第113話、桃太郎、鬼ヶ島に到着
ランコーレ島に接近した。スキーズブラズニルでひとっ飛びはいいけど、島からこっちの姿も丸見えなんだよな。
大人しく上陸させてくれるかどうか。何か空を攻撃できる武器とかあれば別だけど、そうでなければ、陸に降りたところで襲ってくるか?
「もういっそ、空からオーガのアジトを探して乗り込んだようがいいかもね」
カグヤは言った。
「上から私と太郎ちゃんの魔法で敵を減らしてか降りるっていうのは?」
「……まあ、初っ端に数を減らすつもりだったからな」
空からやるか地上でやるかの違いしかない。
「そうすっか」
スキーズブラズニルで、ランコーレ島の上空を飛ぶ。東西に細長い島である。島の中央は山岳地帯になっていて、東側はすべて崖になって船での上陸は不可能。南西側に唯一浜辺があって、海上からの上陸ではそこ一点しかなさそうだ。
基本的には岩肌だらけで殺風景な島である。
「おっ、島の北側。城じゃね?」
「あれがオーガジェネラルのアジトね」
日当たりは悪そうなところに、城のような建物がある。上からは見えるけど、南の浜辺からは見えない位置だ。
「何も知らねえ奴が、たまたま島に流れついたら、オーガの島とわかってやられるやつだな」
こっちは知っているんだけどな。
「桃ちゃんさん!」
お鶴さんが指さした。
「オーガです! たぶん見張りですよ!」
崖側から、城のほうに走るオーガが見えた。お鶴さんの言う通り、見張りだろう。島に接近する者をいち早く見つけ、アジトに報告をする。
「まあ、見張りが城にたどり着く以前に、城にいる連中もこの船が見えるだろうよ」
つまり、あの見張りが通報しようがしまいが、どうせバレてるってことだ。
「このまま城まで全速前進だ! 太郎、お得意の魔法で爆撃といこう。やれるな?」
「任せて!」
吹っ切れた太郎は、実によいお返事だった。
スキーズブラズニルは高度を落としつつ、強固な石造りの城へと接近する。お鶴さんが目を細める。
「オーガたちがわらわらと出てきましたね」
「だろうな」
城の歩廊の部分に、がたいのいいオーガどもが出てきて、何やら叫んでいる。武器を持って来い、とか迎撃だどうのって話だろう。投擲用の投げ槍や、オーガサイズのクロスボウなどが用意されていく。
……専用のクロスボウなんて持っているって話は、事前に仕入れた情報で知っていたが、目の当たりにすると、なるほどコイツらが手強い集団だってのがわかる。
力任せだけではなく、知能も人間に劣らない。装備も一端の軍隊。そりゃ鎮圧できずに脅威になり続けているわけだ。
「ようし太郎、遠慮はいらねぇ! ぶっ飛ばせ!」
やらなきゃこっちがやられるんだかな!
次の瞬間、火球が弾けた。それはたちまち隕石のように、オーガの城へと飛んでいき――城壁をごっそり削り、破壊した!
「ひえぇぇっ!」
お鶴さんが慌てて、飛空艇の縁に頭を引っ込めた。熱風が吹き付ける。
「はっはーっ! やるじゃねえか、太郎!」
さすが平原を火の海にしていた火鼠を一層した魔法の使い手である太郎だ。吹っ切れ太郎は、その力を遺憾なく発揮した。もう生後半年なんざ、気にしねえからな。お前の前世の酒呑童子も人間として生まれた時に、すでに規格外だったんだから。
カグヤが自身の帽子が吹っ飛ばないように押さえる。
「今更だけど、やり過ぎじゃない? お城、半分くらい吹っ飛んだわよ?」
「城攻めだぞ。これくらいやんないとこの人数で攻略なんざ無理ってもんだろ」
うちの太郎は攻城兵器なんて目じゃねえほどの力を持っているってこった。
「そうじゃなくて、誘拐された人とか人質とかいるかもしれないじゃない?」
いねえだろう。いても、食人鬼であるオーガが喰っちまっているだろうよ。
「仮にいたとしても、捕虜ってもんを閉じ込める牢屋ってのは、地下って相場が決まってるんだ。上をいくら吹き飛ばしたって問題ない」
そもそも城ってのは、上に行くほど階級があがるもんだ。王様とか城主ってのは1階には住まないし、捕虜や犯罪者は薄食らい下層って決まってる。
「なんなら、太郎。残り半分も吹っ飛ばしていいぞ。もう一撃、行けるか?」
「大丈夫!」
それでオーガジェネラルが吹っ飛べば儲け物だが、まあ、そこまでは期待しない。人間並みの頭があって、しかも将軍とあれば魔法対策の魔道具とか持っていてもおかしくない。だが、雑魚オーガどもまで、対策防具を揃えるのは無理だろう。とりあえず、こっちは少人数だ。敵の数を減らさないと不利だ。
半壊した城では、オーガどもが右往左往したり、負傷した仲間を運んだりしているようだった。血気盛んな奴は、届きもしないのにクロスボウを構えたりしているが――太郎の魔法が炸裂した。
すでに半壊状態だった城が弾け飛ぶ。北斜面に吹っ飛んだ石壁の欠片が降り注ぎ、たぶんその辺りにいたら、岩のシャワーで死ぬだろう。よく飛んだ岩の破片が、海まで飛んで跳ねるのが見えた。勢いの凄まじさを物語る。こりゃ、さっき姿が見えていたオーガどもは全滅確定だろう。
城の奥や地下にいた奴がかろうじて残っている程度じゃないだろうか。
「ようし。降下する。お鶴さん、サルと操船を変わってくれ。オレ、カグヤ、イッヌとサルで下に降りる。太郎!」
「うん!」
「お前は、船から周囲を警戒して、お鶴さんが船を操れるように指示だ。んで、オレたちの方に、オーガの集団が向かってくるのが見えたら、魔法で吹っ飛ばせ」
「わかった!」
突入に太郎は連れていくつもりはない。が、何もさせないつもりはない。オレたちニューテイルの一員である以上、一緒に働いてもらう。ちゃんと仕事を与えれば、変なことを考えたり勝手もしないだろう。……まあ、太郎があんま勝手をやった印象ってオレにはないけど。
瓦礫の山と化したオーガどもの城の手前に、スキーズブラズニルを降下させる。つい先ほどまで城門があったのだが、今や見る影もない。
オレとイッヌが先陣を切り、カグヤ、そして船の操舵を変わったサルが出てきた。スキーズブラズニルは監視の意味も込めて浮き上がる。
「さて」
「ずいぶんと派手にやったわねぇ」
カグヤが率直な感想を口にした。まあ、あんま見た目、ボロに片足を突っ込んでそうなくらい年季が入っていた城だったけど、今じゃ瓦礫だもんな。
「鬼さんたちはどれくらい残ってるかな?」
城にいた雑兵オーガはかなり巻き添えにしたはずだが。
その時、岩壁が持ち上がり、ふらりと巨体が現れた。オーガ――しかしその体躯は、一回り大きい。あれ? 話では小柄だって聞いていたが……しかしこの迫力は間違いない。
「へっ、お出ましか」
オーガジェネラル……!




