第114話、桃太郎、将軍を討ち取る
オーガジェネラルは、将軍と呼ばれるだけあって、上位オーガと言える。その体も、そこらのオーガより大きく、そして力強い。
全身に鎧をまとう姿はなるほど、将軍の貫禄がある。ただのオーガと違い、一端の武人のように見える。
『貴様ラ……!』
オーガジェネラルが地鳴りのような低い声を発した。
『我ラガ城ヲ壊シタノハ、貴様ラカァー!』
おうおう、お怒りマックスってな感じだな。いい気味だ、笑えるぜ。
「桃ちゃん」
カグヤが緊迫感を滲ませる。
「わかってるよ」
手強そうって言うんだろう? オレは銀丸を構えた。
「確かに、ただのオーガよりは強いだろうさ。だが――」
前々世の赤鬼どものほうが、強そうなんだよな。こっちじゃオーガは鬼と一緒くたにされてるけど、こっちのオーガどもは、どうも格落ちなんだよな。ま、油断はしねえけど!
「ニューテイル、桃、参る!」
地を蹴り、加速。オーガジャネラルは足元から金棒を拾い上げる。おう、殴られたら即死もんの巨棒だ。
『ヌンン!』
振り回される金棒が、地面を砕いた。床が割れ、反動で九の字に曲がる。威力は素晴らしい――だが残念! 床を砕いたってことは。
「当たってねえんだよなっ!」
斬! オーガジェネラルの右腕が飛んだ。銀丸の一閃、将軍の利き腕を両断す!
『ヌゥウ……!』
「おいおい、これがオーガの将軍様かよ」
オレは、加速した分、オーガジェネラルの後ろに着地、そしてターンすると再度、加速して突っ込む。
今度は金棒を拾おうとする左腕が、宙を舞った。
「こんな奴の首を半年もとれないとは。……どうやらお前の部下どもが頑張ったみてぇだが、肝心の頭がその体たらくでいいのか?」
『ヌガァァァー!』
大地を揺さぶる咆哮。そんなもんにビビるのは、新兵だけだぜ。
「お前にはガッカリだ、将軍様よぉ」
オーガジェネラルの首が飛んだ。
「どんだけ強い鬼かと期待したら、こっちの世界のオーガは、鬼にもなれん雑魚だったか」
シドユウ・テジンで会った上級オーガ、イバラって奴のほうがまだ強かった。
ドサリと倒れ込むオーガジェネラルの巨体。飛んだ首級はキャッチする。……絶命。やっぱ小物だわ。鬼の上級の中には、首と胴体が分かれても生きている奴も少なくないからな。
「ほえぇ……、さすがね、桃ちゃん」
カグヤが手を叩いた。
「私たち、特にやることなかったわね」
『まったくですね』
サルも同意した。……なに終わったって顔をしているんだ?
「気にいらないな。こいつは雑魚過ぎる」
「桃ちゃん」
カグヤが、呆れのこもった目を向けてきた。
「あなた、自分の強さについて、もう少し自覚を持ったほうがいいんじゃない?」
「いや、それを勘案しても、こいつは弱すぎる。とても人間並みの頭がある奴に思えない。こんなのが率いているオーガ軍団を討伐できないとか、嘘だろう?」
「でも実際に、人間たちはオーガ軍団に苦戦して、討伐隊もおそらく返り討ちなんでしょう?」
カグヤが反論した。
「それだけ部下が多かったか、優秀だったんでしょうよ。ほら、なんて言ったかしら上級オーガの精鋭が3人いたんじゃなかったかしら? それが強かったってことじゃない?」
「そんな強い奴らがいて、こんなのの下で部下やってるわけねえだろ」
オーガや鬼界隈ってのは、強い奴がトップだ。だからジェネラルの部下が優秀でも、こいつより下ってことになる。
「そしてこのオーガジェネラル程度なら、ゴールド・ボーイだってタイマンで勝てるだろうよ。ますます辻褄が合わない」
「あ、そう言えば、オーガジェネラルって、普通のオーガより小柄って話じゃなかったかしら?」
「そうなんだよ」
オレも、こいつを見た時思った。
「てっきり、戦闘モードで体を大きくしたのかとも思ったんだけど、この手応えのなさからすると、どうもこいつより強い奴がいるぜ。こいつもオーガジェネラルではあるんだが」
軍団を率いている奴ではない可能性が出てきた。
その時、オレは背筋にゾワっとしたものを感じた。イッヌが踏ん張り、威嚇の唸りを発する。
何かいる!――オレは振り返り、剣を構えた。
黒い気配。ゾッとするほどの寒気と殺気は、『敵』だ!
「いやいやいや、お見事。この世界の人間にしては、勘がいいねぇ」
5人のオーガ、いや『鬼』がいた。小柄、というか子供のサイズの。何でわかったかって? そりゃ前々世で見た鬼そのものだったからだ。
赤鬼、青鬼、黄鬼、緑鬼、黒鬼の兄弟!
「駄目だねぇ、この世界の鬼もどきどもは。少しは使えると思ったんだけど――」
憎たらしいほどの態度のデカいガキは、赤い肌の赤鬼。
「情けなや。情けなや!」
やたら声に怒りを込めているのは青鬼。
「ねえねえ、赤鬼兄ちゃん。青鬼兄ちゃんがまたキレてるよー」
この甘えん坊じみた口調は、黄鬼。
「はー、だっる」
見るからにやる気のないこいつは緑鬼。
「否! 疑わしい……疑わしいですぞぉー!」
やたら疑い深いのは黒鬼だ。……前々世以来、ちっとも変わらねえな、クソ鬼ども!
「本当に『鬼』がいたとはねえ。これなら半年間、野放しになっちまうのは仕方ねえよなぁ」
オレが剣を向ければ、鬼たちは反応した。
「おやおやおや」
「コヤツ、我らのことを知っておる口ぶりだぞ。許さん!」
「えー、ボクらのことを知ってるのぉ? 怖いんですけどぉー」
「はーっ、どうでもいいよンなもん」
「こやつ、怪しい……! 前世持ち! 前世持ちに違いないですぞーっ!」
あぁ、うっせ! 付き合うのもダルいが、オーガ軍団に鬼が絡んでいるなら、もう少し情報が欲しい。
いるのはこいつらだけか? まだ他にも鬼がいるんじゃねえか?




