利権に塗れた会議
その日の魔法少女学校では、定期的に開かれる魔法少女連盟の国際会議が行われていた。
魔法少女学校の中でも一番に景色や質が良いと評価される一室に集まっているのは、盟主であるエンプレスの他、様々な国の魔法少女や魔法そのものを纏める立場にいる者たちばかりである。
こうしてそれぞれのトップが集まりわざわざ会議を行う理由としては、魔法、『ワンダラー』、悪意についてなど、現在人類を脅かしている未知についての有用になりそうな知識の共有や、各国のこれからの方針のすり合わせなどを行い、足並みを揃えることが本来の目的であった。
しかしながら、『ワンダラー』の出現地域が日本に偏ってきているという最近の情勢の変化に伴い、徐々にその在り方が変質してしまい、今では自国の利益を最優先にしたがる者たちまで現れる始末だ。
勿論、国を背負っている人間が集まっている以上、そういった話題が上がるのは必然とも言える結果なのだが、それにしたって最近は余りにも露骨な行動が見て取れる。
(あー・・・。魔法でこの部屋を吹っ飛ばせたら、どれだけ楽になるんでしょうね・・・)
盟主という重要かつ面倒な立場に置かれているエンプレスは、いつまでもくだらない話を聞かされている事への不満や、それによって培われたストレスからくるため息を全て吐き出したいという気持ちを押し殺して、目の前で大袈裟に語る男共を睥睨する。
この会議に於いてエンプレスの役割はお飾りであり、見届け人である。時には魔法の契約書を持ち出し、この場での契約を反故されないように繋ぎとめる役割を持つこともあるが、あくまで主役はこの場にいる自分以外の全員であり、会議はそこの間で行うのが通例である。
しかし、盟主という魔法少女のトップである立場にいる以上、権力も発言力もこの場にいる誰よりも凌駕をしており、それゆえに自身に取り入ろうとする者――もしくは利用しようとする者、が後を絶たない。勿論、魔法少女達の為になるというのであればいくらでも利用してくれれば良いという考えも持ってはいるのだが、明らかに私欲の為であるというのが透けて見えてしまえば、辟易するのも仕方ない事だろう。
目の前でいつまでも演説のようにアピールを続けている男達もその例に漏れず、対『ワンダラー』の国防手段としての魔法少女利用を逸脱し、人権という誰もが持つ権利を無視し国益へと繋げようとした結果、魔法少女達が逃亡してしまったという事実をオブラートに包みながらも、自分達は被害者であるというスタンスをこれでもかというくらい訴えかけている。
(ほんと、欺瞞だらけで嫌になっちゃうわ)
十人十色で形は違うにせよ、魔法少女達は一様に正義の心を持っている。その中でも、誰かを助けたいという気持ちを持たない魔法少女は皆無である。そんな魔法少女に見限られた国というのは、極論を言ってしまえば助ける価値がないと判断されたようなものである。
勿論、それ以上に多くの人達を助けたいという想いを持つ魔法少女もおり、『ワンダラー』の出現傾向が日本へと大きく偏った結果、そこでの活動を望む声もちらほらと聞こえる。
国としては貴重な魔法少女を他所へと送る事に躊躇する反面、『ワンダラー』から得ることの出来る魔石を求めて積極的に送り込もうとしたり、難癖を付けて要求をねじ込もうとするなど、混沌を極めている。
魔法少女を取引材料に使おうとする有様に心の中に淀みが生まれるが、どちらにせよ連盟の方針は変わらず、魔法少女を優先して支援する事を決めている。
その結果として、国から突如としていなくなる魔法少女がちらほらと現れるが、連盟としては「知らないこと」になっている。
「しかしですなぁ・・・。我々としても、自国の魔法少女を放っておくわけにはいかんのですよ。どういった手段を取ったのかは不明ですが、日本へと入り込んだことは分かっているのです。大方、魔法少女委員会があの手この手で引き込んだのでしょうが、連盟の手をあまり煩わせたくはありません。我々の手でどうにか対処してみせます。ですので、盟主様の方からもそこの魔法少女委員会へと渡りを付けてくれませんか?」
「何度も言うようですが、あくまで連盟は魔法少女の為の組織であり、どこかの国へと加担するようなことはせず、中立の立場にいます。また、緊急性の伴わない趣旨の話をする際はまずは契約書へと記載の上、会議が行われるひと月前には提出をして頂くようお願いをしているはずです。ご理解頂けてなかったのですか?」
「いやいや、勿論十分に理解しているとも。しかしだね、わざわざ紙なんぞに書いて、盟主様に面倒を掛ける訳にもいかんと思った次第でしてね。それに、緊急性を伴わないと言うが、魔法少女の有無は国の存亡に関わる事態だろう?」
「ただの紙ではなく、虚偽の申告を許さない魔法の契約書です。貴方がたに疚しい事がないのであれば、記載して頂くことに同意して頂けるはずです。緊急性がある場合でも、契約書に記載して頂く事は出来ると思いますが?連盟に面倒を掛けさせたくないと言う言葉が真実であるのなら、まずはルールから守ってください。それと、『ワンダラー』が出現した際には連盟へ連絡して頂ければ、こちらでも早急な対応をさせて頂きます。少なくとも、この会議で持ち出すような議題とは思えません。お下がりください」
魔法少女の損失を違う形で取り戻そうと躍起になっているのだろう。
自国の魔法少女が日本へと入り込んだなどという、一体どこから出てきたのか分からない情報を持ち出し、日本の組織である魔法少女委員会が引き込んだという出鱈目を吹聴し、挙句、ルールの無視までし始める。
そもそも、『ワンダラー』は地震や台風のような天災に似たものであり、当然何度も被災すれば国の滅亡云々の話へと繋がるだろうが、現時点ではあまりにも誇大表現だろう。
筋の通らない話をさも当然のように語っているのは、相手は小娘であり誤魔化すのは容易であると侮っているが故の暴挙であるのが明け透けに見えるが、実際にその評価自体は間違っておらず、こうして内心では常に頭を悩ませながらも明確な解決策を見出せないような状況となってしまっている。
(魔石なんてものに価値がなければ、こんなことにもなってないのに)
日本に『ワンダラー』の出現が偏っているということは、必然的に魔石も日本へと集まることになる。
魔石という『ワンダラー』の落とす物質は、マジフォンを持つ魔法少女からすれば便利な機能を使う為の『お金』のような形として利用できるが、マジフォンを持たない一般人からすれば、初めは研究の為の価値が付いた綺麗な石という評価であった。
いつの時か妖精が零していた「エネルギーになる」という言葉を信じたもののどうしてよいか分からず、多くの試みをし続けていたのだが、最近になってその結果が結びつき、今では様々なエネルギー資源へと成り代わる可能性を秘めた、いわば利権の塊となってしまった。まだまだ発展途上ではあるものの、研究を続けて行けば、いつかは魔法の利用へと繋がるかもしれない。そして、そんなものを一国が独占するということは、なんとしても避けたいのだろう。
(とはいえ、それに私達を巻き込まないで欲しいわ・・・)
魔石は『ワンダラー』が落とす物であり、当然ながら魔法少女にも関わりがある事とはいえ、利用するなどと断じて許すことは出来ない。利権の奪い合いなんて複雑な争いがしたいのであれば他所でやって欲しいものである。
エンプレスは未だ冷め止まらぬ大人達の論争を冷たく見つめながら、くだらない時間が過ぎ去るのを待ち侘び続ける。
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