先に困難があるのなら、遠回り
魔法少女学校と繋がる扉のある特区。開発区が出来た時からあるにも関わらず、名前しか聞いたことのない一般には封鎖されているその地区に足を踏み入れた時、目の前に現れたのは想像していたSFチックな景色ではなく、恐ろしく厳重な警備だった。
警察官のような人が複数名いるだけじゃなく、戦争でもしているのかと見間違う程ガッシリとした装備をしている人も見える。
確かに、魔法少女学校なんて不思議空間へ行き来できるメインゲートの警備は、最重要といっても過言ではないくらいの代物だろうが、突然目の前に武装した人が現れるのはびっくりするのでやめて頂きたい。
キラキラ輝くファンタジーの世界に今まで浸かっていた分、現実世界の鈍色感に酔いそうだ。
開発区という『ワンダラー』に対抗する為に作られた場所の中心なのだから、もっと魔法と科学が合わさった世界を想像していたのだが、そんな気配は欠片も見えない。
ゲートは室内に作られているので――ゲートが先にあって後から建物で囲んだのかもしれないが、外の景色がどうなっているかはまだ不明だが、少なくとも、そのゲート以外に魔法的要素は一切見つからない。
まぁ、魔法を解析するのはかなり長い時間が掛かるともきゅもいっていたし、人類が利用するにはまだ早すぎるのだろう。
警備の人たちに案内され見送られながら建物の外へ出ると、落胆した心を少しは癒してくれる、ガラス張りの高層ビルが沢山並んでいる場所へと出た。
綺麗に並んだビル群によって遮られた太陽の光の代わりに、沢山の灯りが設置された道路は、近未来的要素を多少は感じることが出来たので良しとしよう。
「そういえば、特区にも『ワンダラー』って出るの?どういった所に出るかとかよく分かってないんだけど」
「でるよー。でも、特区に出てきた『ワンダラー』は、すぐ討伐されちゃうんだ。出現するちょっと前に予兆があるし、ここは魔法少女が集まる場所でもあるからね。あと、『ワンダラー』は人が多い場所とか、悪意が集まる場所に出現しやすいって言われてるよ。だから、国によってはこういった開発区みたいな人の集まる場所をいくつか作って、『ワンダラー』の出やすい場所を制限してるみたいだよ」
「確かに、メインゲートのある特区に『ワンダラー』が出ても、魔法少女達がすぐ出動しそうだね。それに、『ワンダラー』が出やすい地域が分かってれば、魔法少女の絶対数が少なくても対処しやすそうだね」
「日本でも、人の集まりやすい場所をもっと固めるみたいだよ。魔法少女が全部で何人いるかはわたしも知らないんだけど、今の状態だと全然対処しきれないんだって」
人の少ない地方での『ワンダラー』被害は聞いたりしているが、流石に都心を守らないわけにはいかないのだろう。現状ではそういった地方は後回しにせざるを得ない。
だが人が集まる場所を作れば、『ワンダラー』も出現しやすくなり、魔法少女も常駐しやすくなる。
対処に失敗した場合被害は大きくなるだろうが、魔法少女複数人で『ワンダラー』に当たれると考えれば、守る範囲を絞った方がいいのかもしれない。
「でもそうなると、みんなに協力してもらうためにも、魔法少女がどういった存在なのかとか公表することになりそうだねー」
「うん。もうしばらくしたら、委員会の事とか大々的に発表するみたい。でも、最近だと警察の人たちともお仕事してるし、結構みんな知ってるかも?」
「噂程度なら魔法少女の事は色々知ってたけど、どれが嘘でどれが真実かなんて、僕達一般人には分かんないよ。正式に国から発表されれば、魔法少女は正義の味方でありながら普通の女の子だって分かってもらえるだろうから、きっと今よりも魔法少女の存在は身近になるかもね」
