missing1.俺の初恋
俺の初恋は行方不明だ……った。
あの日、彼女について知るまでは。
俺には昔、好きな子がいた。
いつも可愛い姿なのに、一緒に遊ぶ時は男子と遊ぶ時よりも走って飛んで。
初めて遊んだ小学一年生の夏からあの子の姿を自然と探す様になり、休み時間は二人で遊んでいる事が多かったのだ。
放課後の学童保育でも一緒にいて、夕焼けを見ながら自然と手を繋げたのはまだ幼かったから。
学年が上がるにつれて友達の関係は固まり続けた。
小学三年生にもなれば、手を繋ぐ事もなくなる。
それに、前から俺の事を見ている女子がいるとは気づいていたが、何故かその女子との間に噂が出来てしまう事態に。
あの子に誤解を解きたかったけれど、俺の気持ちがバレるのが嫌で、結局言わなかった。
次第に俺達の距離は離れていき、昔みたいに二人きりで遊ぶ事はなくなる。
もう、戻れないんだ。
あの時勇気を出していれば、何かが変わったかもしれないのに……過去を悔やんでもどうにもならないのに、俺は自分が情けなくてたまらない。
あの関係は、取り戻せない……そう、思っていた。
いや、実際取り戻せなかったのだが、それ以上の物を掴みかけるとは、当時の俺は思う由もなかったのだ。
それは、月日が流れ、俺が中学一年生になったとある春の日。
同じ部活の友達に、あの子が俺を好き……らしいという噂を伝えられた。
嬉しくて、嬉しくて、表情筋ダイヤモンドと呼ばれる俺の顔は盛大にニヤけていただろう。
それからあの子……小さい頃とは違い、いつもさらさらした黒髪をポニーテールにしている彼女と良く目が合うようになり、話す機会も少しずつ増えて……毎日が幸せでたまらない日々が続く。
夜になると告白の場所と言葉を考える様になり、寝不足……にはならなかったけれど、寝坊する日が良くあった。
そんな、いつもと同じく寝坊して、学校に猛ダッシュしたけれどHRに間に合わなかったあの日。
教室に、彼女はいなかった。
担任は彼女が体調不良で休みだと言ったが、なんだか様子がおかしい。
気になって授業の間休みに彼女の友達へ聞いてみると……。
一年後、俺にはカノジョが出来た。
彼女とは違い、可愛くてふわふわとした守ってあげたくなる女の子。
別に、好きな訳じゃなかったけど、カノジョの友達からの圧力に負けて……だ。
これは言い訳かもしれないが。
その年、彼女は学校に戻ってきた。
顔色は青白く、セーラー服の袖口から見える腕は骨が浮き出ている状態。
彼女がいなかった間に、俺は何をしていたのだろうか。
自分が情けなくて仕方が無かった……のに、何も変われなかった。
中二の時、彼女はどれだけ苦しんだのだろう。
一人病院の真っ白いベッドで寝ていたのか。
寝れない位、苦しかったのかもしれない。
そんな彼女に今の俺が気持ちを伝える事なんて出来やしない……そんなの、エゴだ。
紅葉が終わり、肌寒くなった頃には彼女はまたいなくなっていた。
次に会ったのは中学の卒業式。
周りで友達が泣いても、俺は一滴の涙も出ず、数人を挟んだ場所にいた彼女の事だけを考えていて。
そんな自分に罪悪感を持っても、何も出来なかった。
自分の感情に従わず、周りに合わせてきた屑。
佐藤 一郎という名前の屑。
彼女……佐伯 葉波が好きで、好きで、好きだったこの8年。
それは、葉波と学校が別々になった今でも変わらない、9年目の初恋。
雪が深々と降り積もる高校一年生の冬。
鋭利な刃物の様に肌へと刺さる風と共に、葉波が死んだ……そんな話が耳に入った。
俺の記憶の中にいる葉波は、最後に会った卒業式で止まっている。
血が通っているのか疑う肌、ほっそりした顎、薄い唇、細い足。
葉波、葉波。
俺は、君の事が大好きだ。