学歴不問 資格少々 未経験者は現場で教えます
ヒーローとして適正があると改めて太鼓判を押された僕は、まぁ向いているなら悪い事ではないかと開き直っていた。
自己中心的と言われてもその自覚はそこそこにあるし、だからといって今更それを直すつもりもない。
ヒーローとしての素質の一つに含まれるなら、それは喜ぶべきことなのだ。
「なのだ・・・」
「そこまで気にしてるなんて思わなかったっきゅ。申し訳ないっきゅ」
「謝られるだけ惨めになるからやめてくれ。意外と僕はメンタルが弱いんだ」
「自己評価が低いことは理解してるっきゅ。でもそれを乗り越えるのもまたヒーローの使命っきゅ」
「ヒーローも大変だなぁ」
主人公が大きく成長する物語は読んでいてワクワクするものだが、いざ自分がやってみろと言われると前向きなビジョンが見えない。そういうのは正統派のヒーローに任せたいところだ。
「まぁなんだかんだと色々いったけど、もきゅ個人としては結局は楽しんでやれるのが一番だと思うっきゅ。誰かを助けるのに楽しむなんて不謹慎だって言う子達もいるんだけど、あまり難しく考え過ぎちゃうと身体が壊れちゃうっきゅ。魔法少女を楽しむついでに人助けをするくらいの気持ちでやって欲しいっきゅ。最悪、もし『ワンダラー』が現れても誰かが倒すだろうくらいの気持ちでもいいっきゅ」
そこまで無責任なつもりはないけど、まぁ僕はもとより楽しんでやるつもりだ。
責任感に押しつぶされるなんて僕らしくない。
「魔法少女ってそんな自由でいいの?」
「本当はダメっきゅ。だから本来、魔法少女は政府の管理下におかれるし、ローズにも魔法少女はどういうものかって一応説明したっきゅ。でももきゅは、魔法少女にはもっと伸び伸びとやってもらいたいと思ってるっきゅ。だから野良の魔法少女として君を選んだってとこもあるっきゅ」
「バレたら怒られそうな話だね」
「野良の魔法少女なんてバレた時点で怒られるのは確定してるから、あまり気にしても仕方ないっきゅ。周りに迷惑をかけない範囲ならもきゅも応援するから、自由にやるといいっきゅ」
「なんだかなぁ・・・」
魔法少女の説明してたときは、意外としっかりしてるなぁって思ってたけど、それは建前だったんだろう。
妖精は基本的に自由といっていたが、その例に目の前のまんじゅうも漏れないようだ。
まぁ、堅苦しいよりかよっぽど居心地がいいのは間違いない。思っていたよりうまくやっていけそうで安心した。
「ピピピピピピッ」
「ん?なんの音?」
唐突に、どこからか甲高い機械音が鳴り響く。
危険を知らせるアラームともとれるその音は、どうやら武器として出てきた携帯から発されている。
誰かから着信でも着てるんだろうか。いや電話帳には誰も登録してないどころか、電話番号自体しらないんだが。
じゃあこれは一体誰から・・・。
「もきゅ、幽霊から着信が来たよ」
「なにボケたこといってるっきゅ。これは近くに『ワンダラー』が現れたときに鳴る緊急警報っきゅ。ちょうどいいっきゅ。魔法の設定も終わったみたいだしいまから実戦といくっきゅ」
「え、もう実戦!?はやくない?」
「何言ってるっきゅ。こういうのは知識よりも経験がものをいうっきゅ。いつかはやらないといけないんだから早いほうが都合がいいっきゅ」
「そういうものなのかなぁ・・・?」
初めての仕事に就いていきなり「はい実戦」といわれても、すぐに動けるものなんていないだろう。というかせめて、最初は先輩に見本を見せて欲しいんだが。あ、野良だから先輩とかいないのか。
「『ワンダラー』はC区の4丁目あたりにいるみたいっきゅ。場所がわからなかったら携帯のマップに表示されてるから、それを見ながら向かうっきゅ」
携帯を見ると、もはや見慣れたA区~D区周辺までの地図が表示されており、僕の家から南方向にあるC区に赤い丸点が点滅していた。赤い点はかなりゆっくりだが、東に移動をしているようだ。
「『ワンダラー』はこうやって突然現れて目的もなく徘徊したあと、現れたときのように唐突に消えていくっきゅ。だから『ワンダラー』を倒すことができなくてもいずれはどこかへ消えるっきゅ。でも、それはあくまでどこかへ移動しただけだから、魔法でちゃんと消滅させないと根本的な解決にはならないっきゅ」
まぁ放置していても被害が大きくなるのは間違いないし、早めの対処が必要なのは間違いないだろう。
「ということで、早速向かうとするっきゅ。さあ準備するっきゅ」
「わかったから引っ張らないでよ」
身体を揺らしながらウキウキとしてる様子のもきゅに袖を引っ張られながら、家の外へと連れ出される。
「さて、『ワンダラー』が現れた時にまずすることは移動っきゅ。『ワンダラー』がどこに現れるかは事前に知ることはできないっきゅ。緊急警報は近場の魔法少女に優先して鳴るようにはなってるけど、魔法少女の絶対数がまだまだ少ないから、当然こんな感じに別の区に現れた『ワンダラー』も対処する必要があるっきゅ。だからこれくらいの距離はすぐに移動できるように、移動用の魔法が使えるのが理想的っきゅ。さて、ローズ。移動用の魔法は設定したっきゅ?」
