第3話 何かに出会った件
何もないと思っていたこの廃村で何か人影のようなものが見えた。
「…人か?…いや待てよ、こんなところに人なんているわけないよな」
「もしかして何か大切なものを忘れて取りに帰ってきたのか?」
いや、そんなわけないか…、魔物に襲われて帰ってくる人なんて…、そんな危ないことするわけないか。だとしたら…
「嫌な予感がするな。…いや、絶対に最悪な事が起きるな、これは…」
「気づかれないうちに逃げとくか?でも、もし人だったら…。あ~どうしよう、ギリギリまで近づいて確認するか…。…うん、それが1番だな。」
魔物だったら即逃げる、人だったら勝ちだ。天国か地獄か…。今まで地獄だったからもしかするとあるかもしれないな…。いや、ここでまた希望なんて持ったら、フラグが立ってしまう。ここはあえて魔物だと思い込んでいくか?それなら心のダメージも少なくて済むしな。
「よし、魔物だ。あれは魔物だ。魔物なんだ」
そう自分に言い聞かせながら近づいていく。
それにしても酷いな…。こんなこと日本じゃあり得ない…。でも死体らしきものはないから全員逃げ出せたのか?もしそんなもの見たら気絶しそうだけど。だって見たことないし、アニメや漫画でもそういうの苦手だったしね。極力我慢するけど…。やっぱり知らない事って怖いな…。
よしっ!この角を曲がれば正体が分かる。人でありますように、人でありますように。…いや、違う!魔物だ。魔物でありますように。
危ない、危ない。今運が悪いんだから良いことなんて願ったりしたら…旗が立ってしまう。
「もしも~し、魔物さんですか~。なにをしてらっしゃるのです…か…?」
結果的に言うと人ではなかった。なかったのだが…。
「はぁ、こっちか~」
あれ?待てよ…。僕が遠くから見たとき人影のように見えたんだけどな。だから僕は人か異世界ならではのオークとかゴブリンとかだと思ったんだけど…。
「それにしても可愛いなこの狐?みたいな動物」
そう、そこにいたのは狐に似た動物?か魔物だったのだ。しかもすごく白い。
「めちゃくちゃ威嚇してくるんだけど…」
その狐?は僕に対してとても攻撃的だった。…というか何かに怯えているというか、苦しそうだった。
「もしかして怪我でもしているのか?…こんな時こそ良いことして運を良くしないと。よしっ!手当てしてやるか!」
できるか分からないけど…。っとその前にどうにかして警戒心を解かないとどうすることもできないな…。どうしよう…。
「ほ~ら、僕何も持てないよ~。悪い人じゃないよ~。君の怪我を手当てするだけだよ~」
なんか恥ずかしいな。もし元の世界にいた数少ない友達に見られたら…笑われるだろうな…。
しかしその狐?はなかなか警戒心を解いてくれない。
「どうすればいいんだよ…」
こういうとき食べ物とかをあげるんだけど。狐といえば油揚げか?そんなものあるわけないし…。狐っていえば雑食だよな。っていうか狐かどうかもわからないし。とにかく木の実とかでいいのかな…。近くには何もなさそうだし、一先ずこの村を散策してみるか。
「ちょっと待ってろよ…。なにかあるか探してみるから」
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村を見て回るのはいいけど、物とかを持っていくとなると窃盗とかになるのかな?でも誰もいないし、使ってないみたいだから良いのかな?
こういうとき勇者なら人の家に入ってアイテムを持って行ったりするんだけど。僕にそんな度胸ないし、ましてやそういうのってゲームの中の話だし。
「でも今はそんなこと言ってる場合じゃないよな。僕も生きるためには必要な事だし…」
「よしっ!見て回るか!」
まず最優先は食べ物だな。狐?が食べられそうなものを見つけよう。あと靴なんかあれば最高なんだけど…。
「って言ったものの、ほとんど焼けて崩れてるしな…。何かないのか?」
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「おっ、あれは……靴だ!」
今の日本では見たことないけど…皮の靴だろうか?まぁ靴下だけよりはましだろう。
「少し拝借させて頂きます。」
もしこの靴に見覚えのある人に出会ったらちゃんとお礼を言わないとな。たぶんこれ手作りっぽいし。
「んしょっと…ぴったりだ!」
良かった~サイズが合って。よしっ次は食料だ。
ん~なさそうだな。大体の家が崩れていてあったとしても土とかがついていて食べることができないよな…。運よく皿に乗っていて綺麗に保管されている訳ないし。そんなものあったら普通に怖い…。
「ん?よく見てみたら1つだけ崩れていない家があるな…。行ってみようか」
崩れていないだけで食料があるとは思えないけど…。とにかく早く見つけてあの狐?を助けてあげないと。
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「マジかよ…。こんな偶然ってあるのか?奇跡だろこれ…」
そう、崩れていなかった家の中で発見したのだ。狐が好きそうな食べ物…
「油揚げだよ、これ…。なんでこんな綺麗な状態でおいてあるんだ?」
考えてもしょうがないよな…。これがもし油揚げならいけるかもしれないな。そんな保障どこにもないけど…。とりあえず狐?のところに戻ろう。結構な数あることだし、僕の空腹もこれで満たされるだろう。
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「ほ~ら、油揚げだぞ~美味しいぞ~」
まだ少し警戒していて食べてくれないな。
「お、美味しいぞ~」
何に警戒してるんだ?いやでも威嚇もしてこなくなったしチラチラこっちを見てくるな…。
「僕が食べるぞ~チラッ」
今完全にこっち見ていたな。もう少しだ。もう少しで行ける!
