第2章8 【偽りの物語】
「全部、全部嘘だったんだ......」
治療中のヴァルを見て、私はさっきまでに起きた出来事が、全て嘘ではなかったと再確認する。
「何を悲しんでやがる?あいつは最初っから俺達の仲間っていう意識が無かったんだろ?」
ふいに後ろから声が聞こえた。
「なんだ、グリードか......」
グリード「随分と舐められたもんだ。そんなに俺達はバカなのかね?」
グリードが私の隣に座り、同じようにしてヴァルを見る。
グリード「信じられねえ気持ちは分かる。でもよォ、そんなことで一々立ち止まってたらキリがないぜ?倒さなきゃいけねぇ敵が増えた。だそれだけだ」
グリードは淡々とそう告げる。元軍人だとは聞いていたが、やっぱり軍人らしくこういう状況には慣れているのかな?
「でも......」
グリード「セリカは確かヒカリと一時的に一緒に住んでたんだったなァ。それなら、信じたくねえってのは否定しない。でも、現実ってのは容赦なくそこまでやってくるんだぜェ」
「ーー私、ちょっと外に出て頭冷やしてくるね」
これ以上は何も考えられなくなりそうだと思ったから、私は立ち上がって外の空気でも吸おうとギルドの扉を開ける。幸い、この時間に敵が攻めてくることはない。奴らにもタイミングというのがあるのだろう。
グリード「遠くまで行くなよォ。外には奴らとどこで遭遇するかわからねえからよォ」
グリードがそう言っていたが、私には、それを聞き取ることが出来なかった。否、聞きたくなかっただけだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「どうして、ヒカリんがやって来て1週間しか経ってないのに、こんなことになっちゃったんだろ......」
細い路地裏を歩きながらそう呟いた。ここは、あの日ヒカリを助けた場所だった。もし、私があの場で無視をしていたら……いや、それは関係ないかな。
スッ......
誰かがセリカの後ろを通る。
「っ......」
セリカは咄嗟に振り返ろうとするが、後頭部に冷たい感触を与えられ、それ以上の動きを止める。
「それ以上振り返ったら撃つよ」
その声には聞き覚えがあった。
「ヒカリ......」
ヒカリ「殺すつもりも、捕らえて人質にしようとするつもりもない」
「ーーじゃあ、なんで来たの......」
ヒカリ「あなたの悲しんでる顔が見たいから?じゃダメかしら」
ヒカリの顔が見えないためどんな顔をしているかは分からないが、少なくとも、笑みを浮かべてはいないと私は思った。むしろ、悲しそうな顔をしてるんじゃないかとも思った。
「ーーヒカリんはそんなことをするためにわざわざ来ないよ。本当は何をしに来たの?」
ヒカリ「そこまで、私を理解できているのなら合格よ。だけど、時間切れ。続きがしたいのなら、ここに来なさい。いつでも待っててあげるから。少なくとも1週間は」
そう言い、ヒカリはこの場から立ち去る。
「っ......」
冷たい感触が無くなり、私は後ろを振り返るが、ヒカリはもう居なかった。ただ、さっきまでヒカリがいたであろう場所に手紙と思われるものが置いてあった。
私はサッとそれを拾い上げ、内容を読み進めていく。
『リヴィアの鍾乳洞で待つ』
手紙にはその一文が書かれていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
グリード「よう、誰にも襲われなかったか?」
ギルドに戻った私を出迎えてくれたのはグリードだった。
「これから、どこかに行くの?」
グリードはしっかりとした胸当てに、刺々としたナックルと、完全に武装体制を整えている。
グリード「あいつらに奇襲をかけてやろうと思ってなァ」
グリードはニヒッと唇の橋を上げる。
フウロ「やめとけ、どうせ返り討ちにあって死ぬだけだ」
フウロが現れた。
ライオス「所詮、俺達じゃどれだけ準備を整えてもあの、グランメモリとかいうやつを使う奴を1人倒せるかどうかだ」
ライオスも諦めに似たような口調で言う。
ギーグ「ライオスさんなら、余裕でしょぉ?」
ライオスの後ろから現れた三バカのうちの1人、ギーグがなんともお気楽な感じでそう言う。
ライオス「バカか、お前らもあいつらの力を見ただろ」
レイ「でも、それは不意打ちみたいな形で攻めてきたからでしょ?逆に私達が不意打ちに行けば勝ち目はあるんじゃない?」
レイも同様、お気楽な感じでそう言う。
ーー全く、本当に敵の強さを見てきたのかな?
あれを見たのであれば、いくらライオスとて相手に出来ないのはよく分かるはずだろう。それとも、現実を認めたくないのかな?
