第3章24 【助けて】
「なんで......ネイがもう1人......」
俺の隣にはネイがいる。しかし、目の前にもネイがいる。
「別に2人に分裂したわけじゃないよ?」
そう言われても、疑問が解消わけではない。
「んー、簡単に言うと、私は未来からやって来たってことになるかな?」
未来......つまり、俺の隣にいるネイがこの先あれになる。
「しかし、驚きましたよ。本来の歴史なら、あなたがここで邪龍になる予定でしたのに......何が狂ったんですかねぇ......」
ネイが俺の隣にいるネイに向かってそう言う。
「まあ、なんだっていい。ここからあなたを邪龍にすればいいだけの話ですから」
ネイがより一層腕を抱き締める力を強くする。若干痛いくらいだ。
「さあ、私の元へ来なさい。過去の私。そうして、私と1つになり私達は最強の存在へとなる」
このネイはまだ邪龍になりきれていないのか......しかし、喋り方はこっちのネイと全然違うところを見ると、半分だけ邪龍になったということだろうか?
そして、こっちのネイが邪龍になり、あっちのネイと重なることでかつての邪龍になる。
『まあ、とにかくネイにはあまり負荷をかけるでないぞお主。世界が滅んでは妾も困るからな』
ツクヨミが言っていた言葉が脳裏を過る。
あっちのネイは負荷をかけすぎた挙句、邪龍となる道を選んだ。なら、こっちのネイは......
「さあ、私を選びなさい。あなたには、邪龍の力が目覚めている。その右目がその証拠です」
薄々気づいていたが、ネイの右目は金色に光っていた。
「............」
「気づいているでしょう?あなたの周りにいる人達はあなたの事を快く思っていない。表面上では明るく接せられていても、心の中でどう思っているのか。分かっているなら私の手を取りなさい」
そう言い、あっちのネイがこちらのネイに向けて手を差し伸べてくる。
「......嫌だ」
ネイが首を横に振る。
「......そう。あなたはそれでもあいつらの手を取るのですか......」
あっちのネイがよく分からない闇のオーラを放ち出す。
「別にいいんですよ。私がこの祭壇の力を得て、そして、あなたも吸収してあげますから」
ネイの震えが大きくなっている。
「......大丈夫だ。ネイ。俺が守ってやる」
左手でネイの頭を撫でる。
「......どうして、お前は今の私に優しくする......私には、何もしてくれなかったというのに......」
あっちのネイが怒りに満ちた声でそう言う。
「......全員、死んでしまえ」
ネイが玉座があった場所を足で強く踏む。
周りに転がっていた教徒や信徒達の死体から黒く染った光が出てくる。そして、それはネイの体に集まっていき、ネイの体に変化が現れ始める。
「まずい。お前らここは一旦逃げるぞ!」
何かに気づいたクロムがそう言う。
「邪龍が蘇る。ここが崩れるぞ!」
間に合わなかったのか。いや、今はそれより......
「ネイ、逃げよう」
俺は震えるネイを抱えて外に出る。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「............」
ギルドは今までにないほど暗かった。
邪龍が復活したから、その正体がネイだったから、そして、そのネイがここにいるから。理由は様々だが、1つだけ言えることは......
「ネイをどうするべきか、お前らはそう考えているな」
クロムがそう言う。
「あれが本当に未来のネイなら、今のネイを殺せば全てが解決する。どうするかは、お前ら次第だ」
どうするか、なんて言われても私達に決めれることでは......
