第3章28 【滅界の時】
「作戦は今の通りだ。全員、理解したな?」
その質問に全員が首を縦に振る。
いよいよ、決戦の時がやって来た。復活した邪龍が今、聖龍の墓場を目指して進軍を開始したとの知らせが入った。
「俺を守れと言うわけではないが、俺が死んだら全員そのまま死だと思っててくれ。そうならないように、俺は生き残ることを優先するが......」
「生き残らねえといけねえ奴が一番危ないところに立つのもどうかと思うぞ」
ヴェルドがそう言う。
「分かってはいるさ。あまり無茶はしないようにするが、邪龍に本格的にダメージを与えられるのは俺だけだ」
「お前がタイマンで邪龍とやれるってんなら、お前だけに任せて俺達は昼寝してるさ」
「お前らの仲間意識はどこに行ったんだ......」
「だが、実際は周りに変な兵が大量に出てくる。そいつらを俺達でぶっ倒さなきゃいけない。全くもってめんどくせぇ仕事だァ」
「なんなら、このまま世界を終わりにしても良いんだがな」
「聖王が言っていい発言じゃねえぞ。お前ら、今のしっかりと記憶しとけよ。これが終わったら、後で民衆に聞かせて回るからなっ」
「そ、それは勘弁願いたい」
漫才でもやってるのか。この2人は......
戦いの前だと言うのに、やけに全員落ち着きがない。いや、世界の命運をかけてるから落ち着けないとは思うのだが。もう少し静かにできないものか......
「クロム、1つ聞いておきたいのだが、邪龍にはどうやって攻撃するつもりだ?あいつは空を飛んでいるのだぞ?」
フウロが問いかける。
「エクセリアの力で邪龍の背に乗る。恐らくではあるが、邪龍の背にはネイ、いや、フェノンが立っているはずだ。奴に攻撃をする。俺達の目に見えているあれは、あくまでただの体だ。本体を攻撃しない限り、ダメージは一向に入らない」
「それは、エクセリアに聞いた話か」
「ああ。昔もそうだったらしい」
あの、見えている体を攻撃しても意味がない。やるなら、上にいるネイを攻撃する。あのネイは未来のネイではあるが、私達のネイではない。そう思えば攻撃することに躊躇いはない。倒せるかどうかは別として......
「ーー出撃は明日の朝、3時頃日の出と共に攻撃を開始できるようにしたい。それと、できることなら、奴を帝国領内で倒してしまいたい。異存はないか?」
「むしろ、もっと早くてもいいのだがな」
フウロがそう言う。
「流石に、これより早いと辺りが暗すぎてよく見えないのでな。この時間が限界だ」
「別に時間なんてどうでもいいだろ。あいつを倒せるのなら何時、どこで倒そうが変わらねえよ」
ヴェルドがそう言う。
「それもそうだな......。あいつを倒して世界の終わりを阻止する。奴を倒したらこの城で思いっきり祝杯を上げよう!」
「「「 おぉー! 」」」
若干、フラグにも聞こえる発言だが、みなの意志を統一するには丁度いい言葉だったのだろう。
ただ、ネイだけが暗い顔をしていたのを私は見逃さなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
馬車に揺られて3時間程度。
思えば、この馬達にもかなり世話になった。後で礼を言っておかなければな。聞いていればの話だが。
目の前には巨大な邪龍がただ1つの方向を見て進軍している。
そして、その上に予想通りネイの姿が見える。
あれを倒せば全てが終わる。長かった邪龍教との戦いもここまでだ。まだ生き残りはいるらしいが、それはこれが終わった後に掃討作戦を実行しよう。
姉さんが目指した平和な世の中も実現させてみせる。争いも差別も貧困も、今の世の中のありとあらゆる問題を解決してやろう。
そのためにも、
「今はあいつを倒すことに集中する。エクセリア、俺達をあの上に連れて行ってくれ!」
『了解しました』
最後の戦いの始まりだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「聖龍・ルイン」
「滅龍奥義・獄炎龍波」
クロムとヴァルがいきなり必殺技に近い技で奇襲を仕掛ける。
「無駄だ!」
ネイは振り向きもせずにそれを弾き飛ばす。
「お前達が来ることは分かっていた。そして、あの忌々しい聖龍を連れてくることも分かっていた」
ネイがこちらを振り返りながらそう言う。
「ここは遊び場じゃない。戦場であり、地獄だ。そんなところに来る覚悟はできているのだろうな?」
「できてなかったら来てねえよ!」
