表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グランストリアMaledictio  作者: ミナセ ヒカリ
第4章 【時の歯車】
77/404

第4章13 【憤怒の名】

「死ね死ね死ね死ねしねぇ!」


 レイジの攻撃が段々と激しくなってくる。


 屍が作り出せなくなった以上、自分の力で戦うしかないのだが、それにしても攻撃が激しすぎる。


「おいネイ。あいつどうにかならねえのか」


「残念ですが、私もあそこまで怒り狂ったのは見たことがありませんからなんとも......」


「お前の無効化も、できるやつとできねえやつがあるみたいだな」


「魔法かそうでないかの違いですね。レイジは攻撃の途中で『魔激』を入れてきてますからね......」


「もう何も聞かねえが、その魔激が無効化できねえんだな」


「はい。あれは、私の輝月と同じようなやつですから」


 なら、なんでレイジは無効化できたのかが気になるな。ネイの方はレイジの魔激を無効化できないのに対して、レイジはネイの時止めの中を自由に動けている。


「多分ですけど、レイジの『憤怒』があらゆる『常識』を壊してると思います。普通なら、私も彼女の魔激を封じれるはずですから」


「その普通も破壊されたってわけか......」


「今なら彼女、邪龍あたりになれますよ」


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


「ああ、確かになれそうだな。そうなったらすげぇ困るんだけど......」


 レイジの言葉が『死ね』だけになってきている。その言葉を連呼されるだけで凄く怖い。


 屍の問題がなくなっても、親玉が強すぎたんじゃハッピーエンドで終われない。折角ネイを連れ出せれたのに......


「ヴァル。彼女をみなさんのところまで誘導しましょう」


「は?何言ってんだ。そんなことしたらみんなに被害が......」


「私に任せてください。失敗はしません。天才ですから」


「よく分からねえが、やるだけやってみるよ」


 誘導を引き受けたはいいものの、どうやって惹きつけるべきか......。レイジは今、ネイの方ばかりを狙っているし......


「アマルナ!」


 悩む時間がないため、普通に攻撃した。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 レイジの注目がこちらに向かう。


 怒り狂ったやつには、ちょっとした刺激でも有効だったみたいだ。


「ではヴァル。死なないでくださいね」


 これまで、みんなが幾度となく俺に言ってきた言葉を、ネイまでもが言ってこの場を離れていく。


「じゃ、全力で逃げるか......」


 レイジは、相変わらず容赦のない攻撃をしてくる。それを全て避けきりながらみんながいるであろう西門付近に向かう。


「死ね!死ね!死ね!」


 巨大な火の玉が3連続でやってくる。


 もちろん全て避けきるのだが、方向が方向だけに、誰かに当たっていないかが心配になる。


「死ね!全員死んでしまえ!」


 ふと思ったのだが、レイジはあの時の邪龍ネイに似ている。


 何もかもを失い、心が壊れてしまったネイ。昔のネイは恋人を失って邪龍になったと言う。

 そして、レイジも夫婦関係の壊れによってここまでなった(と、思われる)


 ネイの煽りようも凄かったが、レイジの怒りには、少し疑問に思う点がある。


 勝手な推測だが、ネイはそれまでになかったほど怒り狂い、邪龍へとなった。なら、なぜレイジはそれに近い状態にならないのだろうか?

 今のネイは龍人だが、昔のヨミだった頃は俺達と同じ、『人間』だった。そして、レイジも同じように『人間』だ。


 何か、喉の奥に小骨が突き刺さるような感覚がする。何かを見落としてるような......


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ルイン!」


 これで2000体目。見えていた教徒達は、全員殺した。


「復活する様子もない。どうにか、教徒達の殲滅は完了したな」


 南側の方では、かなりの火の手が上がっている。


 これが、本当に魔法だけの力なのだとしたら、魔法とはなんのためにあるのかを問いたくなる。


 街を破壊するためか?違う。


 人を殺めるためか?違う。


 魔法は、破壊を行うためのものではなかったはずだ。人々の暮らしを豊かにし、いざという時に守るべきものを守るためのもの。


 リーシアが読んでいた魔導書の前文には、そう書いてあったはずだ......


