第2章20 【そして、戦いは終わる】
ライオス「見たところ、誰もいないみたい......だな」
ライオスがクロムと共に岩の陰からひっそりと様子を伺う。
ヴェルド「誰もいないが、後ろには見るからに『砦』って感じのがあるな」
ヴェルドが言う通り、話し合いの場として設けられたここ『聖龍の墓場』には新築の砦が建っている。
クロム「やはりというか、なんというか......」
ライオス「話し合う気は元から無さそうだな」
クロムが言いかけた言葉をライオスが繋ぐ。
ヴァル「で?相手がやる気満々なら俺達はどうすんだよ?」
ヴァルが拳をボキボキと鳴らしながらクロムに問いかける。
クロム「まあ、待て。ここは一旦様子見で......」
「ようこそ、グランアークそして、イーリアスの誇り高き兵よ」
突如、クロムの言葉を遮ってよく澄渡る声が聞こえる。
「そこで様子見をしても無駄だ。出てくるがよい」
どうやら声の主には私達の居場所が分かっているらしい。そして、それを聞いたクロムは大人しく前へと進んでいく。私達は念の為このまま岩陰で待機。
クロム「話し合いをすると聞いたのだが、この状況はどういうことだろうか?」
クロムが大声で砦の方に向かって言う。
ラース「まあ、まずは座って話でもしようではないか」
突如としてクロムの目の前に机が1台、椅子が2個対角線上に置かれ、クロムの目の前に見覚えのある男、ラースが現れる。
クロム「この椅子に座ったら爆発するとかそういうのは無いよな?」
クロムがラースに向かって問いかける。
ラース「安心したまえ。私はそんな卑怯なやり方では貴様らを殺しはしない」
最も信じられない言葉ではあるが、少なくとも今この場においては嘘は言ってないだろう。ここで騙し討ちするメリットはないしね。
クロム「それで、交渉内容というのはどういうものなのか説明して欲しいのだが」
ラース「その前に見て欲しいものがある」
クロム「見て欲しいもの?」
ラース「そう、そこの崖を見たまえ」
ラースが後ろ側にある崖を指さし言う。
クロム「ッ......あれは......」
ラースが指さした方向、そこには『ヒカリ』がいた。後ろに誰なのかは視認出来ないが、背中を突き刺す感じで槍を構える人がいて、少しでも前に槍を突き出せばすぐにでも崖下に落とされてしまいそうだった。
もし落ちたら、高さ的に重症、もしくは死のどちらかだろう。
クロム「どういうつもりだ」
クロムが気迫のかかった声で問う。
ラース「フッフッフッ、フハハハハハッ」
それを聞いてラースが不気味な笑い声を上げる。
クロム「何がおかしい」
ラース「何がおかしいかって?では、逆に問おう。何故、今の私は最高に機嫌がいいと思う?」
クロム「そんなもん知ったことか!」
クロムが鞘から剣を抜き、それをラースに突きつける。
ラース「貴様らは知らないであろう。あそこにいる少女、『ヒカリ』はもう間もなくして貴様らの知る『ヒカリ』ではなくなる。最凶の『悪魔』になるのだよ。フッハハハハハハッ」
またしても、ラースが不気味な笑い声を上げる。それを聞いて、私は拳を強く握り締める。
クロム「悪魔だと?そんなものを作ってーー」
ラース「そんなものを作ってどうするのかって?決まっているだろう。この世界のありとあらゆる街を破壊しつくのさ。貴様らが弱いばかりに、貴様らがあの少女を助けられなかったばかりに。最高の気分だ」
ラースは今まで見てきたラースとは別人のようによく笑う。それに、目的も変わってるような気がする。
クロム「もういい。貴様に用はない」
クロムが剣を振り上げ、ラースの脳天に向かって振り落とす。
「私が殺られることによって彼女は悪魔になるようになっている。貴様の剣が世界の終わりを導くのだ」
とてつもなく恐ろしいことを言い放ち、クロムが咄嗟に振り落とした剣を止める。今の話に嘘偽りは全くもって無いであろう。
ラース「さあ、選べこの世界の民よ。どのような終わりにするかを...」
《キング》
ラースがグランメモリを取り出し、体に突き挿す。
そして、ラースの体が変化していく。ただ、昨日戦った時よりも巨大化しており、更にとてつもないプレッシャーがかかり、思わず脚がすくんでしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「うおりゃァ!」
クロム「喰らえ!」
フウロ「風神剣!」
ヴァル、クロムが挟み撃ちのような形でラースに攻撃し、その攻撃によって守りが薄くなった正面をフウロが攻撃する。
ラース「貴様らの力はその程度か?」
ラースは反撃することもなく、ただそう言う。
