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グランストリアMaledictio  作者: ミナセ ヒカリ
第3章 【記憶の結晶】
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第3章17 【約束破り】

「ツクヨミ!」


「お、うあ、うわぁぁぁぁぁぁ!」


 俺の叫びを聞いてか、ツクヨミがバランスを崩してその場に倒れる。


「お、お主!突然何事じゃ!入ってくる時はちと静かに入ってこい!」


 ツクヨミが頭を押さえながらそう言う。


「あ、悪ぃ。じゃなくて!」


「な、なんじゃ、そんなに慌てて......」


「お前、対龍人用の毒って知ってるか?グラン対戦期に使われてたらしいっていうのを......」


「いや、知らんな。妾は人間共の争い事になんぞ興味はないからな」


「そう......か......」


 ここに来ればネイを助けれると思ったのだが......宛をなくした。


「何か......あったのか?お主」


 ガッカリしてその場に座り込んだ俺の顔をツクヨミが覗き込んでくる。


「ネイがやられた。今言った毒で......」


「なんじゃと!?」


「解毒しようにも誰も方法が分からない。なんせ、失われた技術らしいからな」


「しばし待ってろお主」


 ツクヨミがこの場を離れていく。

 何をするつもりだ?


「検索、キーワードは『毒物』『対龍人用』『グラン対戦』」


 ツクヨミがぶつぶつと単語を並べて言う。


「何してるんだ?」


「妾が知らんでもこの世界が知っておる。しかし、これだけの記憶の中から1冊1冊探すのは手間がかかる。こうやって、ある程度絞ってから知りたい情報を探す......しかし、これだけの量があるとは......」


 本棚が動き、最終的にツクヨミの前に残った本の数は200程度だろうか?


「もう1つくらいキーワードが必要か......『解毒』」


 再び本棚が動き出し、そして残った数は50冊程度。


「これくらいなら妾が1冊ずつ読めば答えに辿り着けるじゃろうが......」


「具体的にどれくらいかかる?」


「1日以上はかかるな。それに、妾もやめるわけにはいかん仕事がある」


「時間が無いんだ」


「なら、ネイはどんな容態じゃった?」


「ーー顔がかなり青ざめていた。体も小刻みに震えているようだったし、元から体温は低い方だったけどいつも以上に低かった」


「なるほど、『低体温症』」


 ツクヨミがそう言うと、本が1冊だけ残った。


「ビンゴ、じゃな」


 ツクヨミがその1冊を開く。


「なんて書いてある?」


「そう焦るな。ええと......その毒物は『対龍人用低体温揮発剤』と呼ばれている代物じゃな。かつて、グラン対戦において龍人の隠れ場所に霧状にして打ち込むものじゃったらしい。人間には効果がないようじゃから、弱った相手を直様攻撃するのにうってつけじゃったんじゃな」


「それで、解毒法はあるのか?」


「残念じゃが、そんな方法はない。ただ、死ぬことはない。この毒は長期的に相手を苦しませるためだけのものじゃ。心配することはーー」


「それじゃダメなんだ!」


 思わず大声を出してしまう。


「長期的にってどれくらいだ?」


「5年ほどじゃな。ただ、日を増すにつれて段々と効力が薄れていくからーー」


「それでも、今のあいつは苦しんでるんだ!俺達の失態であいつがあんな目に合ってしまったんだ。だから、今すぐになんとかしねえと......」


「......何があったのじゃ?」


「直接現場に居合わせたわけじゃない。クロムが言ってた。ネイが邪龍教徒に囲われ襲われていた、と......」


「そんなきお、いや、なんでもない」


 何かを言いかけたツクヨミだったが、しばらくした後、こう告げた。


「天命の泉に行けば解毒できるかもしれん......」


「天命の泉?そんな場所、聞いたことねえぞ」


「聞いたことがなくて当たり前じゃ。あそこは天命の龍王が安らかに眠るように作られ、大昔に人間達には隠された場所じゃ。今は地上に僅かに残る龍人が管理しておるはずじゃ」