「クロム様。お疲れ様でした。街に残存兵は残っていない模様です」


「そうか......」


 殺し損ねはないということか......。思えば、俺の剣だって姉を守るために身につけたはずなのに、今は殺しの道具として使ってしまっている。


 教徒達は除いても、帝国兵は人間だった。


 一体、俺は何をしているのだろうな。


 守るべき姉を失い、今はこうして『仲間』のために戦っているが、俺はどうすべきなのか......


「クロム様。ご心中御察ししますが、今は向こうの『炎』に気をかけるべきかと」


 あの紅蓮に染った炎が、段々とこちらに近づいてくる。


 どうやって打ち返すべきか......。俺の剣では、邪龍の力を打ち返せれても、魔法はどうにもならない。


「クロム。お前は1人じゃない。無理なところは魔法専門の私達を頼れ」


 フウロが隣に立ち、そう言う。


「俺は1人じゃない......か」


「ああそうだ。お前は1人じゃない。姉のために捧げたその剣が、使命を全うできなかったというのなら、その姉を拡大して『みんな』に変えてしまえばいい。お前の姉は、ただ1人を救うために王をやっていたのか?」


「......お前の、言う通りだな。俺は、邪龍を倒すためだけに聖王になったんじゃない。俺が助けたいと思ったやつ全員を助けるために王になったんだ」


 姉さんのように、素晴らしい人になりたいと思ったことはない。この手が届く限りのものは全て守りたい。そう思って剣を取った。なのに、今は姉さんのような人を目指して歩いてしまっている。


 素晴らしい人にならなくても、俺には俺の生き方があると思って剣を振り続けてきたのに。


「いつの間にか、俺の生き方も姉さんと同じになってしまったな......」


「それで良いだろ。お前に向いてる生き方だ。それで、まだ頑張れそうか?」


「聞かなくても分かれ。俺はまだやれる。この剣は決して折れやしない。何があっても、俺は最後まで戦い続けるぞ」


 教徒は全員倒した。後は『魔女』だけだ。でも、何かが引っかかる。『何が』なのかは分からないが、さっきからずっと『何か』が引っかかるような感覚がする。


「あの炎。本当に魔法か?」


 南側に見えている炎を指さしてそう言う。


「魔法......だと思う。お前が考えてることはなんとなく分かる。でも、私にも何の違和感を感じてるのかは分からない」


 何がおかしい?何かがおかしいはずなんだ。でも、それが分からない。何が......


「クロム様。大変なことになってきました」


 いつの間にか兵士と話をしていたアランが顔色を変えてそう言う。


「お前のその顔は見たことがないな。それほどにやばい事か......」


「はい。避難したはずの町民が暴動を起こしてるようです」


「暴動?どういうことだ?」


 俺の代わりにフウロがそう言う。


「突然、町民の目が赤く染まり、近くにいた者を傷つけ始めたらしいです。そして、傷ついた者も同じように目が赤くなり......」


「段々と感染してるということか......」


「はい。それに、街で戦っている魔導師達の一部も、同じようになっているとのことです」


「多分、暴れだした時間は......火の手が激しくなってきた時なんじゃないか......?」


「その通りでございます」


 となると、暴動の原因は簡単に分かる。


「魔女だ......」


 魔女が何かをしかけてきた。それ以外に考えられることはないだろう。ただ......


「フウロ。一応聞いておくのだが......」


「人の感情を操れる魔法なんて聞いたことがないぞ」


 フウロが先読みしてそう答えた。


「多分、リーシアに聞いても......」


「彼女なら同じことを言ってくるだろうな」


 ここに来て、更に問題が追加されるとは......頭の中がパンクしそうだ。


「ヴァル......」


 彼なら、何かを知っているだろう。今、魔女と対峙してるのは彼らだったはず......


「暴動はどうにかできないのか?」


「今、リーシア様が治療に当たっているとのことですが、正気に戻る様子はないとのことです」


「......一旦、その町民が避難してるところに行こう」


「良いのですか?クロム様に何かがあればーー」


「人の前に立つのが王の務めだ。俺が戦場に出ないでどうする。俺は、俺の身を守るくらいなら余裕でできる」


「......了解しました」


 何が起きてるのか。その原因はなんとなく分かる。分かるが、俺にはどうしようもない。『俺には』......


