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グランストリアMaledictio  作者: ミナセ ヒカリ
第4章 【時の歯車】
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第4章9 【古の物語】

 妾は、ただの商人の一人娘だった。


 家は裕福ではなく、むしろ貧乏な方だった。


 それでも、家族3人で楽しくやっていた。


 親に楽をしてもらおうと、妾は必死に勉強した。

 幸い、それくらいの環境なら整っていた。


 妾は、"天才"と呼ばれるほど、その才能を開花させていった。


 10歳で、王国に招集されるほど、その才能は凄まじかった。


「そなたに、我が国で蔓延している、病の治療法を求む」


 初めて見た国王から言われた言葉はそれだった。


 頼まれた病気というのは、感染者は手足が変形し、やがて死んでしまうという奇妙なものだった。


 感染から僅か数ヶ月で死を迎える。


 この病気で王国は滅亡の危機にあった。


 妾の両親も同じ病にかかっていた。


 王国に頼まれるよりも早くから治療法を探っていた。


 でも、1人で、しかも金もろくにない中で続けることは無理だった。


 王国の助けで、膨大な研究費料、研究資料を与えられた。


 研究は瞬く間に進み、僅か1ヶ月で治療薬が完成した。


 でも、遅かった。


 両親は完成する2日前に死んでしまった。


 その時の両親の言葉はハッキリと覚えている。


「幸せになるんだぞ......」


 そう言って、父は死に、母も後を追うように、数時間後に死んだ。


 妾は研究の大成で裕福にはなれた。でも、親を失った。


 身寄りのない妾は、城で学者として生活を始めた。


 闇魔法の開発、数々の病の治療法、妾の才能は、小さき時から勢いを加速させていった。


 やがて、国王が寿命で死ぬ時、王は不老不死の魔法を編み出してほしいと頼んできた。


 無理だと思った。でも、やるだけやった。


 不老不死の魔法は、理論だけは構築できた。でも、実際に使うことはできなかった。


 不老不死の魔法は、発動に生命エネルギーが必要不可欠だった。しかも、1個や2個ではない、数万という数が必要だった。


 やがて、国王はその魔法を使うことなく死んでいった。


 その後、死者蘇生の魔法を研究しだした。


 これも、理論だけは構築できた。


 ただ、やはりというかなんというか、生命エネルギーが大量に必要だった。


 理論を考えることは簡単だった。でも、実際に使うことはできなかった。


 妾の研究は止まることを知らない。


 やがて、滅龍の法、滅魔の法、滅神の法といった最強の魔法を編み出した。


 ただの人間でも、最強の生命体に抗うことが出来る。


 龍と人間の戦争を勝利に導くことができた。


 ただ、その研究の過程で、妾はとんでもない魔法を編み出した。


 滅界の奥義。


 世界を破壊する魔法。


 使用するには、数々の死者の血が必要だった。でも、そんなものは戦争のお陰でそこら中にある。


 この魔法だけは、妾の内に留めておくことにした。


 なのに、創界神(グラン・ウォーカー)は世界の破壊を始めた。


 大地は荒れ狂い、海は氾濫を起こし、世界は滅びを迎えようとした。


 妾は必死に沈める方法を探った。


 そして、創界神(グラン・ウォーカー)の存在に気づいた。


 神様なんて信じるわけがない。でも、その神様が実在し、世界を破壊しようとしている。

 滅神奥義。それを使おうとしても、その神様は姿を見せない。


 妾は諦めて世界を守る魔法を編み出した。


 もちろん、神様の攻撃を人間の魔法で守れるわけがない。


 でも、その神様は破壊をやめた。


 そして、妾を自分のところに連れて行った。


 世界を、自分を壊しかねない存在を近くに置くことにした。


 結局、その世界は争いを続ける人間達によって、事実上の"破壊"が行われた。


 妾が最後の一手として破壊した。


 そして、創界神(グラン・ウォーカー)が再生した。


 また長い時を経て、その星は小さな文明が発展してゆく。


 妾は長い時を創界神(グラン・ウォーカー)と共に過ごした。


 何十年も経って、ようやく自分が不老不死であることにも気づいた。


 でも、不思議なことに嫌だと思いはしなかった。


 なにせ、人間とは関わらない。自分より先に死んでゆく者達を見ない。その時は深く考えはしなかった。


 死なないことの苦しさを知らなかったから。


 そして、5兆と少しの時が経ち、妾は再びこの世界に降り立った。


 そこで、初めて自分の不死の力を痛感した。


 何年経っても、妾は13の姿。


