missing3.探す
『急にどうした……。』
「葉波について知ってる事ないかっ!!?」
『うるせー。俺は知らないぞ。……あっ、お前もしかしてあの噂を気にしてんのか?』
「……まあ、な。」
『噂は噂だ。』
「ああ、だけど……。」
『分かった分かった、葉波の事を知ってそうな奴らに聞いてみるよ。親友に手を貸すのは当然だ。』
「ありがとう、今度ラーメンおごるな。」
『それでこそ我が親友。』
「へいへい、じゃあ宜しく。」
『へーい。』
通話を先に切ったのは、一応親友で従弟の佐藤 和樹の方。
俺側には、ツーツーという音がしている。
俺はこの音が嫌いだ。
恥ずかしいが、なんだか悲しくなるから。
だけど、今はそんな事はどうだっていい。
葉波が死んだという噂を聞いてから、出来る範囲でもっと詳しい情報を手に入れようと頑張った。
それでも有力な情報はなく、ただ大雑把に『死んだ』という話しか出てこない。
これは明らかに信憑性のない噂だ。
まず、本当に死んだのなら、小中のクラスメートに聞けば葬式があった等……具体的な話が出てくるはず。
しかし、そんな話一つも出てこないではないか。
聞けば聞く程怪しくなっていく。
元カノにも聞いてみたが、特に知らないと。
因みに新しい彼氏が出来て幸せらしい。
……とまあ、詳しい事は何一つ分かっていない状況である。
そして、もっと怪しい事が。
葉波の家が無くなっていたのだ。
俺の家から徒歩圏内にある白い壁の綺麗な家が、なんの跡形も無く消えていた。
葉波の両親と弟の波留の行方も分からない。
もう、俺には何も出来ない……そう、何も自分で出来やしない。
だから、色んな世界と繋がりのある和樹に頼んだ。
三時間後、和樹から連絡がきた。
『一郎、葉波の事で分かった事がある。』
その言い方……。
「つまり、葉波は生きてるんだな?」
『まあ、そうなる。俺が仕入れた情報の時点では生きてるらしい。』
「そうか……良かった。」
『だけどな、これからする話は表の情報じゃないんだ。お前は足を踏み入れる覚悟、出来てるのか?』
「そんなの今更だ、親のいない俺に失う者なんてない。それに、お前と一緒に住んでる時点で足どころか体ごと入ってるだろ。」
『そうだったそうだった。じゃあ話そう。まず、葉波は山並病院で死んだ事になってる。だけど実際には、半月前に退院した。山並病院専門に張り付いてる奴からの情報だ。卒アルの葉波の写真を見せたが、間違いないそうだ。山並病院は裏で色々あると有名で、奴は張り付き始めてもう15年。信用できる。』
和樹が信用できるのなら、俺も信用できる。
「ありがとう。ちょうど昼だ、今日の昼食当番は変わってやるよ。出来たら階段下から呼ぶ。」
『ラーメンがいい。』
「……これは、おごった事になるか?」
『ならない、卵煮て。』
「了解。」
和樹との電話が切れる。
その途端、壁の向こう側からガンッという大きな音が聞こえた。
これは和樹が転んだ音だ。
あいつ、電話だと普通に……むしろ分かりやすくなんでも伝えられるしっかり者なのに、現実になれば俺とすらまともに話せないわすぐに転ぶわ。
完全に性格が変わってしまう。
それでも裏社会の人間として溶け込めているから不思議……いや、だから溶け込めてるのか……違う違う。
俺はそんな事考えなくても良いし、知らなくても良い。
インスタントラーメンの粉末スープと液体スープにお湯をかけて溶かすのが、今の俺がやる事であり出来る事。
二人分の麺を二口コンロの片側で茹でているこの時間。
葉波は何をしているのだろうか。
プルルルル……プルルルル……。
「なんだ。」
『ラーメンまだ?』
「まだ。」