クロム「どうなってんだこいつの体は。まるで歯が立たん」
クロムが剣を構え直しながら言う。
ミラー「無駄ですわよ。今のラース様には何一つ攻撃は効きませんわ」
ヴェルド達と戦っているミラーがこちらを向いて言ってくる。
ヴェルド「随分と余裕だな!」
余裕ぶっているミラーに向けてヴェルドが攻撃するが、尽くそれはかわされる。
ラース「キルディス、そっちの準備は出来たか?」
ラースが崖の方に目をやり、響き渡る声でそう発する。
ラース「そうか。なら、我が合図したタイミングで動かせ」
ヴァル「そんなことさせるかよ!」
正しく全てを理解した訳では無いが、ヴァルが本能でヤバいことが起こると察し、ラースに連続攻撃を仕掛ける。
ラース「相変わらず、血の気の多いやつだ。そんなにヒカリを悪魔にしたいか......」
ラースが指一本でヴァルを弾き返す。
ヴァル
「ふざけんな!誰があいつを悪魔だが、なんだか知らねえやつにしたいと思うか!」
ヴァルは怒声を吐きながら尚もラースに攻撃し続ける。
ラース「はぁ、仕方あるまい。キルディス、ちょっと早いがやれ」
ラースが溜息をつきながら、『合図』をする。
ラース「貴様ら、よく見ていろ。ヒカリが世界を破壊する兵器になる瞬間を」
ヴァルは言われた通りに、という訳でもないが、ヒカリがいる場所を見る。そこには、先程までは視認出来なかった誰か、恐らくはキルディスが立っている。
ラース「さよならだ、人間のヒカリ」
キルディスがここからではよく見えないが、何かよからぬ事をしようとしている。
アルテミス「フェイト・グラン・アロウズ」
「お願い、ホウライ!」
それを、岩陰に隠れていたアルテミスと私で、アルテミスの放った矢に私が召喚した精霊『ホウライ』の操縦魔法によってキルディスに綺麗に当てることで阻止した。
クロム「今だ。助けに行くぞ!」
クロムがヒカリのいる崖に向かって走り出し、ヴァルもそれについて行く。そして、私も後ろから付いて走り出す。
ラース「させるか」
走り出したクロムとヴァルをラースが腕を横に振るだけで薙飛ばそうとする。それを避けようとしたが、何故か体が思うように動かず、攻撃をもろに喰らう。
「きゃっ......」
とてつもない痛みが全身を襲う。腹のあたりを見ると、血が服に滲んでいた。
ラース「キルディス......はもう使えんか。多少計画がズレたが、まあ仕方あるまい」
ラースがゆっくりとヒカリの方へ向かって歩き出す。
ヴァル「何を......するつもりだ......」
ヴァルが痛みを堪え立ち上がり、ラースに問う。
ラース「装置をキルディスが作動させられなくなった。だから我が行く。ミラーにやらせようかと思ったが、あの体ではもう無理だしな」
ミラーと戦っていたヴェルド達の方を見る。いつの間にかミラーはヴェルド達の手によって倒されていた。しかし、問題はそこではない。
ヴァル「うっ......」
ヴァルがラースに飛びかかろうとするが、腹の傷が思った以上に痛みを訴えてきているらしく、思うように体を動かせていない。それに、体を動かせないのには恐らくラースの魔法も絡んでいる。
それでもーー
ヴァル「やらせねえ、よ!」
ヴァルが気合いで立ち上がり、ラースに向かって攻撃をしようとする。
(もう、やめて)
ヴァルがラースに攻撃を当てる直前、脳に声が直接響いてくる。そして、それを感じているのはヴァルだけではないらしく、クロム達もヴァルと同じように立ち尽くしている。
ヒカリ(もう、いいの。私を助けようとしてそれ以上傷つかないで)
この声の主はヒカリだろう。ヒカリはこんな状況下で自らの命よりもヴァル達の命を優先している。
ヴァル「そんなこと、知ったことか!俺はお前を助ける!仲間を見捨てる訳にはいかねえんだよ!」
ヴァルはヒカリに向かって、よく聞こえるよう、大声で叫ぶ。
ヒカリ(いいの。私はあなた達に酷いことをした)
それがどうしたっていうの……。
ヒカリ(そしてまた、私のせいであなた達に迷惑をかけようとしている)
だからなんだと言うのだ。
ヴァルはラースの攻撃を掻い潜り、ヒカリの元へと急ぐ。隣を私が並走しているが、ヴァルはそんなことには気づいていないようだった。
ヒカリ(私のせいで、あなた達にもっと不幸なことを起こしてしまうのなら)
ヒカリの顔が視認出来る距離に来ると、なぜかヒカリがこちらを向いて微笑んでいた。
何をーー
ヒカリ(私は、自らの手でこの命を絶つ)
その声が聞こえた時、ヴァルが傷口を抑えるのをやめ、全速力で駆け出した。
なんで、なんでそんな事を考えるの……!
