第2章13 【負の始まり】
「おい、起きろ!セリカ!」
誰かが耳元で叫ぶ。
「んあ......?」
私は目を擦る。いつの間にか三角座りの姿勢で眠ってしまったようだ。
「起きたか、セリカ」
顔を上げると、すぐそこにフウロがいた。耳元で叫んでいた人物はフウロだったようだ。
「おはよう、フウロ」
私は呑気にも欠伸をしながら言う。
フウロ「何を呑気にしている。敵襲だ!」
フウロのその言葉で一気に目が覚めた。
「敵襲!?でも、ヒカリんが抑えてくれてるんじゃ......」
フウロ「そのヒカリがまだ戻ってきていないんだ。ーー考えたくはないが、逃げられた可能性が高い」
「そんなの......」
ーー嘘だ。
ヒカリは約束してくれたはずだ。私達に協力してくれると、私達に力を貸してくれると。そして、『仲間』になってくれると、約束したはずだ。
「嘘だと思うのは構わねえ。だが、敵が来てることに変わりはねえよ」
ギルドの戸を開けて男が入ってくる。ーーグリードだ。
フウロ「様子はどうだった?」
フウロがグリードに近づき、そう問いかける。
グリード「最悪だァ。至る所で人ならざる者が暴れてやがる。あァれが屍とかいうやつなのかねェ」
フウロ「そうか」
「しかし、まんまと嵌められたな」
室内にもう1つ別の声が響く。
「ヴェルド......」
ヴェルド「だから、俺は反対だったんだ。あいつを1人で奴らのところに戻すなんて、そのまま逃げるに決まってんだろ」
「でも、まだヒカリんがやったとは決まってないんでしょ?」
私はほんの一欠片の希望を求めて聞く。
ヴェルド「キルディスって奴が言ってたぜ『ヒカリさんの指示は完璧だ』ってな」
「そんな......」
ヒカリが裏切った。否、騙したと言った方が正しいのだろう。
「ーーそうだ、アルテミスは?」
彼女はヒカリを止めに来てくれたはずだ。今、この場にいないということは...
グリード「あいつは、真っ先にヒカリの所に行ってくるって出ていったさァ。あの子が嘘つきじゃねえことは確かだ。そこだけは安心しなァ」
グリードがそう言う。ーーしかし、安心しろと言われても、ヒカリに騙され、敵の強襲がやってきた時点で、安心することなどできるわけがない。
グリード「とにかく、俺は奴らをぶっ飛ばしに行くぜェ」
グリードはそう言うと、戸を開けて出て行った。
フウロ「セリカ、気持ちは分かるが......」
フウロが宥めるようにそう言う。フウロの言いたいことは分かる。でも、今の私には戦えそうにない。
「……」
だから、私は黙って俯く。
「みんなー!」
突然、ギルドの戸を開け、緑色の髪をした少女が入ってくる。ーーアルテミスだ。そして、後ろにはヴァルもいる。
フウロ「どうしたアルテミス。そんなに慌てて」
アルテミスもヴァルもかなり汗だくの状態だ。確かに、今はかなり慌ただしい時だが、そこまで焦ることなどあるのだろうか?
アルテミス「ラクから手紙!」
アルテミスは机の上に1枚の紙切れを出し言う。
ヴェルド「あいつから手紙?」
ヴェルドが怪訝そうな顔つきで言う。
ヴァル「いや、あいつらはヒカリからの手紙だとか言ってたがーー」
アルテミス「これはラクのじゃない!」
ヴァルの言葉を引き継いでアルテミスが叫ぶ。
「どういうこと?」
ヒカリからの手紙なのに、ヒカリのではない。どういうことだ。
「順を追って説明しよう」
またしても別の人物が入ってくる。ーー今度はライオスか。
ライオス「まず、俺達はカゲロウって奴と接触した。奴は俺達と戦うことをせず、この紙切れだけを渡して逃げやがった。ヒカリからの手紙らしいが、アルテミスの言うことじゃ、これはヒカリのではない。そうだったよな?」
ライオスはアルテミスに問いかける。
アルテミス「ええ、文章自体はラクと似てるんだけど、字体が明らかに違うの」
フウロ「しかし、それだけでヒカリではないと決めつけるのは早すぎやしないか?」
フウロが問いかける。
アルテミス「うん。私達も最初はそう思った。でも、手紙の最終部にはこう書いてあった」
私はアルテミスから手紙を受け取り、その中身を読む。
