第106話、桃太郎たちの恋愛話?
蓬莱で桃に遭遇し、今世初を味わい、さてこれをどう増やしていくか考えようとしていた矢先、お食事に山盛り桃が出された。
そりゃあ吃驚するっての!
「土産で持ってきた分より多いよな? これどうしたんだよ」
太郎に確認したら、何でもない顔で返された。
「魔法の石臼で出したんだよ」
「……!」
魔法の石臼――キヌウスのダンジョンで見つけたお宝。挽けば食べ物や色々なものを出せる石臼で、オレたちニューテイルの食料事情に大いに貢献している。食料調達がこの石臼で出来てしまうからな。
昔話の『海の水はなぜからい』に登場するアイテムっぽくて、たぶん異世界漂流物なんだろうけど、元の話でも充分チートだと思う。
「石臼で出したって……これまでは出せなかったよな?」
「うん。僕が、桃って果物を知らなかったから」
しれっと、太郎は答えた。
自分がデカい桃に入って流れてきたことは覚えていないから、桃がわからなかった太郎。だが今回の蓬莱への遠征で、太郎は桃の実物を見て、それを食べた。
完全に把握した。結果、太郎が操作する魔法の石臼から、桃が出せるようになったということらしい。
「何てこったい!」
あれこれ、桃をどう量産しようか考えるまでもなかった。つまり――
「いつでも、好きな量を食えるようになったんだな?」
「そういうこと!」
「やったぜ!」
無意識にパンと手を合わせていた。これで前世の好物を好きな時に食える。今日一番のグッドニュースだ。
「よかったわね、桃ちゃん」
「おめでとうございます、桃ちゃんさん」
カグヤとお鶴さんもニッコリ。おう、やったぜ!
「蓬萊の玉の枝も手に入れたし、色々進展した一日だったな」
これで、カグヤの探し物は、ゴールドボーイに頼んでいる火鼠の裘だけだ。
「ガーラシアに戻ったら、全部揃っちまうんじゃないか?」
「そうね。そうしたら――」
カグヤが目を伏せた。幸福な結婚ができないとかいう彼女の呪いも解ける。めでたしめでたし……。
「その後は、どうなるの?」
太郎が聞いてきた。その後? まあ、昔話とかなら、めでたしめでたしで終わりだもんな。
「そうだなぁ。オレは当面冒険者やって食ってくつもりだけど、お前らはどうよ?」
「そうねぇ……」
カグヤが天井に視線を上げた。
「これまでは探し物を見つけることばかりを考えていて、その後のことを考える余裕なんてなかったのよね」
魔法の鏡を手に入れてから、一気に探し物が解決したけど、それがなければ手掛かり探して彷徨っていただろうし。
「恋はできるけれど、あいにく意中の人もいないのよね」
「男探しでもするのか?」
「どうかしらねぇ。今までは付き合っても不幸になるってわかってたからスルーしていたけれど、これからはいい人いたら付き合うのもいいかもしれないわね」
前世でもモテモテのカグヤさんだもんな。恋愛オーケーになったら、近寄る男が増えるんじゃねえの。
「でも今は、実感もわかないし、男は別に急いで欲しいわけじゃないわ」
「そんなこと言ってると、婚期逃すぜ?」
「そっくりそのままお返しするわよ、桃ちゃん」
カグヤがニヤリとした。
「そういう桃ちゃんはどうなのよ? 恋人いないでしょ?」
「いねえよ。でも男なんて、ここしか見てねえだろ」
オレは胸、平均より大きいそれを指さした。視界の端で太郎が気まずそうに視線を逸らしたのは見なかったことにしてやる。オレっては優しい!
「ミリッシュだった頃なら、政略結婚パターンだったんだろうけど、冒険者のオレは自由恋愛できるからな。ビビっときた奴がいたら、そん時は考えるさ」
「レグルシ王子は?」
「カエルだぞ。ないない」
ミリッシュの名前を出したのがいけなかったかな。浮気野郎の名前が出てきた。
「もう王子様、カエルから戻っているかもしれないわよ?」
「だとしても、もう派手にはっ倒したし、ねえだろ」
お断りだね。……お鶴さんが小首をかしげた。
「オウロさんなんてどうです?」
「ゴールドボーイ? いや、ないない。真面目ないいヤツだけど、ビビっとこない」
「ビビっとくるって何です?」
「感覚的な話なんでしょ」
カグヤは視線をお鶴さんに向けた。
「そういうあなたはどうなのよ、お鶴ちゃん」
「わたしですか? ないですね」
きっぱり。カグヤは首を横に振る。
「そうじゃなくて、これからの話」
「ああ、そっちですか。ニューテイルが解散とならなければ、わたしはこのままでいいと思ってますよ」
楽しい冒険者業。まあ、本来の冒険者って、死と隣り合わせの危険なお仕事なんだけど、そこらをわざわざ指摘しなければならないほど、お鶴さんも素人ではない。わかった上で言っている。
「男は?」
カグヤが聞いた。お鶴さんは首をすくめる。
「そっち方面はさっぱりですね。桃ちゃんさん流に言えば、ビビっとこないってやつですかね」
「そうそうないよなぁ、やっぱ」
あはははっ、と笑うオレとお鶴さん。カグヤが目を細めた。
「二人とも元がいいんだから、そっちに本気出したら、割とすぐ見つかりそうな気がするんだけれどね。出会いがどうのって言っていたら、あっという間にお婆さんよ?」
「別によくね?」
「やっぱり好きという感覚がないといけないと思います」
お鶴さんは、そこで視線を転じた。
「わたしには、太郎クンががいますから。いざという時はもらってもらいます」
「え……?」
突然、自分の名前が出て吃驚する太郎。そりゃそうだ。
「お鶴さん、あんま太郎をからかうなよ」
「からかうなんてそんな。割と本気ですよ」
「やめなー。幼児にセクハラすんなよ」
お姉さんだから何を言っても許されるわけじゃないのよ、お鶴さん。




