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魔法少女のヒーロー  作者: てふてふてふ
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たまにはゆっくり騒ごう

「まさに、世界が動き出したって感じだね。『ワンダラー』や『魔法少女』が確認されて以来の盛り上がりじゃない?」

「もきゅはその時を見てなかったから知らないけど、こんな感じだったっきゅ?」

「いや、その時はもっと悲壮感の方が凄かったかな。『ワンダラー』なんて化け物が現れたっていう事と、それに対抗できる『魔法少女』なんて敵か味方か分からない存在が現れたってことで。まぁ、僕はめっちゃ興奮してたけど」

「それは知ってるっきゅ。今ではそんなヒーローの一人になれて、どんな気分っきゅ?」

「もう、最高!」


 つい先ほど、国が怪物対策省という新たな省庁について正式な声明を出した。

 『ワンダラー』という怪物に対しての研究を進めていること。

 怪物対策省の中に含まれる魔法少女委員会という組織があること。

 魔法少女は人類の味方であり、国に所属していること。

 そして、普通の女の子が魔法少女として突然選ばれる事。


 いままで噂でしかなかったような隠し事が大々的に報道され、そしてそれは、我が国だけでなく世界中で示し合わせたように行われた。

 エンプレスから事前に聞いていたのだが、連盟が行う亡命した魔法少女の受け入れや保護態勢を、各国が了承するまでは勝手な真似はストップさせていたらしく、最後には力をチラつかせて無理やり承諾させた事により世界で足並みを揃えさせることが出来たらしい。

 中々恐ろしい子だという反面、魔法少女達にとっては不当な扱いをされる心配が減るので、とても力強い存在なんだと改めて認識することができた。

 まぁ、そうやって世界で大きく魔法少女の事が知られた後に行われているのが、目の前に映っている映像群だ。


「どのチャンネルに変えても魔法少女の事で一色だよ!どれ見るか迷っちゃうね!」

「アプリで全チャンネル録画できるデッキを買うっきゅ!後で全部見返すっきゅ!」

「その手があった!急げ急げ!」


 各報道機関が今まで温めてきた魔法少女達の雄姿や、国がイメージアップの為に率先して行っているだろう特集など、ほぼ全てのチャンネルで魔法少女に関連する事が映っている。

 政府がどんな方針をとっていくかを解説しているもの、魔法少女が今までどんなことをして人類を守ってきたかと熱弁しているもの、とにかく魔法少女の雄姿を流しているもの。

 共通しているのは、どれもネガティブな部分をかなり控えめにして伝えており、とにかく魔法少女は人類の味方であるということを強調している所だろう。


 魔法少女による副災害とでも言えばよいのだろうか、『ワンダラー』を討伐するためによる攻撃などで被害を受ける建物などは少なくないのだが、報道されているのを聞く限りだと『ワンダラーによって』を強調したり、『やむを得ず』等のかなり濁した表現をしている。まぁ、多分どれも政府の手が入っているのだろう。

 『ワンダラー』の討伐は人類の死活問題にも繋がるだろうし、日本では僕を合わせてちょうど20人とのことなので、1人欠けるだけでも相当な痛手となるのが簡単に読み取れる。

 そういった点から、あまりネガティブな報道をされてしまうと魔法少女達の心身的負担にもなるだろうし、協力を拒まれてしまうのは絶対に避けたい所だろう。

 とはいえ、『ワンダラー』の被害よりも魔法少女による被害の方が大きくなれば当然それは問題になってしまうし、危ういバランスを保たなければいけない中、お偉いさん達はとにかく大変な思いをして調整してきてそうだ。めちゃくちゃ疲れてそうだった飯田五郎という中年の姿を思い出しながら、心の中で合掌する。

 しかし、そうなると魔法少女の絶対数が少ない国の中からは、その魔法少女を英雄のように囃し立てるところも現れるかもしれないな。まぁ、実際に英雄なのは間違ってはいないので羨ましい限りだと思う反面、責任やプレッシャーが恐ろしく掛かることが予想されるので、僕は遠慮するけど。