 見た目はガキなのに、中身は常人を逸している。そのことに、何か、嫌な思いとかを感じることはなかった。


 そうした、新しい生活で、妾はたくさんの人と関わった。


 みな、優しい奴らじゃった。


 でも、みな、歳を重ねる度に体が成長していき、50年60年経ったあたりで死んでゆく。


 妾の体は、13の時から止まったままじゃった。


 死ぬことができない。知りあった者等は妾を置いて死んでいってしまう。


 耐えられなかった。自分も死のうと、腹にナイフを刺したこともある。


 死ねなかった。傷は一瞬で治り、妾に不死の力を自覚させた。


 それから、何年もの時が経った。


 知りあった者等が死んでゆくのは、もう仕方ないとして諦めがつけれるようになった。


 人の死に、何も感じなくなった。


 1人、また1人と妾を置いてゆく中で、妾は考えることをやめた。


 人の死について考えても、意味がないということが分かった。


 人はなぜ、50年60年程度しか生きられぬのかと考えたこともある。


 昔、編み出した不老不死の法、死者蘇生の法。それらを試す気は起きなかった。


 なぜかは分からぬが、全部無意味な気がした。


 そうして、また何年もの時が経ち、妾は1人の少女と出会った。


 彼女は、妾と同じ年頃の姿をしていながらも、海賊として世界中を旅しておる者だった。


 彼女は、エルフであり、200年300年程度なら簡単に生きれる存在じゃった。


 彼女は、海賊とは言うても、ただの成り行きでなっただけじゃった。


 他に、3人の男が彼女のお守りとしており、何か、大切な宝石を探しておると言うっとった。


 グランストーン。


 かつて、この世界が誕生した際に天から降り注いだ神の石だと言う。


 宝石探しなんぞに興味はなかったが、その名に興味はあった。


 グランは妾から切っても切り離せない名じゃった。


 しばらく、その海賊と行動を共にした。


 この世界のあらゆる場所を見て回った。


 そして、目当ての宝石は様々な困難を潜り抜けた先で手に入れることが出来た。


 彼女は、その宝石を見つけた晩、妾にこう言ってきた。


「海賊としてこのまま一生を終えるのも良いのですけど、私、ギルドっていうのを作ってみたいんです。かつて、私の故郷にそんなものがありました。義賊......みたいなものですかね?とにかく、あの時のギルドはとても楽しそうでした。私も、そんなギルドを作ってみたいなぁって。どうでしょうか?」


 いつからか、妾は彼女の行動一つ一つに惹かれていった。


 妾の体と同じくらいの年頃なのに、やけに行動力がある。


 やがて、彼女と妾とお守りの3人でその時の国で初めてのギルドができた。


 歴史の流れで、1度は消えてしまったギルドじゃが、今でもそのギルドは残っておる。


 名を、『グラン・メモリーズ』と呼ぶ。


 初代マスターであり、考案者の『ゼラ』が作り、妾が名を付けたギルド。


 彼女の言う通り、数年とするうちに、賑やかなギルドとなった。


 彼女は、死を迎えるその時まで、ずっと妾の傍にいてくれた。


 彼女は、元々幼少病というのにかかっておった。


 妾が気づいた時には、もう治療法を考える時間が無かった。


 そして、妾の初めての『友達』は笑顔でこの世を去った。


 ここまで親しくした人間は久し振りであった。ショックはかなり大きかった。


 それでも、妾は2代目ギルドマスターとして、邪龍になるその日までゼラの意志を受け継いだ。



 何年もギルドマスターとして過ごすうち、妾のことを徹底的に調べ尽くしたバカが現れた。


 初めは、そいつが嫌いじゃった。


 出会ったその日にいきなりプロポーズしてくるような奴じゃった。


 頭を冷やさせる意味で、最上位を超えた氷魔法をぶっかけてやった。


 男は簡単にやられた。


 でも、次の日もその次の日も、何度も何度もアプローチを仕掛けてきた。


 全部、冷たく突き放したのに、妾の力を全部話してやったのに、そいつは離れなかった。むしろ、話してからは、かなり優しくなった。


 気づかんうちに、妾は奴の『優しさ』に浸かってしまっていた。


 奴は優しかった。妾の傍にいてくれた。寂しい妾の傍でずっと......、ずっといてくれると思っていた。思ってしまった。


 でも、奴も死んでしまった。


 寿命でも病気でもない。


 "戦死"だった。


 全てが憎くなった。彼を奪った戦争が憎かった。争いを続ける人間が憎かった。この世界が憎くなった。


 妾は、邪龍になった。


 内なる闇の力を抑えきれず、その身を化け物へと変えてしまった。


 破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊。


 全てを壊すことだけを考えていた。


 この世界を壊し、妾自身も壊すために......


