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グランストリアMaledictio  作者: ミナセ ヒカリ
第8章√NH 【星界の家族】
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第8章15 【私の物語】

「はぁっ......はぁっ......はぁっ......」


 武装組織が屋敷を制圧するのはあっという間の出来事だった。スピカは大丈夫だろうか?いや、未来では元気にしてたし、きっと大丈夫だ。あの龍がどうやって現れたのかが気になるけど、今は気にしてる場合じゃない。


 敵の追っ手はすぐそこまでに迫って来ている。スピカのお陰で、早めに察知することが出来たのに、奴らが追いかけてくる速さは尋常じゃない。


「おぎゃぁぁぁっ......おぎゃぁぁぁっ......」


「大丈夫。大丈夫よ。お母さんが絶対に守ってあげるから」


 普段から泣かないという赤ん坊の私も、この状況がマズいということに気づいているらしい。昔から、察しだけは良かったようだ。


ネイ「はぁっ......どこに、向かってるんですか」


「別世界の友達の家。世界線さえ超えてしまえば、奴らは追いかけることができないからっ」


 転移術で逃げるつもりか。確かに、転移なんてものは普通の人間じゃ扱うことは出来ない。努力すれば身につくものでもないからね。


 ......でも、お母さんはこの先のどこかで死んでしまう。それは、未来で知ったことだ。


 ......歴史を変えてしまうかもしれない。私はお母さんに生きていて欲しい。でも、歴史を変えることは許されない。そんな、矛盾した思いが、私の足に引っ張りついてるかのように、私の足は重くなる。


「やだ、雨が降り出したわ」


ネイ「任せてください」


 雨を弾くくらい、なんて事ない。変に濡れて風邪をひかれても困る。それに、空の雲を見る限りだと、雷も降ってきそうである。


「あなた、足は大丈夫?」


ネイ「羽を広げてるので大丈夫です」


「そう。後ろから来る敵には気をつけてね」


ネイ「分かってます」


 背後に迫る敵は、徐々に徐々にとこちらに近づいてくる。赤ん坊の私を抱き抱えたお母さん。そして、足が上手く動かず、変な感じで羽を広げて飛ぶ私。明らかに、足が遅くなるのは目に見えている。


 それでも、走り続けなければならない。止まれば、敵に蜂の巣にされる。


 お母さんを死なせたくない。まだ、まだ話したいことがある。私の名前が決まるまでの過程を見たい。


 死なせない。絶対に、お母さんを守り抜く。


ネイ「......いつになったら、転移術を使うんですか」


「転移術を使える場所は限られている。マナがたくさん集まる場所じゃないと発動させられないの。私の転移術は、しっかりと完成させられたものじゃないから」


ネイ「......」


 転移術には一定の制限がある。今の私なら、どんな場所であれ、発動させられる。でも、ヒカリと分かれたこの体は、邪龍になる前の私のように、使える魔法に制限がかかっている。


 転移術さえ使うことが出来れば、こんな奴らから逃げることなど容易いことなのに、人生とはそう都合よく行かないものである。


「もうすぐよ。もうすぐ、ポイントに辿り着くわ」


 この調子なら、敵が追いつく前に逃げることが出来る。


 そんな淡い期待を打ち破るものが、開けた視界に飛び込んでこようとは、この時の私は考えもしなかった。


「そこまでだ。ユニバー」


「っ......サターン......」


 開けた視界に、禍々しい姿の何かが映り込んできた。


ネイ「誰ですか......」


「サターン。かつての友です」


ネイ「友......」


「久しぶりだな、ユニバー。そして、さよならだ」


「......ねぇ、この子を預かっててくれる?」


 お母さんは、私に赤ん坊の私を預けてくる。


 私は素直に受け取るが、お母さんが何をしようとしているのかが分からなかった。いや、戦うつもりなのは分かっていた。でも、この禍々しい奴を相手に、お母さんが戦えるとは思えなかった。


「サターン、あなたと戦うのは嫌なの。お願いだから、道を開けて」


「何を言うか。お前の後ろはとっくに包囲されている。それに、目の前には俺。お前に逃げ道などない」


「......そう。なら、仕方ないわね」


「......?」


 お母さんが、胸元にエネルギー弾を作り出して、そこに周りのマナを集めて......


 見ただけで分かった。星空のエネルギーを、その手に集めていた。その星空のエネルギーをそんなに集めたら、自分も巻き込むほどの大爆発が起きる。


「あなた、その子を守ってくれる?」


 私に微笑みかけてきて、優しくそう言う母。反射で、私は防衛陣をお母さんも包み込んで敷く。


「っ......。ユニバース・ゼロ」


「......!?」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「......クソっ。ユニバーめ。あれ程の魔法を習得していたとは......」


