつみたいだ。オレも人気者だな。


『愛? 貴様には憎しみしかないっ!』


 羅刹が怒鳴った。おいおい、ムキになっちゃって本気かよ。


「そんじゃまあ、お前さんのオレへの愛情ってのに応えてやるとするかね……」

『愛情ではない!』


 なんでそこでムキになって反論するの? 愛とか友情はお嫌いってやつか、羅刹よ。


 再度の加速。目にも留まらぬ早業――ということもなく、羅刹の目はオレをしっかり見据えている。


『またそれか。敗れた技に固執するとは、哀れ』


 ほざけっ!

 俺の一太刀を防ぐべく長刀が出てくる。しかし、斬――!


 パキーン、と長刀が折れた。そして羅刹の胴体も。


「固執? 哀れ? 羅刹よ、そいつは油断だぜ」


 倍化で駄目なら、さらに倍の倍とパワーを増やすだけよ。どうして二倍止まりと錯覚した? ああ、お前の前世はそれでやられたもんな。だがな、その時のお前を斬るに二倍で充分だったってだけで、それが上限だなんて、一言も言ってないんだぜ?


 ま、その分、反動もでかいから、あんま軽はずみに使えねえけどな。

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