Maledictio4章14 【恋という名の呪い】
ブラフマー「こんなところか……」
「「「 …… 」」」
ブラフマーの口から語られた想い。彼も彼で、死ぬことを拒み、世界のため……いや、私のために戦ってくれていた。
ブラフマー「最初は影から支えるくらいの気持ちだったんだがな。世界がこんな状態になって、直接の干渉をせざるを得なかった」
セリカ(あ、愛の力って恐ろしいね……)
アルテミス(そ、そうね……)
「それでやったことがヴェリアを使った歴史の矯正……ですか」
ヴェルド「それで関係ねぇ奴まで殺すってなぁ」
ライオス「関係無くはないのだろう。繰り返した何回かのうちで親しくなっていたこともある。サテ……ネイの性格を考えれば、全部救うって考えになってもおかしくは無い。そうだろ?ヴァル」
ヴァル「傍から見たら頭おかしいって言いたくなるけどな」
それ自分の嫁に対して言うんですか……。
ブラフマー「これくらいの試練を乗り越えられなければ、その先に待つのは同じ結果だと思った。またステラと対峙し、勝つか負けるかをして、その結果に関わらず世界はまた最初からやり直すことになる」
ヒカリ「……私のーー」
「ヒカリちゃんのせいではない。全部、私のせいですから」
ヒカリ「でも……」
ヴァル「そこはどっちでもいいだろ。どっちにせよ、両方助けねぇと変わらねぇってのは確かなことなんだし。で、ブラフマー。お前がこんなことをした理由ってのはそれで全部か?」
ブラフマー「……最初にも言った。我は、フェノンを愛していた。それ故の行動だ。開花させた力については予想外のものだったが」
「……」
これで全部みたいですね。
本当に、愛というものは恐ろしい力です。愛という名の呪い。その呪いによって世界に何がもたらされるのか。少なくとも、私が経験した限りじゃ全部ろくでもないものばかりです。
「ブラフ。あなたが私を愛していたというのはよく分かりました。しかし、やったことは当然許されるものではありません」
ブラフマー「分かっている。どんな罰でも受けるつもりだ」
「……」
罰……か。
本来、罰が与えられるとしたら私の方なのに、それすら庇うって言われてるみたい。それが、愛というものですか。
「ブラフ。あなたに私が罰を与えます。ーー生き残り、この世界を救うための戦力となりなさい。ヴァルたちの助けとなりなさい」
ブラフマー「それは、我にしか出来ないことなんだな」
「あなただからこの罰なんです。しっかり償うこと。私からは以上です」
そう告げると、私はブラフの先へ進み、そこにある玉座へと腰を下ろす。
「今日から私が精霊王です。精霊王、ネイ・ゼグラニルの誕生です!」
そしてここに、新しい世界が誕生するのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「っだぁ!長い一日だった……」
混沌とした精霊界での戦いを終え、俺たちは誰一人として欠けることなく、元の世界に戻ってきた。
「おかえり、みんな」
「最初に言っとくがァ、亡霊じゃねぇぞォ?」
そんな俺たちを真っ先に出迎えてくれたのは、死んだはずのフウロとグリード。思わずギョッとしてしまったが、すぐ後に続いてきたネイが「ヴェリアが存在しなければ2人とも生きてるはずですから」と言ってきたため、それで何となく理解出来た。
リアム「確か、その2人は死んだって聞いたから、もしかして……!」
「早く帰って報告してこいよ」
リアム「……!この礼はまたの機会に必ず!」
リアムは一目散にギルドを飛び出していくと、本来自分がいるべき場所へと走り出して行った。多分、いい未来が待ってるはずだぜ。
クロム「本来、俺も一国の王として色々聞いておきたいところなのだが……」
「んなもん明日でもいいだろ。全員帰りたい奴は帰れ!帰ってみんなの顔見てこい!」
クロム「すまん」
デルシア「私も今日はここで」
王様たちは遅れて退散。そしてヨルハとラストに関しては……
ラスト「俺様ァ、帰ったところで特に親しい奴もいねぇし、ここで話聞いとくわ」
