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グランストリアMaledictio  作者: ミナセ ヒカリ
第2章 【異世界からの侵略者】
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第2章16 【思い出の物語】

「この小娘が!インゼン様にぶつかってんじゃねえ!」


 男が小さな緑色の髪をした女の子に向かって声を上げる。


(先生、あれって.....)


(間違いなく山賊か、それに似たような奴らですね。どちらにしろほっとく訳にはいかないでしょう)


 そうやってラクシュミーと小声で話した後、ヒカリは山賊の不意をつこうとゆっくりと歩き出す。


「貴様はここで斬らせてもらおう」


 男達の中で特に屈強そうな男ーインゼンと呼ばれていた者かーが鞘から刀を抜き出し、少女の前に突きつける。


 今だ!ーー


「エンドラルフィア!」


 ヒカリはインゼンが少女に向かって刀を振り落とすところを狙って攻撃する。


「うっ.....」


 攻撃は、見事にインゼンの手の甲に当たった。


「チッ、誰だ!そこに隠れているのは!」


 インゼンがヒカリの隠れている草むらに向かって声を出す。


「エンドラルサンダー!」


 そんなことには動揺せず、ヒカリは男達を全員巻き込む形で雷を落とす。もちろん少女には当たらないように調整している。


「クソっどこから撃ってきやがる!?」


 男達が動揺して辺りを見渡している。


 いい気味だーー


「フンっ!」


 続けて攻撃をしようとしていたヒカリだったが、インゼンが隠れていた草むらや木を薙ぎ倒した。


「あ、バレちゃいました?」


「何がバレただ!貴様、こんな事をしてタダで済むと思って......」


「エンドラルアイス」


 ヒカリはインゼンの話が終わる前に、奴らの足元を凍らせた。


「何だこれ!?う、動けねえ!」


 奴らの足元に広がった氷が、足を伝って奴らの体を氷漬けにしていく。


「ラクシュミー逃げますよ!」


 ヒカリは少女を抱え、走り出す。

 目の前の少女はビックリしたように目を丸くしてこちらを見ている。


「でも先生、あいつら倒さなくていいんですか?」


 ラクシュミーが並走しながら尋ねてくる。


「大丈夫ですよ。氷漬けにしましたからしばらくは活動できないでしょう」


 そう言い、ヒカリはラクシュミーも抱え走る。


「ちょっ、ちょっと先生!抱えなくても大丈夫だってば!」


 ラクシュミーが抗議してくるが、そんなものは無視だ無視。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ぜえ、ぜえ、はあ、はあ......」


 神社に辿り着いた時、ヒカリは物凄く息を荒らげていた。


ーーカッコつけてラクシュミーまで抱えるんじゃなかったーー


 そう後悔したが、今となっては後の祭りだ。


 ふと、後ろの方を振り返ってみると、何やらラクシュミーが少女ーーそう言えば、アルテミスって言ってなかったっけ?ーーと話をしている。


 ヒカリが走っている間に、色々と話をしてくれたおかげで大体の事情は分かった。


 アルテミスの話では森で弓の練習をしていたら、あのインゼンとか言う男の目の前に撃った矢が過ぎ去り、そんなことになっていたとは知らなかったアルテミスは矢を探していたところ、あの男達に絡まれたというわけだ。


 なんともまあ、気の短い奴らだ。


「それなら、あんな所で練習しなければ良いじゃない」


 丁度ラクシュミーがヒカリも思っていたことを口にする。


「だって!私の家の近くに広い練習場なんて無いんだもの!」


 アルテミスが物凄く大きな声で抗議している。


 正直、今のヒカリは何もする気力が無かった。普段あまり運動しないくせに、いきなり体を動かしまくるもんだから体の節々が悲鳴を上げている。


「それならアルテミスもここに来れば良いじゃん!」


「え?来ていいの?」


「うん、先生はなんでも出来る凄い人なんだから。アルテミスも先生に色々と教わればいいと思うよ!」


 待て待て待て待て。何がどうしてそういう話になる!?私が出来るのは魔法だけだ。弓道なんてやったことなんてない。


「先生!私も明日からここに来ますね!」


 もう先生って呼ばれてる......


「あ、はい。アルテミスさんも頑張ってくださいね」


 ヒカリは色々と思っていたことを心の内に留め、作り笑いをして言う。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ですから、ここをこうすれば......」


「先生、それ一昨日も聞いた」


 ラクシュミーは頬杖をつきながら言う。


「しかし、復習は大事なことで......」


「とか言いながらネタが無いだけなんじゃないの?」


 ラクシュミーのその言葉を聞いてヒカリはガックリと肩を落とす。


「......正直、あなた達の覚えが早くてこちとら何も教えることが無くなったんですよね.....」


「なら、あの......エンドラルフィアだっけ?あれとかやればいいじゃん」


「それも考えましたが、あなた達の成長しきってない身体でそれをやるには厳しい、というか危険だと判断したので今はやりません。後5年経ってその時に覚えてたら私に言ってください」


