第3章3 【異界の物語】
「というわけで、私アルテミスさんと一緒に結界に行きます」
「は?」
全ての話を聞き終えたセリカの第一声はそれだった。
「ちょっと待って。結界?に行くって?どういうこと?」
あまりにも突然だったので、文章が所々おかしくなってしまっている。
「はい。えっと......ミルって人が記憶を取り戻す方法を知っているらしいので。ですよね?アルテミスさん」
「うん。師匠に昔聞いたことがあるんだ。記憶を修復したことがあるって」
アルテミスはネイの質問に素直に答える。
「えっと......なんとなく理由は分かったけど......どうやって結界って所に行くの?アルテミスの話ぶりからすると異界だよね?」
「あぁ、それなら私の魔法で異界に行けれますよ」
「は?」
本日2度目の「は?」が出てしまった。
「え?どういうこと?」
「ですから、私が異界の門を開いてそこから結界に行くのです」
「は〜」
全然分からない。そもそも、異界の門なんてそんな簡単に開けられる......そういえばヒカリがその力を持っていたような気がする。シヴァが証言してたし......
「まあ、セリカ。2日もしたら帰ると思うから。じゃ」
呆然とするセリカを置いてネイとアルテミスはその場を離れて行ってしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「で、セリカの前だからあんなこと言っちゃったけど、具体的に異界にどうやって行くの?」
隣を歩くアルテミスがそう問いかけてくる。
「え?知ってるんじゃなかったんですか!?」
当然、そう反応する。
「いや、だって後先考えずの発言だったし......」
アルテミスは罰が悪そうに答える。
「はぁ......異界に行くためには、まず、目印を探すんです」
「目印?何それ?」
「簡単に言うと魔力が溜まっている場所です。それを見つけたら後は私の力で門を開けるだけです」
「ごめん。全く分からない」
そう思うのが普通だろう。まあ、いい。実際に見てもらえばわかる事だ。
「ここなんか丁度いい感じのところですね」
ネイは街中の一通りの少ない路地を示し、言う。
「え?ここ?」
「はい」
ネイはそう短く答え、力を集中させる。
すると、さっき指さしたところに歪みができ、薄らと向こうの世界が見える。
「なんか見える......」
「世界を指定することは出来ますけど、場所までは指定できないので、アルテミスさんが言う、『ミル』さんがいるところまではかなり時間がかかるかもしれません」
「ふーん」
話を横目で聞いていたアルテミスが歪みに手を突っ込んでいる。
「確かに、向こう側に原っぱの感触がするね」
そう言い、アルテミスがもっと深くに手を伸ばそうとしゃがみ込んで体を前に傾けている。
この時、ネイの心にちょっとした悪戯心が芽生えた。
「えい!」
ネイはアルテミスの体を押し出す。
「うわっうわわわわわ」
ネイも歪みの間を潜り抜け、向こうの世界に足を踏み入れる。
「ちょっと何するのよ!」
アルテミスが顔に付いた草を払いながら批難の声を上げる。
「まあ、いいじゃないですか。それよりも、ここがどこだか分かりますか?」
「そんなことって......」
立ち上がったアルテミスが辺りを見渡す。
「あれ?ここ私の故郷の近く......」
「本当ですか!?」
「うん。確かこっちの方向に出たら......」
アルテミスが一点を指し、そっちの方向に向かって走り出す。
「あ、待ってくださーい」
慌ててネイも後を追いかける。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「全くよォ、俺に走らせても切り替えたら疲れを猛烈に感じるだけだぞ」
ジークはアルテミスの後を追いかけながらネイにそう言う。
(疲れを感じながら走るよりも、走り終わった後で疲れた方が楽でしょ)
「おめぇは俺様をなんだと思ってんだ!龍王だぞ!?そんな龍王を走るためだけに使うってどうなってんだ!?」
