第4章7 【戦いの時】
「クソッ......」
後悔先に立たずという言葉があるように、どれだけ後悔したところで、時間は巻き戻らない。
ヨミあたりの力を借りれれば、時間を巻き戻すことが可能だろうが、そのヨミはもう未来に帰った。
「おい、ヴァル!」
ふと、後ろの方から俺の名前を呼ぶ声がする。
「どうした、ヴェルド。そんなに慌てて......」
「急いでギルドに帰るぞ」
ヴェルドが切羽詰まった顔でそう言う。
「何か、あったのか?」
「何かどころじゃねえ。どこからやって来たのか知らねえが、街中から教徒達が攻撃を仕掛けてきた」
「は!?邪龍教の奴らが?なんで?」
「俺の方こそ聞きてえよ。話じゃここに来るまで少なくとも1週間程度はかかるって聞いてたのによ」
ヴェルドの方も大分困惑している。
「とにかく、急いでギルドに戻るぞ。街は今、フウロ達が守っている」
「あ、ああ......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おい、ライオス!奴らが来るのにまだ1週間程度は最低でもかかるんじゃなかったのか!」
「その通りだよ!」
「じゃあ、なんで奴らがもうここまで来てるんだ!」
「俺の方がそれを知りてえよ!」
フウロとライオスが言い合いをしながら、襲ってくる教徒を倒していく。
しかし、倒されたはずの教徒は、その傷を残すことなく復活してくる。
「ご主人様。あの者達、どれだけ攻撃しても意味がございません」
目の前で刀を振るうカグヤがそう言う。
殺すことは不可能、地面に串刺し状態も不可能、縛り付けるのも不可能。
考えても考えても、何も方法が思い浮かばない。
一応、街を守るために、極力教徒を街中に入れないようにしているのだが......
(街中に入られるのも時間の問題......。いや、もう既に街中から現れた奴もいる。防衛線なんてどこにもない)
「おい、セリカ!」
ヴェルドとヴァルがやって来た。
「戦況はどんな感じだ?」
ヴェルドが問いかけてくる。
「はっきり言って、非常にまずい状況。ここは私達でなんとか抑えられてるけど、街中にも既に教徒達が入ってしまっている」
「状況は最悪か......」
「街中の方はグリード達がなんとかしてくれてるはず......。私達はこれ以上教徒を街中に入れないように頑張っているんだけど......」
「突破されるのも時間の問題か......」
ヴァルがそう言う。
「うん。奴らを殺すことができれば状況は変わるんだけど......」
「一応、奴らは殺すことができる」
「「 本当!? 」」
「ああ。ネイが言っていた。完全な不死の力ではないから、数十回殺せば死ぬって」
「数回じゃなく、数十回なんだな......」
「数回程度で殺せるのなら、もう殺せてるだろ」
「そうだろうな。ただ、攻撃し続けることに意味はあるんだな?」
「ああ。いつになったら殺せるのか分からねえが、奴ら個人はそこまで強くない。無理ではないと思う」
「......ネイを使うことは、できねえのか?」
それは思った。ネイりんを連れ出すことができれば、状況はかなり良くなるはず......。
しかし、それを聞かれた途端、ヴァルの顔が暗くなった。
「すまねえ。もう、あいつを外に連れ出すことは不可能だ」
「......何か、あったのか?」
「俺が悪い。あいつのことを真剣に考えてやれなかった俺が悪い。あいつを、泣かせちまった」
「何が......あったの?」
「気づいてやれなかったんだ。あいつが外に出たくない理由を。なのに、俺は無責任なことを言っちまった......」
何を言ったのだろうか?それが気になるところではあるが、今は詳しく聞いている暇がない。
「お前ら、無駄口はそこまでにしろ。第2波が押し寄せてきている」
フウロがこちらにやって来てそう言う。
「どんだけ数があるんだよ......」
遠目から見ても、数は1万を超えているだろうか?それに、街中にもまだまだ出続けているとすれば......
「通りで奴らの殲滅力が高いはずだ」
邪龍教が、なぜたったの一晩で小さな街から大きな都市まで血の海にできたのか......
