閑話 もきゅの嫌がらせ
時系列はデパート前です。閑話としてますが後で多分差し込みます
「ローズ。携帯を寄越すっきゅ」
「ん?どったの?」
数日前に妖精がこの世界から去り、置き去りにされたことで泣いていたもきゅだが、翌朝にはもう吹っ切れており、今では普段通りの生活を一緒にしていた。
色々な愚痴を聞かされ、特に「妖精」なんて可愛らしい表現が今後できないくらいの悪魔的な裏事情も聞かされたが、こちらからどうアプローチをすることもできないし、『ワンダラー』誕生の秘密と同じように墓まで持っていくつもりである。
最早未練はないとばかりに妖精達の秘密を盛大に暴露してすっきりしていたもきゅだが、今日は起きてから突然、何かを思い出したかのようにタブレットをいそいそと叩き始めた。何をしているのかまったくわからなかったが、作業が終わったのか一息ついた後に、唐突に携帯を渡すように要求してくる。
何故要求されているのかもわからないが、まずは言われた通りに携帯を、その小さな手に乗せてあげる。
「はい、どうぞ」
「ちがうっきゅ!魔法の携帯の方に決まってるっきゅ!」
タッチパネル式の元から持っている携帯を渡してあげると、憤慨して携帯をこちらに投げ返してくる。ちょっとしたお茶目なのに危ないなぁ。
怒って飛び跳ねるまんじゅうに、大人しく折り畳みの携帯を渡すと、今度はひったくるように取り上げられる。
「冗談だって。それで、何するつもりなの?」
「っきゅ。あいつらにちょっとした嫌がらせをしてやるっきゅ」
「あいつらって?」
「もきゅを捨ててった妖精共っきゅ。あいつらとはもう縁を切った他人だけど、やられっぱなしは性に合わないっきゅ。どうせなら嫌がらせをして憂さ晴らししてやるっきゅ」
いつになく張り切っている白いまんじゅうは、魔法の携帯とタブレットを繋ぎ合わせ、そしてまた手をぺちぺちとタブレットに叩き始める。
まぁ、落とし前は大事だろう。
話を聞いた限りだと、もきゅが故郷に帰れなくなった理由は、もきゅが人類サイドに肩を持ち過ぎた結果、邪魔に思った妖精達から排斥される形となったようなのだ。そんな事情を知っているのだから、人類サイドの僕としてはもきゅの味方をするべきだろう。
とはいえ、妖精サイドと人間サイドでは技術力にかなりの差――どこまで差があるのかすら計り知れない程、があるため、本格的な喧嘩になった場合『ワンダラー』の比じゃなく世界がやばいので、程々に抑えて欲しい。
まぁ、妖精達も人類がいなくなった場合、自分たちの食事や便利なエネルギーである悪意を収集することすらできなくなってしまうので、滅ぼすなんて選択肢は取らないだろうが、『ワンダラー』のように人類の養殖という形を取ることも厭わなさそうだ。少なくとももきゅから聞く妖精像はそんな感じだ。
どんな嫌がらせをするのかとワクワクして待っていたら、しばらくした後に携帯電話をこちらに放り投げてきた。だから投げるなといっとるのに。
「っきゅ。アプリを改造してやったっきゅ。これで色んな機能が自由に使えるようになったっきゅ」
「ふーん。アプリの機能ってストアくらいしか使ってないからよく分からないんだけど、どんな嫌がらせになるの?」
たくさんの機能があるのは知っているのだが、正直色々ありすぎて分からないからストアを使うだけに留めている。魔石収集ランキングとか魔法少女SNSとか僕が活用することはないだろうし、魔法少女学校の情報も乗っているが僕は通ってもいない。無駄機能が多すぎるのだ。
「っきゅ。ローズは何度か携帯に魔石を入れたことがあると思うっきゅ」
「あるね。というより、討伐した『ワンダラー』から出た魔石は全部突っ込んでるよ」
お金にもなるし、正直そのまま持っていても使い道なんて分かるわけない。
魔法少女委員会ならその使い道を研究している可能性もあるが、僕個人がそんな高度なことできるわけもなく。
「魔石を入れるとポイントに変換できて、そのポイントでストアの物を購入したりできるって説明したっきゅ」
「されたねー。1ポイント1万円くらいで340ポイント一気に入った時は驚いたよ」
「っきゅ。まずはあのストアの仕組みの話をするっきゅ。実は、ストアにあるものは大体その魔石から新しく産み出したものっきゅ。魔石のエネルギーを携帯で回収して、その一部をポイントとして与えて、そのポイントで欲しいものを選ぶと魔法によって産み出される。基本的な流れはこんな感じっきゅ」
「あれってホントに魔法で作り出してたんだ。ポンッと現れたから魔法で宅配してるのかと思った」
というか魔法を使えばストアの物は大体産み出せるのか。魔石一個でどれだけの物が産み出せるんだ・・・。
「ポイントとして返還されるエネルギーは一部だから、その残りがどこへ行くかというと妖精達が使うエネルギーとしてほとんど持ってかれてるっきゅ。大体8割から9割くらいは差し引きされてるはずっきゅ」
「かなりぼったくられてるねそれ。それとも、魔石のエネルギー量に驚いた方がいいのかな?」
