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グランストリアMaledictio  作者: ミナセ ヒカリ
第3章 【記憶の結晶】
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第3章16 【邪龍の子】

 リーシア救出戦から数日経ったとある日の出来事。


 私達の介入により、イーリアスとラグナロクの戦争は阻止された。イーリアスから何かされた、というわけではなくなったため、ラグナロクは何も行動が出来ないでいる。


 そんな平和を楽しむかのように、目の前に座るネイは気持ち良さそうに寝ている。


 自ら入りたいと願ったわけではないし、ギルドのため街のために働くなんて言ってないからあまり強く言えないのだが、最近のネイは怠けているように見える。記憶探しはどうなった......


「そんなこと言ったって......どうやって記憶を取り戻すか......なんて......分からないですし......」


 最近、気づいたことがある。

 ネイは無意識に心理魔法を使っている時がある。集中してない時は大体心理魔法発動中になっている。


「寝言で返事を返せれるって凄いな......」


「セリカー、お使いを頼まれてくれるー?」


 突然、ミラがこちらにやって来てメモ用紙を渡してくる。


「思った以上に食材が足りなくてねぇ。ここに書いてあるやつ全部なのだけど......」


 ざっとメモ用紙に目を通す。


「これ全部!?」


「そうなの。そんなに店同士が離れてるものじゃないから割とすぐに終わってくれると思うのだけれど......」


「うーん......」


 お使いにしては結構な量があるし、めんどくさいなぁ......


「すー、すー......」


 丁度いい駒がある。

 しかし、ネイを起こすにはどうすれば......背中なぞりがあるか。


「あ......?」


 あ、起きた。何か嫌な予感でも感じたのだろうか。


「どう......したんです......か......?セリカ......さん......。何か......私に......用でも......?」


「ネイりんにお使いを頼みたいんだけど......」


「どれですか?」


 ネイが欠伸混じりにそう言う。


「このメモ書きにあるもの全部」


「分かりました......ふぁ~あ」


 え?OKなの?いや、寝ぼけてあまり見てないだけだろう。


「あ、ネイ。これお金ね」


 ミラがネイにお金を渡し、受け取ったネイがギルドを出ていく。


「本当に大丈夫?セリカ」


「多分、大丈夫じゃない?ああ見えてもネイりんはしっかりしてるし......」


「そうかしら?寝ぼけて変なの買わないでくれると良いのだけれど......」


 いや、そこじゃなくない?


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「はぁ......。今度からは寝ぼけた状態で無闇に返事しないようにしないと......」


 溜息をつきながら私はそう呟く。


「次で最後の一件」


 メモには尋常じゃない程の物品が書かれている。これ本当にお使いってレベル?


「おじさーん」


 果物屋の前に立ち、店主を呼ぶ。


「おお、ネイちゃんか。今日は何をお求めで?」


 たったの1ヶ月でも、顔さえ見られなければ割とすぐに仲良くなれる。この人が良い例だ。


「カラン2つ欲しいのですけど」


「はいよ、1ゼルね」


 言われた通り、1ゼルを差し出す。


「また来いよ」


 お金を受け取った果物屋のおじさんがそう言う。

 私は手を振ってその場を後にする。


「これで全部か......」


 メモ用紙を確認しながらそう呟く。


 相変わらずのえげつない量である。どれか1つを大量に、とかならまだ良かったのだが、色んな種類の物を1つ2つ、というかんじのため非常にめんどくさい。


「一雨来そうね......」


 空には灰色の雲がかかり、これから降りそうな感じである。


「この気温なら雪になることはないか......」


 雪にならないのであれば、急いで帰らねば......傘を持ってきていないし、何より、両手に荷物が一杯である。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ああ、まずいまずい」


 本格的に降り出してきた。商店街からギルドまでは5分くらいらしいのだが、私の足では10分以上かかる。なんで引き受けたんだ。こんな仕事を......


 そう悔やんでももう遅いのだが......


「なんで剣持ってくるの忘れたのでしょうか......」


 誰に問うでもなく、私はそう呟く。


 近道だと思って人通りの少ない路地に入ったのだが、なぜか迷ってしまい、結果的に余計に時間がかかってしまった。


 そんなこんなで大通りに戻ったが、人がいない。道がわからない。なんで剣を持ってないんだー!


 まさか、自分の方向音痴にここまで苦しめられるとは......


 こんな時は太陽の出ている方向......雨降ってるから無理。切り株......ここ街のど真ん中。なら、ベランダの向きから南を割り出す......右の家も左の家もこちらに向かってベランダが設置してある......