ヒカリ(さようなら)
ヒカリが1歩前に足を踏み出し、落下していく様子が見える。
ヴァル「やめろーーーーーーーーー!」
ヒカリが落ちて行く。もう間に合わない。それでも走り続ける。
ヒカリ(大丈夫。私がいなければあなた達は勝てれるから)
「ヒカリーーーーーーーん!」
私は走るのをやめ、その名を叫ぶ。
ヒカリ(ねぇ、ヴァル。覚えてる?)
やがて、ヒカリの体が崖下に落ち、その姿が見えなくなる。
「......んでだ。なんでだ」
ヴァルがその場に両膝をつき、無力そうにそう呟く。私も、同じようにヴァルの後ろで膝をつく。
ラース「自殺しよったか。まあよい。あれが無くとも我1人で侵略など簡単に出来るさ」
ラースがクロム達の攻撃を弾き飛ばし、私達の方へと向かってくる。
ラース「すぐに後を追わせてやるさ」
ラースが腕を振り上げ、ヴァルに向かって振り落とす。
ラース「死ね」
ラースの振り上げた腕がヴァルに向かって直撃する。潰れる瞬間を見たくなくて、私は咄嗟に顔を下げて目を瞑る。
ラース「さて、次はその女か」
ラースは次の標準を私に定め、再び腕を振り上げた。大きな腕が真っ直ぐに落ちてくる。なのに、私は動けない。
ヴァル「ーーてめえなんざに、殺されるわけねえだろ」
ヴァルが振り上げられたラースの腕に炎の鉄拳を撃ち込む。
ラース「バカな。あの攻撃を直に喰らって耐えれるはずなど......」
ラースが体のバランスを崩し倒れる。
ヴァル「あいつが自分の命を落としてまで俺達に『勝利』のチャンスをくれたんだ。ここで殺されるわけにはいかねえだろ!」
ヴァルがラースの体の上に乗り、右腕を振り上げる。
ヴァル「滅龍奥義・獄炎龍波」
ヴァルの滅龍奥義がラースの胸部分に当たり、そこを中心に派手な爆炎が巻き起こる。
爆炎はラースの体を業火の如く包み込み、こっちにまで肌が焦げそうなくらいの熱波が飛んでくる。これが、ヴァルの本気か……
ラース「バカな。我が負けるなど有り得るはずが......」
ヴァル「お前の負けだ。大人しくやられろ!」
爆発の規模が増し、そして、終息していく。
ラースの体が元に戻り、グランメモリが破壊される。
ラース「有り得ぬ。有り得ぬ」
ラースがただずっと『有り得ぬ』と連呼していた。
クロム「お前の負けだ」
クロムがラースの目元にやってきて剣を地面に刺す。
戦いは終わった。2人の犠牲と1人の少女の悲しみを残して。
能力設定紹介
魔法の階級
作中で出てくる魔法には階級がある。
基本魔法には
ノーマル→メガ→ギガ→テラ
という順番に威力が増していく。
ただ、これはあくまで『基本魔法』であり、作中に登場するキャラクターの殆どが『ユニーク魔法』という、オリジナルの魔法を扱っている。
その辺についてはまた次回紹介します。
次回予告
セリカ「ねえねえヒカリん」
ヒカリ「なーに、セリカ」
セリカ「ふと思ったんだけどさぁ、なんで『グランメモリ』って名前にしたの?」
ヒカリ「それには色々とあるんだけどね、元々名前なんてどうでもよかったのよ」
セリカ「ふーん。じゃあ、なんで付けたの?」
ヒカリ「いざ出来た時にね、やっぱ名前くらいつけたいなぁって思って、それで『創界の記憶』って意味で『グランメモリ』にしたの」
セリカ「創界の記憶ってどういう意味?」
ヒカリ「この世界が創られし時に与えられた記憶って意味。ちなみに、そこからカッコつけで『グラン・クラフト・メモリアル』を略して『グランメモリ』にしたの。決して昔見てた特撮の影響を受けたとかじゃないんだからね」
セリカ「そこまで聞いてないよ」
ヒカリ「ところでこれ、次回予告に関係あるの?」
セリカ「無いよ」
ヒカリ「じゃあ、なんでこの話したの......」
セリカ「ただの興味心。というわけで、ヒカリん早く次回予告して」
ヒカリ「はいはい......」
次回第2章21 【異世界からの侵略者】
さっきのは気まぐれで書いたやつです。このような形で予告書くことは多分、もうありません。