ヨルハ「私も、子供たちが無事だと確証を得られたのでここに残ります」
「タフだな、おめーら」
まあ、見た目からしてそんな感じの奴らだしな。つっても、話を聞くったって、大体は精霊界の方で聞いただろ。
ーーその後もやいやいとみんなで色々言い合った後、ミラから「じゃあ、祝勝会でもしましょうか」との提案があり、宴が大好きなみんなはノリノリで準備を始めるのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セリカ「で、ネイりんはブラフマーのどこが好きになったの??」
ゼラ「それ私も気になります!あんなに人間嫌いだったヨミさんが人間を好きになるだなんて、余っ程の事があったに違いありません!」
祝勝会……とは言ったものの、これじゃ完全に誰かさんの誕生日会みたいな空気になってるわね……。
ネイ「えっと、ブラフとは最初、ただの遊び程度だったんですけど……」
セリカ「へー、ブラフってあだ名で呼ぶんだ~。ヴァルのことはヴァルなままなのに」
ネイ「ヴァルをどう略せばいいんですかそれ……」
ゼラ「名前なんてどうでもいいから続きを!早く!」
……本当、あの子は自分と比べてつくづく愛されてるなと思う。
何をしてても誰かが心配してくれるし、気にかけてくれる。何なら好いてもくれる。私とは本当、何もかもが違う。
今回、私はいい所無しだった。カッコつけて助けに入ったのはいいけど、すぐにやられてその後も特に目立った活躍は無し。そうなるだろうなとは思ってたけど、結局ヴァルとネイの2人でどうにかしちゃうんだから、私の存在意義なんてほとんど無いんじゃないかって思い始めてる。
醜い嫉妬よね。幸せになろうとしてる人がいるのなら、その幸せを応援するのが周りの務めなのに、私はどうしてかネイだけが幸せになっていくのが嫌い。同じ人を愛して、あの子だけがその愛に応えてもらって、私は今日もひとりぼっち。
ネイ「とまあ、そんなわけで、ちょっどつ惹かれていっちゃったなぁって、そんな感じです」
ゼラ「その結末が世界の半壊ですから、外野からしたら堪ったもんじゃないですけどね」
ブラフマー「その件に関しては我が悪い。責めるなら我だ」
エレノア「ブラフマーさんも律儀ですよね~。助けたい相手って、要は元カノじゃないですか。どれだけ未練タラタラなんですか」
ブラフマー「元カ……」
シアラ「エレノアさん。流石に今のは言い方悪いとシアラは思います」
エレノア「だってそうでしょ?元カノなのに意地悪してでも助けたいとか未練が無いとやらないじゃん普通。で、ネイはどっちがいいの?」
ネイ「どっちって……まあ確かにブラフはもう元カレでしかないですね。今更実は生きてましたって出てきたところでもう……。それに、ブラフの時はそっちから好きになってきましたけど、ヴァルは私から好きになったんですから、どっちって聞かれたらもうブラフにはごめんなさいとしか……」
ブラフマー「…………」
セリカ「た、大変!ぶ、ブラフマー!気をしっかり持って!ここで倒れちゃ男じゃないよ!多分!」
グリード「そうだぞォ!精霊王ゥ!立てェ!男なら何度でも諦めずに挑めェ!ガァッハッハ!」
……何やってんだか。
ヴァル「どうした?ヒカリ。元気ねぇな」
そんな1人寂しそうにしている私を見かねたのか、ヴァルが隣に座ってくる。
「別に……。みんな楽しそうだなぁって」
ヴァル「お前は楽しくねぇのか?」
「……」
楽しいか楽しくないかって聞かれたら、多分楽しくないの方になる。でも、この気持ちは多分そんな単純なものじゃない。そんな二択で決まるくらいのものだったら、ここまでモヤモヤしないもの。
「……ヴァルはさ、ネイのことが好きなんだよね」
ヴァル「……まあ好きじゃねぇとここまでやらねぇだろ。あれ、見た目が良いだけで性格だけ見たらとんでもなくめんどくせぇ女だからな」
「そんなこと思ってるんだ……」
まさかの発言にドン引く私。いつもキザったらしいことばっか言ってたのに、ここまで本音を漏らすだなんて、何か悪いものでも食べた?