 思いつく限りの方角を調べる方法を考えるが、全部だめだった。いや、そもそもギルドがどの方向にあるのかすらも分からなかった。


「近道するんじゃなかった......」


 雨が止むのをそっと待つか......


 そう思った矢先のことだった。


「お嬢さん。ちょっと良いですか?」


 長身の男が、傘もささずにこちらにやって来た。


「ひ......と?」


 道を尋ねようと思ったが、この男、何かがおかしい......


「ちょっと聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」


「え、ええ......」


 聞きたいことがあるのはこっちもです、と思ったが男が放つ謎の威圧感によってその言葉は口から出なかった。


「お嬢さん。あなた、ひょっとして()()()()()()じゃありませんか?」


 背中辺りから冷や汗がどっと溢れ出る。


 ヤバい。この男はヤバい。逃げなきゃ、今すぐ逃げ出さなきゃ......

 そう思ったのに、体が動かない。


「もう一度問います。あなたは龍人の飛龍族じゃありませんか?」


「さあ、知らない。私は龍人じゃないから......」


「嘘は良くありませんよ。あなたの角。それは正しく龍人の象徴ではないですか」


 初対面の人には必ず飾りだと見えるこれが、なぜこいつにはハッキリと角だと認識できたのか......


「答えるつもりがないのならばそれで良い。あなたを連れ帰るまでですから」


「連れ帰って、どうするの......?」


 震える喉に意識を集中させながらそう問いかける。


「邪龍様の器になってもらいますよ。あなたには」


「ふんっ!」


 男の横顔を思いっきり殴り、この場から逃げ出す。

 荷物は全部あの場に落としてしまったが、今は逃げる方が先だ。このまま捕まれば大変なことになる。そう思えた。


「全く、威勢の良い娘さんですね。あなた達、逃げれないように包囲してしまいなさい」


 突然、周囲にいつかに見た邪龍教徒が現れる。


「これは......」


 さっきまでどこにもいなかったはずだ。一体どこから現れた......


 そんなことよりも、後ろからあの男がゆっくりと近づいてくる。


「ニルヴァーー」


「ふんっ!」


 詠唱するよりも先に、男が何かの魔術をかけてきた。


(体が、動かない......)


「少し、大人しくしててください」


 そう言うと、男は剣を取り出し、私の腹に刺してくる。


 血が溢れ出す。


ーー痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーー


 痛みでその場に倒れ込んでしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ......」


 息をするのが苦しい。


「安心してください。臓器には一切傷つかないようにしたので」


 だとしても、この痛み、苦しみはなんだ。


「ああ、その代わりと言ってはなんですが、少量の毒を剣先に塗っといたので。あなたの痛み苦しみはそれが原因ですよ。でも安心してください。死ぬことは恐らくないので」


 痛い苦しい痛い苦しい痛い苦しい痛い苦しい痛い苦しい痛い苦しい......


 かってない程の絶望感......


「助け......て......」


 掠れるほど小さな声でそう呟く。こんなところでその叫びが聞こえる者など誰もいない。だが、あの男だけは違った。


「そこまでだ!」


 王子様が王子様らしいことをしに来た。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「そこまでだ!」


 俺は邪龍教徒の一部を薙ぎ倒し、ネイの前に踊り出る。


 邪龍教徒の数はざっと見て50......一体どこに潜んでいたというのだ......


「あなた1人でこの状況を抜けられると思いですか?」


「残念だが、俺の剣は聖剣・エクセリアだ。大人しく手を引け」


「それが脅しになるとでも?残念なのはあなたの方です。我々にその剣は通用しませんよ?」


「チッ......」


 完全に見透かされている。


 ネイの腹からは大量の血が溢れ出し、かなり苦しそうだ。早く、何とかしなければ......


「ふっ......ハハハハ」


 突然、目の前の男が笑い出す。


「何がおかしい......」


「いえ、今は手を引いておきましょう。時間はいくらでもある」


 そう言うと、教徒達は去っていった。


「はっ......」


 緊張が緩み、思わずその場に剣を落としてしまう。


「いや、安心していられる場合ではない......」


 ネイの容態が非常に悪くなっている。


「リーシア!」


「はい、クロム様」


 それまで、ずっと隠れていたリーシアが姿を現し、ネイに回復魔法をかける。


「クロム様......」


 治療を始めたリーシアの顔がみるみる青ざめていく。


「どうした?リーシア」


「血は......止まったのですが......」


「何か、問題でもあるのか?」


「毒が......解けません......」


「どういうことだ?」


「私の知る毒じゃないんです!」


「なんだと?」


 ありとあらゆる医学を極めてきたリーシアが知らない毒......なんだそれは。


「恐らく、昔のグラン対戦期に使われていた対龍人用の毒じゃないかと思います。あれは、今の医学書には一切載っていない物ですし、作れる人なんてもういないはずの物なのですが......」


「対龍人用?まさか、この子は龍人だと言うのか!?」


 悪いとは思うが、ネイのフードを脱がす。


 角が生えている......