(はいはい。そんな事いいからちゃんと前見て走ってよ)
「チッ......分かったよ。それよりも、あの小娘どこまで行く気だ?」
ジークは必死であとを追いかけるが、アルテミスは家がポツポツと見え始めたあたりでも走るのをやめる気配がない。
そう考えながら走っていたのが悪かった。
アルテミスが急に止まり、ジークは避けようとして転んでしまった。
「あ、ごめんネイ、大丈夫?」
アルテミスが屈み込んで来て、そう言う。
「大丈夫じゃねえよ!急に止まるんじゃーー」
ねえ!と言いかけて、ジークの意識はネイと切り替わった。
「はぁはぁはぁはぁ」
切り替わった途端、物凄い疲れがネイを襲ってくる。
「ごめんね。ネイのこと考えずに走り出しちゃった」
今度から走るなら前もって言って欲しいものだ。そう思ったが、口にする気力すらネイには残っていなかった。
なぜ、この体でジークはあんなにも走ることが出来るのだろうか。それが不思議でならない。
それはもうどうでもいいことにしておこう。問題はなぜアルテミスがここまで走ったのか、だ。
「アルテミス、さん、ここ、どこ、ですか。」
ネイは息を切らせながらアルテミスにそう問いかける。
「ここ、私の家」
アルテミスは左側にある建物を見上げながらそう答える。
家。お世辞にもアルテミスの家は決して豪華とは言えないし、むしろ、かなり古そうな感じがする家だった。
「ここが、アルテミス、さんの、家?」
ネイはなんとか体を起き上がらせ、そう言う。
「うん。全然広くないし、むしろかなり狭い方だけど、私にとっては大切な『帰るべき場所』なんだ」
アルテミスはネイに笑顔を向け、そう言う。
帰るべき場所......か。果たして、私にはそんな場所があったのだろうか。
記憶が無いことには何も分からない。でも、そんな場所があればいいな。少なくとも今のネイにはそう思えた。
「あれ?鍵がかかってる。おばあちゃん居ないのかな?」
アルテミスがドアノブをガチャガチャしながらそう呟く。
「もしかして......アルテミスかい?」
後ろの方からしわがれた声がする。
「おばあちゃん!?」
アルテミスが振り向き、驚きの声を上げる。
「どこに行ってたんだい。あんたが急にいなくなるもんだから婆ちゃんめっちゃ心配したんだよ」
アルテミスのおばあちゃん?がアルテミスを抱き締め、そう言う。
「ごめんおばあちゃん」
「まあいい。あんたが無事で何よりだ。で、こちらにいる嬢ちゃんは友達かい?」
おばあちゃんがこちらに目を向け、アルテミスに問いかける。
「その子はネイっていうの。記憶探しに付き合ってるんだ」
アルテミスが紹介する。
「どうも、ネイと申します」
ネイは礼儀正しくお辞儀をする。
「そうかいそうかい。あたしゃエルナってもんだい。記憶を探してるってことは、あんた記憶喪失かい?」
おばあちゃん(エルナさん)が頭を撫でてこようとしてくる。
咄嗟にかわそうとするが、体が動かず、素直に撫でられる形になる。
ーーあれ?ーー
普通の人ならこういうことをすれば私が龍人であることに気づくはずだが、この人はその素振りを全くもって見せない。
「あんた、もしかして龍人かい?」
と思っていたのは間違いで普通に気づかれていた。
「あー、えーっと......」
気づかれていると知ってはいるが、どうしてもその質問には返答することが出来ない。
「安心しなされ。あたしゃ、少しばかり龍人の血を引いておる。あたしの爺ちゃんが龍人だったものでな。龍人に対してあたしゃ差別なんかせんよ。心配せずにそのフードを外しんさい」
エルナさんがとても穏やかな口調で言う。
ネイは素直にフードを外す。
フードを外せば顔もハッキリとわかる。どういうコートなのか知らないが、このコート(特にフードの部分)には認識を妨害する何かがあるらしい。
「こんな所じゃあれだ。2人共中に入れ」
エルナさんが戸を開け、手招きする。