 ここまで世界中で大きく魔法少女の事が報道されれば、アイリスのように魔法少女を人体実験しようとする国みたいなのはこれ以上出てこないと信じたいのだが、悪はどこにでもいるものだから結局は願望でしかない。



「せっかくだし、お酒でも飲んじゃおうかなー!」

「もきゅもお酒欲しいっきゅ!ところで、ローズがお酒を飲むとこ初めて見るっきゅ。飲めるっきゅ?」

「いや、正直あんま飲めない。でも、こういう時くらいしか飲む機会ないしね。お高そうなのでも取り寄せちゃおうかなー」


 こんなにめでたい日なのだから、盛り上がるためにもお酒を飲んでみるのもいいだろう。

 アプリを開いて酒類に絞り込み、目ぼしい物を物色していく。下は当然1ポイントなのだが、上ともなると100000ポイント台のものもあり、あまりにもピンキリすぎる世界に眩暈がしてくる。誰がこんなの飲むんだ。


「ねぇもきゅ。10億円超えてるやつもあるんだけど、おいしいのかな?」

「やめておくといいっきゅ。高い物は確かに深みがあったり、香りが強かったりとかはあるけど、少なくとも初心者のローズにおススメするものじゃないっきゅ。ボトルの値段を含めてそこまで高くなってるものもあるけど、初心者のローズにとっては高ければおいしいってものじゃないっきゅ。飲みなれてないなら果実酒あたりにしておくのが無難っきゅ」


 そうは言われても、いままでアプリで買ったものは高ければ取り合えず味が保証されていたので、飲みやすいのを選んだ方がいいと言われても困る。まぁ、こういうのは分かる人に任せた方がうまくいく事は経験上分かっているので、その方針に逆らわないのが一番丸いだろう。

 お酒を今か今かと楽しみにしているまんじゅうに、弄っていた携帯を放り投げる。


「僕にはそこらへんわかんないから、もきゅが選んでよ」

「まかせるっきゅ。もきゅ達の作ったおいしいお酒を選んであげるっきゅ」

「妖精ってお酒も作ってるの?」

「作れそうなものは好奇心趣くままに大体作ってるっきゅ。でも、深く考えずに作ってる物ばっかだから、妖精産の食べ物・飲み物は基本的に避けた方がいいっきゅ。最悪、その品を二度と見たくなくなる可能性があるっきゅ」


 そもそも味覚は一緒なのかと思ったが、普段僕と同じものをおいしそうに飲み食いしてるから大きく変わるはないはずなので、そのもきゅがそこまでいうのなら相当だろう。というか、妖精産の物は軒並み高額とはいえ他の魔法少女が買う可能性だってあるんだから、そんな地雷を置きっぱなしにしないで欲しい。子供泣くぞ。


「評価項目をきちんと見ればある程度は回避できるっきゅ。でも、ジョークアイテムみたいな物は高評価になってる事もあるから、多分判断が付かないっきゅ」

「やっぱ妖精って奴ロクでもないな」


 地雷を除去した上で安心してるところに罠があるとか、どう考えても殺しに来てるとしか思えない。

 どうしてそんな酷いことが出来るのだろうか。


「人間だって同じようなことしてるからどこも変わらないっきゅ。はい、注文したから飲んでみるといいっきゅ。もきゅはこっちのを飲むっきゅ」


 もきゅが、アプリから購入して出現させた2本のボトル瓶の内、鮮やかな青色の液体が入った四角いボトル瓶を選んでこちらへ渡してくる。生まれて初めて見る青いお酒は、澄み通った海のような輝きで、まるで宝石のように光を返してくる。


