第3章11 【幻想の記憶《イリュージョン・メモリアル》】
夏の暑さが遠くへ行き、代わりに冬の寒さが北から押し寄せてくる。
今日は12月20日。年越しまであともう少しである。
ネイと出会ってから早1ヶ月は経った。
そして、そのネイはというと......
「はぁ〜」
正面に座るネイが何か重たげにため息をつく。
「ネイりん、最近クマが酷いような気がするんだけど......」
ネイの目の下には黒いものができている。美人が台無しだ。
「そういう気遣い良いんで」
うわっ、心読まれてる。
「一応聞いておくんだけど、何かあったの?」
そう言った途端、ネイがまたしても重たげなため息をつく。
「ラナが......ですね......」
ネイが重い口を開いて語り出す。
「最近、私が寝ると同時に切り替わって外に出るんですよ。私の意識としては寝てるんですけど、体はずっと動いてる状態だから......」
「あぁ......なんとなく分かった」
つまり、体は約24時間体制で働いているというわけか......というかこの寒空の下、夜中に外に出るとは、ラナも中々の......そういや、ネイの体はあまり寒さを受けつけないんだっけ......
「というわけで、ここ最近ずっと疲れ気味で......」
「じゃあ、今この時間に寝るってのは?」
「そうしたら、ラナの思う壷ですよ」
「そう......か。ん?シズはどうしてるの?」
「彼は真面目すぎるし、龍王の中でも特に権限が低いから抑えられないんですよ。だから、ジークとアマツが喧嘩してても止められないし、止める気もないし......」
「なんか......色々と大変だね」
「まあ、シズは物静かで言うこと聞いてくれますから、実質3体がうるさいのですけど」
もう、本当に私が関われる領域ではない。
ネイは話してる間、ずーっとうとうとしている。
《バタッ》
(あ、寝た)
ってことはラナが......あれ?切り替わらないな。
子供みたいにスースー寝てるな。
「おーい!帰ってきたぞー!」
ヴァルが大きな声を出して扉を開けて入ってくる。後ろにはヴェルドとグリードがいる。
今度は現実世界からの妨害が......!
「しーっ!」
私は人差し指を口に当てて静かにするようアピールする。
「ん?どうした?」
「ネイが寝てるんだってば」
「ん、ネイに聞こうと思ってたことがあったんだがな......」
ヴァルが残念そうにそう言う。
「可哀想だが、無理やり起こして聞いた方がいいだろ」
ヴェルドがそう言う。お前は鬼畜か。
「つっても、どうやって起こすんだ?こんなに揺らしても全然起きねえんだけどよォ」
グリードがネイの体を思いっきり揺すりながらそう言う。だから、お前らは鬼畜か。
「任せろって、こいつの弱点はな」
何をするのかと思った直後、ヴァルがネイの背中をゆっくりなぞった。
あぁ、確かに効く人には効くやつね。
「う、うあ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
思った以上に効いてるようだ。
ネイが飛び上がって慌てふためいている。
やがて、こちらに気づき膨れっ面をして(主にヴァルを)睨んでくる。
「もう、それやめてって言ったじゃないですか!」
まさかの再犯である。まあ、そうでないと弱点だなんて分かるはずないしね。
「いやぁ、悪ぃ悪ぃ。こうでもしねえと寝てる時のお前って起きねえからよ」
「それならそうと、思いっきり揺すってくれたら起きますぅ!」
「グリードがそれやって一切起きる気配見せなかったのどこのどいつだよ」
「本当にそうやったんですか!?」
何故か、私の方を見ながらそう問いかけてくる。
「う、うん。一応グリードはそうやってたけど......」
どう答えるのが正解か、迷った挙句そう答えた。
「......はぁ、んで、なんの用ですか?」
落ち着いたのか、ため息をつきながらネイがそう言う。
「ああそうだったそうだった。聞きたいことがあってだな......ん?」
ふと、ヴァルが扉の方に目を向ける。
つられてそちらを見ると、扉を開けて誰かが立っていた。
「クロム王子?」
「あ、悪い。取り込み中だったのなら失礼する」
「いや待て王子。お前、いつからそこにいた?」
グリードがクロムに向かってそう言う。
「誰かの叫び声が聞こえたあたりからずっといた。別に、黙ってるつもりはなかったのだが、その......な」
確かにこんな状況には入りづらいよねぇー。