「エクセリア、この状況、何か分かるか?」


(恐らく、800年前にいた魔女の『憤怒』の影響でしょう)


「憤怒......それが魔女の肩書きみたいなものか」


(ええ。この力は、邪龍の力と似たようなものです)


「?つまり、ネイと同じような存在ってことか?」


(はい。彼女もまた、『怠惰』の名として知られていました。ただ、怠惰の力は全てを止める力でしたが、『憤怒』の力は全てを拘束する力です)


「拘束?」


(ええ。感情を、自分のものと同じにし、自分と同じ考えにするのです)


「操るわけではないが、実質的には操っている状況か......」


(と言っても、私は彼女の力をこの目で見たことはありませんので、ハッキリとしたことは言えません。ですが、彼女か欲しているのはフェノンの力であることには間違いないでしょう)


「またネイか......」


(彼女は不幸な子です。ちょっと他人より優れているからというだけであんなにも不幸な目に遭わされたのですから)


「お前はフェノンのことを知っているんだよな?」


(彼女の本当の名は『ツクヨミ』。輝月の巫女と呼ばれていました。そして、不老不死の存在です。不老不死なんて、一見死ななくていいように見えますが......)


「本人からすれば苦痛以外の何物でもないのか」


(ええ。それと、あくまで推測ですが、邪龍の力というのは、『怠惰』の力ではないと思います。邪龍は、長い年月をかけて、その心に数々の『闇』を抱えていった人物が得られる力。『憤怒』の彼女は、そのうち邪龍になってしまうかもしれません)


「ッ......それでは、ネイが犠牲になった意味が......」


(いいえ。今の邪龍の力は輝月の巫女の元にあります。そこにある限り、他に渡ることはないでしょう)


「邪龍の力って奪い合いの形になるのか?」


(奪うことも奪い返すことも可能でしょう。たまたま最初に手に入れてしまったのが輝月の巫女であっただけで、もし彼女があんなことにならなければ、他の者がその力を宿していたことでしょう)


「......邪龍って結局なんなんだ?」


(この世界の罪です。この世界の人々がため続けた罪。それが、罪を一切犯してこなかった者の中に実態として現れるのです)


 つまり、昔のネイがかなり不幸だったということか......。昔から純粋で真っ直ぐな子だったのなら、人間の審判役になるのも分かる。分かると思う。


(邪龍は、あくまでその力を開花させてしまった者の負の感情で行動します。それと、この話はあくまで『推測』です。信用しすぎないようにしてください)


「ああ、分かった」


 少し、邪龍に関して調べ直す必要がありそうだ。だが、今はそれよりも調べるべき事案がある。


「『憤怒』の魔女。フウロの祖先であり、普通の人間では成し得ない魔法を使える存在」


 どれだけ調べても、魔女に関する記述は見つからなかった。見つけようと思って探してはいなかったが、仮に本気で見つけようと思っても、見つからなかったであろう。


 フウロの祖先をたまたま調べたから見つけられたものの、魔女の存在は謎だらけ。むしろ、そんなのが本当にいるとは思わなかった。


 それに、ネイも魔女だと言うのか......。まあ、彼女ならそんな存在であってもなんら不思議ではない。不思議ではないのだが......


「まだ、何かを見落としてるような気がする」


 憤怒の存在が分かってから、ずっと何かが引っかかる感覚が消えない。


 考えても無駄なのだが、常に何かを見落としてるような気がしてならない。


 魔女、邪龍、教徒、フウロ、憤怒、怠惰、輝月の巫女......。


 見落としてることはない。ないはずだ......。なのに、なんなのだ?この妙に引っかかる感覚は......


 違う。レイジは人だ。人なのだ。人であることが、なぜこんなにも引っかかるのか。ネイも同じ人だ。なぜ、なんで人であることがこんなにも引っかかりを見せる?