「殺してしまえばいいだろ」
ヴェルドが真っ先にそう言う。
「殺せば万事解決。そうだろ?」
その言葉を否定する者は誰もいない。
「邪龍の強大さは皆知っているであろう。奴はたったの一晩で国を滅ぼし、世界に闇をもたらした。最後に止めれたのは聖龍と聖王」
「そんな奴を俺達で止めるのは無理だな」
ライオスとグリードがそれぞれにそう言う。
「待て、お前ら。そんな理由でネイを殺すなんてーー」
「もういいんだよ。ヴァル」
立ち上がるヴァルをネイが宥める。
「誰も、私のことを快く思っていない。ヴァルが頑張って私を守る理由なんてないんだよ」
ネイがヴァルの代わりに立ち上がってそう言う。
「ずっと見てきた。みんなが私のことをどう思ってたのか。未来の私が言ってるようにみんな私と接する時に心の中で嫌悪感を抱いてる。そんなに龍人が嫌だった?私が普通の人間だったらそんな思いを抱かずにいてくれた?私があいつじゃなかったら良かった?」
「ネイりん落ち着いて!」
「うるさい!セリカだってそうでしょ。私が邪龍だって分かった途端に嫌悪感を抱く。私だって途中で気づいた。この右目がみんなの心を見ていた。楽しそうだった。でも、私といる時だけ......暗かった」
その力、アルテミスと重なるものがある。でも、アルテミスは何を思っているのか、までは分からない。
「ネイりん......」
「触らないで!私が死ねばいいんでしょ!もう放っといてよ!」
ネイが扉を開けて外に出ようとする。
「落ち着きたまえ、ネーーうるさい!こんなもの!」
ネイが腰に巻きつけてあった鞘ごと剣を投げ捨てる。
「「 ネイ! 」」
外に出てみるが、ネイの姿はもうどこにも見えない。
「ネイ......」
もう遅かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ひたすらに走り回った。
ネイの足で行けれそうな場所を手当たり次第に。でも、ネイは見つからなかった。
「どこに行っちまったんだ......」
流石に、宛もなく探し回っていては見つからないということは分かっていたのだが、今は時間がない。
「そうだ。あいつなら......」
ツクヨミなら、ネイがどこに行ったかを知っているかもしれない。幸い、探し回っていて例の森の近くには来ている。
「歴史がどうこう言わないでくれよ......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ツクヨミ!」
「また入室を許可しとらんのに入って来おったか......」
「今はそんなこと言ってる場合じゃねえ!ネイが......」
「知っておる。逃げ出したのじゃろ?」
「ああ、そう......ってなんで知ってんだ?」
「言ったじゃろ?妾は歴史の管理者。知りたいことはこの本に書いておる」
そう言いながら、ツクヨミが持っていた分厚い本を見せる。
「本当に、それに書いてあるのか?」
「本当に書いておるよ」
「ネイが毒にやられた時は調べて見つけてたのに、随分と都合のいい時にそんな本を持ってるんだな」
「............」
「薄々勘づいてたんだ。お前がネイをよく知っている理由......それは、お前自身がネイだからなんじゃないかって」
「............」
「最初は俺に対してやけに好意的で、この先仲間になる奴なのかな?って思ってた。ラグナロク帝国を"嫌な国"と言ってたのも、もしかしたら、ただ単に今回のことに俺の知らないところで巻き込まれてたからなんじゃとも思ってた」
「............」
「でも、この間ネイが毒にやられたって言った時、お前は『そんなきお......』ってなんか言いかけてたよな?」
「だったら、なんじゃと言うのじゃ」
「『そんな記憶ない』ってお前は言おうとしてたんだろ?事実、今のネイは自分が毒にやられたってことを忘れたまんまだ。俺達が誰も話さなければネイはこの先知ることはないし、お前も知ることはない」
「分からんよ。もしかしたら、妾がその場を見ていなかった。この先の未来でお主らと出会い、お主らを知っていく過程でその話を聞いてなかっただけかもしれんぞ」
「確かに、その可能性もある。でもだ。お前は俺とあの日初めて会った時にこう言った。『妾の名はね......ツクヨミ』」
「............」
「ツクヨミってのは偽名かなんかだろうな。問題は、その前に言ってた。ねの後に続こうとした言葉ってなんだ?」
「............」
「ネイって言いかけたんだ、お前は。これでも否定するのなら否定すればいい。お前が本気で正体がバレたくないと思っているのなら、お前は簡単に俺の言葉を全否定できるだろうな」
