表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生桃太郎 オレに侯爵令嬢なんて無理だから婚約破棄上等! それより鬼退治だ!  作者: 柊遊馬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/121

第117話、桃太郎一味 対 三鬼将軍


『よもや、わしの相手は、狼とは……』


 邪鬼は、向かってくる狼型の魔物を睨めつけた。


『ただの狼ではなさそうだが……所詮は獣よ。我が祟りを喰らうがよい』


 体は小柄な鬼である邪鬼だが、その本質は怨霊であり、物の怪である。得意とするのは祟り、呪い、そして他者を惑わすことにある。


 黒い負の壁をぶつける。触れればたちまち力を奪われ、視覚、嗅覚、聴覚が低下する闇の塊である。


『力しか能力のない獣など、邪鬼様の敵ではないのだ。カッカッカッ!』


 直接触れることなく、相手を弱体化させるのが得意な邪鬼である。哀れ狼は立つこともままならず、腰を折ることになるだろう。

 しかし――


『温いな』

『むっ!?』


 ふっと聞こえた声に、邪鬼は目を見張る。負の壁に押さえ込まれたように見えた狼が、闇の力を押しながらゆっくりと、しかし確実に前進してくるではないか!


『な、何とっ! 祟りを受けて、まだ動けるのか!?』

『この程度の呪術が、某に通用すると思っておるのか? 以前の瘴気に比べれば温いっ!』


 狼は、邪鬼の祟りをものともしない。


『某を封じたければ、グレイプニルでも用意するのだな』

『こやつ、ただの獣ではない!?』


 ズンズンと近づく狼は、しかしどんどんその体が大きくなっていくような――邪鬼は自身の目を疑った。


 どういうことなのか。これは目の錯覚か。そしてハタとなる。先ほどから狼らしい相手の言葉が届いていたことに。

 ただの獣ではない知性を持ち合わせている存在だ。


『き、貴様っ! いったい何者だ!?』

『よく覚えておくがよい、小鬼よ! 某の名はフェンリル! 神をも恐れさせ、主神さえ噛み殺した魔狼であるっ!!』


 その巨大な口には、地獄もかくやの炎が渦巻き、一つの世界が広がっているようだった。邪鬼は本能的に恐れた。身の危険、恐怖。


 だがそこで邪鬼は思い出す。フェンリルが何かは知らない。狼の怪物か何かだろう。その歯は、いかなる敵も噛み砕くかもしれないが、体が怨霊に近い邪鬼に触れることは、神の力でもない限り、不可能だった。


 ――こやつは、自ら神に敵対したと言った。ならば、わしにその牙も爪も届かな……。


 言いかけた邪鬼は強烈な力で踏みつけられた。


『ふげっ!』


 これは神に踏まれた時以来の屈辱だ。フェンリルを名乗る魔狼に、邪鬼は踏まれたのだ。


『ば、バカな! 何故、わしに触れられる!?』

『知らぬ』


 足で押さえつけられた邪鬼に、フェンリルは噛みついた。


『母上の敵は、某の敵だ!』

『ぬあああああっ!』


 邪鬼はフェンリルに噛みつかれ、引き裂かれ、そして飲み込まれた。炎と激痛にのたうち、そして、灰色じみた世界に落ちた。


『こ、ここは……どこじゃ?』


 キョロキョロと辺りを見渡す。とても寒々とした場所だった。死と虚無。邪鬼は震えた。


『おや、これはこれは珍しいお客だ』


 ゾッとする女の声がした。見れば、そこに巨大な椅子があり、銀色の長い髪の美女が座っていた。顔の左半分がその銀髪で覆われていて、片目で、邪鬼を見下ろしている。


 ――これは、ここの支配者だ……!


 邪鬼の勘が、そう囁いた。この女に逆らってはいけない。それを本能で嗅ぎとった。見た目は清楚に見えて、とても冷たく、また得体の知れない力を持っている。これはさぞ有力な、この界隈では名の知れたレベルの人物に違いない。


『貴様は、我が庭に送り込まれた。……いったい何をしたのだ?』


 声音は優しいのに、しかし何故恐怖を感じるのか。邪鬼にはわからなかった。


『わ、わしは、邪鬼と申す者。霊鬼様に仕える霊にございますれば……』

『ほう。すでに死人だったか……、それで、貴様は何故、食われたのだ?』


 食われた――あの魔狼フェンリルに。邪鬼は頭を下げたまま答えた。


『霊鬼様の怨敵、桃太郎の一味と戦っておりました。その一味の中に――』

『あぁ、モモタロウ、モモか。兄上が『母』と敬う女子であったな。なるほどなるほど、では貴様は「敵」なのだな?』


 銀髪女はすっと席を立った。


『ようこそ、邪鬼とやら。ようこそ、我が領域ヘルヘイムへ!」


 ニィィと嫌な笑みを浮かべる。


『ようこそ極寒の地獄へ。――あぁ、わらわの名を名乗っていなかったな。わらわはヘル。冥界の支配者にして女神。父は欺瞞の破壊神ロキ、母は巨人アングルボザ。兄にフェンリル、ヨルムンガンド。わらわはその末っ子だ』


 ――女神ぃ……!?


 邪鬼は理解した。フェンリルが霊体である邪鬼に触れることができた理由が。ヘルが女神で、フェンリルがその兄というなら、あの魔狼も神性を持った存在ということだ。



  ・  ・  ・



『恨めしいや……恨めしや!』


 般若は、包丁を手に飛びかかる。しかし相手はメカニカル・ゴーレムのサルである。肉を抉る包丁の刃も、金属ボディには弾かれる。


『いい加減、諦めませんか?』


 サルは、無感動な頭を動かし、機械的な目で、鬼女を見つめた。


『恨み辛みを赤の他人に向けたところで、何かが変わるとは思えないのですが?』

『お前に何がわかる! 私の苦しみが! 痛みが! 恨みが!』


 ヒステリックに喚く般若。しかしサルは首をかしげるばかりである。


『ええ、わかりません。あなたはただ凶器を振るうばかりで、何も言いません。他人に理解して欲しければ、まずその態度を改めるべきでは?』

『恨めしい……怨めしい! キィエエエエ!』

『またですか。機械であるワタシとも話せないとは、これは相当コミュニケーション能力に問題を抱えていらっしゃいますね』


 サルのメカニカルアームが、般若へと伸びる。バッと後ろへ下がる般若。


『また! また私に攻撃してきた! 男はみんなそう! すぐ暴力で私を黙らせようとするっ』

『まずあなたが凶器を捨てるところから始めるべきでは?』


 サルは突っ込んだ。


『これは正当防衛というものですよ』

『すぐそうやって、女を馬鹿にして! 難しいことを言えば、どうせわからないと思っているんでしょう!』

『絶望的な会話能力だ。主語ばかり大きくしても中身が空っぽだ。これでは通訳できるだけ動物のほうがマシです!』

『私を、馬鹿にしたっー!』


 飛びかかる般若。サルは腕をストーンハンマーに変えて叩きつけた。


『ワタシはあなたを馬鹿になどしていませんよ。あなたが馬鹿だっただけです』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