「それに......クロム様。この方の背中、かなり大きな羽も......」


 リーシアがコートを半分上げ、ネイの背中を見せてくる。


「ここまで来たら最早疑いようのない事実です。この方は龍人であり、純血の『飛龍族』です......」


 まさか、あれだけ探しても見つからなかった飛龍族がこんなところにいるとは......


「ギルドの奴らに、詳しく聞こう......」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「おい、お前ら!」


 突然、ギルドの扉を勢いよく開け、クロムが入ってくる。


「ど、どうしたんだクロム......そんなに慌てて......」


 真っ先にヴァルがそう言う。


「どうしたもこうしたもあるか!一体この子は何者なんだ!」


 クロムが両腕に抱えたネイを見せながら問いかけてくる。


 コートが脱がされ、龍人の象徴である羽と角が見えている。それに、ネイの顔がかなり青ざめいている。


 もう隠し立てはできないか......


「この御方、どう見ても飛龍族です。それを、あなた達は知っていたはずです。全部話してください」


 後ろからやって来たリーシアがそう言う。両手でネイのコートを持っている。


「............」


 誰も話そうとする者はいない。


「話すつもりが無いなら、俺から色々話してやろうか......」


 クロムの目付きがいつになく厳しいものとなっている。


「俺が飛龍族の子を探していた理由は前に言っていた通りだ。そして、俺が今怒っている理由は、何もお前達が隠していたからではない」


 そこでクロムは一息つくとこう言った。


「俺はお前達に飛龍族の子を見つけたら保護しろと言ったはずだ!」


 ここでみながハッとなる。


「ッ......ネイに......何があったんだ......」


 震える声でヴァルがそう尋ねる。


「邪龍教徒にやられた。血は完全に止めたが、彼女は今毒にやられている。対龍人用の解毒方法の分からない代物にだ」


「なんだと......?」


「対龍人用の毒なぞ、今の世にあるわけが......」


 ヴァルとマスターがそう言う。


「あれはグラン対戦期に作られていたものじゃが、今の世にそれを製造する技術なぞあるはずがない。そんなものがなぜ......」


「グラン対戦期は確かに、大昔の話かもしれないが、実際には終戦してからも、細々とした種族間の戦争があって、それらが全て終わったのは100年程前だ。技術が失われたと言っても隠し持っているやつだっている」


「......毒薬については分かった。じゃが、邪龍教徒というのは......」


「そのままの意味だ。もうこの子は教徒達に狙われている。邪龍・フェノンの復活。前までは出来ないと思っていた。しかし、今はできる。そう確信している」


 そう言うと、クロムはなぜかギルドを出ていこうとした。


「おい、ネイをどうするつもりだ」


「しばらくの間、うちで匿わさせてもらう。小娘1人守れないようなギルドにこの子を任せるわけにはいかない」


 クロムの目は真剣そのものであり、言っていることも正論であった。故に、誰も反論できるものはいない。ただ1人を除いて......


「待てクロム。ネイは俺達の仲間だ。いくらお前だろうがそう易々と渡すわけにはいかない」


 ヴァルがただ1人として反対した。


「お前達の下に置いておけと言いたいのか?」


「そうだ。お前のところに置いたって安全なわけじゃない。邪龍教徒が相手なら俺達がぶっ潰してやる」


「毒の解除法は分かるのか?」


「んなもん、グラン対戦期がどうちゃらって言うんだったら文献くらいーー」


「残念だが、ありとあらゆる医学を極めてきたリーシアでさえ解除法が分からない代物だ。お前達でどうにかできるとは思えない」


「んだと?やってみねえとわからーー」


「やってみなくても分かるさ!対龍人用の毒は相手を殺すために作ったものなんだ!そんなものに解毒法などあるはずがない!」


 クロムの声が一段と大きくなる。


「お前達の問題だからお前達で解決しようとするのはよく分かる。しかし、この問題に関しては別だ。いつ、どこで教徒達が目を光らせているか分からない。それに、奴らにはこの子の居場所さえもバレているんだ。お前達の下に預けておくメリットがない!」


「クロム、静かにしなさい!」


 突然、クロムの後ろから大きな女性の声がする。


「姉......さん......」


 聖王セレナがアランと共にクロムの後ろに立っていた。

次回予告

第3章17 【約束破り】

第3章ももう中盤にまでやって来ました。この先、割とブラックな内容が続きますので、覚悟の上で読んでください。

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