ライオス「正面から行ったヴァルがあのザマだ。仮に上手いこと事が運んだとしても、最終的にヒカリに止められて終わりだ。それくらい理解しろ!この三バカが」
ギーグ「へーい」
レイ「はーい」
ギーグとレイが気の抜けた返事をする。
デン「あの、お言葉ですが、1人ずつ誘い出せれたら勝算はあるのでは?」
デンだけは事の深刻さを知っているようで、真面目な面持ちでライオスに問う。
ライオス「まずそれは出来ねえな。あいつらが1人でやってる時は必ず他の奴らが別のところで何かしらをやっている。集団で攻めても集団で仕返しにあうだけだ」
ライオスは先程の1戦で全てを試したのかと思うくらいに考えを否定していく。
「本当にここがグランメモリーズなのか?噂では賑やかなギルドだって聞いてたのだが」
ーー突然、聞き慣れない声が聞こえたかと思うと、ギルドの扉を開いた先に誰かが立っていた。
ライオス「誰だお前。また、あいつらの仲間の1人か?なら容赦はしない」
ライオスが拳をボキボキと鳴らす。
「我が主への無礼は許しませんよ」
後ろの方から頭以外全身を鎧で包み込んだ男が現れた。
「いいんだ、アラン。こんな反応をされるのは元より承知している」
男がアランと呼ばれた人物を腕で制する。
アラン「失礼しました」
アランが頭を下げ、1歩後ろへ下がる。
グリード「それで、おめェ何もんだァ?」
頃合を見計らってグリードが言う。
「俺の名前はクロム・ウェル・イーリアス。訳あって今日はお前らグランメモリーズに頼みがあって来た」
男ーークロムーーは淡々と自己紹介をする。
ヴェルド「クロム・ウェル......ってイーリアスの王子様じゃねえか!」
軽く聞き流そうとしていたヴェルドが素っ頓狂な声を上げる。
「え、ヴェルドそれ本当!?」
私も声を上げて驚く。
クロム「その響きはちょっとむず痒いんだがな......」
クロムはポリポリと頭を搔く。
ライオス「それで、イーリアスの王子様がうちに何の用だ?」
ギルドがざわめく中、ライオスだけが冷静にそう言う。
クロム「実はヒカリについて話したいことがあってな」
クロムは言い難そうに言った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ライオス「なるほどな。大体お宅の事情は分かった」
クロムの長話を聞いていたライオスは腕組を解き言う。
イーリアスにもあの異世界から来た『解放軍』が攻めていること。もう既にグランアークの国王とは話を終えていること。そして、ヒカリを1度雇っていたことなど、普通に聞いていたら頭が混乱しそうなことだが、ライオスは動揺もせず、ただ、真っ直ぐな瞳をクロムに向ける。
ライオス「それで、大体は分かったんだが、うちにどうしろと言うんだ?」
ライオスは相手が王子であるにも関わらず、頬杖をついて問い掛ける。
クロム「お前らはヒカリを俺達よりも知っているはずだ。奴らを倒すためには作戦参謀である、ヒカリを倒すことが必要だ。それでーー」
ライオス「それで、あいつの手の内を知っている俺達に力を貸せってか?」
ライオスがクロムの言葉を繋ぐ。
クロム「そういう事だ。力を貸してくれるか?」
ライオス「力を貸してあいつを倒すってのには俺は賛成だ。だが......」
ライオスはセリカに視線を送る。何が言いたいのかは分かる。
ヒカリは私にとって出来れば倒したくない人だ。でも、そんなわがまま言ってられない。
「ヒカリんは、いや、ヒカリは倒すべきだと思う」
私は胸の内を隠し、思ったことを口にした。
ライオス「そうか。ヒカリを倒すことについては誰も反対するやつはいないな。となると、後の問題は.......」
ライオスが顎に手を当て考え事をする。
クロム「まだ何か問題があるのか?」
クロムが問いかける。
ライオス「普通の依頼だったら、ここで承諾するんだが、何せ、依頼主があんただ。マスターの指示なくして決定することは出来ねえ」
クロム「そうか......すまなかったな」
クロムは頭を下げる。
……
「行け、お前ら」
ふと後ろから声がした。
ライオス「マスター......」
「行けと言っておる。こんな時に限ってワシの判断を待たんで良い」
マスター・ヴァハト。現グランメモリーズギルドマスターのヴァハト・ルグ・イグニスが杖を立ててそこにいた。
ライオス「本当に良いのか?爺さん」
ヴァハト「本当ならワシはヒカリを倒すことについては反対じゃ。しかし、あれこれしとる暇は無いじゃろう。クロムと言ったな、うちのガキ共に何かあったらタダじゃおかんぞ」
クロム「分かっている。こいつらは、俺達自警団が責任を持って守る」
クロムはマスターの方を向いて言う。
グリード「どうやら、決まったようだなァ。そこでなんだが、ヒカリを1人で呼び出すことに関してはどうするんだァ?」
みんなが思っていることをグリードが代弁するかのように言う。
クロム「そこに関しては考えてなかったな...」
みんなが頭を悩ませる。
「あの、これ」
私はテーブルに1枚の手紙を置く。先程ヒカリから貰ったものだ。
クロム「これを誰から貰ったんだ?」
クロムが問いかけてくる。
「ヒカリから。さっき路地裏で会ったの」
ライオス「リヴィアの鍾乳洞で待つ......か。罠かもしれんぞ」
紙切れを一目見たライオスが言う。
クロム「しかし、ここでグズグズ留まっていることは出来ないだろう」
「ーー行くしかねえな」
ふと、さっきまでとは違う人物が言った。ーーヴァルだった。
「ちょっとヴァル、まだ安静にしてないと......」
ヴァル「うるせえ、傷なんてそんなに深くねえよ。俺も戦える!」
ヴァルはわざと大きな声で言う。
クロム「ーー出発は明日の8時だ」
クロムはヴァルの体を気にもせずに言った。
クロム「それまでしっかりと休んでおけ。ヴァルだったか?お前も貴重な戦力だ。せめて今日一日はゆっくり休んでろ」
そう言うとクロムは出口に向かって歩き出した。
アラン「失礼しました」
アランが礼儀良く頭を下げ、クロムの後を追った。
本当にこれで良かったのか……。
私にはまだ迷いが晴れたわけではなかった。
人物紹介
デン・ぜブリウス
性別:男 所属ギルド:グランメモリーズ 年齢:28歳
好きな食べ物:焼き魚 嫌いな食べ物:無し
誕生日:9月3日 身長:180cm
見た目特徴:黒髪の長髪、普段は仮面をしている。
自称ライオス護衛隊の1人。主に結界魔法という、周囲に結界を貼る魔法を使う。
次回予告
第2章9 【生かすか殺すか】




