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赤と白と戦闘

作者: 洋輝

著者の別サイトで連載中の長編からのサイドストーリーです。でも単品でも問題ありませんので、どうぞご覧下さい。

「テグッ!どっちだ!?」


「わからないなら先走らないで欲しいね…全く。アシェド、この先を右へ!」


まだ若い男の怒声と、それに答える同じ様な若さながら随分と落ち着いた男の声が、凄まじい戦闘が繰り広げられている市内の一角で聞こえた。


言葉で表すと陳腐になるのは仕方がないが…だが本当に、稀に見る激しい戦闘だった。

攻城戦から市内戦にまでもつれ込んだ戦闘は、既に一般人にも多数の死傷者を出している。この小さな大陸を二分する国家の主は、どんな確執があったのか互いを許容する事が出来なかった。その嫌悪っぷりは凄まじく、子供でも呆れるくらいに幼稚でもあった。

それでも今までは、危うい状況に何度も陥りつつもかろうじて共存していたのだ。それは互いに国力、兵力が僅差であることを知っており、決定的な何かを手中に収めない限り手出しが出来なかったという理由が大きい。


その均衡が…均衡と呼べるのかどうかは甚だ疑問だが…破られたのは、一方の国にとある傭兵達が入国したのが一因だと後に語られている。その傭兵達が決定的な力になったのだろう。


一方の国…ここではA国としよう。A国に入国したのは『赤闘皇』、アシェド=サティネと『白戦皇』、テグ=ラバード。共に特位Aランクの傭兵だ。片や赤い鞘の剣を、片や白い鞘の剣を持つ二人は傭兵団を組んでいるわけでもないのだが、戦場ではほとんど行動を共にしてきた。『赤闘皇』の無茶苦茶な戦いを、『白戦皇』がサポートする。そんなスタンスが、二人の間にいつの間にか出来上がっていたのだと言う。


その二人がA国に入国後まもなく、国王直々の懇願により契約を結んだ。まだAランクの傭兵が片手で足る程だった当時、二人の力量は当然ながら広く世界に知られていた。その二人と契約を結んだことで、今が好機と感じたのだろう。A国は布告もなしに戦争の火蓋を切って落としたのだ。

「うはっ…大量だな、おい」


「何を喜んでるかな…うわ、大量だ」


アシェドは嬉しそうに、テグは嫌そうに右折した先に展開する敵兵の層の厚さを見る。まだ仲間の…というよりは同じ陣営のA国の兵士はここまで辿り着いていない。目の前の敵の多さからして、ここは一旦引いて味方と合流するのが最も賢い選択だろう。実際テグはそう考えていた。


「テグ…ここは」


アシェドも真剣な顔になる。恐らくテグはアシェドも同じ事を考えていると思っているはずだ。


「うん…アシェド、今すぐに…」


数に頼まず、陣形を保ったまま二人に迫る兵士の群れは見るからに強固だ。


「突っ込むぜっ!!」


「違うっ!?」


ダッ、とアシェドとテグは同時に走り出す。タイミングはぴったり。だが残念なことに向いた足の方向は真逆だった。


「まぁわかってたんだよ…うん」


突っ込むのも虚しいとばかりに、テグは直ぐ様踵を返す。既にアシェドは敵の横一列の陣形のど真ん中に剣を振りかざして突撃している。別にアシェドの腕前を心配しているわけではない。ただ少しばかり無茶が過ぎるのが不安なだけだった。数多くの戦場を二人で駆けて来たが、負傷数は圧倒的にアシェドの方が多い。


「守ってばっかじゃお前ら死ぬぜ!」


盾を掲げる前列の兵士の隙間に上手く剣を潜り込ませ、守られていない部分を的確に攻撃するアシェド。アシェドにとって盾は何の障害にもならないようだ。


「いやいや…守護騎士なんだから守って当然だよ。それよりその後ろ」


アシェドの少し左後ろに立ち、アシェドの攻撃の隙を埋める様にテグは斬撃を放つ。


「ん?おっ…槍兵だ!知ってるかテグ?剣で槍と立ち合うには三倍の力量がいるらしいぜ」


「何で今言うかな…しかもあの腕章、親衛隊だ」


A国と敵対する…仮にB国としよう。B国の親衛隊の強さは本物だと、出陣前にA国のお偉いさんが言っていたのをテグは思い出した。その強いと噂の親衛隊槍兵が八人。まるで弓を引き絞るかの様に槍を構えている。「よく見たらヤミユリだぜ」


その構えを真正面から見たアシェドはそう呟いた。

親衛隊の持つ槍は長さからすると短槍の部類に入り、その穂先はかなり独特な形をしている。円状に展開した六本の刃が花の様に開き、その内側には刺して引き戻した時に、更なる傷を与えるべく返しがついていた。完全に殺傷力を追求した形で重心は先端に集中し過ぎバランスは悪い。だがその威力に間違いはない。槍の形状と、独特の弓を引き絞るかの様な構えはヤミユリと呼ばれる。一応はどこかの流派の技だったのだが、その応用性のなさから流派は消えたとされていた。


