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グランストリアMaledictio  作者: ミナセ ヒカリ
Maledictio4章 【物語の罰】
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Maledictio4章12 【好き=嫌い】

 クロムたち王族の合流、セリカたちはぐれたみんなとの合流、精霊たちの助太刀。


 それ以外にも色んな助けがあった。みんな、この戦いがどういう結末に至るのかを分からないのに、よく不満も言わずに着いてきた。


 それは、俺の人徳が生んだものだったのだろうか?俺の中にある"炎"が、みんなの心を灯してみせたのだろうか。


 英雄は、ちゃんと英雄らしく在れたのだろうか。


「所詮はその場しのぎの集まり。ただの烏合の衆にしか過ぎん人間如きに我を倒すことなど出来ぬ。最も、精霊であろうが、龍王であろうが、同じ結末だっただろうが」


「っ……!」


 5分……いや、1分戦ったかどうかって速さだった。


 本気を出した精霊王。無限に湧き続けるヴェリアとの完璧な連携。


 正直、こんな血も涙もねぇ野郎にそこまでの技量を見せつけられるとは思わなかった。絆なら、俺たちの方が上だと思っていたのに、それすら鼻で笑い飛ばされた気分だ。


「ヴァル!まだ諦めちゃダメよ!」


 ……俺とサテラ以外のみんなが倒れたこの空間に、まだ疲れを感じさせない甲高い声が響き渡る。


 宙にまた裂け目ができ、そこから何人かが飛び出してくる。ーーしかし。


「新手か。だがーー」


 精霊王が繰り出すヴェリアの軍団。


 飛んで来たのはヒカリだとすぐに気付いたが、流石のヒカリでも、この攻撃を初見で捌ききるのは不可能だった。


ヒカリ「……っ!……な……にが……」


 ヴェリアの軍団を前に、ヒカリたちは何もすることが出来ず、そのまま倒れてしまった。


 何をしに来たんだって、普段なら怒鳴るところだろう。でも、こればっかりは仕方ねぇ。……仕方ねぇんだ。


 認めたくねぇ。諦めたくねぇ。でも、こればっかりはそう思うしかないだろ。


「負けたのか……。俺たちは……」


 どうすることも出来なかった。


 何で戦ってたのかすらも分かんなくなって、ただその場に渇いた声だけが響き渡って、俺たちはーー


「終わりだ」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


クロム「エクセリア!行くぞ!」


デルシア「みんなを取り戻す!創世の剣よ!私に力を!」


 ーー目が覚めた時、そこには先程まで倒れていたはずの2人が立ち上がっていて、果敢にも精霊王相手に攻撃を仕掛けていた。


 いや、2人だけじゃない。他のみんなも、まだ倒れておらず、それぞれの偽物相手に戦いを続けていた。


「……何だ」


 さっきまで全滅に近い状態だった。だが、それが急に一転攻勢みたいな状況になっている……。いや、なっている?なのか?


「違う。これは……」


 直感でしかないが、これはまるで、時間が巻き戻っていると言っていい状況だった。だってそうだろ。みんな、もう戦えないくらいボコボコにされたはずなのに、まだまだこれからってくらいにピンピンしてやがる。


 でも、まだまだこれからってことは、この先に起こることは……


「少し、本気で相手をしてやろう」


 精霊王から溢れ出すオーラが一段と強くなる。それに連なるようにして、ヴェリアの動きもどことなく俊敏になる。


 そのまま、目にも止まらぬ速さの攻撃で、俺たちはまた全滅した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


ヒカリ「お姉ちゃん!手加減無しでいいからぶっぱなして!」


イデアル「分かったわ!ーーユニバース・ゼロ!」


 また目が覚めた時、そこには倒れたはずのみんなが立ち上がって戦っている。


 今度は少しだけ長く持つことが出来た。ヒカリたち最後の援軍と言ってもいい勢力が来るまで持ち堪えられた。


リアム「あいつらを!取り戻すんだ!」


ヨルハ「可愛い可愛い私の子供たちを!」


 ちょっとずつヴェリアの速さにも慣れてきて、俺が1人で精霊王を受け止めることによって、ある程度戦局はこちらに傾いてきた。ーーしかし。


「所詮は烏合の衆よ」


 精霊王は俺たちの成長に合わせ、自らの動きをその少し上に位置するよう合わせてくる。


 また、俺たちは為す術なく精霊王相手に負ける。


 どれだけ束になってかかろうと、どれだけやり直そうと、全く追いつくことが出来なくて、またやられる。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 また目が覚める。