「そうか?後ろにいる小娘はできていないように見えるぞ」
フェノンが後ろにいるネイを指差してそう言う。
「......もう、覚悟はできている。あなたを倒して、私はみんなと......」
「ほう、贅沢な奴だな。お前の味方は誰もいないというのに」
「味方ならいるさ。俺があいつの傍にずっといてやるんだ。あいつは1人じゃねえよ」
ヴァルが自分に向けて親指を指しながらそう言う。
「......私には、何もしてくれなかったというのにか......」
この間の祭壇の時と同じようにフェノンの瞳に怒りが見える。
「全員死ね。ブラックホール」
やはり、フェノンは現代では使えない魔法を使ってきた。
「避けても無駄だ。周りから、お前らの邪魔が入るぞ?」
周りに目線がどこを向いているのか分からない兵が大量に現れ始める。
「エキドナ!」
「爆炎剣!」
「エレキフィールド!」
私とフウロとライオスの3人で第一波を食い止める。
「セリカさん。後ろは私とヴェルド様に任せていてください」
シアラがーー流石に戦場だからかーーいつものアレを自重してそう言ってくる。
「効かん効かん!今の私に聖龍も滅龍の力も効かん!」
フェノンはクロムとヴァルの容赦ない攻撃を全てその身で受け止める。
「ダメージが入らない......」
「昔の私とは違う。聖龍の力も、滅龍の力も、私は破壊する。全てを破壊して、私が頂点に君臨する」
フェノンが両手にブラックホールのようなものを作り出し、ヴァルとクロムに浴びせる。
「ッ......体が......動かん......」
2人とも、ブラックホールに吸い込まれるようにして宙に固定されてしまった。
「これで終いだ。聖王、そして、ヴァル」
フェノンが両手を合わせて炎......というよりも太陽のようなものを作り出し、ヴァル達に向けて撃つ。
「「「 させない! 」」」
当たる直前にネイが止めた。
「お前はいいよなぁ?ヴァルに守ってもらえて、セリカに信頼されて。私はそうじゃなかったというのに......」
「「「 あなたは少し、勘違いしている 」」」
「私が勘違いをしているだと?」
「「「 そう。あなたはヴァル達が私を快く思っていないと言った。それは事実だ。でも...... 」」」
「ヴァルは違うとでも言うのか?他の人間どももそうだと言うのか?違うだろ。あいつらは私が邪龍であるて分かった途端、殺しに来た。凄く怖かった。でも、死ねなかった。私は私をこんなのにした世界を許さない」
「「「 だから壊すってのかてめえは 」」」
「ああそうさ。ジーク。お前も私を守るとか言いながら、結局は何も出来なかったではないか」
「「「 ふざけんな。俺が守ってやるのはお嬢ただ1人だ。てめえなんか守る価値もねえんだよ! 」」」
「そのお嬢と呼ばれていた私を放っておいたのはお前ではないか?未来のお前が私を見捨てた。他の龍王もそうだ。アマツもラナもシズもそうではないか!」
これは、相当闇を抱えてしまっている。フェノンになってしまった世界での私達は何をしたと言うのだ。
「「「 先程の名前。私の名前がないのだが、忘れたのか? 」」」
「ああ?誰だお前は」
「私の名はラヴェリア。この者に仕える龍王だ。そして、貴様と同じ邪龍と呼ばれた者だ」
「ラヴェリア......?知らないな。そんな奴」
ここに来て、ネイとフェノンの間に新たな歴史の違いが生まれている。
「「「 なるほど。ようやく理解できました 」」」
「何が理解できたというのだ」
「「「 大体の歴史は私と同じように進んで行った。しかし、ラヴェリアを仲間にするという歴史があなたには無かった。そのせいで、あなたは5龍王の憑依が行われず、龍王達との絆を確かめられなかった 」」」
「だからどうしたというのだ。それだけでお前と違う歴史に向かうはずがない」
「「「 私が5龍王憑依を行わなければ、あの戦いで皆、負けていた。そして、そのまま私が祭壇へと連れて行かれ、邪龍となる儀式が始まった。それを阻止しようとヴァルさん達は深手を負いながらも、滅界の祭壇へと向かう。そこで、邪龍となってしまった私を止めることができるものは誰もいない。だから、皆、あなたを殺そうとした。違いますか? 」」」
「......違わないな。その通りだ。私はそうして邪龍となった」
まさかのラヴェリアと契約していたことがネイを邪龍にしない道を歩ませた。歴史なんて簡単に変わるとは思うが、そんな契約1つで邪龍になるかどうかが変わるとは......
