4話 治療師と出会う
出立して五日目。
俺は王都から港町へ行き、船に乗って海を渡った。着いた先は、祖国と海を挟んだ向かい側の国で、頻回に交易を行っている港町。
港町は色々と情報が出回る場所だ。長居したくなかった俺は馬を走らせて、昨夜ここの農村地に着いた。
放牧地には牛がいて、それぞれの家が畑を持っていて家族全員で種まきから収穫まで行う、どこの国でも見られる一般的な地域だ。
「おはようございます」
「おはようございます。昨日はよく眠れましたかな」
「はい。おかげさまで」
着いた俺は住民に宿はないかと聞いたら、旅人や商隊などはあまり来ない場所のようでないと言われた。
なので、村長に頼んで宿泊代として硬貨を払って客室を借りた。
俺は庭先の井戸の前で挨拶を交わし、井戸から水を汲んで顔を洗い、眠たい頭を起こした。
簡単に朝食をすませ、愛馬にも水と餌をあげて朝早く出立した。
ここから真っ直ぐ行けば目的地につくと大雑把に教えてくれた村長の言葉を信じて、俺は草を刈って簡易に整えられただけの山道を走らせている。
順調に行けば日が暮れる前に目的地の街にたどり着くという。
天候も良く、愛馬の機嫌も悪くない。
魔法使い、治療師、凄腕の剣士、弓使い、盾役……。
最低でも五百……この短期間では無理か? でもせめて三百人くらいは集めたい。
一流のパーティーは絶対につかまえたい。
なにせ相手は水竜だ。
左右から挟み撃ちする作戦とか考えてもらって――。
何事もなく順調に進んでいる俺は、必要な役職と人数を考えていた。
半年後には海岸に建てられた神殿で、リリアーヌと第六王女のセリーナ姫は水竜の生贄にされてしまう。
それまでに集めないといけない。
俺の手札はかき集めた現金だけだ。
金で動くやつはそれで釣って、難しいそうな奴は条件と対価で何とか説得しよう。
行き当たりばったりの人集めだな。
こういうことになるんだったら、貿易商人とかになっていればよかったなぁ、と思ってしまう。
「ふぁ」
温かい太陽の光を何時間も浴びているせいか、いつも起きない時間に目覚めたせいか、眠気がやってきてあくびが出た。
「きゃあああああ!」
突如、女性の悲鳴が聞こえた。
馬に合図を出してさらに速力を上げて走らせると、商隊と街人を乗せた二頭立ての馬車が三台、十数人の野盗に囲まれているのが視界に飛び込んできた。
主婦らしき女性は小さい子供を抱きしめて守ろうとしている。
騎馬に乗った護衛らしき剣士たちも野盗と同じくらいの人数がいて、馬車を囲むような配置で対峙している。
その中に混じって一人立っているのは白衣を着た少女。
野盗を追い払おうと杖を振り回している。防具を身につけていているが軽装だ。
ぶんぶん振り回しているだけで、一目で戦いなれていないとわかる。
見ているこっちがひやひやする。
ちょっと厳しくないか。
馬車は三台で、護衛らしき剣士たちは十人弱で負傷者もいる。
劣勢だなと思った。
俺は馬をそのまま走らせて、剣を抜いて走りざまに剣を振り下ろす。
耳障りな悲鳴がいくつも聞こえた。
「仲間か⁉」
「やっちまえ!」
突然現れた襲撃者、俺に野盗たちは驚いた。
白衣を着た少女の近くにいた野盗の標的が俺に変わる。
こんなところでやられてたまるか。
妹を助けるまでは死ねないんだよ。
「俺はあんた達の味方をする! そっち、頼んでいいか⁉」
俺は騎乗したまま、野盗と打ち合いになり金属音が鳴る。
任せろ、と気合の入った返事が背中越しに聞こえた。
俺は、白衣の少女から俺に標的を変えてきた連中と剣戟の末、返り討ちにした。
◇◇◇◇◇◇
野盗が舌打ちして撤退した後、白衣を着ている少女は怪我をしている剣士たちに癒しの魔法をかけていた。
治療師なのか。
よく見れば神殿にいる神官とは違う、白地を基調とした白衣を着ている。
下馬して、ともに戦ってくれた愛馬を褒めていると、治療師は心配して駆け寄って来た。
「あの、お怪我は?」
「俺は大丈夫だ。ありがとう」
俺の服を見てどこも怪我してしないことがわかると、それは良かったですと安堵した表情を見せた。
「いや、助かったよ」
「偶然通りかかっただけですから」
歩み寄ってきたのは商人の護衛で雇われている剣士たちのリーダー。
俺が控えめな態度をとっていると商隊のまとめ役も歩み寄ってきた。
「ありがとうございます。助かりました」
髭を生やした三十代の商人だという男は笑顔で手を差し出してきた。
「いえいえ。大したことはしていません」
「いや、本当に助かりました。最近、野盗の襲撃が多くて。そこの馬車の中には購入した交易品を積んでいまして、持っていかれたら大変なことになるところでした。ああ、申し遅れました。私はフリッツ・ヘイワードと言います」
髭を生やした商人のフリッツは最悪の事態を免れて喜んでいた。
好意的な証として握手を求め、どちらに行く予定ですかと聞いてきた。
「私……俺はアレクシスです。タンザという街までです」
俺は慌てて言い直した。つい貴族の時の癖が出てしまった。
貴族だと知られても、他国まで俺の名前と事情を知っている人はいないだろうが、気をつけて損はない。
気を引き締めないと。
俺は名前だけを伝えて自己紹介をし、手を出して握手を交わす。
フリッツは奇遇ですねと言う。
「我々もそこに行きます、よかったらご一緒にどうですか?」
「いいですか。ありがとうございます!」
良かった、助かったと俺はほっとする。
泊まらせてくれた村長は農村地の中で一番の情報通だという。
聞いたら大雑把な道順しかわからないと言われた。
手元に持っていた地図の情報と大差がなくて不安だったんだよな。
読んでくださり、ありがとうございました。
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