ステータスオープンッ! ブゥン……!!
某まとめスレかなんかでステータスオープンってなんだよという
内容のスレがあったんで、パッと話が思いつきました
「見つけたぞ!! 逃がすな!!」
家々がそびえ立つ中、街の影というのはどうしても生まれてしまう
肝心なのはそこに住む人間だ、同じ境遇である彼らには群れの象徴を示す為にボスがいた。
そのボスを利用すれば、簡単に下の人間を操る事ができ、大きな包囲網を張る事が出来る。
「(最初はそんな思考など持ち合わせてはいなかっただろうがな……バカにも学習能力はあるもんだ)」
角を曲がると、そこは行き止まりだった。
逃げていた剣士は振り返る
「へっ、もう逃がさないぜ、剣士ロイさんよ」
「(仕方ないな……他の奴等は振り切っただろうし、1人なら余裕で勝てるだろう)」
石畳のように敷かれた道、建物によって生まれた影は暗闇を強調させ、家の壁に背中をつける
男は睨み付けると、剣を身につけた戦士のような格好をした「ロイ」という人物を殺すべく、
一歩一歩追い詰めていた。
なぜロイを殺すのか? それは2人にしかわからない事情があった。
女神が絡んでいれば正しくは3人なのだが、その姿はいつも見えない。
目線を合わせながらナイフのような短剣を抜くと、ゆらりゆらりと身体を左右に揺らしながら近寄るが、
この状況に慣れているのか、落ち着いて戦士は顔に手を当て、目を光らせた。
「ステータスチェック!!」
俺よりレベルは低い……。
ふっ、乗り移る対象を間違えたな、これなら簡単に倒せるだろう。
「逃がしてくれと言ってもダメか?」
「当たり前だろ、お前はここで死ぬ運命なんだよ」
「そうかそれなら仕方ない……行くぞ。ステータスオープンッ!! 長さ200cmx幅15cmx高さ40cmで展開しろッ!!」
ブゥン……!!
空間を裂きながら音がし、ロイが指定したサイズに応じた1枚の板のような画面が現れる
これはロイが発明した、『ステータス』という原子を利用し、ウィンドウと呼ばれる武器を作り上げた。
それが女神の逆鱗に触れたとも知らずに……。
男は突然迫ってくるステータスウィンドウに驚きの表情で立ち尽くすと、
「なに……!!」
ゴォァアアアアアアッ!!
丸太――それは太く、長く伸びた丸太が風を切り裂き男の身体目掛けて一直線へと向かう
一瞬にして男の身体を覆うと、勢いよく家の石壁へと叩きつけた。
ドオオオオオオオオンッ!!
「ぐあああああっ!!」
男は糸が切れた人形のようにがっくりと倒れ、
何か憑き物のようなモノが男の身体から離れた。
「……この街も去り時だな」
ロイは倒れた男に治療魔法をかけると、
次の逃げ場所を目指して夜の街中を歩く……。
彼は追われていた。
この世界を作った女神に、世界を知ろうとする邪魔者だと――。
◇ ◇ ◇
次の街に着いたのは太陽がてっぺんを昇った辺りだった。
まず最初思ったのは土煙が酷く、空気が悪い。
木造で作られた街は自分の身長ぐらいの高さで、
修理する金がないのか、建物の入り口についてある階段の手すりなどが朽ちていた。
「水は……どこだ……」
もう何日も水を口にしていない、水が飲みたい。
このままでは女神に殺される前に、喉が渇いてくたばってしまう、水、ああ水が欲しい。
手持ちの金はないが、とにかく俺は死にたくないという一心で一つの建物の中へ入る。
そこは街の飲み屋だった、カウンターのような場所に店主がグラスを磨いており、
その数席には怪しそうな男達が笑い話など交えていた。
「すまない、水を一つくれないか?」
カウンターに立っていた店主はグラスを置くと、手で追い払うようにロイを振り払う
唇はパサパサになっていた、手段など選んではいられなかったのだろう。
「ステータス、オープンッ……! 長さ40cmx幅10cmx高さ10cmで展開しろ……!!」
ブゥン……!!