「綺麗な青色だね。なんてお酒なの、これ」

「ブルーサファイアって名前のお酒っきゅ」

「おぉぅ・・・。確かにぴったりな名前だけど、サファイアかー・・・」


 名前を告げられた瞬間、目の前のお酒が堅苦しく真面目な物に見えてきたから言霊というのは侮れない。


「いい加減サファイアには慣れるっきゅ。それに、どんな名前だろうとお酒はお酒っきゅ。品種改良を重ねに重ねた果物で作ってるから、味は保証するっきゅ」

「まぁ、そうだよね。おいしく頂かないと損だよね。それで、もきゅのそれはなんなの?見た目はウイスキーとかそんな感じに見えるけど」


 もきゅが抱えるお酒は、僕の物と比べると非常にシンプルなデザインの上、色もよく見るようなごくごく普通のお酒に見える。


「これは魔法で色んなお酒を混ぜて圧縮したオリジナルのお酒っきゅ。見た目の奇抜さはないけど、ローズが飲んだら一瞬でダウンできるくらいにはキツいお酒っきゅ」

「もうそれただのアルコールじゃない?」

「圧縮を重ねてアルコール度数は100%を軽く超えてるっきゅ」

「100%超えるってどんな概念なんだ。最早アルコールじゃないよねそれ」


 そんなもの飲んだら、一瞬でダウンどころか死ぬんじゃないかな。


「ちなみにもきゅのは大体800ポイントくらいっきゅ。高いお酒は混ぜるのには向かないから意外と安価っきゅ」

「800万円が安価なのは僕には理解できないんだけど。この青いのはどれくらいの値段なの?」

「そっちは5000ポイントくらいっきゅ」

「たっか・・・。えぇ・・・。高いお酒はオススメしないって言ってなかった・・・?」

「高い中でも飲みやすい物を選んだから問題ないっきゅ。フルーツジュースみたいなものっきゅ」


 そりゃ、アルコール100%超えとかエタノールもびっくりの物を飲んでるまんじゅうからすれば、大体のお酒はジュースみたいなもんだろうよ。

 もきゅのお酒に対する評価に疑念を抱きながらも、せっかく買ったのだから飲まないわけにはいかない。

 コップに青い液体を注ぎ込み、もきゅと乾杯を交わしてからゆっくりと飲み込む。


「あれ。ほんとにジュースみたいだ」

「だからそういったっきゅ」


 予想していたようなアルコール特有の焼けるような感覚はせず、澄み透った見た目通りに非常に飲みやすく甘いお酒だった。

 これくらいなら一気飲みも簡単にできてしまいそうだが、流石にお酒であることは間違いないので、ゆっくりと少しずつ口に含んで楽しむことにする。


「おいしいねー。いくらでも飲めちゃいそうだよ。果物みたいな味するけど、これなんのお酒なの?」

「青林檎128号っていう果物を使ったお酒っきゅ。林檎って名前は付いているけど、最早原型はないからまったく別物と思って欲しいっきゅ」


 まぁ確かに、林檎と言われればもしかしたらそうかもしれないといった味がしないことはないが、こんなに青いリンゴジュースなんて見たこともない。


「青林檎128号って・・・。もうすこしまともな名前ないの?」

「まだ完成品じゃなくて改良中だからないっきゅ。128号って名前を聞いてもらって分かる通り、妖精達は自分のやりたい事をとことんやり続けるせいで、何十年掛けた今でも改良を続けてるっきゅ。まぁ、各々がそうやって好き勝手にしたいことを続けてるせいで、エネルギー不足とかも頻繁に発生してたっきゅ」

「そこまで続ける根気は凄いとは思うけど、いくらなんでもやりすぎだよね。まぁ、これに関してはおいしいからいいんだけど」


 コップに入ったお酒をちびちびと飲みながら、まだまだ続くお祭り騒ぎをもきゅと二人で楽しむ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 酔って魔法使うフラグは立ちそうにないか
[一言] 見た目未成年なのにお酒を飲んだら怒られるよW 他の魔法少女にW
[一言] この二人はほんと仲良いね。
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