 全てを無に還す最大にして、最凶の魔法。宇宙が誕生せし頃、全ては無だった。その無の再現。


 再現魔法というのは聞いたことがあったが、まさかユニバーがそれの使い手とは考えもしなかったな。いざという時のために習得していたといったところか。


 私は、咄嗟に身を守ることが出来たが、周りにいた雑魚兵共は全員無に還されたな。しかも、殺すべき相手であるユニバーには、とっくに異世界へと逃げられてしまった。


 ミッション失敗。ただでさえ異世界に行く方法がないと言うのに、今の私は部下もいないボロボロな状態。諦めるしかないが、ここで終わりではない。


「待ってろ。ユニバー、ミルキーウェイ」


 お前らはまだ知らないだろうが、コスモは死んだ。その死に方は、私達にも分からない。だが、あの人の元への鍵は1つ外れていた。結果的に、コスモは死んでいたことになる。


 異世界に行く方法は、ジュピターが開発中だ。その先で、お前は死ぬことになる。逃げられると思うなよ。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 何とか逃げ切ることが出来た。だけど、お母さんは『ユニバース・ゼロ』の使用によって、生きてるのが不思議なくらいに疲れている。


 私は、泣きじゃくる赤ん坊の私を抱えて、右手にはお母さんの手を繋いでいる。


「ごめんなさいね。あんな魔法、覚えたはいいけど使ったことがなくて......」


ネイ「そんなのでよく発動できましたね」


「そうなのよ。まあ、ギリギリのところを抜けられたから良かったのだけれど......」


 話すほどの力は残っている。


 ......もう走らなくても大丈夫なのか。敵はこちらの世界にやって来れない。私達を追いかける者はいない。


ネイ「......ヴァルガって人の家の方角はどちらでしたっけ?」


「このまま真っ直ぐで大丈夫よ。そしたら、家が2軒ぽつんと建っている場所が見えてくるわ」


 14年前から家がたったの2軒か......めっちゃ過疎ってる地域じゃん。


「敵はもう追ってきてないけれど、急ぎましょ?こちらの世界でも嵐が来ているようだし」


ネイ「はい」


 人生において、最大の不幸がどれかと尋ねられたら、きっと僕は、迷いなくこの時を選んでいただろう。


 僕が油断していなければ、母を失うことは無かった。


 その後悔は、僕が復讐のために生きる理由ともなった。でも、出来ることなら僕は母を助けたかった。過去を変えることは出来ない。この本を読んでいる君も、それは経験したことだろう?


 ーー引き金を引いた音がした。


 咄嗟に振り返ると、弾丸が私目掛けて飛んできているのが分かった。


 全てがスローに見えた。お母さんが、私の前に飛び出して、赤い、鮮血が飛び散るのが見えた。


「これで、ミッション完了ね」


 遠くに見えた人影。あれは、ユミを、いや、昔の私の体に入っていたミイを撃ち抜いた女だった。


 そんな......いや、ここは過去だ。いてもおかしくはない。でも、なんでこんな場所に......?


 色々と疑問が浮かぶが、女はさっさとこの場から消え去った。


ネイ「......」


「ごめん......なさいね......」


ネイ「あっ......あぁっ......」


 血が、汚れた泥水に流されて、辺りが血溜まりになっている。抱き抱えた赤ん坊の私は、より一層酷い泣き声で騒いでいる。


「......まさか......こんなところで死んじゃうなんてね......」


ネイ「死んじゃ......ダメですよ。まだ......名前を決めてないじゃないですか......」


「......そうねぇ。ずっとあった候補の中で、特に私の気を引いていた名前があったの......ネイって言うのだけれどね、安寧、丁寧......。寧って漢字には、気持ちが落ち着いてるとか、安らか、穏やかって意味があるの......」


ネイ「......」


「安らかに、穏やかに育っていってほしい。そんな思いで、ネイって名前を付けようと思ってたのだけれど、中々それって決められなくてね......」


 私の治癒術が間に合わない。それもそのはず。お母さんの腹部を貫通した弾丸には、神経を硬化させる毒素が含まれていた。


 神経の硬化を治す方法なんて私は知らない。もう、血を抑えるだけで精一杯なのだ。


「ねぇあなた......」


ネイ「......なんで......しょうか」


「あなた、ネイなんでしょ?」


ネイ「っ......」


「髪色とか、顔の形とか、色々と思ってたものと違うけど、それでもあなたが私の娘だって分かったわ。母親だもの」


ネイ「......お母......さん」


「ふふ......まさか、こんなに成長した娘に『お母さん』って呼んでもらえるなんてね」


ネイ「っ......お母さん、絶対に治すから、頑張って!」


「......ねぇ、私の娘なら、お母さんの最後の頼み、聞いてくれる?」


ネイ「嫌だ......!最後の頼みなんて嫌だ!普通のお願いをしてよ!」


 血が止まってくれない。このままじゃ、神経が固まる前に多量出血で死んじゃう......


「この子を、守りきって。過去のあなたである、ネイを守って」


ネイ「......」


「お願い、ネイ。私は、命に代えてでもこの子を守らないといけないの。あの人が、この世界に残した最後の希望だから」


ネイ「......嫌だよ。お母さんが死んじゃうなんて、嫌だよ......!」


「......あの人に似てるけど、とっても可愛い子になったわね。私より胸が大きいのがちょっと癪だけれど......元気なら、それでいいわ」


 ダメ......ちょっとずつ、お母さんが目を閉じている。


 嫌だ......守れたはずの人が守れないなんて、そんなの嫌だ......