 繰り返す度に、戦局はちょっとずつ先へ進むように有利になる。


 しかし、また少し先の未来に辿り着いたところでもう一度全滅する。


 そしてまた目が覚める。


 また少し先の未来に進んで、またやられて、また目覚めて、また進んで、そして死ぬ。


 こんなことを永遠と繰り返させるのは誰なのだろうか?こんな、生き地獄みたいな真似をさせるのは誰なのだろうか?死ぬことを拒むヒカリか?いや、あいつなわけがない。あいつはここまで自由に時間を繰り返す力なんか持っちゃいない。ならーー


「答えは1人だけだ」


 繰り返す度、みんなが立ち上がり続ける中で1人だけ、どんどん苦しそうになっていく奴がいる。


 必死に隠そうとしていても、ヒカリと比べそこまで演技力が高くないやつだから、すぐ分かる。俺じゃなくても簡単に分かる。


 何度繰り返したって、理想の未来に辿り着く。そのために残り少ない自らの魂を削って、俺たちを先へ、ほんの少しでも先へと進ませようとしてくれている。


「バカだろ……あいつ」


 俺だけがこの状況に気づいているのか?いや、俺だけじゃない。精霊王を除いて、恐らく全員が気づいている。気づいていて、それでも倒せない自分の無力さを嘆いている。嘆きながら、それでも与えられた時間をもっと先へ進ませるために戦っている。


 また終わる。また、勝つことが出来ずに終わってしまう。


 せめて、この時間が無くなる前にあいつの手を取りたくて、必死に手を伸ばす。でも、届かない。時間が足りない。


 それでも、俺は手を伸ばす。次の時間では、この手があいつに触れていることを願って。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 また目が覚める。


 届かなかったこの手を届かせるために、拳をギュッと握り締めて、思いっきり精霊王に叩きつける。


「……驚いたな。ここまで対応してくるとは」


「……秘策があるんだよ。有効期限付きのがな!」


 みんなの動きがちょっとずつでも洗練されていったおかげで、ヴェリアを封じ、俺と精霊王の一騎打ちの場を整えられた。


 一騎打ちにさえ持ち込めれば、今の俺なら勝てる自信がある。……いや、勝てると思っていた。


「なぜ、我がこの世界の王になったのか知っているか?」


「あぁ?」


「答えは簡単だ」


 揉み合ったところの隙をつかれ、強烈な腹蹴りを喰らわされる。


「力だ。力で全てを捩じ伏せた。精霊であろうと、ヴェリアであろうと、龍であろうと、その全てを捩じ伏せた」


「……」


「終わりだ」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 また目が覚める。


 また少しだけ先の時間へ進む。


 もう、何回これを繰り返したのだろうか。


 どれだけ繰り返したって、決して届きはしない次の展開。有利になったと思えば、また同じような展開で全滅する。


「なあ、お前、苦しくねぇのか?」


 夢の世界を拡げ、無理矢理あいつをこの空間に誘う。


「何度も何度も繰り返して、それでも変わらない未来を見続けて、お前は諦めようとか思わなかったのか?」


「……」


「思わねぇだろうな。諦めるんだったら最初の10回くらいで諦めてる。諦めなかったから6万回もやり直した。その先に必ずいい未来が待っていると信じて」


「……」


「いい未来は来るのか?」


「……」


「みんなが先に進める未来はあるのか?」


「……」


「俺が過ごしたあんな未来じゃなくて、お前がいたような幸せな未来が、本当に続いていくのか?」


「……」


「……お前は、その未来にいるのか?」


「……」


 答えが返ってこない。


 それは、答えたくないからじゃない。答えが無いからだ。


 未来という、誰にも分かんねぇことを、これってハッキリと答えられる奴はただのバカだよ。


「……」


「……」


「未来は、怖いか?」


「……!」


「先に進むことは怖いか?」


「っ……!」


「また同じことを繰り返すって、そう思ってんのか?」


「……」


「そんなに自分のことが嫌いか?」


「……嫌い……ですよ」


「何でだ?何でそんなに自分のことが嫌いになった?」


「……分かるわけないですよ。私がいたから世界がおかしくなった。私のせいで未来が無くなった!ヒカリちゃんのせいにしようとしたけど、それも私がいなければこんなことにはなってなかった!」


