第6話 色々知った件
「できましたよ~」
そう言ってフェルさんが出来立てのご飯を持ってきた。
「お~、すごく美味しそうですね。これは何のお肉を使っているんですか?」
僕は雪希の前にご飯を置いているフェルさんに聞いた。
「はいっ!それはこの村の近くに生息している猪のお肉で、私たちはよく食べているのですよ」
フェルさんは嬉しそうに答えた。
「な、なるほど」
僕はフェルさんの勢いに圧倒された。
「ふふっ、ごめんなさいね。いつもご飯は兄と食べるのですが兄はお腹がいっぱいになれば何でもいいと言うものですから少し新鮮で…。それに最近は仕事が忙しいみたいで」
「なるほど、そうでしたか。僕にとって全てが新鮮に感じるので…」
「そういえば、記憶がないって言ってましたものね…。何か聞きたいことがあれば何でも聞いてくださいね!」
う~ん、何かあるかな…。いざそう聞かれると思いつかないものだ。
「この辺りは人を襲う魔物?というか動物はいるんですか?」
ここに来るまで僕はあの森で出会った銀色の狼にしか追いかけられていないし、雪希は廃村にいた時に魔物はいるって言っていたから気になっていたのだ。
「はい、魔物はいますよ。この辺りにも…。」
急にフェルさんの様子が変わった。
もしかして魔物に何かトラウマみたいなものがあるのか?でもあまりそういうことに踏み込まない方がいいよな。
「あ、あー料理が冷めてしまうので早く食べましょうか。他に聞きたいこともあるので食べ終わってからまた話を聞いてもいいですか?」
僕は暗い雰囲気に居た堪れなくなり話題を変えた。
「そうですね…。食べましょうか。雪希ちゃんも食べたそうにしていますしね」
雪希はちゃんと待っていた。まぁ、涎がすごい事になっているが僕たちの雰囲気を察してくれていた。
「はい、それでは、いただきます!」
「♪」
僕が食べようとするとフェルさんが不思議そうにこっちを見ていた。
「あ~、もしかしていただきますのことですか?」
「は、はい、少し気になってしまいまして」
そういえば、いただきますは日本だけの習慣だったっけ?でもなんて説明しよう…。僕は記憶がない設定だからな…。
「え、えっと…な、なぜか言ってしまったんですよね…口が覚えていたと言いますか…」
「…もしかすると子供のころから行っていた習慣だから言ってしまったのかもしれませんね」
「ハハハ、そうかもですね…」
本当にそうなのだから少し困る。
「ごめんなさいね。何度も止めちゃって。食べましょうか!」
「そうですね」
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「ふぅ、とても美味しかったです。ありがとうございました」
「そうですか?それはよかったです!」
雪希も満足そうだ。僕も朝からほとんど何も食べていないようなものだったのでそれも相まって更に美味しく感じた。
「そういえば、テツさんはいつ帰ってくるんですか?」
「いつもは…私が寝ている間に帰ってくるので」
フェルさんは悲しそうにそう言った。
話題を変えなければ…。
「そ、そういえば、食べる前に言っていた聞きたいことを聞いてもいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。私の知っていることであれば何でも」
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それからフェルさんに色々なことを聞いた。ここはどういう世界なのかとかお金のこととか…もちろん魔法のこともね。
やはりここは僕の思っていた通り剣と魔法の世界、いわゆるThe 異世界だったのだ。さっき料理をしていた時にも魔法を使って火を出していたのだそうだ。見たかったな、その瞬間。
やっぱり僕は普通の高校生だから、剣とか魔法とかに憧れはあるものだ。普通あるよね?
ずばりフェルさんに聞いてみた。魔法は僕にでも使えるのか…と。
結果…魔力を持っていたら誰にでも使えるそうだ。僕は別の世界からきたから魔力なんて持ってないと絶望していたが、フェルさん曰く僕にも魔力はあるそうだ。量までは分からないらしいが…。
なら何で僕はあの時使えなかったんだろうか…。魔力量のせいなのか?