「そこには何があるんだ?」


「天命の泉という名前の通り、昔、天命の龍王によって授けられた命の水がある。龍人にしか効果がないが、そこに漬ければありとあらゆる疫病が取り除かれるというものじゃ」


「そんな迷信......」


「今は時間がないのじゃろう?」


 それもそうだ。


「他に方法が見当たらんのなら、行ってみるが良い。地図くらいなら貸してやる」


 そう言うと、ツクヨミが目の前に1枚の紙を作り出し、俺に渡してくる。


「ありがとう。また来る」


 そう言って俺は出口から外に出た。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 クロムとヴァルの口論から数時間後のこと。


 セレナ様によって頭を冷やされたクロムはさっきらずっと「すまない」と連呼している。


 ヴァルは宛があるかもしれないと言ってギルドを出て行ったきり帰ってこないし、ギルドはかなり暗くなってるし......


「ネイりん......」


 ネイはベッドの上でずっと体が小刻みに震えている。毒でやられたとは聞いたが、一体どんなものを使われたのだろうか......


「すまない。俺がもう少し早く気づいていればこんなことにはならなかった......」


 クロムが非常に申し訳なさそうに言う。


「クロムのせいじゃない......元はと言えば、私がお使いなんかを押し付けたのがいけないんだし......」


 あそこでめんどくさがらずに、私が行っていればネイがこんな目に遭うことはなかったはず......


「やめなさい、二人とも。全部邪龍教徒がいけないのです。あなた達は決して悪くありません」


 セレナが強くハッキリとした声でそう言う。


「自分を責めるのはやめなさい。自分を責めても現実は変わりません。自分を責める余裕があるなら、あの少年のように自分にできることを探しなさい」


 セレナの言葉は厳しくも優しい言葉だった。


 そうだ。こんな時だからこそ自分にできることを探さなければならない。しかし、今宛があるのはヴァルだけ。ヴァルの帰りを待つことしか自分達にはできない。


「ネイりん......」


 せめて、ネイが不安にならないよう手を握りしめてあげることにした。それが、私にできること。



「おーい!宛が見つかったぞー!」


 突然、ヴァルが勢いよく扉を開けて入ってくる。


 もう少し静かにできないものだろうか......


「宛があるから行ったんじゃないのか......」


「そっちの宛は潰れた。ただ、そいつからもう1つの宛を貰ったんだ」


「何?」


「天命の泉。そこに行けばネイを助けれるかもしれない。他に方法がないならここに行ってみるべきだと思う」


「天命の泉?そんな場所聞いたことがないぞ?」


「俺もだ。ただ、そいつの話からここ辺りにあるらしい......」


 ヴァルが持っていた紙を広げて机の上に見えやすいように置く。


「ここは......龍人の里の近くだな......。しかし、そんな場所、やはり聞いたことがない」


 同感だ。龍人達がひっそり暮らしている龍人の里と呼ばれる場所があることは噂で聞いたことがあるが、天命の泉という場所は聞いたことがない。


「ここでグズグズしているよりも、少しの可能性を求めて行った方が良いと俺は思う」


 ヴァルがハッキリとした声でそう言う。


「クロム......」


「姉さん......」


「自分を責めるのはやめなさい。今は、この少年の言うように少しの可能性を信じなさい。それが、あなたに出来ることなのですから......」


「......分かった。俺も行こう。邪龍教徒がまたやってくるかもしれない。俺の自警団も連れていく」


 話はまとまったようだ。


 ネイを助ける。今はそれだけを考えて動こう。

解説

 グラン対戦。聖王大戦、龍王戦争よりも前にあった戦争であり、イーリアス、グランアーク、ラグナロク帝国、白陽王国、黒月王国で起きた戦争。

 きっかけはラグナロク帝国がイーリアスに攻め込んだことから始まる。イーリアス、グランアーク、白炎龍王国の連合軍とラグナロク帝国、黒雷龍王国の同盟軍とでの戦いであり、10数年続いたと言われている。この時に12代目聖王(クロムのじいちゃんに当たる人物)が死亡し、13代目聖王(クロムのお父さん)が平和のための戦争と言って聖王大戦を巻き起こした。


次回予告

第3章18 【天命の泉】

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