「アシェド…無理できるかい?」


前列の守護騎士から少し間合いをとる。それでも敵はゆっくりと迫るだけだ。完全に個を殺して集団となっている。よく訓練されているのが見てとれた。


「自分で無茶するのはいいけどよ…テグにやらされる無茶は容赦ないから怖いぜ」


テグの横に並び、剣を一振りして血糊を払いながらアシェドは肩を竦めてみせる。とは言え、テグの提案を蹴るつもりはさらさらないらしい。


「で、俺にどうしろって?体張ってヤミユリ止めるのか?」


冗談混じりに笑いながらそう言うアシェドに、


「…それもいいね」


わざと少し間を空けた後でテグはそう答えを返した。


「いや、その……悪かった。どうしろって?」


いつも温和で、自分の背中と言わず前から横からサポートしてくれるテグだが、たまに恐ろしいことをさせようとする時がある。


「ヤミユリを斬れるかい?」


「いきなり難易度マックスだな、おい…」


「出来ないなら俺がやるからいいよ」


「待て待て…出来ないなんて言ってないぜ。やったろうじゃねぇか!」


「任せるよ。俺が前の守護騎士をどかすから、突っ込んで」


「任せろ!」


カチンと剣身をぶつけ合い、タイミングを合わせて二人は飛び出した。テグが先頭を低く走り、アシェドがその後ろを鋭い目付きで追う。未だに味方は追いついてないらしく、遠くで剣撃の音や怒声が聞こえた。


「はっ!!」


低い姿勢から、更に低い軌跡の斬撃を大きく左から右へと放つ。その刃は吸い込まれるように前列の守護騎士三人の足を綺麗に薙いだ。引き戻した剣を真ん中の一人の浮いた顎下に突き刺す。剣を手中で捻る様に回転させて横に押すと、隣で倒れかけていた守護騎士を巻き込みながら派手に転んだ。テグは同時に空いた左手で左側の守護騎士の兜を掴むと、勢いよく地面へと引きずり落とした。


「流石だぜ!相棒!!」


テグのお陰で開いた隙間を縫うようにアシェドは滑り込む。陣形の真ん中に飛び込んだアシェドに、八本のヤミユリがそちらを向く。

短槍の間合いとしてはギリギリで、親衛隊槍兵とアシェドの間にはまだもう一列守護騎士がいる。だがそれは互いにとって障害にはなり得なかった。守護騎士は武器を持たず、ただ親衛隊槍兵を守る為だけにいる。故にアシェドの脅威にはなり得ない。強いて言うなら邪魔なだけだが、それも後ろにテグがいれば問題はなかった。


「来いっ!!」


アシェドの声に促されたわけではないのだろうが、それとほぼ同時に八本のヤミユリが突き出された。


「まずい、アシェド!」


瞬きすら止めて、迫るヤミユリだけを見据えるアシェドにテグの声は聞こえていなかい。だが、まずいということだけはしっかりと感じていた。

八本のヤミユリはそれぞれ僅かにタイミングをずらしながら突き出されたのだ。


一本目のヤミユリがアシェドの左腕を突く。二本目のヤミユリが右の太股を、三本目が左肩を。


が、そこまでだった。一本目のヤミユリの返しが刺さる前にアシェドは剣を振るった。その斬撃は見事に自分に突き刺さった三本と、今から突き刺そうとしていた五本のヤミユリの柄を叩き斬る。

同時にアシェドの体が強く後ろに引かれた。もちろんテグの仕業だ。


「無茶し過ぎだよ!」


最前列の守護騎士から、逃げるように間合いをとってからテグはそう怒鳴った。


「はぁっ!?無茶しろっつったのテグだろ!!」


「だからってヤミユリを真正面から受け止めるかな!」


「あぁ〜もう、わかったわかった…そう怒鳴るなって!ほら、そんなに深くないから大丈夫だ。それより心配してくれんならさっさと片付けて手当て受けさせろ」


ヤミユリを真正面から受け止め、挙げ句に斬られた親衛隊は兜で表情は見えないものの呆気に取られているのは間違いないだろう。集団戦で、しかも前に二列の守護騎士がいたのにヤミユリが破られたのだ。


そんな親衛隊、守護騎士を余所にアシェドとテグはまだ何かを言い合いながら剣を構え直す。二人の腰にぶら下げられた赤と白の鞘が、親衛隊や守護騎士の目にはやけに映えて見えた。


二人が目前の敵へと再び走りだそうとした時、B国の城がある方角から一筋の狼煙があがる。それはアシェドやテグにはわからないものだったが、それを見た親衛隊や守護騎士は一斉に武装を解除し出した。


それを見たアシェドとテグはその狼煙の意味する所を理解した。


「…あの狼煙」


「お味方が勝ったみたいだよ。まいったね、俺達は噛ませ犬か…」


武装を解除してうなだれる敵兵を前に、勝ったはずのテグはどこかやるせない表情をしている。


「まぁいいんじゃねぇの?俺達は手を貸しただけなんだからよ」


アシェドはさっさと剣を鞘にしまい、腰のポーチから取り出した包帯で傷口をしばった。毎度毎度怪我をするものだから、いい加減自分で傷の手当てをするのも上達している。


「…そうだね」


「でもまぁ…胸糞悪いな。殺るか?」


最後の一言に殺気を乗せる。その言葉だけで背筋に悪寒が走る程だ。


「いい…早く戻って報酬を受け取ろう」


「そっか。そうだな…そうするか!次はどこ行く?」


「とりあえずここを出よう。長居したい気分じゃないからね」


「おう!貰うもんもらって、おさらばしようぜ」


「ん」


短音で同意を返すと、テグとアシェドは戦場を去った。テグはどこか満たされない気分を抱えながら、アシェドはそれを気にしつつ、だが過剰に気を遣わないようにしながら。


二人は次なる戦場を目指してただ歩いて行った。

読んで下さってありがとうございます。少し終わりが締まらなかったのですが…いかがでしたか?今後時間があれば少しずつ、この二人の話を増やしていきたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 始めまして百鬼 夜行丸と申します。 私も小説を書いているんですが、あなたは描写能力が非常に高いですね 素人くささがかなり少ないです わたしもこれぐらいのレベル目指して頑張ります。
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