「あ~ん、んっ!この油揚げめちゃくちゃ美味しいな。今まで食べたことない味だけど…。これ本当に油揚げか?」
こっちを見ていた狐?がよだれを垂らしながらこっちを見ている。…君怪我しているよね。もう油揚げしか見てないじゃないか。大丈夫か?
「これ食べるか?」
まだ警戒してるな。よしっ!
「ほら、ここに置いておくから食べな」
トコトコトコ
ムシャムシャ
おぉめちゃくちゃ食べてるな。あっ、もう食べ終わった…。こっちを見てるな。
「まだ食べるか?」
ウンウン
頷いてる。言葉を理解してるのか?
「ほら、あとこれだけな」
数枚の油揚げを置こうと思ったらその狐?が全部取っていった。
「おい、全部持っていくなよ…。僕の分が…。」
はあ、しょうがないか。一瞬でなくなったし…とりあえず怪我の手当をしようか。
「よ~し、怪我の手当てをしてもいいか?痛くしないからさ」
おっ、ようやく警戒心を解いてくれたな。
よく見てみたら、その狐?はお腹の辺りを怪我していた。痛そうだ…。
消毒しようにも今何もないし、綺麗な布で止血するか。ちょうど今日まだ使ってないハンカチがあるからそれを巻こう。狐?の大きさもそれほど大きくないし胴体を巻くぐらいの長さはあるだろう。
「少し痛いと思うけど我慢してくれよ…」
ウンウン
やっぱりこの狐?言葉を理解しているな。すごい…これが異世界か…。
ギュッ
「よ~し、できたっ!偉いな我慢できて…」
「コンコン!」
「あははは、ほんと可愛いな君」
………………………ん?待てよ?
「狐って「コンコン」って鳴き声だったっけ?」
たしか狐ってそんな鳴き声じゃなかったような…。聞いたことがある…狐の鳴き声って風のような…。まぁ間違いなくコンコンではなかった。でも異世界だし、目の前にいるこの子が狐じゃない可能性もある。
「う~ん」
そんなことを考えていたらその狐?のようなものが何かソワソワしている。
「君って、狐か?言葉を理解できるようだし…。もしかしてだけど…妖狐的な存在なのか?」
ギクッ
「なんか「ギクッ」って音が聞こえたような気がしたけど」
フルフルッ
「怪しいな…そうやって否定してる感じが」
別に妖狐だろうが狐だろうが僕にはあまり関係のないことだけどな。って言っても妖狐とかなら人化できるっていうのが定番だから何か話せればいいと思うけど…。あくまでこれは僕の想像でしかないからそんなことできるか分からないけどね…。
「まぁ別にいいけどね、狐でも妖狐でも。君は僕の言っていることを理解しているのか?」
その狐がホッとした様子で頷いている。
いや、これ完全に妖狐だろ…。分かりやすいな。
僕は鈍感系主人公ではない。その辺りは分かる。これは自分が妖狐っていうことを隠したいんだなって…。
「っというか、君は1人か?親とかは…。」
フルフルッ
「近くにはいないってことなのか?」
シュンっとした感じで頷いた。
これ以上はあまり聞かない方がいいな。もしかしたら…。
「これから君はどうするんだ?1人なんだろ?」
「コンコンッ」
「いや、そんな「コンコンッ」って言われても…僕には分からないよ?」
ムゥ
「そんな怒った感じを出されても…。普通理解できないよ?」
ポケ〇ンマスターじゃあるまいし…。動物の言葉なんて理解できるはずがないよね?
トコトコトコトコ
「おっ?どうしたんだ?」
その狐が僕にくっついてきた。
「もしかしてついてきたいのか?」
「コンコンッ」
頷いている…。まぁ今までずっと1人だったし仲間が増えることは悪くないか…。
「よしっ!一緒に冒険するか!」
「コンコ~ン♪」
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人がいる村を探しに行こうとした時
「そういえば、君って名前とかあるの?ずっと君って言うのもなんだし…」
フルフルッ
ぎこちなく首を横に振った。
「ないのか?う~ん、それは困ったな…」
っというかあったとしても言葉が分からないし伝えることができないからまだ良かったのか?
「僕がつけてもいいのか?何なら自分で決める?」
「コンコンッ」
その小さい前足で僕を指してきた。
「マジか~。う~ん、君って雌だよな?」
ウンウン
「それじゃあ君の名前は『雪希』だ!」
「コンコンッ♪」
「気に入ってくれたのか?」
僕の名前から1文字をとって…。自分でも思う。いい名前だ…。白い狐だしね。
「そういえば僕の名前、言ってなかったよな。僕の名前は…」
「如月雪兎だ」
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