「悪意のエネルギーは、『ワンダラー』なんて怪物を産み出してでももきゅ達妖精が求めていた物っきゅ。そんな『ワンダラー』が集めて結晶化した魔石のエネルギーが、たかだか数百万円程度の価値で収まるわけないっきゅ。妖精達がストアを出しているのは、魔法少女達に魔石を集めてもらって回収して、そのエネルギーで好き勝手研究したいからっきゅ。魔法少女達のサポートに飽きて帰ったなんて理由も、この回収したエネルギーがかなり多くなって研究に使える幅が広がったからだと思うっきゅ」
「はぇー・・・魔石って凄いんだね」
「なんだかあんまり理解して貰えてない気がするけど凄いものっきゅ。まぁ、何が言いたいかというと、ローズが今まで入れていた魔石も妖精が回収をしているし、貰ってるポイントも1割から2割くらいだったって話っきゅ」
「自分で活用できるものじゃないから理解は難しいなぁ。そもそもお金になる石程度にしか思ってなかったし、僕にはその数百万程度が大金でしかないし」
敵を倒した。ドロップアイテムが出てきた。売ったらこれは君の年収を超えます。
魔石はそんなイメージだ。それが貰ってたのが1割から2割だよなんて言われてもよく分からんし。
「まぁいいっきゅ。とにかく言いたいのは、あいつらの研究の為にわざわざ魔石を渡して、中抜きされたエネルギーを使うなんて腹立たしいってことっきゅ。それならいっそ魔石なんて渡さないほうがいいっきゅ」
「魔石を渡さない方針ならそれでもいいんだけど、これからストアは使えなくなるっていうことなのかな?魔石を入れないとポイントにならないし」
「きゅっきゅっきゅ。そこはもきゅの腕の見せ所っきゅ」
なんだその笑い声は。洗剤のコマーシャルにでも出演するつもりか。
ストアは結構便利だからこれからも活用していきたいんだけど、もきゅはどうするつもりなんだろう。
「さっきもきゅがアプリを改造したっていったっきゅ」
「色んな機能が自由に使えるようにしたって言ってたね。結局よくわからないけど」
「っきゅ。その自由に使える、というのは文字通り自由っきゅ。いままで制限されていたものだって解放したし、必要なものだって全て不要にしてやったっきゅ」
「つまり、どういうこと?」
「分かりやすい例を出すなら、ストアの商品は無料でどれも買い放題っきゅ」
今日から貴女はこのお店の物をタダで貰えますよと言われたら、どうするのがベストなのだろうか。
「正直、ヒーローを始めてから金銭感覚が崩壊しすぎて良くない気がしてきた。僕の価値観が壊れたら責任とってよね、もきゅ」
「今更すぎるっきゅ。というかローズがその気になれば魔法で全部解決できちゃうから、お金なんてそもそも必要ないっきゅ。改変するのも自由だから、通貨をいくら作ろうが本物にできるっきゅ」
「犯罪行為の助長は良くないよ。自由にヒーローするからといって社会の敵になるつもりはないんだから」
もきゅからストアの商品が無料になるよう改造したと言われたので、気になっていた超高級アイスを買ってみた。元々のお値段は10ポイントだ。日本円にして10万円、意味が分からない。
しかし、食べてみて分かるがおいしすぎる。フルーツ盛沢山のアイスを選んだのだが、甘すぎないし色んなフルーツがとてもおいしい。飽きない味というのもかなり好みだ。
詰め合わせなので色々な種類はあるのだが、それでも元々10ポイントの事を考えると金銭感覚は容易に崩壊するだろう。
「アイスだけでいいっきゅ?どれもただっきゅよ?」
「こういうのはたまにでいいんだよ。欲しい物は買うけど、欲しくない物をわざわざ買う趣味はないし」
「ローズは庶民的すぎるっきゅ。もっと贅沢をしてる人なんて探せば簡単に見つかるっきゅ」
「僕は庶民的でいいの!これでも庶民に怒られるよ。それよりも、ポイントが必要なくなったってことは魔石の使い道もなくなっちゃったね。それと、妖精達にはバレないのこれ」
「魔石はもきゅが使うこともできるけど、委員会にでも渡すといいっきゅ。研究が進めば、きっと魔石は人類の助けになるはずっきゅ。アプリの改造に関しては、妖精達はエネルギーの供給さえあれば気づくわけないっきゅ。ローズ一人が魔石を入れなくなっても、世界中の魔法少女からいくらでも供給されるから問題ないっきゅ」
「委員会に渡せばいいって言われてもなぁ・・・。サファイアにでもぶん投げるか」
直接委員会に持っていったら何言われるかわからないし、そもそも委員会の場所すら知らなかったや。真面目なサファイアなら、渡せばそのまま研究してるとこまで送られるはずだから任せてしまおう。
アプリはまぁ、バレないならいいか。元々はもきゅの嫌がらせの為だし、もきゅが満足してるならそれでいいだろう。
「そういえば、魔法の本とかもたくさん売ってるっきゅよ?教科書に乗ってない魔法はもちろんのこと、色んな技術に関しての本もあるはずっきゅ」
「それは全部貰おうかな」
前言撤回。貰えるものは貰ってしまおう。
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