その答えは簡単、数の暴力だ。それに、不死の力も併せ持っているのだから大都市であれど関係ない。
こんな小さな街だと、後30分もあれば簡単に殲滅される。
「殺せれないっていうのが厄介すぎる......。せめて、動けない程度にまで傷を残してくれないもんかね」
「イーリアスの応援は、後4時間もすれば来るらしい」
「4時間も耐えれるわけねえだろ」
「そうだな。ただ、ラストがこちらに向かって一人でやってきているらしい。奴が前線に加わればーー」
「4時間程度は耐えれるかもしれない、か」
「ラストは一人で来ようとしてる。30分もあれば着くだろう」
「そんなに待ってたらとっくに殲滅されてるぞ」
とにかく、時間が足りない。
それに、応援が来たところで状況が良くなるとは思わない。
「とにかく、これ以上街に入らせねえようにすりゃ良いんだろ?」
ヴァルが拳を鳴らしながらそう言う。
「とりあえず、10分もしたら騎士団の連中がやって来る。それまで持ち堪えるぞ」
「「「 おう 」」」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「グランドブレイク!」
「ウィンド!」
グリードの地属性攻撃、エフィの風属性攻撃が教徒達に直撃する。
「......」
しかし、教徒達は何事も無かったかのように、動き出す。
「お姉ちゃん、こいつら改めて思うけど、無理だよ」
レラがそう言ってくる。
「お前ら!諦めるでない。奴らはここより先にはまだ入っていない。ここが最終防衛ラインだ。なんとしてでも守りきれぃ!」
マスターがそう叫びつつ、風・地・木属性の合わせ技で突破しようとした教徒を吹き飛ばす。
「お姉ちゃん、後ろ!」
レラが叫ぶと同時に、教徒がナイフを振り上げて襲ってきた。
「ふんっ!」
龍の姿に変えた右腕で殴り飛ばす。
邪龍を見様見真似で再現してみたが、案外形は上手くできている。
しかし、やはりというかなんというか、あの邪龍が使っていたような闇魔法は使えなかった。
マナの量、知識量、経験量、その他色々なことが組み合わさってあれができるのだろう。
(やっぱり、ネイは特別な子だったのかしら)
闇魔法を始めとした数々の高威力の魔法。あれを再現できれば、教徒達を倒すことができるかもしれない。
ネイは、ヴァルが少しずつやってくれてるらしいが、流石に今の状況には間に合わないだろう。
「できることなら、少しずつ前線を上げていきたいのだが......」
マスターの言うように、ちょっとでも前線を上げていきたい。そうすれぱ、少しでも更に奥に入られるのを防ぐことができる。
それに、上げ続けることが出来れば、セリカ達と一緒に戦える。
でも、現実はちょっとずつ押されていっている。騎士団の到着まで後10分程度。なんとか抑えてみせる。
「お前ら、儂があの魔法を使う。合図したら横に散れ」
「まさか、『記憶の波動』を使うつもりですか?」
「その通りじゃ。何、今更儂の体に負担がかかったところで支障はない。じゃから、そうして敵が怯んだ隙に前線を押し上げまくれ」
「分かったよ。爺さん。あんたの努力は100倍で返してやるからなァ」
少人数だが、セリカ達のところまで上げれるだろうか?
「ミラ、また不安そうな顔してやがんなァ。心配するな。やれるかどうかじゃねえ。やるんだ。どうせここを突破されれば終わりなんだ。賭けに出た方がいいに決まってるだろォ?」
グリードの言う通りかもしれない。
今の私達では、ここを抑えきることが不可能に近い。なら、いっその事賭けに出た方が良いという考えは間違っていない。
「マスター。私も、あの姿に変えて戦います」
自身の姿を、侵略者との戦いの時に得た、『ユニコーン』の姿に変える。
「マスター、準備は万端です。いつでもやっちゃってください」
ややダミのかかる声でそう言う。
「......光れ、神の記憶よ。『記憶の波動』」
マスターが両の手で輪を作り、そこから眩い光が放たれる。
「......」
教徒達が次々に目を押さえて倒れる。
この魔法は、直接相手を攻撃するわけではない。目を潰し、光を奪うことによって、行動を制限する。
「今だ、やれェ!」
怯んだ教徒達に向かって、一斉攻撃を仕掛ける。
「グリード、こっちに向かって地属性の魔法を!」
「......よく分からねえが、やりゃあ良いんだな?グランドブレイク!」
「リフレク!」
グリードの攻撃を、鏡に当てて反射で教徒達に放つ。
鏡は、幾枚にも重なっており、何倍にも威力を増加させて攻撃をする。
「いっけぇぇぇぇぇ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「炎龍の鉄砕!」
「氷結の刃!」
「爆炎剣!」
「月光・ムーンライト」
「放電!」
5人で一斉に教徒達が溜まっている場所に向けて攻撃する。
「「 チッ、やっぱダメか...... 」」
これで、通算18回目。教徒達は死ぬどころか、疲れすら見せない。
「王国騎士団、ただいま参った!」
ようやく、騎士団が駆けつけてきたが......
