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グランストリアMaledictio  作者: ミナセ ヒカリ
第8章√NH 【星界の家族】
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第8章7 【失われた記憶】

 翌日。


シリウス「君が、イデアルの妹と自称する人物か」


ネイ「じ、自称って......」


シリウス「イデアルの家系に、妹がいたなどという記実はない。怪しんで当然だ」


 そうまで言われると、私の生い立ちが益々気になる。


 知っているのは、龍人の少女が結界のヴァルガのところへ連れて行ったという歴史のみ。


 本当の母の姿は知らないし、私があの屋敷で過ごしていたのかも分からない。もしかしたら、その龍人が母なのかもしれないが、実際がどうなのかは分からない。


 世界の書庫(ワールドアーカイブ)では、使用者の過去を知ることはできない。


シリウス「......イデアルには、この先の部屋で待機させている。聞いてるとは思うが、彼女の記憶は総隊長が人工的に生み出したもの。何かのきっかけで元の記憶が蘇るかもしれないから、くれぐれも変なことは言わないようにしてくれ」


ネイ「分かりました」


 この軍の人は、人体錬成をないがしろにすることがイデアルの幸せだと考えている。


 歴史なんて無かったことにはできない。それが人間。私だって、過去のことを全てなかったことにはできない。


 写真で見ただけのお姉ちゃん。私は、ゆっくりとお姉ちゃんが待つ部屋の扉を開ける。


イデアル「次はここ。そして最後に氷のマナを配置......」


 たくさんの本と魔法陣に囲まれてブツブツと何かの研究をしている少女。


 これが、私のお姉ちゃん。


イデアル「シリウス様、ご用でしょうか」


 こちらに気づいたお姉ちゃんは、魔法陣と浮かせていた本を床に落として、こちらにやって来る。


イデアル「こちらの御方は?」


シリウス「お前の妹と名乗る人物だ。お前に会いたくて来たらしい」


ネイ「......」


イデアル「私の......妹ですか......?」


 不思議そうな目で見てくるお姉ちゃん。


 本当に、私のことは一切知らないんだ......