私はアルテミスと共にアルテミスの『実家』というやつに足を踏み入れる。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「うわぁ、って部屋汚!」
部屋に足を踏み入れたアルテミスの第一声はまさかの汚い発言だった。
「仕方ないじゃろ。5ヶ月も部屋を空けとればホコリも溜まっていくわい」
後ろから入ってきたエルナさんはそう言う。
(言っちゃ悪いが、この娘、普段から部屋掃除してない気がするぞ)
確かにそれは思った。5ヶ月空けていたとしても、誰も使わないのだったらここまで汚くはならないだろう。それとも、余っ程ここが汚くなりやすい場所なのか。というか、一番の原因は床に物を散りばめすぎてるのが原因だ。
「ちょっと待っとれ。今晩御飯を用意してくるから」
そう言ってエルナさんは部屋を出ていった。
「ねえ、ネイ。部屋を綺麗にする魔法ってない?」
「そんな用途が限られすぎてる魔法なんて誰も作り出しませんよ」
「そっかぁ......」
アルテミスが落胆したように肩を落とす。そして、渋々と部屋の片付けをする。仕方ないので、私も手伝うことにする。
「ん?これ......」
ネイは床に散らばっていた写真を見つけ、手にする。
写真にはピンク色の髪をした少女と黄緑色の髪をした少女が長髪の男?の人を挟んで笑顔で写っている。
「あぁ、それね......」
アルテミスが写真を取りあげ、マジマジと見つめている。
「あの......そこに写ってるのって......」
「私よ。それで、このピンク色の髪をした子がラクシュミー。で、この男の人が私達の先生」
アルテミスは何処か懐かしそうにそう言う。
「思えば、この頃が1番楽しかったかもしれないな......」
「何か、あったんですか?」
「あー......セリカから大体は聞いてると思うんだけど......」
「もしかして、私のことを『ヒカリ』と呼んだことですか?」
「そう、それ。この頃は本当に楽しかったんだよ。今みたいに危ないことなんてないし、ラクも先生も優しかったし、師匠は厳しかったけど......」
そこから、しばらくアルテミスの昔話が始まった。
聞いていて、他人事のはずなのに、まるで自分が体験してきたかのように聞こえる。
「なんで、ラク、死んじゃったんだろうな......」
アルテミスは話の終わりにそう呟く。アルテミスの顔からはさっきまでの明るい顔が消え、暗い顔になっている。
「えーっと、今回はその、アルテミスさんの師匠さんのところに行くんですよね?」
ネイは慌てて話題を変える。
「え?あ、そうそう」
「えーっと、その、師匠さんはどんな人なんですか?」
「うーんっとねー、一言で言うなら鬼、かな?」
「お、鬼?」
「あー、見た目が、じゃないよ。超厳しい人だからラクがそう呼んでた」
「へ、へぇー」
本当にそこで手がかりを得られるのだろうか。
ネイの心境は若干不安になった。
「アルー、とその友達ー、飯ができたぞーい」
遠くでエルナさんが呼ぶ声がする。
「そろそろ行こっか」
アルテミスが立ち上がり、部屋を出ていく。
ネイもそれについて行き、ふと、窓から外を見る。
辺りはすっかり暗くなっている。向こうの世界では昼前だったと思うが、こちらの世界とは時差が生じているようだ。
そんな、どうでもいいことを考えつつ、ネイは部屋をあとにする。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「それで、ミルって人のところに行こうと思うのですが、ヤナガワまではどうやったら行けるのでしょうか?」
用意された晩飯を食べ終え、一段落したところでエルナさんにどういう経緯で記憶探しをして、ここに来たのか説明した後で問いかける。
アルテミスは場所は知ってはいるが道のりを覚えていないらしく、こうやって聞くハメになってしまった。
そのアルテミスは自室で寝ている。時差に慣れるの早すぎとは思ったが、口には出さないでいた。
