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魔法少女のヒーロー  作者: てふてふてふ
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上書きセーブは慎重にやりましょう

「ごめんっきゅ!騙すつもりはあんまりなかったっきゅ!ただちょっと言葉足らずだっただけだっきゅ!だから耳を引っ張るのをやめてっきゅ!!」


 様々な感情と状況に冷静ではいられないまま、とりあえずは帰宅せねばと自宅へと戻る。

 両耳を掴みながら引っ張ってきたまんじゅうを机に降ろすと、頭の上から握りしめ力を徐々にいれていく。


「どういうことか説明してください」


 自分の口から今まで聞き続けたものとは違う音色が聞こえ顔をしかめる。

 外から見ればまったく違和感がないのだろうが、慣れ親しんだ身体の要素が一切見つからない現状はまるで借り物の器に魂だけ入り込んだかのような気分だ。


「説明もなにも言葉通り君を魔法少女へと『生まれ変わらせた』だけっきゅ。身体能力もアップ!魔法だって使えちゃう!素敵なヒーローって頭はそんなに押し込めれないっきゅうううう!!!頭蓋骨割れちゃうっきゅうううううぅ!!??」


 このまんじゅうに頭蓋骨なんてあるのか知らないが、とりあえず壊さない程度に軽く握りしめる。

 聞きたいことはは色々あるけど一番大事なところから聞いていこう。力を徐々に込めながら。


「この姿はなんなの?どうして女の子になってるの?」

「それは仕方ないことっきゅ。魔法少女には当然、女の子しかなれないっきゅ。だけど君くらいの適正と素質があればその程度の改変はお茶の子さいさいだったっきゅ!今日から君は魔法少女『ブラックローずああああぁぁ!?!?耳を持って振り回すはやめるっきゅうううぅぅぅ!?!?」

「僕は!ヒーローに!なりたかったんだ!魔法少女じゃない!」


 力の込めてまんじゅうを振り回すと恐ろしいくらいの速度と風切り音が鳴る。本当に僕は超人的な力を手に入れてしまったようで、複雑な気分になる。


「魔法少女だってヒーローだっきゅ!それに・・・」

「・・・・・・?それに、なに?」

「君はそれでも、ヒーローになりたくなかったと思っているっきゅ?もきゅは知っているっきゅ。君がどれだけヒーローに憧れているか、魔法少女が現れたときに自分では決してなれない存在だとどれだけ絶望していたか」

「うっ・・・」


 思わずたじろいでしまう。

 得に恥ずべきことではないはずだが、まるで隠してた黒歴史の本を見つけられたような気分だ。


「男のままじゃ、ダメなのか・・・?」

「できないっきゅ。もきゅ達の与える力は女の子にしか扱えないっきゅ。男のままで扱えるものじゃないっきゅ。」

「そう、か・・・」


 いくばくか落ち着いた頭で考える。どういう理屈かわからないができないというのであれば仕方ないのだろう。魔法なんて理屈を欠片も理解できていないものに、一体どのような適正が必要かなんて知る由もないのだから。それに、このまんじゅうの言う通りだ。僕は恥も外聞も捨て去ってでも、ヒーローになりたかったのだから。それがたとえ魔法少女に変身するという結果になったとしても・・・・・・納得のいかない部分は多々あるが仕方ないと飲み込めるだけの利はある。


「分かった。納得するよ。僕は魔法少女になる」

「ほんとっきゅ!?」


 日常的には一般人を、変身すれば別の存在に。

 ヒーロー物の醍醐味だと思えば悪くないと思う。

 男から女になるのは少し特殊だが、いや、むしろ身バレの心配がないだけ良いのではないだろうか。

 自分の願いが少々違いながらも叶ったことでポジティブに物事を考えられる。


「うん。たしかにヒーローになるのに形振り構っていられないからね」

「それを聞いて安心したっきゅ!一時はどうなることかとおもったけどこれで万事解決っきゅ!」

「僕を選んでくれてありがとう。そしてごめんね。引っ張ったりして」

「問題ないっきゅ。別の生き物同士だとすれ違うことなんて多々あるっきゅ。それでも言葉が通じるのなら分かり合えるものっきゅ!それより、自己紹介をしてなかったっきゅ!」


 改まって姿勢を正しながらまんじゅうがこちらを見て言う。


「もきゅの名前はもきゅっきゅ。今日から君、魔法少女ブラックローズをサポートする妖精っきゅ。末永くよろしくお願いするっきゅ!」


 伸ばされた手を握りながら軽く上下に振る。

 これで今日から僕はヒーローだ。

 魔法少女ブラックローズとして新たな一歩を踏み出していくんだ。

 

 明るい未来が開けてく幸福を噛みしめながら、ふと大事なことを聞くのを忘れていたことを思い出す。


「そういえば変身解除ってどうやるの?」

「簡単っきゅ。変身を解除したいと願うだけでできるっきゅ」


 まだまだ聞きたいことはたくさんあるけどとりあえず元の身体に戻っておこう。

 僕が変身解除を心の中で願うと、身体が光に包まれる。

 光が消えたあとにはフリフリの服やリボンやアクセサリが消え、見慣れた服へと戻る。


 女の子の身体のままで。


 僕はまんじゅうを机に叩きつけた。






 Q,御社のプログラムで女性体になった場合、戻ることはできますか?