 分かっていたことだけど、改めて認識されてないとなると悲しくなる。


イデアル「......シリウス様、用はそれだけでしょうか?」


シリウス「......!もっと他にないのか?生き別れの家族だぞ?」


イデアル「興味ございません。それだけなら、私は研究を続行します」


 そう言うと、先程と同じ体勢になって、魔法陣を広げる。


シリウス「......記憶を人工的に作った時に、戦い以外の情報は要らないと判断させたんだ。そのせいで、こうして無感情な奴になってしまった」


ネイ「......」


イデアル「なんですか?」


 お姉ちゃんの頭を触って、記憶を覗き見る。


 2年前。


 お姉ちゃんは、軍に入ってから久し振りの帰省をしていた。


 屋敷に住むのは、たった1人のメイド、スピカ。そこに、母の姿はない。


 スピカの話によれば、母は、昔何者かによって殺されてしまった。スピカは、母が死ぬ前に雇った長期のメイドらしい。


 スピカの話を聞き、たった1人だった家族を失ったお姉ちゃんのショックは大きかったようだ。


 後は、大体予想通り。人体錬成によって作り出したのは、母だ。


ネイ「......なるほど」


 人体錬成後に見える記憶は、血溜まりの中に浮かぶ黒い影。心を壊し、そこからは人工的に作られた記憶を元に生活してきた日々。


 お姉ちゃん......。


ネイ「......汝、罪から逃れるな。汝の犯した罪は、その身に纏い、一生離れぬ鎧となる。認めよ、汝の罪を。逃げるな、己の罪から」


イデアル「っ......!あ"......あ"ぁ"っ......」


 頭を押さえてその場に踞るお姉ちゃん。


 ......大丈夫。お姉ちゃんなら、きっと立ち直れる。


シリウス「イデアル......!イデアル!?おい、お前!何をした!?」


ネイ「......お姉ちゃんに、作り物の記憶は要りません」


シリウス「......!まさか、お前......」


 作り物の記憶なんてあっていいものじゃない。


 お姉ちゃんにはお姉ちゃんの人生がある。誰にも邪魔させない。


ミルキーウェイ「何事じゃ、シリウス」


 慌てて現場に駆けつけてきたミルキーウェイ。


ミルキーウェイ「どうしたんじゃ?」


シリウス「この者が......イデアルの記憶を......」


ミルキーウェイ「何!?」


 そう言えば、記憶を作り出したのは、ミルキーウェイだったか。


ミルキーウェイ「お主、なんて事をしてくれたのじゃ......イデアルに記憶を植え付けたのは、この子を守るため。分かっておるじゃろ?」


ネイ「罪から逃れるのが正しいことですか?」


ミルキーウェイ「たまには逃げねばならぬこともある」


ネイ「......残念です。これだから人間は愚かで嫌いなんですよ」


 もうここに用はない。私は、ミルキーウェイと入れ替わりに部屋を出ていく。


ネイ「仲間になるって話でしたっけ?残念ですけど、無理そうです」


ミルキーウェイ「っ......!」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


アルタイル「......」


マース「......」


 部隊長が刀を肩の上に構え、マースも同じように刀を構える。


アルタイル「むっ......!」


 小さな雨粒の音と共に、2人が刀をぶつけ合う。


 部隊長は、どっしりとした構えで受け止め、マースは素早い動きでのらりくらりと攻撃をかわしつつ、攻撃する。


 俺達が手出しできる戦いじゃない。それは、一目見ただけで分かった。


 ただ、これは戦争。正々堂々とした戦いを見続けるわけにもいかない。


カストル「行くぞ、アンタレス、アルレシャ」


アンタレス「了解」


アルレシャ「合わせるよーせーっの!」


「「「 星天・三魔の法! 」」」


 火、水、闇の合わせ技。


 足元を水で浸し、太陽の如く熱い炎によって周囲の気温を上昇させる。そして、闇の障壁によって、俺達はこの異常気象から守られる。


マース「なるほど。天候操作ってわけかい」


カストル「隊長、今のうちに」


アルタイル「待て。これしきで攻めることなど出来ん」


マース「そうだよ。若造、これしきであたしが不利になるとは考えない方が良いよ」


 周りの水が全て蒸発した......?


マース「あたしにとって、炎も水も全て自由な資源。暑さも寒さも感じない。あんたら若造の攻撃は、全て無駄ってことさ」


アルタイル「むぅ............」


 まさか、我らの部隊長が押されている......


マース「アルタイルや。ジジイになっても動けるのは良い事だが、ちょっと感覚が鈍ったかい?」


アルタイル「ジジイにもなれば、多少は動きが鈍る。じゃが、こんなところで膝をつくほど、老いぼれてはおらん」


マース「随分やる気なジジイだねぇ」


アルタイル「マース。お前の方は何も変わらんな。お前と出会ってから、40年は経っておると言うのに、何一つ変わらぬその容姿。何をしたらそうなるのやら」


マース「これかい?世の人間は、皆不老不死に憧れる。あたしは一足先にそれを手に入れただけさ」


 不老不死の技術など、この世界にない。


 だが、部隊長が言った、『40年前』にはマースが存在していたとなると、あの若々しい容姿では不老不死というのも納得してしまう。


 綺麗な赤髪に、豊満な胸。そして、露出の多い赤い服装と、若々しさを十分に感じさせる。


カストル「隊長、この者は......」


アルタイル「昔、どこかで手に入れた不老不死の法をその身に纏いし者。我と奴とは、長年の好敵手」


マース「だけど、あんたはすっかりと老いぼれて私の勝利が多くなってきたねぇ」


アルタイル「......その戦いも、今日、この日をもって終わりとする。貴様をここで討ち、我ら星界軍の勝利への糧とする」


マース「ハッ......やれるもんならやってみな」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


イデアル「う"......あ"......嫌......嫌......」


ミルキーウェイ「なんて事じゃ......」


 あの小娘、自らの姉を苦しめて平気なのか。


 分からぬ。彼奴が考えておることが、妾には分からぬ。


シリウス「総隊長、どうするつもりですか......このままでは、イデアルが......」


ミルキーウェイ「そんなもの、もう一度作り直すに決まっておる」


 もう一度過去の記憶を消し、新たな記憶を植え付ける。昔に一度行ったこと。もう1回やるなど経でもない。


ミルキーウェイ「......?これは......?」


シリウス「どうされましたか?」


ミルキーウェイ「......記憶部分への接続が不可能となっておる。あの小娘が、妾達が手を出せぬよう、外部からの接触を阻止しておるのじゃ」


シリウス「......という事は、イデアルは......」


ミルキーウェイ「もう、妾達ではどうしようもない。このまま、苦しんでおる姿を眺めることしか出来ぬ」


シリウス「そんな......」


 っ......なんて事じゃ。


 何も手出しが出来ぬ。このまま、イデアルが苦しむだけの姿を見るなど、妾には出来ぬ。


 どうにかして記憶部分に介入できないかと探るが、どう足掻いても、記憶に触れることが出来ぬ。


 こんなことが出来るなど、あの小娘、何者じゃ?ただの人間ではあるまい。それに、顔だけ見れば幼いその姿も、数々の戦場を潜り抜けてきた老騎士のように、戦場の痕が残されておる。