「ヤナガワねぇ......あそこはバカンスにはかなり良い場所さ。ただ、気温が1年を通して高いから住もうなんて思うやつの気が知れんわ」
話を全て聞き終えたエルナさんは、道のりではなく、地域の気候を教えてくれた。
「まあ、行き方はとても簡単じゃ。ここからでもよく見えるあそこの港から船が出とる。それに乗っていく以外、方法はありゃせん」
エルナさんは窓を開け、私によく見えるようにした後、港を指さしてそう言う。
「ただ、船は雨が降りゃ止まるし、朝一番のしか出ておらんからな。行くなら早めに家を出ることじゃな。そして......」
エルナさんは立ち上がり、どこかへ歩き出していく。それについて行き、着いた場所はアルテミスの部屋だった。
「突然いなくなって突然帰ってきたと思ったら、もう出ていってしまうとは。いつまでも子供じゃないってことを教えられてしまったな」
エルナさんはアルテミスの顔にかかった髪を払いながらそう言う。
「この子が自立してくれるのは嬉しい事じゃが、どこか悲しい気持ちもある」
そう言ってエルナさんは部屋を出ていった。
「さてと、とても言い難い事じゃが、最近は船を襲う海賊が頻出しておる。あの子が修行に行くとか言ってラクと一緒に行った時はそんな事全然なかったんじゃが。気をつけて行っておいでよ」
「はい」
「あ、そうそう。これを持っておいき」
エルナさんが小さい小袋を渡してくれる。
「お守り......ですか?」
「あの子が旅立つ時にあげようと思ってたものじゃ。どうやら、今がその時らしいんでな。さて、わしゃもう寝るわい」
エルナさんが欠伸をしながら部屋を出ていく。
(なんだよ。いい親じゃねえか)
「うわっジーク!?」
突然、ジークが感慨めいた声でそう言い出す。
(あの子、いい親を持ったもんだぜ。大切にしてやらねえとな)
「なんで、ジークがそう思うのよ......」
(バカヤロウ!おめぇは親のことを覚えてねえから何もわからねえだろうけど、あの子には大切にしてもらえる親がいる。そしてだな)
そこからジークの超長話が始まった。一体、何に感動したのか。いや、感動する要素はあったが、なぜジークがここまで熱く語るのかが分からない。
ネイは全ての話を右から左へとすることにした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして翌日。日も出てないこの時間。
「じゃあ、行ってくるねおばあちゃん」
「お世話になりました」
私とアルテミスはエルナさんに挨拶し、港へと向かう。
「たまには帰っておいでよ」
「うん。また、いつかね」
アルテミスはエルナさんの姿が見えなくなるまで手を振りながら後ろ向きで歩いていた。すごく危険そうだが、ここは平らな道なので特に問題は無いであろう。
そうして、しばらくしてアルテミスは前に向き直り歩く。
「じゃあ、ネイ走るよー!」
突然、アルテミスがそう言い、駆け出す。
「えぇ?えぇー!?」
ーー走るって、昨日のことを忘れたのかー
「ちょっと待ってくださーい!」
ネイは慌てて走り出すが、体力的に追いつけそうにない。
「ジーク......」
(分かってるよ)
そうして、ジークに切り替わり、港まで走ったあと案の定ネイの体がかなり疲弊したことは言うまでもなかったであろう。そして、それを見たアルテミスが大笑いしていたことも。
キャラクター別 能力設定紹介 〜ヴェルド編〜
氷魔法を主とする悪魔殺し(デビルスレイヤー)
ちなみに、ヴェルドが使う魔法に階級はない。
技
アイスクリエイト(氷で自由自在にものを作り、それで攻撃する。アイスシールドやアイスニードルなどは全てこの魔法)滅魔奥義(今現在は使えないし、自分が悪魔殺しであることにすら気づいていない)
次回予告
第3章4 【導きの氷海龍王】
え〜今回はまたしてもPCが落ちて書いていた文章が丸々消えてしまい、またしても投げやりな文章になってしまいました。すびばぜん。