「......妾の負けじゃ」
ネイが深いため息をした後にそう言った。
「妾、いや、私はネイ。あなたの言うネイです」
「やっぱり、お前は......」
「バレないように一応、羽と角、尻尾は隠してたんですけど、言動でバレてしまいましたね」
そう言うと、ネイはおもむろに羽織を脱ぐ。
そして、頭を撫でるようにすると、見えなかった角が見えるようになる。
「服はこんなんですが、あなたの知るネイとなんら大差はないでしょう?」
言っといてなんだが、ツクヨミが本当にネイであるとは思っていなかった。でも、羽と角が見えるだけでネイだとハッキリ分かる。
「1つ、聞いていいか?」
「妾とフェノンの関係性じゃろ?」
「そうだ。お前が未来人ってのは何となく分かる。でも、そうだとしたら、あの未来から来たもう1人のネイはなんなんだ?」
「あれは、パラレルワールドの妾になるかもしれんし、お主の世界のネイになるかもしれん。2つの可能性じゃな」
「お前は、あの邪龍にならなかった世界のってことか?」
「そうじゃな。お主らの選択次第でこうなるかもしれんし、あの邪龍になるかもしれん」
「もし、邪龍になったらどうなるんだ?」
「世界が終わる。じゃが、あのネイは完全に力を受け継げれず、不完全な状態のネイだったのじゃが、まさか過去に来てまで完全な存在になろうとは妾も思わんかった」
「どういうことだ?」
「歴史が混戦しておる。本来なら、どんなに抗おうが、一直線の未来を進むしかないのに、今のネイには2つの道が絡み合って、ハッキリ言ってどっちになるのか妾には分からん」
「......よく分かんねえ」
「今のでお主が理解できたらビックリするわい。まあ、平たく言うとお主らがとうするかで未来は希望の光に包まれるし、絶望の闇にも包まれる。普通はどんな選択をしても最終的な未来は決まっておるのじゃがな」
「だったら、俺は希望の光にしてみせるさ」
「その希望の光の結果がこれじゃからな。まあ、絶望の闇なんかより余っ程良いとは思うが......」
「何が言いてえのかよく分かんねえけど、俺はネイを守る。何があろうと必ずだ。だから、ネイ、いや、ツクヨミ。俺に力を貸してくれ」
「ネイの元へ連れて行けというのじゃろ?」
「ああそうだ。あいつがあのまま1人になってたら、お前の言う絶望の闇になる」
「......金を失うのは小さく、名誉を失うのは大きい。しかし、勇気を失うことは全てを失う」
「何言ってんだ?」
「今のネイを現した言葉。今のネイは勇気を失った。もう何も出来んよ。戦うことが出来ないし、更には人に近づくことさえ難しくなっておる」
「例え、あいつに利用価値的なのが無くなったとしても、俺はあいつを助ける。だって、俺達の仲間なんだし、何より、あいつを根本的に助けてやりたい」
ネイの蔑まれてきた人生。誰にも歓迎されず、誰も頼れる人がいなかった。俺達と出会っても、心の中には疑念があり、完全に心を開くことが出来なかった。心理の魔法のせいで見たくもない仲間の"本音"を見てしまい、どんどん追い詰められていった。
「邪龍だろうが、なんだろうが俺がぶっ潰す。ネイを嫌う奴らだって全員に分からせてやる。ネイは悪い奴じゃねえ。賢くて、強くて、仲間思いで、たまに調子に乗ることがあるけど、それでも俺達の仲間だ。だろ?"ネイ"」
「......そうじゃな。妾達は何があっても仲間じゃ。強く、硬い"絆"で結ばれた1つの物語じゃ」
「待ってろネイ。俺が希望の光にしてやる。絶望の闇はただの別世界だ。本当の世界は俺達と過ごす未来だ」
「行けヴァル。お主の覚悟は十分に聞けた。後は実行に移すのみ。その扉を潜れば今のネイの近くに出れる。後は任せたぞ」
「ああ。ありがとうな」
そう言って、俺は扉に向かう。
俺はもう、同じ過ちはしない。助けられたかもしれない命を失うなんてことはしない。ヒカリのような不幸な子を生まないためにも。
みんなで勝って、みんなが生き残って、みんなで笑える未来を作るために。
きっと、ツクヨミはそんな未来の先で生まれたネイなんだ。未来の俺が出来たんだから、今の俺に出来ないはずがない。
俺一人で出来なくとも、セリカがいる、クロムがいる、ギルドのみんながいる。
邪龍の討伐は、不可能ではない。
キャラ別能力設定紹介はまだまだキャラがいるのですが、デンとかギーグみたいな名前ついてるけどモブキャラは書く予定がありません。ライオスとグリード、マスターはもうちょっと先の話で書きたいなって思ってます。ネイに関してはこの章の最後で書く予定なので。
次回予告
第3章25 【俺が助けてやる】