「後5年も通うのか......」


 ラクシュミーはため息をつく。


 ふと、隣の方を見るとアルテミスが気持ち良さそうに寝息を立てている。


「......それにしても、凄い雨ですね先生」


 ラクシュミーは窓の外を眺めながら言う。


「嵐が近づいているみたいですよ。というか、そんな状況でよく来ようと思いましたね」


「だって暇なんだもん」


「私は暇潰しの道具ですか!?」


「そんなことよりも、先生は天気を変える魔法とか使えないの?」


「そんなことって......はぁ、天候を自由に操れる魔法が使えたら私は魔法界のトップにいますよ......」


「そうなんだ。じゃあ、話は変わるけど錬金術とかは使えるの?」


「残念ながら、私は魔法一筋でね」


「じゃあ、武術」


「そんなものあったらこの間の山賊共はわざわざ最上級魔法なんて使ってませんよ」


「じゃあ、剣術」


「使えたらカッコイイですよね」


「走るの得意?」


「50メートル走13秒なんですよね」


「魔法以外何も出来ないじゃん......」


 ラクシュミーは再びため息をつく。


「仕方ないでしょう。私は魔法だけにこの身を捧げてきたんですから」


 ヒカリはそう言いながら、窓の外を眺める。

 遠くの方で雷の音がし、先程よりも雨脚が強くなっているように思える。


「......これは、防波堤がやられるかもしれませんね......」


「防波堤がやられたらどうなるの?」


 ラクシュミーが問いかけてくる。


「簡単に言うと、この街一帯が水で攫われていきますね」


「ゲッそれヤバイじゃん」


 アルテミスが突然顔を上げて言う。


(話を聞いてたのか)


「先生、そうなる前に私達で止めに行きましょうよ」


 アルテミスが何やら凄く焦った様子で言う。


「そう言われましても、この雨の中では出るだけで危険です」


「でもさ、このまま雨が強くなっちゃったらそのボウハテイが壊れて街が無くなっちゃうんですよね?」


 そこまで大袈裟に言ったつもりはないが、善は急げと言う。様子だけでも見に行ってみるか......


「分かりました。様子を見に行くだけですよ。あくまで様子を見るだけ、大分川から遠い方から」


 ヒカリは何度も念を押してから玄関へと向かった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「うわ〜こりゃあ思ってた以上にひどいことになってますね〜」


 ヒカリは川辺から荒れ狂った川を眺める。


 遠くから見るとか言っていた割には結構近くまで来てしまった。知的好奇心のせいにでもしておこう。


 それにしても、川の氾濫状態はかなり酷い。防波堤が破られるのも時間の問題だろう。むしろ、川に架かっている橋まで壊れそうな勢いである。


 橋が壊れたらどうなるのだろうか?修理に3ヶ月ほどはかかるし、そもそも修理費はどこから出るのだろうか?


「ねえねえ、先生。あれ先生の力でどうにか出来ないの?」


 修理費とかそんなくだらないことを考えている場合では無かった。ラクシュミーの言う通り、この氾濫状態は流石にどうにかしなければならない。


 しかし、この程度にまでなると、魔法ではもうどうにも出来ないだろう。


「あるいは、錬金術なら地盤を固めて橋が壊れるのと防波堤の両方をなんとか出来そうですが......」


 そう考えはしたが、ラクシュミーに言ったように錬金術など使えっこない。


 ではどうする?


「錬金術ならどうにか出来るんだったな?」


「ええ、そうです。あの柱付近の地盤を固めて後はこちらの防波堤も固めればどうにかなります」


 まあ、いくら錬金術とは言え、そこまでは出来るはずがない。


「ん?今、私は誰と話をしていたんだ?」


 てっきりラクシュミーだとでも思っていたが、言った言葉の内容からして明らかに違う。


 では、誰だ?


 ヒカリは辺りを見渡してみる。


 目当ての人物はすぐに見つかった。まあ、周りにはラクシュミーとアルテミス以外、ヒカリの隣に立っていたのはブロンドの髪をした女が傘もささずー私達はレインコートをしていますー1人だけいたからな。


「あの、あなたまさか......」


 ヒカリが話をしようとするが、女は無視して防波堤のギリギリにまで進む。


 そして、女は防波堤の壁に手を触れると強い光が発生し、地盤や、壁が固められていくのが分かる。


(え、ええ!?)


 あれが錬金術であることはすぐに分かったが、なんか納得出来ない。


 まず、あの女は錬成陣も書かずに錬金術を行った。手の甲とかに書いてある気配もない。


 そして、錬金術にしては威力が凄すぎる。先程まで今にも崩れそうだった柱はしっかりと立っているし、防波堤の壁もカチカチになっている。しかも、さっきまでよりも高くなっている。


 何者だ?あの女。


 そう思っていたのはヒカリだけではないらしい。川のギリギリにいた作業員達も唖然としている。


 ふと、ラクシュミー達の方に目を向けると、二人ともキラキラした目であの女のことを見ていた。


「あんた、何もんだ?ここらじゃ見ねえ顔だけど......」


 作業員達の内の一人が女に近づき問いかける。


「私の事かい?私は......ゔぇっ!」


 女が問いに答える手前、女が血を吐いて倒れた。


「お、おい!誰か担架を持ってこい!」


 先程の作業員の男が叫ぶ。


 一体この女は何者なんだ? ーー

人物紹介

ヒカリ・ラグナロク

性別:男 所属ギルド:無し 年齢:?

好きな食べ物:? 嫌いな食べ物:?

誕生日:? 身長:176cm

趣味:研究

見た目特徴:一瞬女かと見間違えるくらい、小柄で長髪。


幼きラクシュミーとアルテミスに魔法を教えていた教師。魔法以外に出来ることは何も無い。


次回予告

第2章17 【幼き思い出】

今回は割と短めになりました。そして、第2章終了まで後10話程度になります。(もっとかかりそうな気配がしなくもないが、第1章がかなり短かったので以下省略)

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