隣のネイはこっそりとコートを着てフードも被っている。
「それで、王子様が今度はなんの用事だ?」
「その呼び方はやめてくれと前に言ったはずなのだが......まあいい、今回は仕事でもなんでもない」
「ここは遊びに来るところじゃねえぞ。後、今日はマスターもライオスもフウロもいねえから出来ることなら出直してきて欲しいんだが」
ヴェルドがそう言う。
確かに、このギルドの頭、もしくはそれに近い地位の人がいない状態で大切な話をされては困る。
「大丈夫だ。山賊討伐を積極的に行っているお前らに一刻も早く伝えたいことがあってだな」
「どうせ厄介事だろう?ミラ、メモを取っておけ」
「はぁーい」
ヴェルドがミラにそう指示する。
「別に、厄介事ではないのだが、後で国王にも伝える事案なのだが......」
「先に国王に言ってからこっちに来い、順番が逆だぞ王子様。後、いつもの護衛はどうした?」
「外で待っている。それで、伝えたいことなのだが、お前らは邪龍教を知っているか?」
「まあ、知ってるっちゃ知ってるが、そいつらがどうしたんだ?」
ヴァルが真っ先にそう言う。
邪龍教か......山賊と接点が多い私達でも関わりは無いかな。
「知ってるなら話は早い。最近、奴らの様子がどうもおかしくてな」
「おかしいのは元からだろ?」
ヴェルドがそう反論する。
「まあ、そうなのだが。奴らはただの怪しい宗教団体だと思っていたのだが、潜入捜査官から最近妙な知らせが入ってだな」
「妙な知らせ?」
「なんでも、近々幻想の祭壇で邪龍復活の儀式をやるとかやらないとか。流石にそんなの無理だろうとは思ったが、怪しい種は潰しておくに越したことはないんでな」
「その続きが俺には分かるぞ。どうせ、手伝えとか言うんだろォ?」
「そうだ。何故わかった?」
「「「 結局、厄介事じゃねえか! 」」」
男性陣の声がハモる。
「む、これは厄介事に当たることなのか......」
「当たりめえだろお前!邪龍復活の儀式とかどう考えても厄介な事でしかねぇ!」
「済まない。この間の侵略者騒ぎと比べたら大したことないと思っていたのだが......」
「お前、あれと比べんな!あれは最上級の厄介事だよ!確かに比べれば大したことないかもしれねえが、厄介な事に変わりはねえんだよ!」
「我が主になんたる御無礼を!私が成敗する!」
ヴェルドの叫びに、外で待っていたアランが入ってきてしまった。
「良いんだアラン。これは俺が悪い」
「しかし......」
「大丈夫だ。こいつらはとち狂っても襲ってくるような奴らではないから。ああ、そうそう、もう1つ言い忘れたことがある。こっちは覚えとかなくてもいいんだが、龍人の飛龍族?と呼ばれる種族の少女を発見したら保護しといてくれ。まあ、龍人自体少ないこの世界でそんなのいるとは思わないのだが、念の為だ。では、また来る」
早口でそう言って、クロムはアランと共にギルドを出ていった。
「なんだったんだろうな」
「邪龍教ねぇ......恐ろしいことにならないといいんだけどー」
グリードとミラがそれぞれ感想をこぼす。
「龍人の飛龍族か......待てよ、それって」
ヴァルがネイの方を振り返り見る。
「確かに、私......最後のやつ全部当てはまってますね......」
ここに厄介事がまだあった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あのー......なぜ皆さんずーっと私のことを見てるのでしょうか......」
クロムと呼ばれる王子?が去ってからギルドにいるみんながずっと私のことを見つめてくる。
確かに、私は龍人の飛龍族ではあるが......保護しろと言われただけで、特に危険とかは......
「あのー......そんなにジロジロ見ないでください......」
「ああ、悪い。龍人の飛龍族なんてこの世界にお前くらいしかいないよなぁって考えるのと一緒になんで保護しろなんてあいつは言ったんだろうなぁってずっと考えてた」
ヴァルが上の空でそんなことを言う。
「なら、私のことを見なくてもいいじゃないですか。それに、みなさんも......」
「すまん。飛龍族って龍人の中じゃ特に珍しい部類だったよなぁ、って考えてこの世界にお前しかいねえよなぁって結論に至ってだな」
「それヴァルの言葉を変えただけで内容ほぼほぼ同じですよ!」
「え?マジで?」
ヴェルドがギョッとした顔でそう言う。
「はぁ〜」
眠い。そういえば、寝てたところを叩き起されてたんだっけ......