フェルさん曰く、魔法を使う時はイメージが大事なんだと言っていた。
なるほど、あの時僕はただ魔法の名前を言っただけにすぎなかったのか…。恥ずかし。
ただ僕、魔力を持っていたのか…。良かった~、僕体力もないし物理で攻撃なんてしていたらあっという間に天国だったよ。まあ、戦う予定があるのかと聞かれればないと答えるが…。
あと、お金について。お金はこの村では使っていないがやはり王都では持っていないと何もできないそうだ。ただ異世界と言えば金貨、銀貨みたいな感じだと思っていたのだが、カードだったのだ。身分証明書と一緒になっていて、元の世界で言う電子マネーのようなものだ。
ただ、身分によってカードの色が違うみたいで、村人であるフェルさんとかは白色である。王族などの貴族は違う色みたいだけどフェルさんは見たことないみたいなので詳しいことは分からなかった。
カードなら、もし誰かが人のカードを盗って使ったらどうなるのか…と気になって聞いてみたら、それは絶対にできないそうだ。本人以外が触ると色が変色し、黒色になるらしい。
そしてそのカードは全ての人が持っているのかと聞いてみたら、持っているのだと。奴隷も持っているそうなのでたいていの人が持っていそうだ。
奴隷とかいるのかやっぱり…。いやだな、そういうの…。
それはいつ手に入れることができるのかと聞くと、いつでも発行でき、1回目は無料、2回目となるとお金が必要になるらしい。
だがカードを持っていないからお金を出せないじゃないかと疑問に思っていると、身分証明書を発行する場所で全てのデータを管理しているそうなのでそこから差し引いて渡されるそうだ。
だから、どこの国に行っても、カードを発行する役所的な場所があるので途中で失くしたとしても大丈夫なんだとか…。
奴隷などはお金を持っているのかと聞いたら、身分によって発行料金が違うみたいでその辺りは心配ないようだ。
そして、どういう風に身分を分けるのかというと、そういう魔法道具があり、そこで判別するそうだ。
異世界っぽいなぁ
カードの説明はこんな感じだった。まあ、もっと詳しい説明は発行した時に教えてもらえるのだそうだ。
そういえば、僕の年齢で発行するのは変かなと思っていると、お金とか必要のない村とかにずっといると僕みたいな人はいるそうだ。
危ないな。もし生まれた時とかに発行するものだったらおかしいもんね僕の存在って…。
お金に関しては、国ごとに単位が違うらしく、この国では リアス を使っているのだそうだ。フェルさんはこの国以外に行ったことがないらしいので詳しいことは分からないらしい。
他の国のことは行ってから調べよう。
国ごとに違うのは大変だと思っていると、そこはカードの発行場所でお金を変えることができるのだと。
まあ、こんなところだ。カードに関して気になる事がありすぎてフェルさんにたくさん聞いてしまった。発行する場所で聞けるはずなのにね。
「ユキトさんは本当に記憶がないのですね…」
「は、はい。本当に分からないことばかりで…」
「もしかすると、王都に行けば何か分かるかもしれないですね」
「そ、そうかもしれないですね」
分かるわけがない…。だって今日、この世界に来たんだから…。
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「そろそろ寝る時間ですね」
「そうですね、今日は歩き疲れてすぐ寝むれそうですよ」
「あっ、着替えは兄のものを使ってください。その服はすごくいいものですよね?」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
服のことはあまり触れてほしくないから何も言わないでおこう。
「あ~、僕はもう寝ますね。雪希も眠たそうにしているので…」
「そうですね、客人用の寝室があるのでそちらで寝てください」
「はい、分かりました」
「zzz」
雪希はもう寝ていた。
「もう寝たのか、それじゃあフェルさん、また明日」
「はい、また明日」
そう言って僕は雪希を連れて客人用の部屋に行った。
「はぁ…今日は疲れたな。すごく濃い1日だったな。僕が異世界か…。全部この手紙から始まったんだよな…」
着替えている最中にポケットから手紙を出した。
「どうしよう…。この手紙…。ずっと持っていたけど帰れそうにな…い…」
着替え終え、横になって手紙を見ていると眠気が急にきて僕は寝てしまった。
ただ手紙は僕の手から離れ床に落ちた。
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