第1章6 【異変】
ヴェルド「クソ、なんなんだこの魔獣の数は」
ヴェルドが大声で悪態をつきながらも魔獣をなぎ倒していく。
前も横も後ろも魔獣に囲まれてしまっている。さっきまでと違い、数が圧倒的に多い。ハッキリ言って状況は絶望的だ。
「仕方ない、サモンズスピリット!カグヤ!」
私は、鞄の中から桜色の鍵を取り出し詠唱する。
カグヤ「お呼びでしょうか?ご主人様」
「カグヤ、この魔獣の群れをやっつけて!」
カグヤ「かしこまりました。ではどのような方法がよろしいでしょうか?」
「倒せたら何でもいいから!」
カグヤ「それでは刀で行きますね」
そう言い、カグヤは何もない空間から銀に輝く刀を取り出す。
一々長いのよ。
心の中でそう悪態を吐いた。
カグヤ「輝剣、ルーンセイバー」
カグヤが詠唱すると、刀に光がまとった。
「グォォォォ」
魔獣が雄叫びを上げながら私に襲い掛かる。
「ご主人様には指1つ近づけさせません!せいっ!」
カグヤが私に襲いかかった魔獣を真っ二つにした。
《シュンっ》
真っ二つに切った魔獣の死体が蒸発した。
フウロ「なんだ......これは......!」
フウロが動揺の声を上げる。
ヴァル「おい!フウロ危ねぇ!」
魔獣が背後からフウロに襲いかかっていた。
フウロ「っ、せい!」
フウロは反射で魔獣の体を真っ二つに切り裂いた。
《シュンっ》
やはり、その魔獣の体も蒸発した。
ヴェルド「なんなんだ!?これは」
ヴェルドも魔獣を殺したらしく、動揺の声を上げる。
フウロ「分からんが、今はここを切り抜けよう!ヴェルドは右から来る魔獣を倒してくれ」
ヴェルド「任せとけ!」
フウロ「ヴァルは左方向からの魔獣に対応してくれ」
ヴァル「任せろ!」
フウロの指示を聞いたヴァルとヴェルドはそれぞれ指定された方向の魔獣に攻撃を仕掛ける。
ヴァル「煉獄!」
ヴェルド「アイスクリエイト、氷柱ばり」
ヴァルが魔獣を囲むような形で炎の渦を作り、ヴェルドは魔獣に対して広範囲に連なる氷柱を仕掛ける。
ヴェルド「こいつらは1匹1匹が弱い、広範囲の技で仕留めるのが楽だ」
ヴェルドがフウロにアドバイスをする。
フウロ「なるほど、ならば」
そう言うとフウロは剣に風邪をまとわりつかせ、
フウロ「暴風剣!」
と叫ぶと同時に剣にまとわりついた風が魔獣の群れにまで飛んでいき、次々と魔獣の体を引き裂いて行く。
「そういうことならカグヤよりもこっちの方が良さそうね」
広範囲を攻めるなら、カグヤよりもこの子が良いと思い、蛇のような形をした紅蓮の鍵を取り出す。
「カグヤ戻って!そして、サモンズスピリット!エキドナ!」
私がそう詠唱すると、さっきまでカグヤがいた位置に下半身が蛇の女の子が出てきた。
エキドナ「あたしの出番?ご主人!」
「エキドナ、この魔獣の群れを一掃して!」
エキドナ「これ全部?」
「そう、全部!」
エキドナ「オッケー全員倒せば良いのね」
そう言うとエキドナは両手に構えた双剣で魔獣を一掃していく。
ヴァル「なぁ?なんかおかしくねえか?」
迫り来る魔獣を振り払いながら、ヴァルがそう声を上げる。
フウロ「確かに何かがおかしい」
フウロも賛同の声を上げた。
ヴァル「こいつらいくら倒しても無限に湧いてねえか?」
フウロ「エフィ、この森の獣の数はどのくらいいるんだ?」
エフィ「はい、結構いますけど、こんな狭い範囲にここまで大量にいませんよ!」
フウロ「倒すと蒸発する体、無限に湧き続ける魔獣……みんな、ここは一旦引き上げるぞ!」
フウロが振り返りながら言う。
ヴェルド「でも、こいつらが追ってきたら村に被害が......」
ヴェルドが皆が思っているであろうことを言う。
フウロ「極力追手を倒しながら帰るぞ!それにここは森の奥地だ。村に着く頃には大分減っているだろう」
ヴァル「このまま戦い続けてもいつかは俺達が殺られるだけだ、逃げるぞ」
ヴェルド「仕方ねえ」
「エキドナ、しばらくの間護衛をお願いできる?」