 何をその目で見てきたのか。どんな生き方をしてきたのか。直接、確かめねばならぬ。


ミルキーウェイ「シリウス、ネイを追え。そして捕らえよ」


シリウス「了解!」


「失礼します!」


 こんな時じゃというのに何事じゃ。


ミルキーウェイ「どうした、アルキオネ」


アルキオネ「プルトからの報告です。たった今、我らが抑えた領地それぞれに、太陽系八人衆が攻め込んでくるそうです!」


ミルキーウェイ「太陽系の者共か......」


 いつかはそういう作戦を取ってくるとは思ったが、なんとも中途半端な時期を選んだのう。


アルキオネ「敵の規模は、太陽系1人につき5000。そして、早いところには明日にでも到着するそうです!」


ミルキーウェイ「明日じゃと!?」


 早い。早すぎる。


 プルトの奴、情報を掴むのに遅れを生じさせたか......


アルキオネ「時間がありません総隊長!今、本部に残っているのは、第1部隊と第3部隊のみ。如何なされますか?」


 兵が枯渇しとる時期を見計らっての進行。オマケに、第1部隊の要とも言えるイデアルがこんな状態。


 せめて、部隊長であるベガが帰ってくれば完全な状態で出陣させることが出来るが......


シリウス「総隊長、考えている暇はありません。領地の幾つかは捨てることになりますが、奴らがここに侵攻する際に重要となる拠点に兵を置くべきです!」


ミルキーウェイ「......そうじゃな」


 ただ、太陽系1人につき5000か......


 最重要拠点ともなれば、そこまで侵攻して来る頃には何人かが集まっておるはず。とても、第1部隊と第3部隊だけでどうにか出来るとは思えん。


ミルキーウェイ「第1部隊を西の砦に。第3部隊を東の砦に配置。ベガには速達を届けよ」


アルキオネ「了解」


 第2部隊は、マースと対峙しているはず。だが、8人全員が侵攻して来るとなると、敗北した可能性が極めて高い。もしくは、マースだけが一足先に来た可能性もある。ただ、それはあくまで可能性の話。現状、妾達が不利なことに変わりはない。


ミルキーウェイ「シリウス、太陽系は倒さなくてもいい。出来るだけ、敵に損害を与えてから本部まで撤退じゃ。敵を攻め込ませることになるが、この街で総力戦を行う」


シリウス「し、しかしそれでは......」


ミルキーウェイ「これしか方法がない。今のうちに、住人の避難を妾が行っておく。お前は早くに行け」


シリウス「......了解......致しました」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 暗い暗い、真っ暗な空間。


 ここに閉じ込められて、何年の月日が経っただろう。


 外で私を呼ぶ声がする。


 周りで、この世界から脱出しようとする龍の叫び声がする。


 遠い過去で、雨の中で叫ぶ少女の声がする。


 ミルキーウェイ。コスモ。そして、我が妻ユニバー。


 君達は、実に素晴らしい魔導士だった。


 世界に恐れられた、この私を、こうして長年閉じ込められているのだからね。


 でも、そうしてられるのも時間の問題。


 ......そうさ、俺は、ここで密かに逆転の時を狙っている。


 君達3人のうち、2人は死んだ。


 ミルキーウェイ。後は、君が死ねば、私をここに括り付ける者などいなくなる。


 精々足掻くといい。

人物紹介

ペテルギウス

性別:男 所属ギルド:星界軍

好きな物:人の苦しむ様 嫌いな物:呪いの効かない相手

誕生日:11月30日 身長:180cm 28歳

見た目特徴:黒髪ボッサボサヘアのなんか、ヤバそうな雰囲気をそれとなく放っている男。呪術師らしく、全身真っ黒なローブを着ている。


 星界軍第1部隊隊員。階級は少尉。何度も言うが、呪術を扱い、敵を呪い殺す。シヴィニアよりかは実力が下。

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