棒状に伸びたステータスウィンドウを店主に突きつけるロイ
「な、兄ちゃんなんだそりゃ……!!」
「ステータスウィンドウだ……!! 早くしてくれ……水を……!!」
この男は目的の為なら本気で俺を殺す、店主はそう直感した。
根負けしたようにわかったと言って武器を納めるようにロイに言って水一杯を差し出すと、
ステータスウィンドウを閉じて大人しく席に座ったグビクビとロイは飲み始めた。
「ふぅ……ありがとう」
「あんた、旅してんのか?」
「ああ、食料が満たされたらすぐにこの街を出て行く、すまなかったな」
こんな説明をしても誰も理解してくれないが、世界が再構成されたある日から俺はある女神に追われている
街から街へ逃げる日々、一体いつ終わるのかと不安になった日もあった。
だが俺は誰かを犠牲にしてでも生き伸びたい、生きる事でこの世界が神によるワガママによって作られたモノなのだと、証明をしたい。
数あるテーブルの中、1人の青髪の男が立ち上がった。
ロイの隣へ座ると、空のコップを置いて店主にもう一つコップを要求した。
「よっ、俺はカムル、さっきのってステータスウィンドウか?」
ロイは驚いた表情で彼を見た。
「お前……ステータスウィンドウを知っているのか?」
「ああ、夢かどうかわからないんだけどな、ある日そんなモノを振り回してあんたみたいな格好をした人と殺し合いをした気がするんだ」
女神が過去に乗り移った男か……。
可哀想に、こいつもまた俺達の殺し合いに巻き込まれてしまった1人だったのか。
青髪の男は「カムル」と名乗り、空のコップに酒を注ぐと、
「俺のおごりだ、飲みなよ」
すまないと一言ロイは言って一口飲む、
どうやらカムルは先程のステータスウィンドウの話に興味を持ったようで、礼を返すようにロイは説明を始めた。
「女神というのは俺を追う悪魔みたいな存在だ、ステータスという原子が生まれたのは知っているか?」
「いや、知らないな」
「俺がその原子を解明し、さらには魔法の技術を使って実態化させたステータスウィンドウというのを作り上げたんだ、それからが悲劇の始まりさ」
「悲劇?」
カムルが尋ねると、話すのに抵抗があるのか、俯いた様子でしばらく悩んでいた。
コップを再度手に取っては喉に入れ、ふぅーと呼吸音一つしてから、
「……ああ、あれは悲劇だ。俺は昔研究者をしていて――」
「見つけたぞ、神に逆らう哀れな剣士ロイよ」
1人の男が建物に入ってくる。
荒野の地を歩くのが相応しいようなカウボーイハット、
そしてポンチョのような格好を身にまとい、
振り向いたカムルとロイを見て、
「ここで殺し合うには……場所が悪いな」
「女神……刺客か、名は?」
「ヤーヴェンだ、それが俺の名前」
カウンター席から立ち上がるとステータスチェックを行うロイ
Lv7278……俺と同格の力を持った男か。
「なかなかいい素体を見つけたじゃないか」
「ああ……、この街の外れに森がある。そこで殺し合おうじゃないか、いや……神であると証明する儀式か」
馬鹿な言葉だと思ったロイはクスリと笑い
建物の外に立っているヤーヴェンという男に近寄る
「相変わらず自己顕示欲の強い奴だ、そんなに1人の作った技術を恐れているのか? ……言っておくが俺の作ったステータスウィンドウはお前のようなアホには一生攻略する事は出来ないぞ。何故なら俺は天才科学者でもある、お前のステータス、世界をも作り替える力をいずれ手に入れてやろう。だが俺も鬼ではない、一つチャンスをやろう、俺と戦いたく無ければ――」
「おいおい口上が長いな、怖いのか?」
ヤーヴェンも負けじと自信を持った表情で返事をした。
本当なのか真実なのかはわからないが、黙り込むロイ。
「……」
お互い会話が無くなると、ロイの後ろに続くようにヤーヴェンは店を出た。
「ま、待ってくれよ2人とも!!」
話の続きが気になったのか、2人を追いかけるカムル
店主は困惑した表情でロイが飲み干した空のコップを再度磨くと、
「ステータスウィンドウってなんなんだよ……」
◇ ◇ ◇
光が遮られるほど密集した雑木林、よく鼻を利かせれば草の臭いで満ちあふれてしまうほど
草は膝ぐらいまで生い茂っていた、当然ここには人の通る道など無い。
普段から人通りが無いのだろう、ここなら存分に暴れられるとロイは確信した。
対峙した状態でお互いが今か今かとチャンスを窺っていた。
――言葉など既に不要だった。
ロイが振り向いたその瞬間、ここで戦うのだとヤーヴェンも理解する。
2人は同時に口を開いた。
「ステータスオープン!! 長さ200cmx幅15cmx高さ40cmで展開しろッ!!」
「ステータスオープン!! 長さ200cmx幅15cmx高さ40cmで展開しろ!!」
ブゥン……!!