エキドナ「ご主人の頼みならなんでも聞くよ」
「任せたわよ。エフィ逃げるよ」
エフィ「は、はい......でも......」
「どうしたの?エフィ」
エフィ「あそこに、1匹だけ本物の動物さんがいるんです」
エフィは魔獣の群れの中を指さした。
フウロ「今は、そんなのに構ってられん。早く逃げるぞ」
「グォォォォ!」
魔獣がエフィに襲いかかって来た。
エフィ「いやっ!」
エキドナ「誰も傷つけさせないよ!」
エキドナが間一髪のところで魔獣を切り裂いた。
ヴェルド「グズグズしてられねえな」
ヴェルドが別の方向から来た魔獣をなぎ倒しながら言った。
「エフィ......」
エフィ「すみません......」
エフィはこんな場だというのに、丁寧に腰を折って謝ってた。
「謝罪の言葉は後で聞いてあげるから早く逃げるよ!」
エフィ「はい......!」
私はエフィの手を引いてフウロ達の後を追う。しかし、エフィは後ろを向いたままだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「なんとか振り切ったみたいだな......」
ヴァルが息を切らしながら言う。
ヴェルド「なんだったんだろうな、あの魔獣は」
ヴェルドも同じように息を切らしなが言う。
フウロ「瘴気団......と関係はあるんだろうが......」
ヴェルド「なんだ?フウロ」
フウロ「あの魔獣はどう考えてもおかしい」
フウロが額の汗を拭いながら言う。
ヴェルド「そりゃそうだろ、倒したら蒸発するし、無限に湧くし......」
ヴェルドが溜息をつきながら言う。
フウロ「いや、そうじゃない。うまく説明できないのだが、なんとなく人に作られた人形のような感じがした?」
ヴェルド「人形!?」
ヴェルドが声を裏返し言う。
フウロ「道中で出会った魔獣はしっかりとした生命も意思も感じたんだ」
ヴェルド「でも、さっきの大群にはそれが無かったってか?」
フウロ「そう感じた......」
エフィ「あの、それ何となく分かる気がします」
エフィが声を上げた。
「どういうこと?エフィ」
私はエフィに尋ねる。
エフィ「例え魔獣でも命あるものにはそれなりの意思があります。でもさっきの魔獣さん達にはそれが欠片もなかったんです。まるで人が操ってるような......」
ヴェルド「人が操っている?催眠系の魔法か?」
ヴァル「いや、それはねえと思う。さっきの魔獣には魔法がかけられているような形跡が無かった」
ヴァルが否定の言葉を発した。
フウロ「そうなのか......」
「仮にだけど、今回の事件、裏で誰かが操ってるんだとしたら......」
フウロ「かなり厄介なことになるな」
セリカの言葉をフウロが繋いだ。
ヴァル「悩んでても仕方ねえ。一旦昼飯にしようぜ」
ヴァルがそう言うとヴァルとヴェルドの2人が一斉に腹を鳴らした。
フウロ「全く、このバカどもは......」
フウロが呆れた声を出す。
ヴェルド「まあ、腹が減っては戦ができぬって言うだろ」
そんなフウロに対してヴェルドはお気楽そのものだっだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「それで、この後はどうするんだ?」
昼飯を食べるや否、ヴァルが疑問の声を上げた。
フウロ「もう一度さっきの所に戻ってみたい気はするが......」
ヴェルド「行ったら行ったでまた襲ってくるかもしれねえな」
ヴェルドが言葉を繋いだ。
フウロ「そうだな。これは軍隊を派遣した方がいいくらいかもしれんな」
フウロがそう言うが、確かこの依頼って、軍隊が行ってもダメで逃げ帰ってきたから私達が来たんじゃ……と思った。
ヴェルド「どちらにせよ、あそこに行くのは自殺行為だろ」
フウロ「うむ……。一旦帰って作戦会議か」
ヴェルド「それが一番だな」
そして、一行は帰り支度を始めた。
それを静かに見ていた人物がいたことも知らずに......