「『例の鍾乳洞で待つ。ヒカリと会いたければ来い』。確かに、これはヒカリんからというよりも、別の誰かからって感じがする」
私は思ったことを口にした。
アルテミス「うん。多分、ラクは奴らに逆に捕まえられたんじゃないかなって私は思ってる。それでーー」
フウロ「それで、この場所に行くというわけか」
フウロが言葉を引き継いだ。
アルテミス「うん、そういうこと。だから、みんなにも着いてきて欲しいの」
アルテミスがそう言うが、フウロとヴェルドは難しい顔をしている。
ヴァル「ここで悩んでたって意味はねえ。俺は少しの可能性を求めてここに行ってみた方がいいと思うぜ」
ヴァルが2人の顔色を伺った後にそう言う。
フウロ「ーーそうだな。ここで戦ってたっていつかは死ぬだけか。なら、少しの可能性を信じて行ってみるのも悪くはないか」
フウロが覚悟を決めた。
ヴェルド「俺も、ここで待ってるなんざできねえよ。それに、そこに行けばもしかしたら親玉が待ってるかもしれないからな」
ヴェルドも覚悟を決めたようだ。
ヴァル「よし、行くぞ!」
ヴァルの掛け声に合わせて、皆ギルドからゾロゾロと出ていく。
ーー私は何をしたら……。
アルテミス「セリカも着いてきて」
悩む私に対してアルテミスがそう言う。
「でも、私が着いていってもーー」
足でまといになるだけだ。ろくに戦えない私にはどうすることもできない。
アルテミス「もう!セリカにだってラク、いや、ヒカリのことを大事に思ってるでしょ!」
そう言うと、アルテミスは無理やり私の腕を引っ張って外に連れ出した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「ここだな」
先日訪れた鍾乳洞。そこに今、私達はいる。元々国境付近に位置する私達のギルドからは、このイーリアスとの国境付近に位置する鍾乳洞までの距離はそこまでない。ただ、前回来た時よりも、全体的に禍々しさが増えている気がする。否、今日は空が曇りで覆われている。そのせいで、余計に暗く見えているだけなのかもしれない。
フウロ「この間来た時と違って、今回は敵が大量に待ち構えていると思われる。ヒカリを救出次第、撤退するぞ」
フウロがそう言い、先陣を切って洞窟に入っていく。洞窟内は、前回来た時よりも明らかに様子が一変していた。前は水色に輝いていた洞内の面影はどこにもなく、灰色に澄んだ岩石が見えるばかりだ。
「おや、随分とお早いお越しでしたね」
しばらく進んだところで、大柄な男が道を遮るようにやってきた。確か、こいつの名前はゴードだったような。
ゴード「ボスからの命令で、私はここの門番をやっておりますので、悪いですが、あなた達には死んでもらいます」
《ハカイ》
ゴードがグランメモリを出す。そして、後ろの方から部下と思われる奴らが10数人現れた。全員、グランメモリを持っている。あれが、ヒカリの言っていた『屍』のメモリ……。
フウロ「お前に構ってる余裕はないんだ。道を開けてもらおう」
フウロが剣を抜き、ゴードの鼻先に剣の切っ先を突きつける。
ゴード「やれ、お前ら」
ゴードの指示で、後ろの奴らが一気に襲いかかってくる。
ヴァル「連獄!」
ヴェルド「アイスニードル!」
フウロ「暴風剣!」
ヴァル、ヴェルド、フウロが迎え撃つ。ヒカリの言っていたことだから屍もめちゃくちゃ強いのではないかと思ったが、敵はあっさりと崩れ落ちていった。
ヴェルド「なんだ、大したことねえな」
ゴード「おや、あなた達はヒカリさんから『屍』の力を聞いていなかったのですか?」
ゴードが意味深な発言をする。
フウロ「? どういうことだ?」
フウロが眉間に皺を寄せる。そして、ゴードは不気味な笑みを浮かべている。
ゴード「『屍』は、たった一度ではやられませんよ」
ゴードがそう言った直後、倒したはずの敵が立ち上がり、再び襲いかかってくる。
ヴァル「クソっ。倒しても倒しても、倒すことが出来ねえ!」
ヴァルが1人、そう叫びつつも、敵をなぎ倒していく。
「レイン・オブ・ウィンド・アロウズ」
突然、後ろの方から矢が放たれる。それは、緩やかなカーブを描き、敵の真上に来たところで分散し、雨のように降り注ぐ。
ーーそして、その一矢を放ったのは......