「えへへ。もっとみんなに応援して貰えるといいなぁー」
「この先を進めば駅に出られるよ。わたしはまだ、お仕事が残ってるからここまでしか見送れないけど、大丈夫?おうちに帰れる?」
「いや、流石にこの歳になって駅の使い方が分からないなんてことないよ。僕は成人してるんだからね?」
「あはは。それじゃ、またね!」
クォーツに手を引かれるまま特区を歩いて地下へ続く階段を進むと、そのまま駅まで直通する通路を案内された。
どうやら表からそのまま出ると、たまに特区の中が気になる人に絡まれることがあるらしく、普段から出入りをしている人以外はこの通路を使うらしい。
案内をしてくれるのはいいのだが、いつまで僕を子供扱いしているのだろうか。
多分、最初に歳下だと思って接していたのでそのままの扱いでいるのだろう。第一印象はとても大事だという事を分かりやすく教えてくれる。
きっと直してもらえないんだろうなという諦めの心がありながらも、せめてもの抵抗として彼女へ一応の訂正をするのだが、笑いながらスルーされる。意外と強かだなこの子。
笑顔で手を振りながら去っていくクォーツに、最早届いているかも不明だがこちらも手を振り返しながら、諦めの境地で道を進んで駅まで向かう。
「もきゅ。僕ってそんなに大人に見えない?」
「前から言ってるけど、もきゅからしたらローズは子供っきゅ。見た目も中身も」
「見た目はもう理解してるけど、そんなに子供っぽいかなぁー・・・」
もっと大人っぽい格好をすべきなのだろうか。確かに、今の格好はどちらかと言えば子供っぽいかもしれないが、とはいえ、大人の女性の格好は何が相応しいかなんて僕が知るわけもなく。
服を買いに行った時も、自分に似合う格好を選んでいたら大体は可愛い服で埋まってしまったし。ガーネットのように、ドレスワンピースみたいなセクシーな恰好をすれば、もう少し大人として見られるのかもしれないな。
中身に関してはどうしようもないので保留としよう。
結論から言えば、電車賃も子供料金で踏み倒すことが出来そうだ。いや、切符は貰ってるし、そもそもそんなことしないけどね。
「それよりローズ、本当に行くつもりっきゅ?情報を集めるなんて言ったって、どうするつもりっきゅ?」
「正直そっちは二の次かなー。ほら、敵の基地に潜入するのってヒーローっぽいじゃん?」
しばらく歩いて関係者以外立ち入り禁止の扉を開けば、そのまま特区前の駅に着いたわけだが、僕はこのまま素直に帰宅する予定はない。せっかく魔法少女学校がどういったものか確認できたわけだし、自前のゲートを使って潜入しようと思っているのだ。
とはいえ、もきゅにも言った通り、情報収集というよりどちらかと言えば遊びに行く感じだ。
ローズの姿で色々観察していたわけだが、正直あれだけじゃ物足りないし、もっと魔法少女がどんなことをしているのかを知りたい。
それに、あれだけ広い学校なら、僕が勝手に秘密基地を作ってしまっても気づかれないだろうという下心もある。
アプリを使えば新しいゲートを繋げることもできるみたいだし、第二の秘密基地としてはちょうどいいだろう。秘密基地は何個あってもいいものだしね。
「魔法少女学校は敵地じゃないっきゅ。元々の目的は情報収集なんだから、大人しくサファイアの用意したルートを使えばいいっきゅ」
「嫌だよ!あの子の僕を見る目を君は知らないのかい?『いい歳した正義の味方が遊んでばかりいて』って目をしてるんだよ?きっと彼女は、僕を招待してもお小言をチクチクと刺してくるんだ」
「被害妄想が過ぎるっきゅ。サファイアを苦手にしているのはもうわかったっきゅ」
サファイアが悪いわけじゃないのだが、僕みたいに自由勝手にやっている身からすると、あそこまで真面目な子を見ていると後ろめたさが先に来てしまう。
