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グランストリアMaledictio  作者: ミナセ ヒカリ
第8章√NH 【星界の家族】
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第8章9 【天翔る空】

 人生というのは思い通りに進まないもの。それを理解した上で、如何にして自分の思い通りに修正できるかが人生ゲームの攻略法。


 ただ、如何に思い通りに修正したところで、絶対に変えることのできないものというのは存在する。


 それを目の前にした時、人はどういった行動をするのか。


 私の場合は、邪魔なら排除する。そうして戦場を潜り抜けてきた。


ユリナス「久し振りねぇ、お姉ちゃん」


ベガ「......」


 今回ばかりは、話が少し違う。


 相手は数年前に私と同じように家を出ていった妹のユリナス。簡単に刃を向けられる相手ではない。


ユリナス「どうしたの?お姉ちゃん。その腰に携えた剣、抜きなよ。あたしは敵なんだよ?」


ベガ「......簡単に言うな。お前は私の妹だ」


ユリナス「だから剣を向けられないって言うの?お姉ちゃん。そんなんで、よく戦場を潜り抜けて来られたね」


ベガ「......」


 果たして、これが私の妹なのだろうか。


 妹のユリナスが家出をした理由は、単純に貧乏が嫌いだったからだ。


 周りと違う。同年代の流行りについていけない。金さえあれば......そんな気持ちが、ユリナスを闇に堕とした。


ユリナス「お姉ちゃん。刃が向けられないって言うのなら、少し昔話を聞いてよ」


ベガ「......」


ユリナス「昔、お姉ちゃんが軍隊に入ったばっかりの頃、お母さんが流行り病にかかったのを知ってるよね?」


ベガ「......ええ、知ってるわよ」


ユリナス「お姉ちゃん、仕事が忙しいとかで全っ然家に帰ってこなかったよねー?」


ベガ「......」


 仕事が忙しかった。今にして思えば、家に帰りたくない言い訳だったのかもしれない。


 お母さんとか、妹のユリナスに会いたくないからとかではない。むしろ、会えるのなら会いたかった。だが、お父さんが家にいたせいで、戻れなかった。


 それを言ったところで、ユリナスが納得してくれる理由にはならない。全て、私が悪いのだ。


ユリナス「お姉ちゃん、まだお父さんの事気にしてるの?家に帰ってこなかった理由、お父さんのせいだって知ってるんだよ。お父さん言ってたもん。『あんな奴、もう家に帰ってこなくていい』って。昔からお父さんに嫌われてたもんねー」


ベガ「っ......」


ユリナス「暴力は日常茶飯事。お父さんはお姉ちゃんの事嫌ってたもんねー。だからお姉ちゃんは軍隊に入った。お父さんは戦場で死ぬだろうって何も気にしなかったよ」


ベガ「......だから何。お父さんの事なんてどうでもいい。私とあいつは、もう赤の他人」


ユリナス「って、言う割には『お父さん』って呼び方してるよね」


ベガ「......話はそれだけ?」


ユリナス「......あーあー、面白くないなー。もっとお姉ちゃんがワーワー言う姿を見たかったのにー」


 お父さんからの愛情をたっぷりと受け取ったユリナスは、いいように悪ガキへと変貌を遂げた。


 あの人の育て方は、虐待と一方的な愛情しかない。


 そのせいで、ユリナスは善悪の判断があやふやな女へと成長した。私が逃げてしまったというのも責任の1つかもしれない。


 ......やめよう。戦場で、昔のことを思い出すなど、死を覚悟する時以外はしたくないものだ。


ベガ「......ふぅ。千天・五月雨」


ユリナス「......!」


 突然の攻撃に怯んだのか、私の攻撃をまともに喰らった。


ユリナス「......何すんのよ」


ベガ「話をしても無駄だと思った。やはり、お前は死ぬべきだ」


ユリナス「お姉ちゃんのくせに......」


ベガ「ここは戦場。姉も妹も、戦場で一度(ひとたび)剣を合わせれば、家族も何も関係ない。私にとって、貴様は敵だ。殺さねば、己が殺られる相手。むしろ、ここまで話を聞いてやっただけありがたいと思え」


ユリナス「っ......お姉ちゃんのくせに!」


 立ち上がり様に放ってくる横方向の竜巻。それを4つ。天空系魔法の1つだが、妹の実力は私より下。


 隠し球があるかもしれない。だが、初級の魔法を見れば、相手の実力はすぐに分かる。


 父親に甘やかされて、貧乏という部分さえ除けば、悠々と生きてきた奴だ。負けるわけにはいかない。


ベガ「本当の天空魔法を見せてやる」


ユリナス「お姉ちゃんが魔法を使えるわけないじゃない!何言ってんのよ」


 小馬鹿にしたようにそう言うが、その行いが命取りだ。


ベガ「天楼・幻想郷への誘い」


ユリナス「......っ!何よ......その魔法」


 天空系魔法は、攻撃しつつ見方へのサポートを行う技。だが、そのサポート部分を全て攻撃に回すとどうなるだろうか?