 A,できません。そのままの身体をお楽しみください。

 (何かを叩きつける音と悲鳴)


 Q,他の魔法少女に同じ境遇の方はいますか?

 A,いません。魔法少女はみんな女の子です。

 (何かが振り回される音と悲鳴)


 Q,この契約は破棄することはできますか?

 A,できません。そのままの生活をお楽しみください。

 (何かが壊れる音と悲鳴)




「どういうことさ!?」


 あまりのことに思わず暴れたせいで、並べられていた本棚は倒れ中身が崩れ、目の前にあった木製の机は力加減を間違えてしまい真っ二つにへし折れている。

 かなり柔らかいものを叩きつけたのにも関わらず、簡単にこの惨状が産まれてしまった。

 綺麗に整頓していたはずの部屋が、ほんの少しの時間で片付けのできない汚部屋のようになってしまい後始末に頭が痛くなるが、そんなことよりもやらねばならぬことがある。

 床に転がっている本や木片に埋もれたまんじゅうを引っ張り出すと、残像が残るくらい上下にシェイクしながら問い詰める。


「女の子のままってどういうさあああ!!」

「やめるっきゅううぅぅぅ!!身体の中身がでちゃうっきゅうううぅ!!!」


 魔法少女としての力を遺憾なく発揮し無限のスタミナがあるかのように速度を一切緩めない様は、敵対する悪には容赦をしない正義の権化とも言えるだろう。

 目の前の邪悪をこれからどう料理すべきか思案していると、口だけは達者な詐欺師が言い訳を始める。


「し、仕方ないっきゅ!魔法少女は女の子しかなれないっきゅ!それを覆すには一時的じゃなく恒久的な改変が必要不可欠だったっきゅ!!」

「それを先に言ええええぇ!!」


 縦に横にとよく伸びるまんじゅうを、まるで餅をこねるかのように引っ張る。


「どうするんだよ!僕は一生このままか!?家族になんて説明すればいいんだよ!女の子になっちゃいましたなんていったら今度こそ頭がおかしくなったって思われるぞ!!」


 いまではもう家族との交流はあまりないが、かといって縁が切れたというわけでもない。突然連絡が来ることもあるだろうし、この先一生帰省しないなんて言いきれない。それにアルバイトだってあるし仕事をしなければ明日からの生活をどうすればいいんだという問題だってある。そもそも戸籍とかどうするんだ。現代日本で戸籍なしなんて笑いごとじゃないし、突然女の子になっちゃったんですって言い訳して誰が信じるというのだろう。欠片も原型残ってないし。

 しわくちゃとなったまんじゅうを投げ捨てて、あまりにジェットコースターすぎる自身の人生に絶望する。


「僕はこの先どうやって生きていけばいいんだ!」

「まぁ落ち着くっきゅ。そこらへんもちゃんと考えて調整したっきゅ。何も問題は起きてないはずっきゅ」


 投げ飛ばしたはずのまんじゅうが何事もなかったかのように目の前まで帰ってくる。なんだこいつ無敵か?


「これが落ち着いていられるか!問題しかないよ!」

「よく聞くっきゅ。きちんと君の今の身分は書き替えることに成功してるっきゅ。君は産まれた時から女の子だし、その身分も保証されてるっきゅ」


 いつの間にか持ち出された僕の財布から運転免許証を取り出し渡してくる。

 そこには本来あったはずの男の姿や自分の名前はなく、今現在の姿である可愛い少女が微笑んでいる写真と、ローズという名前が書かれていた。


「え、なにこれ・・・偽造?」

「偽造じゃないっきゅ、改変っきゅ!魔法で君が産まれてから現在に至るまでの記録をすべて女の子に書き換えたっきゅ!これでまったく問題がないっきゅ!」


 意味が分からない。

 魔法で改変?産まれた時から女の子?

 非常識を求めていたのは確かだが、ここまで意味不明で理不尽なものを求めていた覚えはない。

 そういわれると確かに何か違和感がある・・・。


 部屋を見渡す。

 見た目は慣れ親しんだはずの何の変哲もない部屋だ。

 だが、おかしい。僕は化粧台なんて置いた覚えはないし化粧品なんて使うわけがない。

 それに、明らかに男物が少ない、というよりまったくといっていいほど見当たらない。

 ということはまさか・・・。嫌な予感がしてタンスの引き出しを開ける。

 もちろんそこには男物の衣類など一切なく、可愛らしい女物の下着が揃えられていた。

 

 僕は考えるのを辞めた。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 僕と契約して魔法少女になってよ!(TS) 契約書を読まないから…仕方ないね
[良い点] 実に魔法的でワクワクしました。
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