積み上げられた不安定な評価
「いーんちょーちゃんやエンプレスちゃんからも、いろいろとお話を聞いてましたー。改めまして、お会いできて光栄ですー」
「こちらこそ、僕のファンでいてくれるなんて光栄だよ。まぁ、僕がなんて言われてたのか、気になるような怖いような感じがするけどね」
「いろいろと」なんて前置きがあると、変な事を言われていないか心配になってしまう。
サファイアは人の陰口を言う子ではないだろうからともかくとして、エンプレスは結構僕に対しての扱いが粗雑気味だ。盟主という立場にあるので公務はかなり真面目行っているようだが、その反面、僕と話す時のようなプライベートでは遊び心があるというか、表裏の性格が転々としているというか、端的に言ってひねくれ屋の面もあるせいで、面白おかしく脚色された変な話を吹き込まれてないとも言い切れない。
ゴーストの事については墓までもっていくつもりのようなので、流石に誰かに話すような心配はしなくてもよいだろうが、何の気休めにもならないな。
まぁ、そんなエンプレスにすら愛称として「ちゃん付け」をしているメイちゃんは、実はかなり大物なのかもしれない。僕も今度そうやって呼んでやろう。
「そーですねー・・・例えばー。ブラックローズさんと会話するときは、あくしゅをしていると、お話を聞いてくれるってエンプレスちゃんが言ってましたー」
「あぁ、うん。わかったよ。あとでエンプレスにはお礼を言っておくことにするね」
僕の手を握って離さないのはそれが原因か。
確かに有効な手段ではあるのだが、小さい子にそういった卑劣な真似を教えるんじゃない。
その後も、ニコニコと笑顔で僕の話をするメイちゃんは非常に楽しそうでよろしかったのだが、修飾語に「立派な」とか「孤高の」とか明らかに過大評価されているものまで混ざっていると、口が引きつるのを抑えられそうになかった。
実際はそんな素晴らしい人間ではないと思わず横から口を挟みたくなってしまったが、しかしながら、こうして嬉しそうに話す彼女の笑顔を壊してしまうのはヒーローとしてどうかという思いもある為、喉から言葉が出そうで飲み込むという事を繰り返す羽目になっている。
話を聞き終えた後には体中から力が抜けてしまい、車内付けとは思えない程ふかふか椅子へと背中をどんどんと沈める事になってしまった。褒め殺しというのはこういうことを言うのだろうか。
「皆さんからたくさんの英雄譚を聞かせて貰っていまして、憧れていたんですー」
「あはは・・・、英雄譚ねー・・・。その話はあまり真に受けないでね?面白がって誇張している人がいるみたいだから」
「そんなことはないです!一人で戦い続けるなんて、誰にでもできることではないですー。是非、今度わたくしとも、『ワンダラー』の討伐へご一緒させてくださいー。お役に立ちますよー?」
「えっと・・・。機会があればね?」
期待に満ち溢れた澄んだ瞳でこちらを見つめてくるメイちゃんから、僕は口をどもらせながら目を逸らすことしかできない。
小鳥遊ちゃんも夢見る女の子といった感じで、かなり純粋な心を持つ子だといった印象を受けたのだが、それ以上の純粋さを持つ子に対してどうすべきかという解決策を、僕が持ち合わせている訳がない。
そんな狼狽えている僕を見かねたのか、膝上でゴロゴロしている猫みたいな魔女っ娘から助け船が出される。
「何をゆっとるんじゃ。今回はワシの為に特別に来てもらっただけじゃ。普段のコヤツは紅姫も言ってた通り、誰とも組むことはないしどこにいるかも分からない、謎だらけの魔法少女じゃ。そやつの「機会があれば」など、いつ果たされるかなど分かったもんじゃないぞ?まぁ、約束事を破るような奴ではないはずだから、きちんとワシのように確約するところまで持ち込まんとな!」
カエデちゃんから助け船が出されたと思ったら、途中で僕の評価が落とされた気がする。いや、間違ってはいないんだけどさ。もうちょっとオブラートに包んで欲しかったよ。
「むぅ・・・。カエデちゃんばっかりずるいですよー!ずるっこですー!」
「ず、ずるくないもん!ワシとコヤツは勇者と魔王の関係、つまりは切っても切れぬ関係じゃから、こうして共闘するのだって当然なのじゃ。そもそも、色んな国から引っ張りだこのおヌシがそんな事をしとる暇なんぞあるわけなかろうて。今日だってこっちなんかに来てて、大丈夫なのか?」
「それがー。最近は他の国での『ワンダラー』の出現報告がめっきりと減っていましてー。その分、こちらへ来る機会が多くなっているんですー。むしろ、こっちにいる事の方が多くなってますよー?」
