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初恋行方不明  作者: アヤ
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missing4.某有名アニメ映画

「家に泊まらせてください!」


深夜12時過ぎ、私はキャバクラの裏口から1~2歳の子供を抱えて出て来た美人のキャストさんに頭を下げた。


「はぁ? あんたみたいな子供、泊まらせる理由なんてないわ。」


茶髪のキャストさんは、綺麗な顔をしかめて勿論断る。

細く白い腕の中で眠る子供が、ほんの少し顔を歪めたけれど、私は引き下がらない。


「あなたの家に泊まりたいんです!!」


「えっ、何ストーカー? 子供を相手した事はないんだけど……。」


「お願いしますっ!!」


「っ……どっかの映画みたく頼んでも無理だからー!!」


「ひっ、ひぐぅっ……えぇぇーんっ!」


「あっ、子供が泣いちゃったじゃない! 静かにしてよね!!」


「家に泊まらせてください!」


「まだ言うの!!?」


「ぐぇええぇぇぇーん!!」


「子守りなら出来ますので!!」


さて、私が夜の街で夜中に大声を出しているのか……ことの始まりは、数時間前に遡る。






「えっ、君未成年だよね? どうしたの? 困ってるのなら、お兄さんの所に来る?」


いかにも高級そうな看板もあれば、ギラギラとネオンを輝かせる看板もある奇妙な街。

まだ夜は始まったばかりとは言え、人通りは多いと思う。

そして、雰囲気イケメンにもなれていないホスト……かどうかは分からないけれど、世間一般的にチャラいと言われるであろう男や、世間一般的におっさんと呼ばれる……おっさんに声をかけられまくる。

未成年を夜に捕まえ様とするのは、見守り隊と警察で十分でしょうに。


「……消えろ屑が。」


「んー、厳しいね!! でもさぁ、そんなイイ体してここをうろつくのは危ないんだからさ~、ね? 何枚欲しいの?」


心底嫌悪を込めたまなざしを向けてもちっとも怯まないのは、度胸があるからなのか羞恥心を持たないからか。

ただ、私が知る限り……この町の夜の街は法律が存在しないらしい。

家庭環境上、情報は入ってくるからこちらには奥の手がある。


「殺させてくれるのならいいけど。」


そう言って、リュックサックの側面ポケットから取り出したのは、鋭く尖ったナイフ。

ここには警察がいない。完全な無法地帯。

銃刀法違反カモン精神に乗っ取り、リンゴや梨の皮むきに使っていた果物ナイフの側面で、お兄さんの腹をぺちぺち叩いた。


「この街にいる未成年の女の子が、町にいる子とは違うって分からないの?」


私が徐々に胸元へナイフを移動させているのに、横を通り過ぎる人達は何も気にしない。

来たのは初めだからか、この無視を褒めたくなってしまう。


「どうするお兄さん、ん?」


ナイフの先で胸ポケットを少し切った所で、お兄さんは猛ダッシュで逃げて行った。






「……みたいな事が沢山あり、疲れたのであなたの家に泊めてください。」


「だぁーかぁーらぁー、子供が泣いてんの!! 見て分かるでしょ!?」


「家に泊めてください!!」


「無理無理! だいたいね、話を聞く限りあんためっちゃ怖いよ!? そんな子を泊められる訳が……。」


キャストさん……お姉さんは、ゆっくりと私から離れようとした。

お姉さんの面影がある子供は、顔を真っ赤にしてないている。

もう、こうするしかない!……そう思った私は、泣きじゃくる子供をお姉さんの腕から自分へと優しく移す。

不思議とお姉さんは抵抗しなかった。


「あぁぁあっく、ひぇぇぇ……。」


「良い子ね、お休みなさい。」


微笑みながら声をかけると、子供はすぐに目を閉じて眠り始めた。

その様子をお姉さんは黙って見守ってくれる。


「……はい、眠りましたよ。」


眠った事で力が抜け、重くなった小さな体をお姉さんに返す。

そこでお姉さんは目を見開き、穏やかな寝息をたてる我が子に目をやりつつ。


「ど……どうやったの?」


「いいえ、とくには何も。とある学校の保育科一年生だから……かもしれませんね。」


嘘だ、全くの嘘だ。

保育の経験なんて、元気だった頃にあった職業体験で幼稚園に行った時くらい。

この子を眠りにつかせられたのは、()()()()()だから。


「お姉さん、あなたの家に泊めてください。住み込みの家政婦として。なんでもしますから……!」


身軽に……いや、鞄を二つぶら下げているのでまだ楽ではないけれど、リュックサックのファスナーが閉まっている事を願いつつ頭を下げた。

お姉さんが声を出すまで、頭は上げないつもりで。

数秒か、十数秒程経った時、お姉さんは高くも低くもない、大きくないのに良く聞こえる声を出す。


「……何故かしら、あなたはとっても怪しいのに、怪しいって分かっているのに、安心してしまっているの。」


「……お姉さん。」


私は頭を上げ、足を踏み入れた時とは比べ物にならないくらいに静かな夜の街で、一際輝く女性を目の前に動けなくなる。


「必死なその姿が、昔の私を見ているみたいで……。」


お姉さんは先程までとは全く違う、何かを思い出している様な儚さを感じさせられる顔つきになっていて。

どうやらこの人を選んだ自分の勘は、かなり……いや、とっても信じて正解みたい。


「あなた、名前は?」


首を傾げながら聞かれたら、私の体はONのスイッチを押されたロボットみたいに動いた。


「私の名前は葉波です。葉っぱの葉に、さんずいの波で葉波。」


「そう……ここから近い所に車を停めてあるの。それに乗って、私の部屋があるマンションに行くから。」


名前だけ聞いて、後は何も聞かれなかった。

家族の事も、住んでる場所の事も、学歴も、年齢も、フルネームすら聞いてこなかった。



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