 人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人。


 何度繰り返し心の中で呟いても、その引っかかりは取れない。


「待てよ」


「どうかされましたか?」


 しまった。つい、大きな声で言ってしまった。


「なんでもな......、いや、やっぱ何かある」


「難しい表現ですね」


「ああ。言葉があやふやになってしまった」


「何か、思いついたのか?」


「ああ。あの魔女とネイは『人』だよな?」


「多分、ちょっと異常だが人だと思う......」


「じゃあ、彼女達は、『人間』か?」


「何が言いたいのですか?」


「俺は、魔女もネイも『人』だと思って見てきた。でも、彼女達は『人』ではあっても、『人間』なのか?」


「話がさっぱり見えてこない。何が言いたいんだ?」


「『人』は、俺達のような生き物のことを指す。2足で立って歩いて、そして、いろんなことができる生き物だ」


「ああ、なんとなく言いたいことは分かった。それで?「『人間』なのか?」というのはどういうことだ?」


「そのままの意味だ。彼女達は『人間』なのか?俺には、彼女達が人間には見えない」


「人間に見えない?」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「死ね死ね死ね死ね死ねぇ!」


 レイジの攻撃は、激しさをどんどん増してくる。


「やっぱそうだ」


 ここに来て、やっと引っかかっていたものが分かった。


「あいつ、『人間』じゃねえ」


 人間とは、『人の間』と書く。


 人として、『人』と関わり、話をして、お互いを分かり合う存在。


 そして、それを行うのに必要なのが『心』だ。『心』が無ければ、人と関わる際必要な『感情』が無いため、人と関わることができない。


 レイジには、その『心』がない。そして、邪龍になってしまったネイも『心』が無かった。


 一見、こちらと会話出来てるから『心』があるんじゃないかと思うが、あれはあくまで戦う前の状態。本気を出して戦い始めれば、心を失って全力を出せるようになる。


「待てよ。それなら邪龍だったネイは......」


 トドメを刺す直前も、普通に対話をすることができた。レイジとネイで何が違うのか。


「邪龍であることが原因なのか?」


 詳しくは知らない。でも、あの書庫にあった本の1冊に、邪龍の出で立ちが書かれているものがあった。


 邪龍は、罪なき者の中に現れる人間への審判。


 過去のネイに何があったのかはあらかた本人から聞いている。


 もし、邪龍になったとして、心が壊れても負の心だけが残るのだとしたら......


「レイジは邪龍にならねえ」


 もう心が完全に壊れてしまったレイジが邪龍になることはない。それだけは確かに分かる。だが......


「ネイの中には邪龍が残ったままということになる......」


 負の感情が邪龍だというのならば、ネイの心には常に邪龍の存在が潜んでいる。


「あいつが外に出たくないってのは、このことに気づいていたからなのか......」


 邪龍が永遠に復活し続けるのは、そうやって心に常に潜んでいるから。なら、なぜ邪龍の記録が昔のネイで始まって、その1回で終わったのか。


「アポカリプスだ......」


 その存在が復活前のネイを記憶ごと殺した。だから、ネイは生まれ変わっても邪龍として蘇ることはなかった。ただ、あの祭壇で力と記憶を得てしまったせいで......


「まだ邪龍に縛られたままじゃねえかよ!」


 解放できると思っていたのに、解放するためには記憶を消す他無い。そもそも、なぜ、邪龍は記憶が消えた後のネイが、再び記憶を取り戻した時に現れたのか。


 分からない。情報が足りない。でも、ネイはそれに気づいている。


 そんな彼女が『助けて』と言った。それは、もう自分一人では無理だということに気づいたからだろう。


 レイジの倒し方は、恐らくネイが知っている。そして、邪龍を蘇らせない方法も。


「あーあ。邪龍に支配されそうになる子を一生お守りか......」


 本当に、ネイの言う通り『自由』は無さそうだ。


「まあでも、これが俺の決めた道だもんな」


 他の誰にも通らせたくない道だ。これは、俺にしか通ることができない茨の道。


 考えても考えても分からない話だ。でも、考えることはネイに任せりゃいい。俺は、あいつの傍であいつを守ってやるだけだ。


「なんだ。結構簡単な話じゃねえかよ」


 ようやくスッキリできた。


 俺がずっと迷っていたのは、『ネイ』のことだったのだ。ネイを守ってやるってあの場で言ったのに、まだそんなことを迷い続けていたのか。


 我ながら、バカバカしい。答えを見ながら答えを聞くようなものだった。


「そろそろ、みんなのところだ。レイジも上手いことついてきてるし、本当に頼むぜネイ」

次回予告

第4章14 【輝月の巫女】

多分、次回でレイジは殺されると思います。多分。今回、ただの考察回になってしまいました。すみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