第108話、桃太郎、鬼の情報を集める
「オーガと聞いちゃ、この桃さんが何もしないわけにはいかんっしょ」
オレは、ニューテイルの仲間たちを見回した。
「ま、そうよね」
カグヤは、やれやれ、と言わんばかりに肩をすくめた。
「前世、いえ、前々世だっけ? 元祖、桃太郎だものね」
「桃ちゃんさんは、鬼相手だと見境ないですからね」
お鶴さんも慣れた様子だった。オレが鬼と見れば突撃かます人間ってのは間違ってねえよ。
「太郎は?」
「まあ、桃ママだからね」
そう諦めたような顔で言うなって。お前さんを前線に連れて行くつもりはねえからさ。
「イッヌは?」
オレの呼びかけに即応するイッヌさん。サルが通訳する。
『イッヌも母君と共に行くと申しております』
おん。前から言っているが、お前のママになった覚えはねえぞ、イッヌ。
「サルは?」
『ワタシの意見など、聞くまでもないと思いますが?』
「じゃあ、決まりだな」
ニューテイル、鬼退治決定。カグヤが口を開いた。
「で、その鬼の本拠地ってどこ?」
「ギルドのスタッフが言うには、ランコーレ島って大陸から北西に行ったところにあるらしい」
「ランコーレ島? 知らないわね。どこよそれ」
だよな。詳しい位置は、ギルドのスタッフも知らないとさ。
「とりあえず、情報が不足しているから、レッジェンダ王国王城に寄って、プロメッサ王陛下にお会いして、詳しい話を聞こうと思ってる」
情報収集は大事だからな。討伐隊ってのが、どの程度、鬼どもを退治できたのか? ランコーレ島とかいう鬼ヶ島攻略の状況とか、現在の討伐隊とかな。
「行ったら、十中八九、鬼退治の依頼がニューテイルに来ると思う。オレとしては、受けるつもりで陛下に会う。……もしパーティーを抜けるなら、その時までに言ってくれよ」
王命の下、一度引き受けたら、あとで辞めたってほぼできないからな。
「情報さえ入れば、こっちはスキーズブラズニルに乗って鬼ヶ島にひとっ飛びだ。時間はかけねぇ、さっさと終わらせるつもりで行く」
「もう『鬼ヶ島』で固定なんですね……」
苦笑するお鶴さんである。
「いいだろ? わかりやすくてさ」
何か質問はあるかと確認すれば、特にないようだった。
「よし、じゃ、王都に行くぞ」
・ ・ ・
飛空船『スキーズブラズニル』に乗って、レッジェンダ王国王都へ飛ぶ。道中、やはり破壊の跡がちらほら見えた。
……オーガの集団は見当たらなかったけどな。
両親がいるだろう王都に行くのは、若干の憂鬱。レグルシ王子は、人間に戻れただろうか? ま、一年も経ってりゃあ、さすがにカエルから人間になっているだろう。
王都の外は荒れていたが、頑強な外壁が守ったようで、中は綺麗だった。
ギルドで聞いた話じゃ、大陸でも北西部を中心にかなりやられたらしく、オーガジェネラルが現れた最初の1カ月で、国が一つ滅びたって話だった。それと比べると、まだここらはマシな方なんだろうな。
王都の入り口で問答すると、そのまま王城に行くように騎士に頼まれた。
「おう、もちろんそのつもりだ」
そして流れるように王城へ。
オルガノ騎士団長が出てくるかと思ったが、プロメッサ王のもとへ真っ直ぐ通された。
「おお、モモ嬢、無事だったか!」
「ご無沙汰しておりました、陛下」
少し痩せたかな? オレの中でも、1年の月日が流れていたんだなと実感する。
「しばらく東の海におりましたが、王国の窮状を耳にし、馳せ参じました」
「そうか。ご苦労だった。……ここしばらく音沙汰がなかったから、心配しておったのだ」
プロメッサ王は穏やかだった。
1年だもんな。この一大事にどこで何をしていた、と怒鳴ったりしないところは、人が出来ていらっしゃる。
冒険者は直接の部下ではないが、特Aランクへの昇級は国も関わっているから、非常時には役目を果たしてもらわねば困るというのが本音だろうけど。
「聞けば、オーガどもが出たとか」
「うむ、オーガジェネラル。オーガの将軍よ」
プロメッサ王は視線を彷徨わせた。
「力と体力に優れたオーガといえど、知能については、人間に劣る。しかしジェネラルともなると、話は別だ。一端の軍隊となり、知能も人間に負けぬ。それで元より力に優れれば……人間が苦戦するのは仕方のないこと」
敵より勝っていたはずの点が、有利でなくなれば、そりゃ旗色も変わるというものだ。
「私たちは、これよりオーガの本拠地に乗り込み、討伐に行って参ります。着きましては、今回のオーガジェネラルとその軍勢に関するあらゆる情報を、討伐に役立たせるべく頂きたく、お願いに参りました」
「……うむ、モモ殿があとひと月、早ければ、討伐隊と組めたものだが。いや、すまぬ。言ってもどうしようもないことだ」
これでも急いできたんだけどね。行った先が蓬莱じゃなきゃ、最初の段階で参戦できた。それを考えると、惜しいな本当。
「しかし、モモ殿が参戦してくれることは、今の劣勢の情勢下ではありがたい。見事、討伐を成功させた暁には、望みの褒美をとらせる」
ぶっちゃけ、褒美はいい。いや、オレ以外のメンツにあげてくれ。鬼をぶちのめせるなら、タダでもやるぜ。
・ ・ ・
ということで、王国軍のお偉いさんを交えて、オーガジェネラル軍団の情報を得る。敵の本拠地、ランコーレ島とかいう鬼ヶ島の場所。わかる限りの地形状況や戦力。そしてこれまでの人間とオーガ軍勢の交戦の記録などなど。
どうやら、オーガジェネラルは、オーガとしては小さいらしい。小さいと言っても人間と同等、長身の人間くらい。……うん、もうこの時点で、ヤバそう。
こりゃ、明らかに上級オーガ、前々世の『鬼』寄りだ。
基本、生物ってのは体が大きいほうがパワーがあるもんだが、この鬼タイプは、人間並みかそれ以上に賢いヤツの場合が多く、神通力や魔法などもバンバン使ってくる。
脳筋オーガなんて侮っていると、返り討ちにあうやつだ。
話を戻して、そのオーガジェネラルの下には、3人の上級オーガがいて、こいつらもまた特殊な力、魔法などで人間を圧倒しているという。
鬼の軍勢と交戦して、はや半年というが、この3人の誰ひとり脱落していないって言うんだから、相当なもんだ。
ますます、前々世の鬼退治を思い出すな。もしかして、そっちからの転生したヤツも混ざっていたりしてな。
とりあえず、方針は決まった。
「で、どうするの、桃ちゃん?」
カグヤの問いに、オレは答えた。
「まず本拠地を電撃的に叩く。そしてその上で、総大将であるオーガジェネラルと、3人の上級鬼を狩る。こいつらがいなくなれば、後のオーガどもは烏合の衆だ」
こちとら、鬼退治の専門家だ。狩らせてもらうぜ。




