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グランストリアMaledictio  作者: ミナセ ヒカリ
外伝 【白と黒の英雄】
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外伝8 【鬼の刃】

 鬼族が暮らす集落。


 そこは、冬は極寒、夏でも肌寒いほどの極地に存在する。


 そんな土地で過ごしているからなのか、鬼族は他の種族と比べると、肉体的にも、技能的にもかなり優れている。


 ちなみに、それを超えて龍人が最も強いのだが、昔の戦争でその数は、絶滅したと言っていいほど少なくなっている。というか、そんな種族はいると知っているだけで、実際に見たことがある者はほとんどいない。


 故に、龍人は常に珍しがられ、教育によって龍人に対しての差別は広がるばかりである。


 そんな龍人がこんな無防備に寝ているのだから、見る人が見ればすぐに捕えてしまうだろう。


「今、彼女が寝ている分にはなんの問題もないですが、彼女が起きた時になんと言われるか、私は心配ですので誰か代わっていただけないでしょうか」


 イグシロナも、重度ではないが、中々の龍人嫌いである。そんな事を言い出すのも何ら不思議ではない。


「さっきガンマから代わったばかりでしょ。適当な言い訳付けてないで頑張りなさい」


 嫌そうな顔をするイグシロナに対して、ミューエの冷たい言葉が刺さる。


「すぅーすぅー」


 当のネイは、未だにぐっすりと眠っている。


 何も羽織らせてないが、寒くはないのだろうか?歩を進めるごとに、段々と寒くなってきている。集落が近づいてきている証だ。


「デルシア様、ここより先は足下が滑りやすくなっております。お気をつけてお進み下さい」


 ガンマがそう言ってきた。


 足下を見ると、地面が普段の黄銅色に少し水色を足したみたいな感じに仕上がっている。


「分かりました。気をつけます」


「しまっーー」


 私の言葉に被さるようにイグシロナが何かを言っていた。


「どうしまーー」


 その光景を見て、「やってしまった......」とだけ思った。


「痛た......」


 イグシロナが、綺麗なくらいに後ろの方へと滑りこけた。

 背中にはネイを背負っていた。よって、ネイが下敷きになる形で倒れてしまった。


「痛たたたた......。誰でふか、人が気もり良く寝ていふところを......」


 ネイが頭を押さえながら、非難の声を上げる。寝起きだからなのか、言語に若干の不備が感じられる。


「す、すみません!!」


 慌てて立ち上がったイグシロナが、綺麗な90度の角を作って謝罪する。


「......あれ?わたひ、なんでこんなところに?」


 脳の整理が追いついてきたらしく、自分の立場を確かめている。


 できれば、集落に着いてから説明をしようと思っていたが、起きてしまった以上、今のうちにしておこう。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「はぁー、そんなことが......」


 一通りの説明を聞き終えたネイは、自分の体のあちこちを触っては何かを確かめている。


「全く、シークも無茶するんですから。こういう時は逃げてればいいものを......」


 わざとなのか、全員に聞こえるよう愚痴を漏らす。


 あの状況でネイに逃げられていたら......きっとあと10人程度は死んでいただろう。『ネイ』を気絶させておいて良かった。


「それで、理解してもらえたのなら良いのだけれど、あなたはこれからどうするつもりなの?」


「どうするつもりって、そりゃぁ......」


「......」


「......」


「......」


「行く宛てが無いのね......」


 これはダメみたいだ。このまま彼女を放っておいては餓死する。そんな気がする。


「ミューエさん。やっぱり、彼女を連れていく方向で行きましょう」


「......そうね。傭兵としてなら十分な使い道があるわ」


 ミューエがあっさりと賛同してくれた。イグシロナが嫌そうな顔をしていたのが横目に見えたが。


「あのぅ......私、記憶を探して旅してるんですけど......」


「大丈夫よ。どうせ失った記憶なんて戻りっこないから」


「え、えぇ......」


「さ、話が決まったから行きましょ。大丈夫。あなたには良い待遇を受けさせてあげるから」


 そのセリフと共に見えたミューエの笑みに、鳥肌が立った。


 あれは確か、まだ幼かった時に1度だけ彼女が見せた恐怖の笑み。思い出すだけで恐ろしい。ネイが無事でありますように。



 そうして、なんやかんやでネイの同行が決まり、歩き出した一行だったが、ネイが極度の体力不足ということで、結局イグシロナの背に乗ったのは、また別の話である。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「うぅ......寒い......」