 本来、補助に割いていたマナを、全て天空魔法の攻撃に回す。天空系魔法自体が絶大な威力を誇る魔法だ。あとはもう分かるだろう。


ユリナス「やめてよ......やめてってば!」


ベガ「戦場において、一度(ひとたび)の油断は、己を切り裂く。お前には、緊張感というものが足りなかったようだな」


ユリナス「......やめて!やめてよ!お姉ちゃん!」


 ......家族とは何だろうか。


 私は、ただ普通の人生を送りたかっただけだ。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


サターン「なるほどな。ジュピターともあろう者が相討ちか......」


ネプチューン「敵も、侮れないということか」


サターン「ああ。だが、我らの目的はただ1つ。敵軍総隊長、ミルキーウェイを殺すことだ」


ネプチューン「ああ。敵陣は、南ががら空き。恐らく、総軍で仕掛けてくるであろうと踏んで返り討ちを狙う算段だな」


サターン「だが、俺達は1人に5000もの兵を付けてはいない。ただの幻覚だ。それを知らずに、のこのこと南にやって来るであろうミルキーウェイを、俺達が一網打尽」


ネプチューン「舐め腐ったその首、毒に浸してやる」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 なるほどな。


 太陽系1人につき、5000もの兵が付いておるのはただの幻覚じゃったか。小賢しいことをしおって。


 まあよい。南に妾がいると知って、たったの2人でやって来たことを後悔させてやる。


ミルキーウェイ「北斗七星陣・流星」


 南の荒野。ここには、いざという時のための魔法陣が大量に仕掛けられている。一つ一つに、隕石が落ちてくるよう、地雷型の魔法を仕掛けている。


 それら全てを、妾の意思1つで、踏んでいなくとも発動できるようにする。敵は、この逃げ場のない大地で、どのようにして踊り狂うのじゃろうか?


 ......遠くに見えるのは、ネプチューンとサターン。昔昔、戦争のない平和な時代じゃった時にはよく見た顔じゃった。じゃが、今は敵として相見える顔。


 戦争なんて意味のないものを、お主らはなぜ求める?


 ......そんなもの、問い質したところで、意味はないのじゃろうな。


ネプチューン「なるほどのう。流星の陣か」


ミルキーウェイ「なっ......」


 踏めば発動する魔法陣の上を、平気で歩いておる?


 何故じゃ。何故、術が発動せん。


 疑問に思い、近くにある魔法陣を確かめてみるが、術は機能しておる。


サターン「お前ほどあろう者が、こんなしょぼい魔法陣を貼るだけか」


ミルキーウェイ「っ......北斗七星陣発動!」


 地雷として機能しないのなら、自ら発動させるまで。


サターン「ダメだな。たかが流れ星如きで、俺達が傷の1つでも負うと思ったか?」


ネプチューン「お前の敗因は、我らを舐めたことだ」


ミルキーウェイ「っ......まだ敗北などしておらん!」


 死んでいない限り、私はまだ敗北しない。


 今のはちょっとした挨拶みたいなものだ。


ミルキーウェイ「お前らこそ、今のが妾の全力とて思うまいな?」


ネプチューン「魔法など、どんな位の技であっても、見ればその人の真の実力が全て分かる。どんな魔導士であれ、己の実力を隠しきることなど、下の魔導士を相手にするくらいでしか出来ぬ」