ブゥン……!!
「行くぞ!!」
棒状のステータスウィンドウを持つロイがまずヤーヴェンに向かって駆ける
「はああああああッ!!」
ヤーヴェンの身体を真っ二つにするようにステータスウィンドウを振ると
それを防ぐようにステータスウィンドウを振り回し、お互いの武器がぶつかり合った。
ブゥン……!!
「くっ!!」
力強い攻撃をしたロイは一歩さらに詰め寄って再度振り回す
ブゥン……!!
「はああっ!!」
さらに前へ、ヤーヴェンを追い詰める。
ブゥン……!!
「うおおっ!!」
ブゥン……!!
ロイの剣圧が凄かったのか、衝撃によってステータスウィンドウを手から落としてしまい。
舌打ちするヤーヴェン、同時に背中に壁のような感触があった。
振り返ると立っていた木に当たった事をヤーヴェンは理解し、前を向くと、
「終わりだ!!」
トドメの一撃と言わんばかりにロイはステータスウィンドウを振るう
「クククッ、これで勝ったと本気で思っているのか?」
「!?」
突然、地面から丸太のように伸びたステータスウィンドウがロイを襲った。
対応が出来ず顎にヒットし、大きくよろめいてすぐに正面を見る
そこにヤーヴェンの姿は見えなかった。
「愚か者め! 上だ!!」
「なっ……!!」
「神から、いや、天からの一撃を受けろ」
「聖なる一撃に慈悲はない(スターライトシューティング)」
ブゥン……!!
ブゥン……!!
ブゥン……!!
ブゥン……!!
ブゥン……!!
ブゥン……!!
「ぐああああああああああっ!!!!!!!!」
槍のように振ってきたステータスウィンドウがロイを襲った。
服が破け切り傷が数ヶ所、為す術なく攻撃を受け、その場に倒れ込んでしまう。
中から出血した血が、滝を登る鯉のように口まで上がってくる。
ペッと1回吐き出すと、綺麗に着地したヤーヴェンを憎むように見つめた
「くっ……ステータスの消去からの再出現か……!!」
ステータスウィンドウを出しては消し、
また出しては消すというロイが思いついた技の一つ、
それを女神は学習したのだろう、身体能力の高いヤーヴェンという身体を使って実現させたのだ。
「そうだ、これも全部お前から学ばせてもらったよ」
「猿真似か……芸のない奴だ。俺なら一度使った技は使わない、品がないからな。もしそのような同じ技を思いついたのなら、それを使って応用するぐらいの知能をお前のような世界を身勝手に作る女神より持ち合わせてい――」
「もういい、すぐその減らず口も無くしてやる、さらばだロイよ」
棒状のステータスウィンドウを強く握るとヤーヴェンは振り上げた。
ピリピリと張り詰めた空気の中、一瞬のスキを突くようにロイは口を開きながら、
手に持っていたステータスウィンドウを閉じ、
「それはどうかな……ステータスオープンッ!! 高速展開しろッ!!」
「なんだと!?」
ブゥン……!!
どこからか唐突に素早く伸びたステータスウィンドウ。
ロイを突き飛ばすように当たるとヤーヴェンとの距離が開き、
「(高速展開だと……? こいつ、まだ技を!!)」
ゴロゴロと転がっては立ち上がるロイ
もう一度消去し、リポップさせステータスウィンドウを握った。
「ロイィィイ!!」
ブゥン……!!
ブゥン……!!
ヤーヴェンがステータスウィンドウを取り出すと、
走りながら2人はお互いのステータスウィンドウを激突させる。
ガキィン!! ブゥン……!! ガキィン!! ブゥゥゥゥンン……!! ガキィィィイイン!!
