missing5.カイタイヤ
「ラーメン出来たぞぉー!」
階段の下から呼びかけたら、ガタンッという音が鳴ったと思えば「バンッガチャンッダダダダッドンッ」という擬音だらけな行動を和樹は取る。
因みにだが、ガタンッで転び、バンッで勢い良くドアを開け、ガチャンッでドアを閉めたら、ダダダダッと階段を降り、エプロン姿の俺にドンッとぶつかってきた。
そそっかしすぎて心配だ。
「お前、ラーメンだけでそんな騒いで、いつかしょーもない事でしくじって消される……なんて感じにならないか?」
「……大丈夫、プロだから。」
客観的に見ると俺を押し倒した状態の和樹は、ぼさぼさ頭でヨレヨレのTシャツを着ている。
俺が寝ている間に風呂に入っているみたいだが、洗濯をしているかは不明。
「分かった。じゃあプロさん、そろそろどいてくれないか? いくら俺が180㎝でも、177㎝の男が上に乗ってると重いんだ。」
「……ああ。」
のそっと起き上がる姿は、まるで寝ぼけた熊の様。
ふと、のびっぱなしの前髪の隙間から、ブルーライト浴びまくりなはずなのに視力が両目2.0な瞳が見えた。
生まれた時から知り合いなので、顔をみるだけで何を考えているかが分かったり。
和樹は今、何か迷っている。
「チャーシュー、ある?」
「煮卵で我慢してくれ。」
渋々だが、和樹は頷いてくれた。
「ゴッキュゴッキュゴッキュ……ゲホッゴホ。」
「おいおい、スープ飲むのは良いんだが、もう少し落ち着いて食えよ。」
俺のラーメンが半分になった時、向いのラーメン皿はすっかり麺と具が無く、スープも10秒程で飲み切ってしまう。
「……おかわり。」
「ねぇよ、この大早食い。」
「ちっ。」
「舌打ちしても無いもんは無い。」
ズルルルッと麺を啜って、後は和樹を無視だ。
いつまでもねだり続けるから。
「……葉波。」
「ブバフォッ!!」
「……鼻から麺。」
「ガハッゴッ……今、何て言った?」
鼻から麺が垂れている、そんな事はどうだっていい。
俺の聞き間違いでなければ……。
「葉波。」
間違えていなかったらしい。
「葉波がどうした……もしかして、俺がラーメン作ってる間に何か……。」
和樹が縦に首を振る。
「何があった!?」
「五月蠅い。教える……から、おやつはアップル……パイで。」
作るさ!
葉波の情報掴んだってんだら、アップルパイと苺パイとついでにチーズケーキだって作っから!!
「……ここ、カーテン……閉め…て。」
「分かった。」
リビングのカーテンを閉めると、和樹は自分のズボンのポケットから特注したスマホを取り出し、25桁のパスワード入力・指紋認証・虹彩認証・30桁のパスワード入力を済ませる。
このパスワードは俺すらも知らないので、和樹のスマホ・もっと厳重に守られているパソコンには、想像がつかない程の情報が入っているのだろう。
「一郎、スマホ。」
「えっ。」
その瞬間、プルルル……と俺のスマホが鳴り出す。
かけてきたのは、勿論和樹。
カーテンを閉めさせておいて、やはり直接話すのは無理らしい。
俺もスマホを取り出す……が、これもまた和樹が手に入れた特注性で、和樹程ではないものの市販スマホとは比べ物にもならない厳重なパスワード入力をする。
「……もしもし。」
『一郎、山並病院に張り付いている奴……《蜘蛛》から新たな連絡が入った。どうやら《夜会》と《田井》が関わっているらしい。』
「夜会と田井……。」
『ああ、二人の実の父親はこの家に良く出入りしているぞ。週一で夜中に盗聴器検査をしてくれている。』
マジかよ……全然知らなかった……。
『話を戻すが、夜会と田井は双子の解体屋だ。山並病院が良く使っている。』
「あれ……あの病院、工事なんてしてたか?」
『そうじゃない、人間専門の……だ。』
それは、そーゆー事だよな?
『もう分かるだろう、臓器売買だ。まあ、そんなどこにでもある話どうだっていい。兎に角本題に入るぞ。』
解体屋、臓器売買、葉波に関係があるのか?
本題に入る前から、俺の心臓は何かにギュッと捕まれている。
『蜘蛛の話だと、ここ一カ月以内に山並病院で16歳の解体は二度行われたらしい。性別と詳しい事は分からないが、一人は夜会、もう一人は田井がした。蜘蛛が同業者から直接貰う情報は高くて、俺は払いたくない……。』
いやいや、何か俺に払えと言われている気がするが……。
一応バイトはしてても、それは小遣い位にしかならないし、生活費だよりにしてる親の遺産を使うのは流石に計画性がない。
「一応聞くが、いくらだ?」
『安くても〇〇万~。』
一カ月余裕で暮らせるな。
『情報によっては〇〇〇万は下らない。』
……出せなくはない……いや、でも……。
「よし、払うかr……。」
『だから、直接手に入れる。』
俺の言葉は遮られた。
それでも、かなり凄い事を言った気がする。
『夜会と田井から、直接聞く。蜘蛛から渡ってくる情報だと、蜘蛛が二人に払った金まで俺が払う事になる。それなら、直接手に入れる方が安く済む。』
目の前で平然と言ってのけるが、人間を解体する奴らと直接会うって言ってるんだよな?
カーテンの隙間から入る日差しを受けてか、和樹の目はキラキラと輝いている様にも見える。
「お前、興奮してる?」
『勿論、前々から会いたいと思ってたからな。可能なら、俺の仕事に協力を頼める仲になりたい。一郎、俺が半分払うからお前は半分だけ払え。』
これは、だいぶお得になった……という事でいいんだな?
「分かった、ありがとう。」
『……これは俺の勘だが。』
少し間を開けて、和樹は再び口を開く。
「なんだ?」
『葉波の件は、かなりヤバい。』
……和樹の勘は良く当たる。
今まで、それで助けられた事も何度かあるのだ。
しかし、今回だけは……当たるなと願った。
「じゃあ、切るからな。」
『まて………………俺は、この勘を……話すか迷っていた。』
少しトーンの下がった声が、全身に鳥肌を立たせる。
『心の準備……しとけ。』