「……」


 ちょっとずつ、サテラの右半身が紙屑になって散っている。もう、時間が本当に無いって見た目から訴えてくる。


「私がみんなの未来を奪ったんです。私が分不相応な願い事をしたからこんな事になったんです!私さえいなければ、ヴァルも、ヒカリちゃんも、他のみんなも!」


「……」


「幸せに、生きられたはずなんです……!」


「……」


「嫌いにならないわけがないでしょう?私は私のことが嫌いです。大嫌いです。私がいる世界が嫌いです。私のせいでみんなが苦しむことが大嫌いです。私のせいで悩むヒカリちゃんを見てるのが嫌いです。私のために必死になってくれるあなたを見ることが大嫌いです」


「……」


「私は、私のことを!ーー」


「……」


 そこで、俺はそっと正面から抱きしめた。


「俺はお前のことが好きだ。大好きだ」


「……え」


「ワガママなお前を見てるのが好きだ。お前の無茶に付き合わされてるのが大好きだ。みんなと笑いあってるお前が好きだ。あれこれ悩んで俺に泣きついてくるお前が大好きだ。お前を好きになることはあっても、嫌いになるころはない。お前が自分のことを嫌いだって言うんなら、俺はお前が言う何倍も好きだって叫んでやる」


「……ヴァル」


「俺はお前に隣にいてほしい。隣にいるのがお前じゃなきゃ俺はやる気を出せねぇ。俺は、お前のためにカッコつけてぇんだよ」


「……でも、私は」


「消えねぇよ。お前は消えない。お前が消える未来がこの先にあるってんなら、俺はその未来を破り捨てる。捨てた後に盛大に燃やし尽くしてやる。お前がいねぇ未来に、1ゼルたりとも価値なんかねぇんだよ」


「……」


「変えてくれよ。この先の物語を、お前が思う形に、好きなように。俺は燃やすことしか出来ねぇから、お前がこの先を書くんだ」


「私に、そんな力なんて……」


「無いなら作れよ。神様だろ?俺をもっとカッコよく、主人公らしく書いて、お前が思うように描いてみせろよ」


「……無茶苦茶ですよ」


「時間操ってるやつに言われたくねぇよ」


「……」


 サテラが俺の両手を振り解き、消えかかってる右半身に手を置いて一息つく。


「どうなっても知りませんよ」


「どうにかなるんだろ。なら安心だ」


 俺の中にある夢の世界が、こいつが取り出した一冊の本に吸い込まれていく。


(母さん。これでいいんだよな)


 どこからともなく、頑張りなさいよって声が聞こえて、夢の世界が閉じた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ーーそして。


「何度やっても無駄だ」


 精霊王に突き飛ばされ、無様に床に寝っ転がる俺。


「終わりだ」


 また全滅の未来がやってくる。みんなはそう覚悟してギュッと目を瞑る。でも、俺だけは違う。


「書いてくれよ。最高の結末を」


「無茶が過ぎると言ったんです。でも、それでいい。ヴァルはその方がらしくていいです」


 精霊王の攻撃が止まる。否、"止めさせられた"と言ったところだろうか。


「……どういうことだ?」


「どういうことも何も、"その攻撃は不発に終わった"。ただ私がそう書いただけです」


 精霊王の前に、普段通りの衣装を身にまとい、毅然とした態度で本とペンを握る人物が立つ。


「返してもらいますよ。体」


 ヴェリアに捉えられていたあいつの体がスっと消え、あいつの魂に打ち解けるようにして吸い込まれてゆく。


「さあ、始めましょう。私たちの逆転劇を」


「……貴様、何者だ」


 何者かだと?そんなの、今更聞くこともねぇだろ。


「万象の女神・ネイ。ここから先の展開は、全て私が決めます!」


 この物語の書き手が、今ここに新たな1ページを刻む。

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