「遅いぞ。何昼寝でもしてたんだ。こちとら、かなりの負傷者が出ているのだが」
ライオスが感情の籠っていない声でそう言う。
「すまない。これでも我々は全速力で駆けつけてきたつもりだ。それに、街中にいた教徒共は全員ここまで押し上げてきた」
騎士団の後ろには、ミラ達がいた。
「雷剣・鳳雷の陣」
物凄い雷が、教徒達へと降り注ぐ。
「悪い。俺様も全速力で駆けつけてきたつもりなんだがな」
ラストがカッコつけで剣を肩に乗せてそう言う。
「安心しな。クロム達も後10分程度でやって来れる。それまで、できる限り殺し尽くすぞ」
「殺すって、お前奴らの力をーー」
「知ってるよ。50回殺せば死ぬんだろ?」
ヴェルドの言葉を制してラストがそう言う。
「50回?なんで、そんな数が分かるの?」
「あの聖王様が言ってたんだよ。50回斬ったら死んだって」
まず、50回同じ奴を斬れたことに驚きだが、あの王様ならやっても不思議ではない。
「いくぞおめえら。俺様があいつらの動きを縛ってやるから、殺し尽くせ」
ラストの雷魔法は凄まじい。
あれを浴びた教徒は、未だに動き出せてる様子がない。
「いけ!お前ら!騎士なら騎士らしく、この街を守ってみせろ!」
騎士団長の一声で、集まった騎士達が一斉に突撃する。
「お前ら、俺が雷撃つ時は合図してやるから、上手いこと避けろよ!死んでも責任は取らねえからな」
「責任なら、教徒達に取らせれば良いでしょう」
「それもそうだな」
「ギャーッハハハハハ」
「ガーッハッハッハッ」
あの、こいつら戦う気ある?というか、ラストのあの笑い声はできることなら聞きたくないんだけど......
「ヴァル。お前には話がある。ついて来い」
こんな状況だというのに、ヴェルドがヴァルを連れてどこかに言ってしまった。
「セリカ、あいつらはあいつらで話があるんだ。私達は、目の前の敵を止めることに専念しよう」
「う、うん」
それもそうだ......。待って、今、なぜフウロは『止める』という表現を用いたのだ?ラストの攻撃で怯ませられる。騎士団の数で数十回でも殺せれる。なのに、なぜ『止める』なのだ?
「セリカ、残念だが、私達にあいつらを殺し尽くすことは不可能だ。周りを見てみろ」
フウロの言われた通り、辺りを見渡してみる。
魔獣が、大量に構えていた。
「エフィが呼び出したものではない。前に、山賊が魔獣と共にイーリアスを襲うという事件があっただろ?」
確かに、そんな事件もあった。
「まさか、あの時の魔獣って......」
「帝国と邪龍教、帝国と山賊が繋がっていたんだ。それくらいの可能性はある」
敵は邪龍教だけではない。これまた、突如現れた魔獣も、私達だけに攻撃をしてくる。
「セリカさん、あの魔獣さん達、私の力ではどうにもできません」
エフィがかなりの焦りを感じた声でそう言う。
「あの魔獣、私達が出会った森での事件と同じです」
「同じ?どういうこと......」
「あの魔獣さん達、倒しても倒しても、無限に湧き続けますし、私の説得も聞かない状態なんです。それと、近くに丸型の瘴気団も現れたらしいです」
なんてことだ......。その瘴気団を壊すか、魔獣を作り出している元凶を殺さない限り、魔獣もある意味不死というわけか......
「セリカ、私は瘴気団の発見された場所に行ってくる。死ぬなよ」
そう言って、フウロは教徒達の頭上を飛び越えて行った。
まずい、状況が良くなったと思ったのに、更に悪い方向に進んで行っている。
無限に湧き続ける魔獣、50回も殺さないと死なない教徒。それに、薄々感じていたことがあるのだが......
「多分、敵の中に、グランメモリを使う奴がいると思う」
確証はないが、この魔獣を作り出せれるのは、ディランが使った『モンスター』のメモリだけ。なら、それと同じか、似たようなものを持っている人物がいるはずだ。
「ご主人様。恐らく、メモリを持っているのは幹部だけではありません」
カグヤがこちらにやって来てそう言った。
「教徒の1人を殺せれました」
そう言いながら、カグヤが教徒の死体を見せてくる。流石だ。
「この教徒、『屍』のメモリを持っております」
「嘘でしょ......」
「教徒が死なないのは、何も不死の力だけではありません。このメモリが奴らに更なる生命力を与えているのでしょう」
ダメだ。勝ち筋が見当たらない。どうすれば......
次回予告
第4章8 【助けてと叫んだ】