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ディラン「やぁ、おかえり」
玄関をくぐるとすぐそこにディランがいた。
フウロ「ただいま」
ディラン「その様子だと今回は失敗のようだね」
ディランが私達の心を察してか、優しめの口調で言う。
フウロ「気遣いはいい。それよりも聞いて欲しいことがある」
ディラン「なんだ?」
フウロ「長話になる。書斎で話そう」
ディラン「分かった」
そして、ディランとフウロが歩いて行く。
「あ、フウロ。私達も行った方がいい?」
真っ直ぐに歩いて行くフウロの背中に向けて声をかけた。
フウロ「先に部屋で休んでてくれ」
フウロは振り返りながらそう言った。
「そう」
私は、なんだか凄く嫌な予感がしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ーー翌日
「おはよう......ってフウロが居ない?」
目覚めるや否、私はフウロが居ないことに気づいた。昨日はちゃんと待っていてくれてたわけだし、まさか私を放ってもう出たなんてことはないだろう。それの、作戦会議というものもまだしてないし。
考えられる可能性としては、昨日、ディランとの間でなにかあったのかな?
《コンコン》
誰かがドアをノックしている。
「はい、どうぞ」
ディラン「やぁ、セリカさん、おはよう」
「お、おはようございます」
突然、ディランがやってきたことに戸惑いながらも挨拶を返した。
ディラン「早速で悪いんだが、フウロは居るか?」
「いえ、私も探していたところなんです」
ディラン「やっぱりそうか......」
「どういうことです?」
ディラン「突然の事で理解できないだろうが、救護室からエフィさんが居なくなったんだ」
「エフィが!?」
ディラン「あぁ、それで、君達は無事かと確かめに来たんだが、フウロも居なくなっているとは......」
「誘拐......だとしたら」
ディラン「それは無いよ。警備がよっぽど居眠りしていない限りは誰もこの屋敷に入ることはできない」
「だとしたら何で?」
ディラン「分からないが......何となくだが今回の魔獣騒ぎと関連していると私は思っている」
「今回の事件と?」
ディラン「そうだ。ハッキリとは私にもわからないのだが、魔獣を作り、操縦出来るような魔導士がいるのであればこのような事も出来るだろう」
「その話はフウロから?」
ディラン「ーーあぁ、そうだ」
「急いで探しに行かないと......」
ディラン「私も村の警備隊を派遣する」
「ありがとうございます」
ディラン「気をつけておくれ」
「はい」
そう言って私は準備を始めた。
ディラン「ああ、そうだ。ヴァル君達は先に行っている」
「え?もう行ってるんですか?」
ディラン「ああ。私が伝えるや否、物凄い形相になって飛び出して行ってな。恐らく彼らは森の中に行っただろう。ただ昨日のこともある。行くつもりなら君に護衛を2人付けるがどうする?」
「お願いします」
ディラン「分かった。では5分後フロントで待ってるから」
「はい」
私の返事を聞いてディランは駆け出した。
何か大変な事が起きている。私達の知らない場所で......
漠然とではあるがそう思えた。
言語紹介
ギルド:この世界では無数の魔道士ギルド(現実で言うところの自警団)が沢山あり、ギルド毎に様々な特色がある。主に、ギルドは所により違いはあるが魔道に長けた者達が集まる場所である。尚、錬金術師は数が少ないため、あまり現れない。作中で描かれているように、基本的には色んなところから来る依頼をこなしている。
次回予告
第1章7【魔の森】