第100話、桃太郎、東の島を探索する
シラマウ島は、大部分がジャングルじみた森が大半の緑の島だ。小さな山が見え、海岸近くに池があるのが見えた。
ぐるっと見て回ったところ、平地は浜以外は降りるのは無理そうだった。オレたちのスキーズブラズニルは、帆船型だから、海の上でも着水できるから降りられるんだけどな。
人工の建物の類いは見当たらず、なるほど魔獣たちしかいないんだろう。
「オオウミリクガメってのは、島のどの辺りにいるんだ?」
「浜に近い場所にいるって話よ」
カグヤが指さした。
「あの岩みたいなの、オオウミリクガメじゃない?」
「……岩じゃね?」
こんもり甲羅に見えて、ただの岩だったり。浜と森の間に、ちょこちょこ大きな岩が点在しているな。
「ひょっとして、岩に擬態しているタイプか?」
スキーズブラズニルが浜に乗り上げるように着地した。打ち寄せる波が近くまで迫ったが、オレたちが降りたところにはギリギリ届くか届かないの場所だった。島に上陸っと!
青い空。きめ細かな砂。気分は南国リゾート!
「南海の小島って雰囲気だな」
「ここ東の海なんですけど?」
「ムードないねぇ、カグヤさんよ」
「桃ちゃんにムードないとか言われたくないわー」
「どういう意味だよ?」
船を収納したお鶴さん、イッヌに乗った太郎、そしてサルが追いつく。カグヤが一同を見回した。
「とりあえず、島を歩いてぐるっと一周しましょ」
オオウミリクガメがいるのは浜辺近くという話である。カグヤは先ほど見かけた岩の方へ足を向けた。
まずは確かめようってことなんだろうな。誰もオオウミリクガメを見たことがないからな。……本当にそうか?
「サル、お前、オオウミリクガメって見たことあるか?」
『いいえ。実際に見たことはありません』
「ふーん……実際に?」
『データの中では、オオウミリクガメはあります』
なるほど、図鑑で見た、みたいなものね。俺はズンズン先を行くカグヤを一瞥した。
「じゃあ、教えてくれよ。あの岩はオオウミリクガメか?」
『おそらく違うでしょう。オオウミリクガメの甲羅は、あんなにギザギザではない。ツルンとして曲線を描いています』
「カグヤに教えてやれよ。そいつは違うってさ」
オレたちは立ち止まり、カグヤが一人、岩のもとまで近づくのを見守った。お鶴さんが、チラとオレを見た。いいんですかって目で言っているが……まあ、いいんじゃない。
カグヤが振り返った。
「ただの岩だったー!」
「知ってるー!」
うん、知ってた。それじゃ、本格的にオオウミリクガメを探しといこう。
・ ・ ・
島の中央の森は、魔獣とおぼしき声が盛んだった。時々絶叫が混ざるところから、島にいる魔獣同士、弱肉強食なんだろう。
いざ歩いてみると、結構広い。空から見ていると案外小さく見えたんだけど、ひょっとして島一周で、半日から一日かかったりするかも。
「少し暑いですね……」
お鶴さんが手で自身を扇いだ。よく晴れてるからなぁ。
「ずっと日差し浴びてるもんな。もうすこし森の近く、陰のところを歩くのもいいだろう」
太陽光の浴びすぎは体に毒だからな。
「太郎、大丈夫か?」
「大丈夫!」
「喉が渇いたら水を飲めよ。脱水症状は怖いぞ」
こっちは水分、食料とも即調達できるから、変に我慢する必要はない。大人の基準で見ていると子供にはオーバーワークってこともあるから、その辺りはよく見ておかないとな。
木陰を進むことしばし、正面に、のそのそと動くものが見えた。
デカい亀――いや、そして目を引いたのは、亀の甲羅の上に人が乗っていたことだ。
「あれ何?」
呆然とするカグヤ。お鶴さんが口を開く。
「人が乗っていますね」
「おーい、サル。あのデカい亀、オオウミリクガメか?」
『ええ、間違いありません。記録と全体像が一致しています』
サルはそこでカクンと頭を傾けた。
『しかし、人が乗っている記録はありませんね』
「だろうな」
そもそも一般人はいないんじゃなかったのか、この島。
「あれじゃないですか――」
お鶴さんがオレの肩を叩いた。
「仙人とかそういうのでは……」
彼女がそう思ったのも無理はない。オオウミリクガメの上に乗っているのは、白いふさふさおひげを生やした御老人だったからだ。
……なんつー、既視感。実際に見たことがないのに、知っているっていうアレ。というか頭ん中よぎったのが、浦島太郎なんだよな。
でもあれ、浦島太郎は行きは亀に乗ったけど、帰りはどうだったっけ? 送ってもらった後、途方に暮れて玉手箱を開けて老人になったけど、その時は亀はいなかったはず……。って、イメージが被るからって、浦島太郎って決まったわけじゃない。
怪しいから、一応用心しながら、御老人に話を聞いてみよう。
「御老人! ちょっといいか?」
近づきながら声をかける。武器は腰に下げているけど、手には持たない。こんな無人島にやってきた海賊とか思われたくないからな。
のっそり歩いていたオオウミリクガメが足を止めて、上に乗っていた御老人が、怪しむように目を細めた。日に焼けた肌。かなりのご年配に見受けられる。
「オレたちは、ニューテイル。冒険者だ」
この島には、時々学術調査で、学者やその護衛に冒険者が来るから、ここに住んでいるならわかるだろう……と思う。
「ここに一般人がいると聞いていなかったから驚いた。あんたはこの島に住んでいるのか?」
「……」
御老人は、首を傾け、オレたちから目を逸らした。……ひょっとして言葉が通じていないパターンかもしれない。
どうしたものか。一言も話してくれないと、どこの言葉なのかわからない。
「桃。……モモ」
オレは自身を指さす。カグヤを指さし、「カグヤ」と告げ、お鶴さん、太郎、サル、イッヌと名前とわかるように説明した。
すると御老人は目を開き、そして言った。
「お主ら、日本に所縁のある者か?」
日本語で。