両者の力は互角、このままではラチが空かないと判断したヤーヴェンはウィンドウを再編成させる
「ステータスオープン!! 長さ10cmx幅600cmxたかしゃ!!」
「(しまった!! 指定ミス!!)」
サイズ指定ミス、なぜロイはそのままのサイズで変更をしなかったのか
それはヤーヴェンのサイズの指定ミスを誘っていた。
惜しくも高さを噛んでしまい、平面の板が出来上がったヤーヴェンステータスウィンドウ。
「しかしそれはお前とて一緒だろう!! そのサイズじゃ俺を吹き飛ばす事しか――」
勝利を確信したのか、ロイはニヤリと微笑んだ。
「やっぱお前馬鹿だよな……俺が何の為に口上を長く話していたんだ? よく考えてみろ」
「なに――!?」
「舌の歯車、次からは温めておけよ」
あの長かった口上、その本当の意味をヤーヴェンは理解する。
余計な語りと誰もが思っていた、しかしそれはロイにとっての舌慣らしであった。
「ロイィイイイッッッッッ!!!」
「ステータスオープン!! 長さ限界x幅限界x高さ限界で全力展開しろッ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン……!!
ドォォォォォォォォォォォオオオオオオンンンッ!!
それはとても大きく、伸びきっていた。
木より高いステータスウィンドウだった。
ヤーヴェンは押しつぶされるようにロイのステータスウィンドウに飛ばされる。
それはロイも同じで、木はメキメキと地面と同じように潰され、
連鎖し続けたまま轟音は弾け、音が止まると2人の姿が見えないほど大量の土煙が空気中を漂う……。
◇ ◇ ◇
数本の木がなぎ倒され、辺りはロイとヤーヴェンの2人だけが地面に倒れていた。
「んっ……」
目覚めたロイが立ち上がると、糸だけで動かしているかのようにヤーヴェンは立ち上がる。
「まさか限界までステータスオープンするとはな……ロイ・レグナスよ」
本当の姿を見せたかのようにヤーヴェン、いや女神は目を開け、狂気の笑みを浮かべた。
ロイが女神本人だと確信したのは理由がある、まず声が違っていた、ヤーヴェンの身体から女性の声が発せられていた。
彼女こそがロイを苦しめる元凶であり、この馬鹿げた世界を作り替えた女神
ロイは睨むように女神に向かって、
「……黙れ、いつかお前をどうやって殺すかを解明してやる」
「せいぜい無駄に足掻いてみせよ、人の子よ――」
そう言うとヤーヴェンは糸が切れた人形のように足から崩れ落ちる
まるでスッと魂が抜けたようにガクリと首を傾けると、ロイは素早く治療魔法を行った。
治療が間に合ったのか、ヤーヴェンの呼吸音を耳で聞くとホッとひと安心し、
「(神を殺す手段……人間の俺が思いつくだろうか?)」
ウィンドウを閉じたロイはその場から立ち去ろうと歩を進めたが、
「おーい、待ってくれよー!!」
「(カムル? どうしてここに?)」
ロイを見つけては息を切らし、汗を拭いながらカムルは、
「音がしたからさ……ここかなって思ったらよかった。アタリだったわ……」
「何の用だ?」
「飯、おごるからさ、話の続きを聞かせてくれよ!!」
「ダメだ、また女神を逃したんだ、お前にも被害が及ぶ!」
グゥウウ……。
腹の音が鳴った、くそ、酒だけではなく食料も腹に入れておくべきだったか……。
カムルは街の方向を指差して再度俺を誘う、先程の戦いで女神も力を使ったはずだ。
しばらくは誰かに乗り移らないと思うが……どうする?
グゥウウウ……。
「ほら! 早く行こうぜ!!」
仕方ない、言葉に甘えるとしよう。
俺は走りかけていたカムルを呼び止める
「待て、ステータスウィンドウで飛んだ方が早い」
「え? ……っておい、なんだそりゃ?」
座り込んで手を後ろに構えながらカムルに背中を見せるロイ
それはおんぶのような姿勢だった、突然の行動に困惑しながらカムルはロイの背中に捕まる
「振り落とされるなよ」
「ステータス……オープンッ!! 長さ20cmx幅20cmx高さ40cmで高速展開しろッ!!」
ブゥン……!!
「うわああああっ!!」
カムルは驚いた声をあげ、ロケットのように2人は上空へ舞った……。
「たっけー!!」
喜ぶカムルを見て、ロイは機嫌を良くしたのか、
さらに高く舞おうと、ステータスウィンドウをリポップさせた
「ふっ、さらに加速させるぞ!!」
ブゥン……!!
ブゥン……!!
「うっひょおおおおおー!!」
神と人、ステータスの原子を巡って世界をも巻き込んだ戦いは、
これからも続いていく――。
ステータスオープンッ! ブゥン……!!――完。