 でも、そんな妾も長くは続かなかった。


 聖龍エクセリア。彼奴の登場によって、妾の暴走は終息を迎えつつあった。


 でも、この体は死ぬことができない。


 妾は、邪龍の祠と呼ばれる、人間が一切近づけない場所に封印された。


 何年も、何十年も、何百年も......。


 やがて、意識が徐々に戻りつつあった時に、アポカリプスは現れた。


 奴は龍を滅する者。当然、邪龍である妾も破壊しに来た。


 妾を殺すことなんて無理じゃと言った。でも、彼奴は殺すと言った。なら、どうせ死なないのだから、せめて記憶でも消してくれと言った。


 彼奴の攻撃、いや、破壊によって、妾は記憶ごと死んだ。やっと、死ぬことができた。


 6兆年も背負った悲しみを全て忘れられた。


 なのに......


「なんで、妾は思い出してしまったのじゃ......」


 忘れられたのに、なぜかは分からないが、生まれ変わって新しい生活を送ることが出来たのに......


「なんで......思い出してしまったのじゃ......」


 分からない。邪龍の力を再びこの身に宿してしまったのが原因だろうか......


 分からない。記憶なんて、そんな曖昧なもの妾には分からない。分からなくなってしまった。


「なあ、教えてくれ。妾は、どうすれば良かったのじゃ?」


 妾を暖かく抱きしめてくれる男に問いかける。


 思えば、この男もこっちが拒否をしているのに、諦めずここにやって来た。


 そして、優しい。


 あの人に似ている。似ているからこそ、近くに置いときたくなかった。


 もう一度、同じように彼を失えば妾が壊れてしまう。だから、近くに来てほしくなかった。優しくしないでほしかった。ほっといてほしかった。なのに......


「なんで、お主はこんなにも優しいのじゃ?」


 男は、答えを言う代わりに、ただ頭を撫でてくるだけだった。


「教えてくれ。妾にはもう、何もわからぬ」


 教えてほしい。


 妾は、どうすれば"幸せ"になれたのか。

 妾は、どうすれば"暴走"せずに済んだのか。

 私は、どうすれば"あなた達"の元に戻れるのか。


「俺は、馬鹿で阿呆で、女の子も泣かせちまうどうしようもねえ奴だ」


 男が、ゆっくりとそう話す。


「そんな奴の答えで良いなら教えてやる」


 その言葉に、小さく頷く。


「お前は、どうしたかったんだ?」


 どうしたかったのか。それが分からないから聞いているのに......


「お前は、なんで、自分が暴走しちまったのか、分かるのか?」


 分からない。


「お前は、俺達と"一緒"にいたいのか?」


 一緒にいたい。いたい。けど......


「そうすることは、できない......」


「つまり、無理だけど俺達と一緒にいたいということだな?」


 小さく頷く。


「なんで、お前はそうやって何もかもを我慢してるんだ。そんなんだから幸せになれねえし、暴走しちまう。言いたいことをハッキリと言わねえ奴はそんな悲しい人間になっちまうんだ。お前が神様だかなんだか知らねえが、元は"人間"なんだ。そうなって当たり前だ」


 彼の言葉は、当たり前のことで、私が認めたくなかったこと。


 私は人間じゃないから、幸せになれない。

 私は言いたいことを言えないのではなく、言いたいことがない。


 そう考えてきた方が楽だった。


 でも、彼の言うとおり、私は人間だし、言いたいことも山ほどある。認めざるを得なかった。


「認めろ"人間"。俺達は弱くて、ちっぽけで、守りたいと思った奴も、助けたいと思った奴も、何もかもを1人じゃ守ることの出来ねぇちっぽけな"人間"だ。でも、1人じゃ弱くても、2人、3人、もっと多くの数が集まれば、無限の可能性が広がる。お前の不死がなんだ。お前の不幸がなんだ。お前の闇がなんだ。全部、俺達で壊してやる」


 彼の言葉は、私が今まで彼等に向けてきた言葉のようで、冷たいものだった。でも、彼の言葉には、"優しさ"があった。


「言いたいことを言っちまえ。なんでも聞いてやる。俺達に出来ることなら全部やってやる。願いを言え。お前には、そのための口がついてるはずだ」


 彼が、私の顔を正面から見据えて、そう言う。


「妾は......私は......」


 願いなんて、昔から決まっている。

 6兆年前に、父から言われた言葉が、私の求める物。


「幸せに......なりたかった......。あなた達と、ずっとずっと一緒に......いたかった......」

次回予告

第4章10 【俺が助けてやるって言っただろ?】

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