「したよ。というか必要そうな魔法は初めにいっておいてよ」
さっき読んだ本に「使えるなら設定しましょう」って書いてあったし。やっぱり説明書を最初に読むのは大事だ。
「最初はどんな魔法があるといいか考えてもらうために、敢えて教えてなかったりすることもあるっきゅ。それにローズの場合その場その場でいくらでも魔法なんて使えちゃうっきゅ。足りない魔法は作っちゃえばいいっきゅ」
「安全性はどこいったんだよ」
段々理解してきたがこいつら『妖精』はテンションが上がると見境なくなるタイプだな。『ワンダラー』なんてもの産み出したのもさもありなんといった感じだ。
魔法少女のマスコット的存在がそれでいいのか。
「細かい事は気にしたらダメっきゅ。それより早く『ワンダラー』の元へ向かうっきゅ」
「はいはい、わかりましたよ」
まぁここで色々いってても仕方ない。そんなことより『ワンダラー』を倒しに行かないと。
魔法武器として生み出されたカードを1枚取り出して、魔法を発動させる為のワードを呟く。
「アクセル」
青色のカードが光の粒子へと変わり、身体の周りを遊ぶように飛んでいる。
この魔法は重力の一部を魔法によって改変し、足で踏みこんだ際に生まれる力に反発力を加えることができるらしい。
つまりどういうことかというと。
「おー!すごく便利で楽しい魔法だねこれ」
「移動用としてはとてもスタンダードな魔法っきゅ。足で地面を蹴る動作は勿論のこと、重力によって身体が引っ張られる感覚っていうのもなんとなくわかると思うっきゅ。そういった、体の感覚で理解できるような魔法は結構扱いやすい部類にあるから、適正がない子でも使える子が多いっきゅ。「アクセル」は重力が皆無にならないように調整されてたり、移動する方向への推進力へと変わってたり、反発する力も程々に抑えられてるから安全面にもばっちりっきゅ」
空を飛んでいた。
正確には跳んでいるのだがあまり変わらないだろう。
身体が軽くなり、足で地を蹴り飛ばす度に周囲にある家の屋根を軽々と飛び越えることができる。
自由落下する際にも重力が弱まっているおかげでゆっくりと着地することができる。
風を切る感覚が気持ちよく、このままどこまでもいけそうだ。
「注意点としては壁に激突しないようするっきゅ。人とか生きてる物ににぶつかりそうになると急停止するようになってるけど、無機物には対応してないっきゅ。ブラックローズの身体はその程度でどうにかなるほど軟じゃないけど、壁のほうがバラバラになっちゃうっきゅ」
走って壁に激突した挙句、破壊していくヒーローになるのは嫌だな。
あまりはしゃぎすぎないように少しスピードを調整しながら、色んな高さの屋根を全て飛び越えていく。
たった数分で目的地であるC区の4丁目に辿りつく。
道に従う必要がないので直線で向かえる上に、軽く走るだけで車並の速度も出せる。
本気で走ったら一体どれだけの速度がでるんだろうか。
これからの移動手段に困らないなって思ったけど、さすがに人目がある中ぴょんぴょん跳ぶのは恥ずかしいな。というか見られてないよね?
なんとなく風に揺れるスカートが気になってしまい、服を整える。
「あっという間だったね。それにぜんぜん疲れてないや」
「当然っきゅ。移動するだけで疲れてたら本末転倒っきゅ。まぁ本来だったら魔法力の残量と相談しながら使うのがベストっきゅ」
「魔法力の残量とか初めて聞いたけど調べる方法とかあるの?」
「感覚でなんとなくわかるし、最悪もきゅたち妖精がわかるっきゅ。まぁ、ローズの魔法力が枯渇するような魔法なんてないから気にしなくていいっきゅ」
毎回それでオチを作るのやめて欲しい。
それに知ってるのと知らないのじゃ全然別物だろう。
ほんといい加減だなこのまんじゅう。
「そんなことより『ワンダラー』を探すっきゅ。『ワンダラー』の近くにいると気分が悪くなるから、なんとなくわかると思うっきゅ」
「まぁ、多分だけど向こうかなぁ・・・」
大通りを抜けて道が狭くなっている先が、なんとなく雰囲気が悪い気がする。
はっきりとした確証はないものの、向こうに何かがいると感覚が訴えかけてくる。
「携帯を見れば大体の位置はわかるけど、感覚で場所を掴めれば不意打ちを食らうことがないから大事っきゅ。ダメ、歩きスマホっきゅ」
僕の携帯はスマホじゃないけどね。
「不意打ちなんてしてくるんだ」
「自分の脅威になる存在は理解できるみたいで、魔法少女を見つけたら優先的に攻撃を仕掛けてくるっきゅ。そういった本能的な行動だけじゃなくて、隠れて攻撃してきたり、不利を悟って逃げたりと知能的な面もあるっきゅ」
「厄介だね」
目的なく徘徊してるってことだから知能はないのかと思っていたけどそんなことはないようだ。
不意を突かれないように慎重に進みながら、段々と嫌な気分が強くなってくる方へと足を進める。
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