「ほぅ?メイの委員会入りも、秒読みかのぅ?先輩として、ワシが色々と教えてやるぞ?」
「残念ですがー。わたくしはこのまま変わらないことを望んでますのでー。のーせんきゅーですー」
「ん?メイちゃんは委員会の子じゃないの?」
まさか野良の魔法少女ということもないだろうし、色んな国から引っ張りだこなんて言葉から判断すると他国の魔法少女なのだろうかといった推測は立つ。
僕の言葉を聞いたカエデちゃんは、指を左右に振りながら「ちっちっちっ」と口を鳴らし、得意気な表情で勿体を付けながら話してくれる。
「メイは世界中を見てもかなり貴重な回復魔法のエキスパートでのぅ。日本でゆうところの委員会みたいな組織に縛られないように連盟にのみ身を寄せて、悪意に侵された人々を救うために色んな国を転々としている魔法少女なのじゃ。ワシもお世話になったことがあるみたいじゃし、腕前はお墨付きじゃのぅ?」
「へー。国境なき医師団みたいな感じなのかな?格好いいね」
悪意に侵された人々を救う為に沢山の国を渡り歩くなんて簡単に決断をできるようなものでもないし、それを実行するのなど尚更だ。
真に尊敬をされるべきはこの子なんじゃないだろうか。
「えへへー、ありがとうございますー。だから、ブラックローズさんも誰かに縛られることがないように活動しているみたいで、勝手にシンパシーを感じてるんですー」
「僕がしているのはそんなに偉い考えがあってのことじゃないんだけどね」
「そんなことはありませんよー。人助けの方法は、人によって様々ですのでー。どっちが偉いとか、そんなものはございませんー。それに、わたくしがしていることはわがままみたいなものですのでー。あまり褒められたものではありませんよー」
なんてしっかりとした考えを持っている子なのだろうか。子供の頃の僕自身に見せてやりたい。
しかしながらどう取り繕ったとしても、好き勝手やりたいという思いからくる自由と、沢山の人を救いたいという思いからくる自由では、比較するのもおこがましいレベルの格差があるだろう。そもそも連盟にすら所属してない時点で、彼女とは立場も違うし。
「そーれーよーりーもー。同じ年ごろの魔法少女同士、わたくしもお二方の集まりに混ぜてくださいー。便利ですよー?お得ですよー?お役立ちですよー?」
「まぁ、ヒーラーはパーティにも必須じゃからな。特別にワシらのパーティに入れてやってもよいぞ?」
「なんでカエデちゃんがそれを決めるのかな?そもそも、僕と君も別にパーティなんて関係性じゃないでしょ」
あと、みんな僕の事を見た目や身長で年齢を判断しているようだが、変身すればどちらも多少は変動する子だっているのは知っているし、アテにはならないぞ。
・・・・・・言動や性格で判断されているとは考えないものとする。
「硬い事をゆうでない。パーティーメンバーを徐々に増やしていくのは、冒険の楽しみの一つじゃろうて。一番の下っ端としてこきつかってやるから覚悟するがよい」
「1年程前はもっと大人しくて可愛い子だったはずなのに、いつの間にかこーんなに生意気な子になってしまってまして、おねーさんは残念ですー」
「何を言うか。この中じゃと一番ワシがお姉さんじゃろうて」
「いやいや、それは異議があるよ。どう考えても僕が一番のお姉さんでしょ」
誰が一番お姉さんであるのかという不毛な争いをやいのやいのと3人で騒いでいると、親子での話し合いを終えたらしい前方座席に座る紅姫から、呆れたような表情を向けられる。なんだ、参戦したいのか?
「高校生である自分が一番お姉さんとでも言いたげだね?」
「んなことちっとも思ってねぇよ・・・。女三人寄れば姦しいとはよく言うが、ガキ共が揃うと余計やかましくて敵わねぇな、って思ってよ」
「ちょっと?僕をこの子達と一緒にするのは辞めてよ。これでも僕は立派なレディなんだから」
身長は小さかろうが、スタイルは中々良いと自負しているぞ。可愛い美人という超ハイブリットだぞ。
胸を張って僕の魅力を伝えてみるのだが、呆れた表情は変わる事がなく、むしろ馬鹿にしたように鼻で笑われる。
「何がレディだ。どうせ五十歩百歩だろうが」
「そうやって決めつけるのはよくないよ!」
「悔しかったら変身解除でもして証明するこったな。あと、そろそろ家に着くから準備しておけよ」
それだけ言うと、紅姫は助手席内に頭を引っ込めてしまった。
くそぅ。いつかぎゃふんと言わせてやる。
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