アルテミス「道を開けて」
アルテミスだった。
ゴード「おや、あなたはヒカリさんの友達でしたか。どうやってこちらの世界に来たのかは知りませんが、邪魔をするなら、容赦はしませんよ。ーーいけ、お前ら」
ゴードが指示を出すが、誰1人として動くものはいない。それもそのはず。先程のアルテミスの一撃で、全員床に串刺し状態になっている。
ゴード「どうやら、私が本気を出す必要性がありそうですね」
そう言い、ゴードが右手に力を溜めている。
ヴァル「いや、お前はここで寝てろ」
ゴードの膝が崩れ落ちる。気づけば、ヴァルがゴードの上で仁王立ちしていた。
ゴード「あなたは......」
ヴァル「ヘル・ファースト」
ヴァルがゴードの頭上に黒色に染った炎の鉄拳を打ち込む。ーーヴァルが、珍しくガチ切れしていた。ゴードが完全に崩れ落ち、体から出てきたグランメモリが壊れる。
フウロ「よくやったヴァル。行くぞ」
フウロがそう言い、私達は再び走り出す。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「ヒカリー!どこだヒカリー!」
洞窟の最奥に着くや否、すぐさまヴァルが叫ぶ。
「ヒカリーん!」
私もヒカリの名を叫ぶ。しかし、誰も答えてくれる者はいない。
フウロ「ヒカリー!」
フウロもヒカリの名を呼ぶ。
「うるさいガキ共だな」
突然、鈍く響き渡る男の声がした。
ヴァル「誰だ!どこにいやがる!」
声の主は、ヴァルの質問に答える代わりにして私達の目の前に現れた。
「なぜ、ヒカリがこんな奴らのところに付いたのか分からんな」
ヴァル「テメェ、ヒカリをどこにやった!」
ヴァルが男に近づき叫ぶ。そして、全くもって恐れる素振りを見せず、男の胸ぐらを掴みかかる。
「落ち着きのないガキだな」
ヴァル「んだと!?」
「少しは落ち着いて相手の話を聞こうとしたらどうだね」
男がヴァルの額に指を当てる。その直後、ヴァルの体が崩れ落ちた。
「ヴァル!」
私達は慌ててヴァルの元へと駆け寄る。
ヴァル「な......んだ、これ。体が......動かねえ......」
ヴァルは必死に体を起こそうとしているが、1ミリも動く気配がない。
フウロ「貴様、ヴァルに何をした」
フウロが剣を抜き、男に詰め寄る形で問う。
「安心したまえ。彼には一時的に大人しくなってもらってるだけだ。そして、お前らはヒカリに会いたいか?」
男が逆に問いかけてくる。
フウロ「ヒカリはどこにいる」
フウロは剣の切っ先を男に向け、余裕の無さそうな表情でそう問いかける。
「そんなに会いたいのか。ならば、会わせてやろう。......後悔しても知らんがな」
そう言うと、男が目の前からいなくなる。代わりに、さっきまで男が居た場所にヒカリの体が現れる。
「ヒカリん!」
私はヒカリの元に駆け寄る。
「ヒカリん、ヒカリん!」
ヒカリの体を激しく揺する。アルテミスも同じようにしてヒカリに駆け寄る。
ヒカリ「あ"......」
それに応えるようにヒカリの目が開く。
「良かった......ヒカリ......ん?」
ヒカリの様子がどうもおかしい。なんとなく、目に生気がこもっていないというか......なんというか......
「うっ!」
そんなことを考えていたのが悪かった。ヒカリが私のすぐ側で魔法を使った。咄嗟のことに避けることが出来ず、私もアルテミスもまともに火の玉を喰らった。
「ヒカ......りん......」
ヒカリが立ち上がる。そして、躊躇いもなく魔法攻撃を仕掛けてくる。
フウロ「逃げろ!セリカ!」
ヒカリの攻撃をフウロがかろうじて受け止める。
ヴェルド「フウロ!」
フウロ「これはヒカリであってもヒカリじゃない。恐らくさっきの男になにかされたのだろう」
フウロが話している間もヒカリは容赦なく攻撃してくる。
ヴェルド「クソっ、さっきのアイツか......一体ヒカリに何をしたんだ」
ヴェルドがそう言いながらヒカリの攻撃を受け止める。
ヴァル「ヒカリ!目を覚ませ!」
いつの間にか起き上がっていたヴァルが隙をついてヒカリに攻撃する。しかし、ヒカリはそれをかわし、ヴァルにも攻撃する。
アルテミス「ラク!お願い目を覚まして!」
アルテミスも、素早く立ち上がってヒカリに向かって攻撃をする。
ヒカリ「…………」
ヒカリの耳には言葉が届いていないように見える。
「セイレーン!」
私は水色の鍵を取り出し、契約精霊を呼び出す。
セイレーン「お呼びでしょうか、セリカ様」
「お願い、ヒカリんの洗脳を解いて」
セイレーン「かしこまりました」
そう言い、セイレーンは歌い出す。セイレーンの歌には拘束を解く力がある。ヒカリは何かしらの方法で洗脳されていると思った私は、その力でヒカリの洗脳を解こうとした。
ヒカリ「…………」
ーー見た感じ、その作戦は失敗しているように思える。ヒカリはセイレーンの歌声など気にせず攻撃をし続ける。
一体、どうすれば......
人物紹介
ヴァハト・ルグ・イグニス
性別:男 所属ギルド:グランメモリーズ 年齢:72歳
好きな食べ物:煮物 嫌いな食べ物:甘い物
誕生日:12月24日 身長:145cm
趣味:これといって無し
見た目特徴:身長が低く、白い髭を生やしている。髪は白髪になっている。
グランメモリーズ五代目ギルドマスター。
風、地、木属性の最上級魔法を使うことができ、更に錬金術も使うことが出来る。
次回予告
第2章14 【少女の叫び】