 登れば登るほど、雪景色が濃くなり、その分寒さも激しくなる。


 寒いのは私だけではなく、ミューエもイグシロナも寒そうに手足を震えさせている。唯一ガンマだけが登る前と変わらぬ顔で平然としている。あとネイも。


「さ、寒くないんですか?お2人は」


 その質問に、2人が目を合わせてこう言った。


「「 いえ、全く 」」


 声が震えていない。本物だ。


 というか、イグシロナは背にやたら豊満な体をしたネイを乗せているのだから、多少はマシだと思うのだが。


「デルシア様......。ネイ様を降ろしてよろしいでしょうか?」


 深刻な顔をしてイグシロナがそう言う。


「ど、どうかしました?」


「デルシア様には分からないでしょうが、ネイ様の体がかなり冷たく、背負ってるだけで背が凍りつくように寒く......」


 これは精神的な問題ではなさそうだ。後ろに下がってネイの体に触れてみたが、確かに冷たい。周りの空気よりも冷たい気がする。


「あ、すみません。私の体色々と特殊なので、厳しかったら降ろして大丈夫です」


 特殊な体をした人はよくいるが、ここまで冷たい体をした人は初めてではある。


 イグシロナはネイを降ろした後も、ずっと寒そうに体を震わせている。あ、鼻水が垂れた。そして、凍った......。凍った!?


「あの......、ここって、もしかして0℃下回ってるのでは......」


「そうよ。よく気づいたわね。今、ここの気温は-20℃よ」


 ミューエでさえ、平静を装えない寒さ。本当に、こんな所に鬼族の里なんかがあるのだろうか。というか、なんでガンマも平気なのだ。


「デルシア様の前で、私のようなものがしっかりしていないといけませんから」


 その言葉を聞いて、ミューエとイグシロナがビクッと体を震わせた。


「貴様ら、何者だ」


 背筋が凍るように冷たい言葉が響いた。


「もう一度問う。貴様ら、何者だ」


 咄嗟に後ろを振り返ったが、そこには私の仲間がいるだけで他には誰もいない。


「ここだ、馬鹿どもめ」


 上の方から声がする。


 見上げると、いつの間にか大きな壁が立ちはだかっていた。


「私達は、デルシア様を中心とする革命軍です。ガイル様から手紙か届いているはずです」


 革命軍?いつの間にそんな名前を......


「ああ、確かに受け取った。まあ、俺はこんなもの知らんがな」


 その人は、手紙を見せびらかすように振ったあと、ビリビリに破り捨てた。


「例えあいつらの紹介だろうが、俺は俺が強いと思った奴にしか話はしてやらねえ。本来なら大軍同士の戦いでボコボコにしてやるんだが、お前らのそんな貧乏くせえ数じゃできねえだろ?代わりに俺様が直々にタイマンしてやらァ」


 そう言うと、その人はそこそこ高い壁から飛び降りてきた。


「誰でもいい。強ぇやつがかかってこい」


 細身の刀を抜いて構えている。


 誰が行くべきか。

 普通なら私が行くべきだろうけど、この寒さのせいで体が鈍くなっている。唯一寒さを感じていないガンマには、あまり無理をさせたくないし......。


「ネイさんお願いできませんか?」


 消去法でネイが適切だと思った。


「え?私ですか?」


 自分に人差し指を向け、信じられないといった顔でそう言う。


「お願いします。今、まともに闘えれそうなのはネイさんだけなんです」


 寒さで動きにくいが、腰を直角に折ってお願いする。


「......分かりました。あまり期待しないでくださいよ」


 そう言って、ネイが鞘から剣を抜いて構える。


「へっ、そんな弱そうな女が相手じゃ一瞬で終わるぞ」


 完全に舐められている。まあ、ネイの剣を構える体勢を見れば、そう思われても仕方ないのだが。


「手加減無しだ!」


 鬼のような形相でーー鬼だけどーーその人はネイに突っ込んでいく。

 ネイは微動だにせず、その場で構えている。


「貰いィ!」


 まずい、そう思ったがもう当たった後だった。


「へっ、やっぱ雑魚......」


 ダメだったか......。そう思ったが何か違うらしい。


「......俺の剣......どこ行きやがった」


 見れば、その人が右手に握っていたはずの剣が無くなっている。


「あなたの剣はここです」


 ネイがその人の剣を右手に持っていた。


「ッ......」


 これにはその人も言葉を失ったようで、その場に膝をついた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「本当にすまない!うちのバカ息子が......」


 目の前で、さっきの男の人と一緒に土下座をする男性は、鬼族の族長である『夜叉丸』さん。

 そして、その隣で不貞腐れているのが『羅刹』さん。


「すみません......」


 小声で羅刹がボソッと呟いた。


「デルシア様達のことは、しっかりとガイルからの手紙で知り得ております。今回は、このような不出来な息子が大変申し訳ございませんでしたッ!」


 一旦顔を上げた夜叉丸が、もう一度隣の羅刹の頭を床に叩きつけてからそう言う。若干痛そうではある。


「と、とりあえず、座って話をしましょう。誰も怪我したとかはないので」


「......ありがとうございます」


「ありがとうございます......」


「もっとデカい声で言わんか馬鹿者!」


《ベシッ!!》


 うわぁ、すっごい痛そう......