ヴァル「……今結構酷いこと言ったな」
「言った後で気づくな。それ本人を前に言うんじゃないわよ」
ヴァル「言っても多分ちょっと怒るぐらいだろ」
「……そこまで信じてるんだ」
ヴァル「付き合い長ぇからな。前世からの記憶足しゃ、ここにいる奴らの誰よりも長い付き合いしてるし、むしろ夫婦なんだから知ってなきゃダメだろ」
「……ねぇ、ヴァルはさ、あの日のこと覚えてる?」
ヴァル「ん?あの日っていつだ?」
「……」
いつ……か。
そりゃそうよ。もう覚えてるわけが無いもの。
今、ヴァルは私よりもネイの方が大事なんだから、私とのちっぽけな思い出なんて覚えてるはずがない。
少し、悲しいな。そして悔しい。
「……いえ、なんでもないわ」
ヴァル「そうか……。まあ、あれだ。なんか言いたいことあったら言えよ」
「……」
言いたいことなんて山ほどある。でも、どれを言ったらいいのか。何なら言ってもいいのか。もう本当によく分からない。
言いたいことを言いたいだけ言えるって、ある意味凄いことなのよね。自分の気持ちを言葉にするってことがこんなに難しいだなんて思いもしなかった。
「……じゃあ、1つだけ約束して」
それでも、素直な気持ちを言うことは出来なくても、伝えたいことくらいは伝えておいた方がいい。この先、後悔しないために……。
「私のことは無理に好きにならなくていい。でも、ちゃんと守って。どこかに行きそうになったら必ず手を取って。……私を、独りにしないで」
ヴァル「分かった。約束する」
「……」
あら、てっきり少しくらいは迷うかなって思ったのに、そんなにあっさりと答えられちゃったらこっちがどう返せばいいのか迷っちゃうじゃない。
ヴァル「どうすればいいのかなんて今はまだ分かんねぇ。けど、絶対に守る。約束する」
「……はぁ。どっかに都合よく2人を1人に出来る発明とか無いかしらね」
ヴァル「その場合どっちが残るんだよ……」
「もちろん私。そうじゃなきゃ1人に戻っても変わんないじゃない」
ヴァル「自分勝手ぇ……」
そんなの言われなくたって分かってる。
自分が1番。自分を1番にしてほしい。それも、好きな人なら余計に尚更。
私だって、一応は女の子なんだからそんな気持ちを抱いたって何もおかしくないはず。マッドサイエンティストだとか、悪魔の子だとか好き放題言うけど、私だって願うなら普通の女の子みたいな人生を送りたかった。
ーー今からでも、遅くないのかな?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
「だから……、君は安心して救われるといい」
あれ……。なんだろう……。体が動かない。
「さてと、いつまでもこうしてないで仕事仕事」
ここ……は?
ダメだ。どうやっても体が動かない。部屋が暗いのか、それとも瞼すら開けられないのか知らないけど、真っ暗で何も見えない。
さっきまでヴァルたちとワイワイ騒いでたってのに、何が起きたの?
「どうも向こうの情勢が安定して来たようだね……。だが、ここまでの展開を見せるとは……。愛の力、偉大なりってところかな?」
それに、さっきから聞こえてくる男の声。これは何?誰なの?聞いたこともない声だけど……いえ、本当に聞いたことは無いのかしら?
……いえ、聞いたことは無い。でも、それはこの時間での私が聞いたこと無いだけ。多分、過去の私がこの声を聞いたことがある。確証なんて無いけれど、そんな気がする。
「……ん?おや、これは……」
男がこちらに近づいてくる。まさか気づいたって言うの?ビクともしてないのに(したくても出来ないけど)。
「軽い不具合か。ごめんね、目を覚ましちゃったかな?まあでもすぐに戻れるから安心して」
新年明けましておめでとうございます。今年こそ、完結目指して頑張りますので応援よろしくお願いします。