「「「 あなた。ネイとしての記憶はありますか? 」」」
「ないな。全て忘れたままだ。一応、あいつらの名前だけは思い出した。そして殺した」
「「「 そうですか 」」」
「一体、お前は何を言いたいのだ?」
「「「 あなたが道を踏み間違えたのはあなたのせいではない。それが分かっているのならーー 」」」
「今からこの戦いをやめろと言うのか?残念だが、それは無理だ。どうせ、お前が死んでも私はいなくならないのだろう?歴史がこんなにも変わってしまったんだ。私はパラレルワールドの存在となる。お前らに勝ち筋は無い」
ネイが突然始めた交渉は不成立。元から成功するなど思ってもいなかったのだが、フェノンに余計な油を注いでしまったようだ。
「全員死ね。死んで詫びろ。私はこの世界を許さない。全てを壊して私自身も壊してやる」
凄まじい執念。未来の私達がネイを止められなかったのではない。止める機会が訪れなかった。それが分かっても何も意味が無いのだが......
「邪龍の牙を喰らえ。邪龍の焔を喰らえ。邪龍の雷を浴びろ。邪龍の怒りをその身で味わえ」
フェノンの掌に周りの兵からのエネルギーが溜まっていく。その吸収先は兵だけに留まらず、私達からもマナが吸われていく。
「死ね。『滅界の時』」
フェノンが溜まったエネルギーを私達に向けて放ってくる。
「「「 輝導羅戦幻彩・絆の記憶! 」」」
フェノンのマナ回収から唯一逃れたネイがフェノンの放ったエネルギーを斬りつける。
「耐えれるか?お前ら龍王如きに。お前のような臆病者に......」
「「「 耐えてみせる。これが、私達の絆の力...... 」」」
6色の光が、魔の闇を撃ち破った。
「ほう。少しはやるではないか。しかし、次の攻撃は耐えられるかな?」
フェノンが第2波を仕掛けてくる。
ネイの体は先程の攻撃でボロボロになっている。立つのも難しいほどに。
「さあ、死ね」
ここまで頑張ってきたが、やはり、邪龍の討伐なんて無理だったのかもしれない。
圧倒的な力を相手に、人間は為す術がない。
「諦めるなお前ら!なんのために俺が聖龍と契約を交わしたと思ってるんだ!」
クロムがネイに代わってフェノンの攻撃を受け止める。
「歴史ではこうなっている。『邪龍の人間には為す術なしの攻撃を聖龍と聖王だけは弾き返した』俺は聖王だ。何度も過ちを繰り返してきたが、それでも人の上に立つ者だ。立て、そして、俺が戦いやすいように周りの雑魚を倒してろ!」
クロムの言う通りだ。こんなところで、倒れてる暇なんてない。ネイと笑ってられる未来を作るために、今は......
「サモンズスピリット・ソラ!」
今のマナが少ない状況で、比較的マナの消費が少ないソラを呼び出した。
「俺に任せてろ。セリカ様」
ソラは、そう言うと、周りの兵を地上の方へと殴り飛ばしていった。
「やはり、最後に邪魔をしてくるのは聖王ですか......」
「もう一度、同じ歴史にしてやる。お前は15代目聖王、クロム・ウェル・イーリアスと、かつての聖龍・エクセリアと共に倒される!」
クロムが攻撃を弾き飛ばし、剣をフェノンに向けてそう言う。
「人間が過去の過ちから何かを学ぼうとするように、私も同じことを繰り返すつもりはありません。あなた達、聖王は私の手で殺す」
クロムの背後にいるエクセリアと、フェノンの体である邪龍が睨み合っているような気がした。
人物紹介
聖龍・エクセリア
性別:女 所属ギルド一応、クロム経由でクロム自警団
年齢:約800歳(龍の中では割と若い方です)
身長:完全な姿になれば8m。儀式で現れていた時は3m。
見た目特徴:全体的に白色で、毛の色が青色。額に聖王の紋章がある。
かつて、邪龍・フェノンを初代聖王と共に倒し、今は聖王を継承させる役割を持っている龍。ジーク達の住んでいた時間と若干ズレているため、認識はない。(というか、ラナとシズも知らない)
次回予告
第3章29 【絆の物語】
あと2話.....




