第4章2 【警告の時】
「あ、ヴァル起きた?」
俺の顔を覗き込むセリカがそう言う。
「何があったか、覚えてる?」
何があったか......確か、ネイが世界の書庫にいて、連れ出そうとしたら、わけのわからない闇魔法を喰らった。
「おーい、セリカー。ヴァルの野郎は目ェ覚ましたかー」
ヴェルドが扉を開けて入ってくる。
「一応、起きたみたいだけど......」
「そうか。そんで、ヴァル。お前は、なんであんな場所で倒れてやがったんだ?」
「倒れてた?どこで?」
「チッ、そんなことも覚えてねえのかよ......。まあいい、ざっくり説明すると、お前は町外れでぶっ倒れてたところを、城帰りの王子様に見つかったんだ。全く......ネイが死んで、そう日も経ってねえのに何をしてたんだか......」
「ネイ......そうだ、ネイだ!」
「ど、どうしたんだよ、急に......」
俺が急に起き上がったせいで、2人とも面食らったような顔をした。
「あいつがいたんだ!」
「は?何言ってんだヴァル。あいつは死んだはずだろ。俺達の目の前で」
「そうだ。だけど、あいつがいたんだ。悲しそうな顔をしたあいつが......」
「落ち着けヴァル」
ヴェルドに宥められるように肩を押えられる。
「お前、変な夢でも見てたんだよ。あいつが生きてるわけねえだろ。お前もその目でハッキリと見たはずだ!」
「ああ見たさ。でも、あいつがいたんだ。行かねえと......」
「あ、ヴァル待ってー!」
勢いよく部屋を飛び出した俺に向かって、2人が何か言っていたが、よく聞き取れなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はぁ、全く、お騒がせな奴じゃったな......」
そう言いながら、床に散らばった本を棚に戻していく。
「ヴァルか......」
確かに、彼は良い人だったかもしれない。でも、妾をその器に収めきれる者ではない。
「ちと、本気でやりすぎたかのう......」
出来る限り手加減はしたつもりだったが、こんなにも本棚を荒らしてしまった。死んでいなければいいのだが......
「まあ、そんなの妾には関係の無い話じゃ」
人間と関わるとろくな目に遭わない。それは、ずっと昔に学んだこと。
どれだけ良い人だったとしても、最後には様々な形で裏切ってくる。
もう、涙を流したくはないから人間とは関わらない。そう決めたのに......
「ネイ!」
「出ていけ!」
どうやってるのかは分からないが、この書庫に上がり込んできたヴァルを撃ち払う。
また本棚を荒らしてしまった。どうにも加減の仕方が分からない。一応、フィアから滅界奥義まで分けれるのだが......
『邪龍・フェノン』
片付けをしている時に、一冊の方が目に止まった。
「忌々しい記憶じゃ。これじゃから人間とは関わりとうないというのに......」
人間と再び関わったのがフェノンという、新しい人生だった。
記憶は残っていても、それなりに楽しい日々を送れると思っていた。
「彼奴に自惚れるなとぬかしたが、妾も自惚れておったな......」
フェノンの本を棚に戻しながらそう言う。
「さて、扉に鍵もかけたことじゃし、ゆっくり読書でもーー」
「ネイ!話をーー」
「出ていけ!」
全く、ゆっくりしておられん。というか、どうやって入ってきた......鍵はかけたはずなのに......
「まあ、入ってくれば、その度に打ち返せばいいだけの話か」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「クソ、あいつ俺の話を聞こうとしやがらねえ......」
2回ほど、あの書庫に足を踏み入れられたが、すぐに追い返されてしまった。
「おい、ヴァル。こんなところで何やってんだ」
後から追いかけて来たヴェルドが、俺の肩を掴んでそう言う。
後ろにはセリカもいるし、なぜかフウロまでいる。
「あのなぁ......ネイは死んだんだよ。お前がどう思おうが、その現実は変わらねえ。いい加減、諦めろよ」
「うるせぇ!見つけたんだよ!」
「夢か幻でも見てたんじゃねえのか?」
「そんなわけねぇ。あいつは、ハッキリと俺の前に現れたんだ......」
「とりあえずヴァル。クロムが来ている。話はそれからにしよう」
「クロム?」
「ああ。なんでも、邪龍教に関しての話があるそうだ」
「そう......か......」
今入ってもまた追い返されるだけだ。それに、時間はたっぷりある。
クロムの方を優先するか......