「......お誕生日......おめでとう......ネイ。本当なら、この剣はこの子が15歳になった時に渡す予定だったのだけれど、今渡すしかないわよね」


 異空間から取り出したのは、よく知ってる私の剣。服が無いことに疑問を持ったけど、あれはエンマが精霊界から持ち出したものだったはずだ。


「泣かないで......あなたには......笑顔が......似合う......はず......だか......ら......」


 最後の力を振り絞って出した言葉。ずっと心の中に残っている。僕は、お母さんを守れなかったんだ。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 最後に、お母さんの体を、この先の時代でアテナが眠る予定の場所より少し離れたところに埋めた。


 ヴァルガのところに、すっかり泣き疲れた赤ん坊の私を連れて行き、諸々の事情を話して、この世界で生きるために姿を人間にしてもらった。名前は教えなかった。だから、ヴァルガが『ラクシュミー』と名付けた。


 この家には、私が見た事もない姉と兄がいた。2人とも、父親の遺伝なのか真っ赤で綺麗な髪色をしていた。2人とも、私とこの赤ん坊の私を交互に不思議そうに見ていた。


 この時代の2人は、まだまだ幼い。シヴァの方は10歳くらい。アテナは15歳くらい。14年前でも私より年上......


 いや、私は15歳になってる。4月6日が誕生日......来た時間では違うけど、この時間は4月6日なのだ。


 それから、私はこの剣を持ってエンマのいる精霊界へと向かった。


 エンマは、私の話を一通り聞いて、「そういう事なら面白そうだなぁ」とだけ言って、私の話に乗ってくれた。未来で、エンマがその通りに動いているのだから、彼は本当に、面白いことが起きれば何でもいいのだろう。


 最後に、私は世界の書庫(ワールドアーカイブ)で、ラナが集めたデータを見た。


 ラナが集めたデータのタイトルには【グランストリア】と名前が付けられていた。


 創界の物語......そんな感じの意味かな?まあ、タイトルなんて適当に決めたのだろう。


 その物語は、章ごとに様々な人物の視点で物語が書かれていた。第1章......第2章......第8章までを読み終えて、私はそこから先を読むことが怖くなった。


 ここから先は未来の話。絶望に抗うためと分かっていても、未来を知ることは怖かった。


 ここから先、私が経験すること全てが分かってしまう。それは、途端に人生がつまらなくなることを指している。


「......ここから先は、必要になったら」


 それでいいだろう。何も、今すぐに読み進める必要はない。ただ、私はラナとして、ネイと契約しなければならない。


 ......いや、それもまだ先でいい。ラナは、本来先の未来で、とある地点を境にループする事になっていると言っていた。なら、とりあえずはそこまでこのまま見てもいいだろう。そこで、ラナが考案した方法を試す。ダメなら、私は再びこの時代に舞い戻り、ラナとしてネイと契約する。


「ラナ、見るべきものは全て見たよ」


 ここから先、どうするべきなのか。それは分からない。


「お嬢、未来に帰ろうぜ」


 ただ1人、ジークがそう言った。


「......私は、森羅の風殿龍王・ラナ。全てを変えるために動く。それが私の行動理由。皆さん、ついてきてくれますよね?」


「任セロ。主ノ道ヲ導クノガ、我ノ使命」


「主の後ならば、どこにだってついて行きます」


「私も、あなたの為ならば、どこにだってついて行きます。というか、この状態なので、ついて行かないといけませんがね」


 私の背後には、龍王達が龍人の姿でそこにいる。


 大丈夫。私には、こうして心を直に支えてくれる仲間がいる。


「お嬢、俺の主はお嬢ただ1人だけだ。何がどうなろうが、俺はお嬢の味方だ。改めて、契約してやる」


 背の高いジークが、私の手を取り、改めて契約を結び直す。


 元々、ジークとはあやふやな契約関係だった。これで、正式に契約を結ぶことが出来た。


「大丈夫。私には、仲間がいる」


 さあ、戻ろう。みんなが待つ未来へ。

人物紹介

ハマル

性別:女 所属ギルド:星界軍

好きな物:本 嫌いな物:隊長

誕生日:1月4日 身長:152cm 25歳

見た目特徴: 薄紫色の超ロングヘア少女。25歳とか言ってるけど、15って言っても疑われない。バストサイズなど無い。


 星界軍第3部隊隊員。階級は曹長。一応、闇のオーロラ魔法を扱うが、モブisモブ。要は今後覚えてたら出るくらい。


次回予告

第8章16 【星空の戦い】

 いやぁ、√NHもいよいよ大詰めです。世界が繰り返してるとかいう話から、この作品が正式にタイムリープものであることが判明致しました。ですが、これは、あくまで最後の周を描いたものです。まだまだ明かしてない秘密が多いですが、『何か』があるせいで繰り返しの時間から突破できるようになっています。皆さんは、少なすぎるヒントの中から、是非、その『何か』を探してみてください。

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