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多分それは、罪悪感かな。

 いつもの朝。


 私のアラームが煩く鳴って目が覚める。隣の、あなたもついでに目が覚める。もぞもぞ寝返りを打った後に短く唸って、顔をくしゃくしゃにさせていた。

 薄目を開いたあなたに、唐突に口走る。


「明さんと、セックスする夢見た」


 夢の輪郭はもうおぼろげだったけど、断片的に思い出すだけでもなんだか幸せな気分だった。


「欲求不満ちゃんやもんな」


 もたついた口調で、かすれかけの声がする。


「そうなんかな」

「うん」


 じんわり左側から伝わる体温を感じて、思わず笑みが溢れる。今日は目覚めがいいな、と直感した。

 ふと、また始まる微かな寝息に気がつく。起こして悪かったなと少しだけ気にしながら、隣に釣られるように布団を被り直して目を閉じた。


 暫くして、またアラームが鳴って、私だけ先に起き出した。慌ただしく準備を進める中、着替えていると今度は彼の携帯のアラームが聞こえる。止めても、時間が経てば何度かスヌーズで鳴り始め、また止めらる。

 メイクをしている頃にようやく、開ききってない目を擦りながらも彼はトイレに向かって起き出す。


「おはよー」

「おはよー……」


 化粧する私のお尻を普段通り撫でて通りながら、洗面所の向かいにあるトイレに滑り込んだ。

 トイレから出てくると横に並び、水だけでびじゃびじゃと雑に顔を洗う。


「どう? 風邪は治った?」


 タオルでゴシゴシ顔を擦っている彼に問う。


「んー……。どうやろねぇ、わからん」


 喉が痛いし、体がしんどいから風邪かもしれない、と言っていたので昨日の晩から風邪薬を渡していた。

 声に覇気がなく小さい、私は昨日のこともあって顔色を慎重に伺った。


 見ると、感情の色がまるでない虚ろな表情だった。はっきりとしない浮かない視線を泳がせていて、きちんとこちらを見ない。

 様子が気になったものの、化粧を終えた私はファンデーションのケースをパチンと閉じて定位置に戻す。


「じゃ、行ってきまーす」

「はーい、行ってらっしゃい」


 速足で階段を下りながら、私は昨日、明さんに「悪いこと」をしたんだ。と、ふと頭の中で振り返った。



――昨日のことだ。


「私は、浮気性だからね。だからね、しっかり明さんの事を確認しとかないとね。明さんの事こんなに好きなのにね、目移りしちゃうのが怖いからさ」


 後ろから抱きつたまま遠回しに、好きな人が出来そうになっていることを伝えたのだった。


「甘えんぼさん……」


 回した腕を彼は撫でた。曖昧過ぎて意図は伝わっていないようだった。正直、これ以上どう踏み込んで伝えたらいいか私はわからなかった。

 明さんの香りを目一杯吸い込み、髪の毛や首に頭を埋めた。


「……私。明さんが好きなのにね。それなのにね」

「……ん?」

「気になる人が出来そうで、嫌なの」

「……」

「だから、こうして明さんの香りをいっぱい感じて。肌の感触とか、全部覚えとかないと。明さんが一番大事で大好きな人なんだって、覚えとかないと。他に目移りしそうで怖いんだ……」


 沈黙後、彼がこちらを向いた。それで私をきつく抱く。


「好き……」


 普段は頼まなくても喋ってばかりのなのに、言葉はそれだけだった。

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