ミルキーウェイ「ほう......お主らは、妾より上じゃと?」


サターン「......その通りだが?」


 口だけはいつまで経っても立派な女だ。


 相も変わらず、その男みたいな容姿、少しは化粧くらいしたらどうだと勧めた事もあったな。


 だが、そんな事を言っても、お前は己を貫いた。その結果が、こうして殲滅軍となる事であったか。


 コスモとユニバーの仇。ここで取らせてもらおう。


ミルキーウェイ「全天解放・天翔る龍星」


 龍の形を模した星々の流れ。


 先程の北斗七星陣とは威力も量も圧倒的に違う。


 サターンは悪魔を己に憑依させ、ネプチューンは大地を死の海に変える。だが、それらは全て天に対しての魔法ではない。故に、あいつらに防ぐ方法などない。


サターン「なるほどな」


ネプチューン「これが、お前の全力か」


 清々しい顔をしおって......これ程の魔法を目の前にして、諦めの念を抱いたか。それならそれでいい。


ミルキーウェイ「......死ね。同胞よ」


サターン「......で、死ねたら良かったな」


ミルキーウェイ「なっ......」


ネプチューン「先程の光景を見なかったのか?俺達に流れ星など効かぬ。全て、当たる前に砕けてしまうからな。さて、そろそろ上だけでなく、下の方を見た方が良いんじゃないのか?」


ミルキーウェイ「下......?」


 足元のことか。


ミルキーウェイ「なっ......」


 足元を見た時。そこには、奴らが余裕な態度を見せていた理由があった。


 足元に、この荒野に、水面が出来ている。


ネプチューン「我の魔法を忘れておらんな」


ミルキーウェイ「っ......!死の海」


ネプチューン「俺達は、お前を確実に殺すために動いている。さっきまでのは、全てただの茶番だったというわけだ」


サターン「俺達をたかが1人で倒せると思っていたお前の姿は、お笑いとしては良かったぞ。だが、それもここまで。死んでもらおうか」


 サターンの姿が、禍々しい化け物の姿へと変わり、一瞬でこちらに攻め寄ってくる。


サターン「懐かしい顔だ。昔、本気でお前を嫁にしたいと考えたこともあったよ」


ミルキーウェイ「女同士で結婚など、私は望まぬ」


サターン「その考えが古臭いって、言わなかったか?まあいい。美しい顔だな。その顔に、俺は憧れていた」


ミルキーウェイ「......」


 お前も、もうちょっと女の子らしくしていれば、私と同じようになれていたかもな。ただ、こんなおばさんに、お前は「美しい」という言葉を使うか。


 死ぬわけにはいかない。私が死ねば、軍が動かなくなる。そして、それ以上に危険なことがある。


 奴らが復活を望む『ウルガ』への門が開かれる。


サターン「さよなら。あなたの体は、ネプチューンの死の海によって、綺麗に分解されるから」


ミルキーウェイ「嬉しくもない最後の言葉じゃな」


 ......じゃが、妾にはまだ逆転できる『可能性』が残っておる。


 彼女が、彼女達がこの世界を変えてくれる。


 信じておるぞ。白髪の姉妹。


 ......


 ......


 ......


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


ヒカリ(ねぇ、動かなくていいの?)


ネイ「......まだ、その時ではありません」


ヒカリ(......このままだと、ウルガって奴が復活するわよ。アポカリプスを閉じ込められている空間から)


ネイ「......アポカリプスは復活しない。その為の手段は用意してある」


ヒカリ(そう。ならいいけど)


 まだその時ではない。


 まだ、私が出る幕ではない。


 くだらない戦争に興味はない。私は、お姉ちゃんを助けるだけ。


 人体錬成によって負った心の傷は、そう易々と癒せるものではない。だが、お姉ちゃんなら乗り越えられると私は信じている。


 ......お姉ちゃんが目を覚ます前に、いや、目を覚ましたとしても、辛い思いをする前に全てを終わらせる。


ネイ「そろそろ動きましょうか」

人物紹介

ベガ

性別:女 所属ギルド:星界軍

好きな物:星空 嫌いな物:曇り空

誕生日:7月7日 身長:162cm 27歳

見た目特徴:白髪(この作品白髪少女多いな)ロングの美人。むっちゃ美人。軍人であることがもったいねえ。当然バストサイズが存在し、そのデカさはD(ん?感覚ズレてるだけかな?)。はい、調子に乗りすぎました。すみません。


 星界軍第1部隊隊長。階級は大佐。その才覚で、若き時から超スピード出世を果たし、今では第1部隊の隊長を務めている。基本は剣を使うが、攻撃に特化しすぎた天空魔法も扱う。


次回予告

第8章10 【俺達の戦い】

 はい。次回で総話数200話を迎えます。ですが、第100話目と同じように何もありません!本当なら、特別な話でもしようかと思ったのですが、流石にキリが悪すぎるので普通に続けます。そのうち、本編では触れられないifルートとかやっても良さそうですね。例えばヒカリちゃんが第2章で生存した場合とか......

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