それにしても、ネイはなぜ、ここまで拒絶するのだろうか......。記憶が戻った。6兆年分。スケールが壮大すぎてよく分からない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おい、クロム。ヴァルを連れて来たぞー」
ヴェルドが扉を開けながらそう言う。
「遅かったな」
「仕方ねえだろ。こいつ、本気で走ったら追いつけねえんだし......」
「そんな奴をよく捕まえられたな」
「ああ。森の中で目ェ覚ましたまま倒れてたから楽だった」
「お騒がせな奴だな。まだ、ネイが死んでからそんなに日も経っていないと言うのに......」
「悪かったな。お騒がせな奴で。俺にだって色々とあるんだよ」
ヴァルが不機嫌な様子でそう言う。
「お前、まだネイのことを根に持ってんのか?」
「いたもんはいたんだ。ネイは生きている」
「ちょっと待て、どういうことだ?」
ヴァルとヴェルドが喧嘩を始めそうになるところを、クロムが手で制する。
「こいつ、ネイを見たとか言うんだよ。あいつは、確かに俺たちの目の前で死んでいった。生きてるわけねえだろ?」
「それでも俺は見たんだ。言葉も交した。拒絶されちまったけど......」
「難しい話だな。ネイが死んだのは間違いようのない話だが、ヴァルが見たネイも気になる。ただの夢、ってわけでもなさそうだしな」
「はぁ!?こいつの話を信じるのか!?」
「いや、全部が全部信じるわけではない。しかし、邪龍・フェノンは殺しても死なない奴だ。なのに、なぜ、自分の攻撃では死ぬことができる?無意識に発動する再生力だ。死んだと思って生きてても不思議ではない」
「お前それ、自分の契約龍否定することになるぞ」
「いや、この話はエクセリアの方からしてきたんだ。彼女も言っていたさ、『自分で言っといてなんだが』って」
「エクセリアそんな喋り方しねえだろ」
「そこは気にしないでくれ。それで、話が脱線してしまったが、今日はお前らに用があって来た」
「用もなく来る時なんてなかっただろ」
「まあ、そうなんだが。今回のは難しい話ではない」
「邪龍教関係だったら許さねえぞ」
「お前らは本当に勘がいいな。その通りだ」
「なんでお前って奴は俺達の予感をことごとく当てに来るんだ」
ヴェルドが笑いながらそう言う。
「ヴェルド。今のは笑うところじゃない」
「仕方ねえだろ。もう、ここまで来たら呆れを通り越して笑えてくるよ」
「そんなに俺の話が面白かったか。まあいいが、お前達に伝えたいことってのは、邪龍教の生き残りに関する話だ」
クロムが急に真面目な顔になってそう言う。
「今のところ、ラグナロクとグランアーク、それとイーリアスの各地で邪龍教の生き残りが悪さをしている」
「その悪さのレベルってどんくらいだ?」
「惨殺、略奪、放火、その他諸々だ。しかも、全部にかなりの計画性を感じる」
「邪龍のためならやりたい放題ってわけか......」
「そういうことだろうな。いや、もしかしたら最後の悪足掻きなのかもしれないが、たったの1週間でかなりの被害が出ている。ラストもこれにはお手上げだったな」
ラストか......。なんだかんだで良い人だったな。
「討伐しようと思っても、奴らを殺すことが出来ない。かと言って捕獲しようにも難しすぎる。俺達もお手上げ状態だな」
「その聖剣エクスカリバーで倒せれねえのか」
「いつから俺の剣は伝説級の神器になったんだ」
ヴェルドのボケに対してクロムがちゃんとツッコミの役割をしている。この王子様、なんでもできーー
「セリカ。お前今変なこと考えてただろ」
ヴァルにそう言われた。
「その話は置いといて、というかなんでそんな話になったのか分からないが、それはそうと、お前らに頼みたいことはーー」
「邪龍教の生き残りの討伐か?お前のその剣でも無理なら俺達にも無理だよ」
「分かっている。仕事と言うよりも、警告の方が近くなる」
「?どういうことだ?」
「邪龍教の生き残りが反乱を起こした場所を地図に書いてみたんだが......」
そう言って、クロムが机の上に地図を広げる。
「あれ?なんか、変な陣が出来上がってきてない?」
「「 確かに...... 」」
ヴェルドとヴァルの声がハモった。
「気づいてくれたか。その通り、奴らの計画性はここまで壮大になっている。これだけ大きな陣があれば、結構なことができるだろうな」
「この赤色の印は何?」
「陣を完成させようとしたら、そこの2つだけ、まだ何も起きていない。いや、これから何かが起きる場所なのだが......」
2つの赤い印は、丁度対角線上になっており、1つはイーリアスとラグナロクの国境辺り、もう1つは......