「あれ?ここグランメモリーズだっけ?」
なんか、ついさっき聞いた声が扉の方からする。
「お前、ここに来る度にそれ言ってないか?」
ヴァルが声の主に対してそう言う。
「そんなつもりは無いのだがな。何故か、俺が来るタイミングだとしんみりした空気になってるもんでな」
「だからって、お前はついさっき来た場所を別の場所だと思うのか」
「すまんな。物覚えが悪いんだ」
「嘘つけ、絶対わざとやってるだろ。んで、ついさっき来たばっかで今度は何の用だ」
ヴァルがクロムに問いかける。
クロムはわざわざヴァルの真正面に座る。
「さっきの龍人関係の話の続きなんだが......」
「ああ、あれか......ってお前さっきまでどこに言ってたんだ?」
「アトラス国王のところに行ってた」
「それで数十分でどうやって帰ってこれるんだ」
確かに......
「それは......まあ、色々やってだな。まあ、それで、どうして龍人の保護を頼んだのかと言うとだな」
無理矢理に話を変えたな。
「捜査官が手に入れたもう1つの情報が、邪龍・フェノンの復活だ」
「ん?それって、幻想の祭壇のやつと同じじゃね?」
「いや、そっちは奴らにとっての前準備。復活させる邪龍もラヴェリアと呼ばれる別の邪龍。ただ、こっちの邪龍は記録がないんだがな」
「どういうことだ?」
「邪龍フェノンの方は歴史上に名前が乗っている。歴史が好きなやつじゃなくても名前くらいは知ってるだろ」
「確か、昔聖龍エクセリアと初代聖王が封印した龍だったよな?」
グリードが思い出すようにそう言う。
「そうだ。加えて言うなら、当時の王はまだ王ではなかったがな。それで、大分話が逸れてしまったが、龍人の少女を守れという話なんだが、これがまた厄介でな」
「なんでだ?」
「まず、その龍人の飛龍族だったか、それに当てはまる少女を邪龍の憑依先にするとかなんとか。これは歴史上でも邪龍フェノンが龍人の少女だったことが繋がってるんだろうな。それで、厄介なことなのがその少女がこの世界にいるのかどうか、という問題だ」
今あなたの目の前にいるのですが......
「探そうにも、どこを探せばいいのかが分からない。一応、龍人が集落を作っているという場所に行ってみたのだが、全員地龍族だった。混血で飛龍族の血が混じってる者もいたが、奴らが求めているのは純血。もうここまで探していないのだったら、奴らの企みも無駄になるのではないかと思うが......」
「だと良いな。言っとくが、俺達はそんな奴知らねえぞ」
「だろうな。俺達が見つけられてないのにお前らが見つけてるわけがない。そういや、この間この街で龍人騒ぎがあったそうだが、何か知ってるか?」
げっ......全員しってる......
「いや、知らねえな。絶対とは言えねえが、その龍人も地龍族かなんかだろう」
「そうか。まあいい。いないならいないで越したことはない。それと、邪龍教の討伐は明日行う。迎えの者を寄越すから、しっかりと準備しててくれ。では、俺はまだ仕事があるので帰る」
最後だけ早口で言い、クロムが去っていく。
断る暇も無い。
「あいつ、文句言われそうなこと言う時は、早口で言ってすぐ逃げるな」
ヴェルドがそう呟いた。
人物紹介
アラン・ヴァイオス
性別:男 所属ギルド:クロム自警団 年齢:25歳
好きな食べ物:無し 嫌いな食べ物:肉
誕生日:6月3日 身長:186cm
趣味:料理
見た目特徴:茶髪で常に鎧を着ている騎士。
クロム自警団副団長であり、クロムの従者。
クロムを守ることに使命感を抱いており、何かある度に駆けつけてくる。(ホモではないです)
次回予告
第3章12 【幻想の復活】
前に100話掛かるとかそんな話してたと思うのですが、あれってストーリーが進まない息抜き回とか、依頼消費回とかそういうの含めての話数だったんですけど、それ含めてやると1年とか平気でかかるので、ストーリーをひたすら進めるようにしました。まあ、第1部が終われば結構自由に話を作っていけれるので、それまでは駆け足で行きます。ちなみに、そうやって考えると40話くらいになるかなぁと思います。