 羅刹の叩かれた頬が赤く腫れている。ちょっとやりすぎではないか?


「それで、本題に移りたいと思うのですが......」


「おお、そうであった。確か、軍隊になりうる部隊を貸してくれとの話でしたな。結論から言うと無理!」


「そうですか、、、ってええ!?」


 いくらなんでも話が早すぎる。何も言わずにもう無理だなんて......。


「いえ、儂らもそなたらの話を聞く限りでは協力したいのは山々なのですが、うちは数が少ない。それに、いつ黒月の奴らが本気で攻めてくるか分からない現状、数を減らすわけにはいかないのです!」


 やっぱりか......。一応姉さんがアルフレア兄さんを説得しに行っているとはいえ、絶対とは言えないし、ギリスがやれと言えばそれまでである。黒月が絶対に攻めてこないなん言えないため、交渉の場に出せるカードは少ないまま。というか、この人の話を進めるスピードが早すぎて、交渉なんてあったもんじゃない。


「あぁ、でもうちのバカ息子ならそちらに貸し出せれますよ。むしろ引き取ってもらいたいくらいだ」


「いきなり何言いやがんだこのクソ親父!」


「お前はもうちょっと礼儀を痴れ!この恥知らず!」


「うっせーダメ親父!」


「黙れクソガキ!」


「んだと脳筋!」


「あぁ?この23年間彼女なし野郎!」


 なんか、ただ歳の近い男同士がちびっこ並みの頭脳で喧嘩しているみたい。話が進まないのでやめてください、なんてことは口に出して言えない。


「あのぅ......そろそろ話を進めませんか?」


 ネイが勇気を振り絞ってそう言った。


「「 外野は引っ込んでろ! 」」


 あちゃー......、これはダメだ。しばらく見守るしかない。


 そう思った時、ネイの優しそうな目がキリッとした目付きに変わった。


「話をやめていただけませんか?」


 言い合いを続ける夜叉丸の首元に、ネイが一瞬でまとわりついて小指を喉仏あたりに突き当てる。


「す、すみませんでした......」


 夜叉丸も、羅刹も、表情を固まらせてネイを見据えている。


「分かっていただければいいんですよ」


 ネイが表情を元に戻してその場を離れる。


 何だ、今の凍りつくような感じは......


 ジークに切り替わったわけではない。ネイがそのままの人格で、まるで暗殺者のような身のこなしで急所を捉えた。


 ネイは何も無かったという風に、部屋の隅っこに佇んでいる。


「話が大分逸れてしまいましたが、うちのバカ息子なら、そちらに貸し出せれます。というか、借りてください!」


「だから、なんでそんな話になんだよ!」


「黙れクソガーー」


「あのぅ......」


「「 ヒッ、すみませんでした 」」


 またしても喧嘩を始めそうになるところを、ネイの微笑が止める。


「ちょっとあんたー」


「どうした我が愛しの妻よ!」


 襖を挟んだ向かい側から、ちょっと低めの女性の声がする。


「黒月がまた攻めてきたよー」


「ああそうか!じゃあいつものを向かわせとけ!」


 黒月?いつもの?そんな頻繁にやって来てるの!?


「それが、今回はいつも以上に数が多いって霊鬼が焦ってるんだけどー」


「あの坊主が焦る相手?、、、ってなにー!?こうしちゃおられん。行くぞバカ息子!」


「ぶっ飛ばしていいんだよな?」


「ああ任せたぞバカ息子!」


 ん?脳の整理が追いつかないけど、霊鬼が焦る相手?そもそも霊鬼って誰?


「デルシア様。ちょっと急用で黒月をぶっ飛ばして来ますので、ここで待っててください」


 そう言って、物凄い速さで2人が部屋を出て行った。


「......」


「......」


「......」


「「「 なんだったんだ? 」」」

人物紹介

ガンマ

性別:男 所属ギルド:デルシア陣営改め、革命軍

年齢:65歳 誕生日:9月9日 身長:180cm

好きな食べ物:クッキー 嫌いな食べ物:なし

趣味:剣の稽古(誰でもいい)

見た目特徴:橙色の髪をしたロン毛の老人。イグシロナとは違い、結構がっしりとした体をしている。


デルシアの世話係であり、黒月では、アルフレアの傍付きにまで行けれたかもしれないほどの腕を持つ。

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