「私達の街?」
「そうだ。位置的にこの街にも奴らがやってくる危険性がある」
「それを伝えに来たのか......」
「隠す必要はないだろう。それに、話しておかないとお前らが死ぬ」
「そうだな。ありがとよ。ところで、ずっと気になってたんだが、アランはどこに行った?」
「あいつには、ラストのところに行ってもらっている。色々と重なって奴も大変だろうが、伝えるだけ伝えとかないとな。帝都は遠いいし、それに、この後城に行く用事もある」
「やっぱり、忙しそうね......」
「ああ全くだ。全部投げ捨てて剣を振っていたいよ......」
このギルドの男全員にも言えることだが、お前らは暇があったら体を鍛えていたいのか。もっと休め。そんなんだから......
「そんなのだから、体を壊すんだろ?分かってるさ」
「ねえ、クロム。あなたも心理魔法使えるの?」
「いや、俺にはない。ただ、お前らの言いたそうなことは顔でなんとなく分かる。大体、悪態をつかれる時なんだが......」
ああ、確かに顔によく出る。
「そんなわけだ。それで、時間もあるし、俺はネイがいたって話の方を詳しく聞きたいのだが......」
「だから、それはこいつの妄言だって言ってんだろ」
「例えそうだとしても、ヴァルが妄想だけでそんな話をするとは思えない。何があったのか、詳しく話してくれるか?」
クロムがヴァルの方を向いてそう言う。
「1から話さねえと分からねえから話すけどさ......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ーーというわけだ」
「「「 ごめん、何言ってるのか全然分かんなかった 」」」
俺の話を聞き終えたみなの第一声がそれだった。
「俺だって分からねえよ。でも......」
「あいつはいた。それだけは確かだってことか......」
クロムがそう言う。
「ああそうだ」
「それで、お前はネイを引きずり出そうとして何回もやられたのか......」
ヴェルドがそう言う。
「何回もではないけど」
「でも実際、3回もやられてんじゃねえか」
それには何も言い返せれない。
「とりあえず、あいつが生きているってのは信じてもよさそうだな」
「俺達は見てねえから完璧にってのは無理だけどな」
とりあえずは信じてくれたか......
「邪龍教徒を殺せるのはあいつだけ。でも、あいつはその、ワールドアーカイブだったか?そこから出てこないし、出てくる気もない」
「時間をかけて、俺がゆっくりと外に出るよう説得してみせるさ」
「それは構わないが、邪龍教のことを忘れるなよ」
「分かってるって」
「......まあいい。そろそろ時間だ。俺は城に向かう」
そう言って、クロムはギルドを出ていった。
「ネイりんが生きてる......か」
「なんだ?まだ信じてねえのか?」
「いや、信じてないわけじゃないし、むしろ信じたい。けど、ネイりんがそんな性格になっちゃったのって、きっと......」
「私達のせい、だろうな」
フウロがセリカの言葉を引き継いだ。
「心が見えるあいつにとって、私達の感じてることは些細なことでも少しずつダメージを与えていった。そのせいで、あいつは自害を選んだ。でも、生き残ってしまった。死ねない体だから。もう、傷つきたくない、だから私達と関わらない道を選ぶ。至極当然な話だな」
「いやそれだけじゃねえ。あいつは、前世が6兆年生きてたってわけの分からねえ話もしてきた」
「「「 6兆年!? 」」」
「俺にだってよく分からねえよ。でも、そんだけ長い間生きてたら、かなりの苦しみがあるはずだ。それで、その6兆年の中で何かがあって、邪龍・フェノンになった」
「よく分からねぇからネイはお前に任せる。みんなもそれでいいだろ」
あ、匙投げたなこいつ。
「う、うん、ヴァルに任せとこう」
あまり、人のことは言えないが、全員考えるのを放棄するな。
まあいいや。明日から、あいつのところに攻撃を喰らいに行くか......
次回予告
第4章3 【我慢の時】