罠があるなんて考えているわけではないが、ちょっとした嫌味は言われるだろうと考えると、進んでその道を行こうという決心はつかない。
「母親に怒られることを恐れる子供みたいっきゅ」
「違う!これは戦術的撤退だ!敷かれたレールになど乗らないぞという意思表明だ!」
「せっかくサファイアが気を遣ってくれたのに、申し訳ないと思わないっきゅ?」
「うぐっ・・・。仕方ないじゃん。あの子怖いんだから・・・」
彼女はなんでいつも不機嫌そうに睨んでくるのさ。
そりゃまぁ確かに、委員会的にはルールを守らない不良かもしれないけど、悪いことは何もしてないんだよ。
それに、ヒーローは時にはルールを破ることだって大事なはずだ。
「そうだろう、もきゅ?」
「野良の魔法少女でいて欲しいと頼んだ手前、もきゅも共犯だから何も言えないけど、ローズはサファイアに謝った方がいいっきゅ。サファイアが可哀そうっきゅ」
「僕を裏切るのか!」
電話をしている振りをしてもきゅと会話しながら、魔法少女学校へのポータブルゲートを開くために人気のない場所を探す。
しかしながら、駅というだけあって人の往来が非常に多く、人気のない場所など簡単に見つからなかったので、仕方なく適当なお店に入って個室トイレを勝手に借りることにする。
「よし、それじゃ行こうか」
「まぁ、もきゅももう少し見て回りたかったしもう何も言わないっきゅ」
変身をして携帯を開き、クォーツがやっていたように操作をする。
携帯で操作しなくても願えばゲートを開くこともできるようだが、確実性のある方を選択する。
目の前にあるトイレの扉に携帯を向ければ、魔法少女学校までのゲートの出来上がり。
クォーツが作り上げたゲートは木製の扉だったが、僕が作り上げたゲートは秘密基地に繋げた時と同じ、黄金で出来たようなド派手な扉だった。
どうやら個人ごとに扉の種類が違うみたいだ。
「成金趣味と思われたら嫌だなぁ」
「現時点でも億万長者みたいなものっきゅ。それより早くいくっきゅ」
「はいはい。ちゃんと掴まっててね」
意外とノリ気なもきゅの身体を抱き込みながら取っ手を掴んで扉を開き、蜃気楼のように揺らめく魔法の世界へ足を踏み入れる。
「ふっふっふ。見なよもきゅ。誰も僕の事を怪しいと思ってないよ」
「まぁ、これだけ魔法少女が行き来してれば、ブラックローズの容姿で待ったを掛けられることはないと思うっきゅ。でも、仮に野良の魔法少女じゃない証明をしろって言われたときはどうするつもりっきゅ?」
「ここに来るのは初めてですって言えば大丈夫でしょ」
「適当すぎるっきゅ・・・」
やって参りました、魔法少女学校のエントランス。
クォーツに連れていかれた時と同様に、魔法少女達が集まるおっきな扉の前へと出てきた。
当然ではあるのだが、色んな魔法少女達がいる中に混ざっても僕の事を気にするような人はいない。木を隠すなら森の中というわけだ。
僕の予想が立証された訳なので、あとは『インビジブル』でも使うなりして堂々と見学しよう。
「ま、魔王・・・!」
「ん・・・?」
気のせいでなければ、何やら不名誉な称号が、横から僕に向けられて発せられたのだが。
人違いか、もしくは僕に向けられた声じゃないかもしれないのだが、取り合えず気になるので声のしたほうを振り向くと、そこにはかぼちゃのピンバッチを付けたとんがり帽子を被り、黒いローブを羽織り、オレンジ色の髪をした、ハロウィンの魔女みたいな恰好の子が、こちらを指さしてワナワナと震えていた。
どう考えても、自称勇者のカエデちゃんだった。
僕の完璧な作戦は終わりを告げた。
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