第7章10 【空白の記憶】
そう言えば、今まで俺がどうやってグランアークまで日帰りで行ってたのか、話したことは無かったな。
俺含めて、2人までだったら、俺は転移術で移動をすることが出来る。これは、聖龍の力ではなく、生まれつき持っていた力らしい。
剣一筋の俺だが、魔法の才覚もあったってことだ。というわけで、俺とヒカリはものの数分でグランメモリーズのギルドにまで辿り着いた。
今更ながらに考えれば、馬車で揺られながら、こいつに落ち着く時間を与えた方が良かったかもしれない。意味があるかどうかは知らんがな。
ヒカリ「1年前と何一つ変わらないギルドですね。大会に優勝したんだから、その優勝金とかで建て替えられるはずなのに」
クロム「王都が大変なことになってるからな。その優勝金は、落ち着くまで見送りらしい。つくづく運のない奴らだとは思う」
ヒカリ「そうですね......」
クロム「で、いつになったら扉を開けるんだ?開けないのなら、俺がそのまま開けるぞ?」
ヒカリ「ま、待ってください。心の準備が......まだ......」
めんどくせえな。そんな事言って、10分くらい同じ会話を繰り返してるぞ?そのせいで、若干頭が狂いだしたんだが......
クロム「もういい。俺が開ける」
ヒカリ「あ、待って!」
ヒカリの言葉を無視して、俺はギシギシと鳴る扉を開ける。
ミラ「あら、いらっしゃ......クロム?」
クロム「よう、久し振りだな」
ヴァル「クロムじゃねーか!久し振りだな!」
目当ての人物は、すぐに来てくれた。
ヴァル「ネイ......もしかして、歩けるようになったのか?」
ヒカリ「触らないで」
ヴァルが伸ばしかけた手を、ヒカリが手で振り払う。
クロム「ゲッ......」
ヴァル「......どうしたんだ?ネイ」
ヒカリ「......私は、あなたが知ってるネイじゃない」
ヴァル「......どういうことだ?クロム。3文で説明してくれ」
クロム「こいつはヒカリ。色々とあってヒカリの人格が蘇った。3文で説明するのには無理がある。以上だ」
そう説明すると、ヴァルもミラも目を合わせて疑問符を大量に浮かべている。
当たり前だ。今の説明で理解できる方が頭がおかしいってもんだ。
クロム「......猿でも分かるよう説明する。とりあえず、座れ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
クロム「と、いう事だ」
ヴァル「全っ然訳分かんねぇ......」
クロム「これでも分かりやすすぎるほどに説明したんだがな」
ヴァル「......えーっと、要はなんか訳分かんねぇヤベぇ奴が現れて、そいつのせいでネイの記憶が消えて、代わりにヒカリの記憶が蘇った。よし、そこまでは理解したぞ」
ヒカリ「猿のくせに、覚えが早いですね」
ヴァル「......ネイの体で、俺に向かってその口調だとなぁ」
クロム「諦めろ。ヒカリはこんな性格だったろ」
ヴァル「......」
ヒカリ「何見てるんですか」
ヴァル「いや、なんでもない」
1年ぶりの再開。
こいつは、正常になっただけで何も変わってない。ただ、ネイの体してその喋り方だとなぁ。どうにもしっくり来ねぇ。
ヴァル「......で、何でそれを今になって伝えに来たんだ」
クロム「そろそろ潮時かと思ってな。いつまでもお前らの力に頼らないって状況ではなくなった」
ヴァル「エンマ......だっけ?そいつが、イーリアスの街を破壊してるってんだろ。なら、お前らがここに来て大丈夫なのかよ」
クロム「さあな」
ヴァル「さあなって、お前なぁ......」
そんなんで、本当にイーリアスの王様かよ......いや、こんな所に来てる時点で王様もクソもないが......
セリカ「あ、ネイりんじゃん!」
扉を開けて入ってきた、仕事帰りのセリカとアルテミスが、早速こちらに気づいた。
ヴァル「また、同じ説明をするのか?」
クロム「......仕方ないだろ」
ヴァル「はぁ......」
△▼△▼△▼△▼
セリカ「えっと......どういうこと?」
ヒカリ「やっぱり、雌豚には何も分かりませんでしたか」
セリカ「ごめん、今ので理解出来た」
この、超毒舌口調なのは、間違いなくヒカリんだ。
だとしても、1年前のあの時には、私達を信じて、少しは柔らかくなってくれてたと思ってたのにな。ちょっと予想外。
アルテミス「本当に、ラクなの......?」
ヒカリ「......」
アルテミスにそう言われて、顔を背けるヒカリん。
アルテミス「ねえ!ラク!聞いてるの!?」
ヒカリ「......私は、もう死んだ存在だから」
アルテミス「......」
クロム「まあ、話し方から分かるだろうが、こいつはヒカリで間違いない」
ネイりんの顔をして、中身はヒカリんの人格。ジークとかの事があったから、もうこの程度では驚かないけど、それでもヒカリんが生きていたという事実には驚愕だ。
セリカ「ヒカリん......」
ヒカリ「その呼び方はやめてって言ったでしょ」
セリカ「......」
ヒカリ「......クロムさん、やっぱり帰りましょう。こんなところに来ても、何にもならないんです」
クロム「待て、どうせ城に帰ったところで、お前は何も出来ない」
ヒカリ「私なら出来る!あのメモリが使えなかったのは、完成しきってなかったから!もう一度作り直せば、完成する!」
クロム「そんなわけがない!次のを作ったところで、お前にはどうすることも出来ない!ネイは言っていた。魔法には心が大事だと。お前には、その心がない」
ヒカリ「化学の力に、心なんて関係ない!何も分からないくせに、適当なこと言ってんじゃないわよ!」
ヴァル「や、やめろ!お前ら!」
段々とヒートアップしていく2人の間に、ヴァルが炎を拳にまとわりつかせて入り込む。
ヴァル「落ち着け、クロムにヒカリ。言い争ってても、そのエンマって奴は倒せねぇ。そうだろ?」
ヒカリ「......」
クロム「すまない......俺とした事が、少々ストレスが溜まっていたようだ」
ヒカリ「......8属性の力を得たあいつを倒せるのは、私だけです」
そう言って、杖をつきながらギルドを出ていくヒカリん......。
ヴァル「クロム、ここは俺に任せてろ。中身が変わっても、ネイはネイだ」
クロム「......すまない」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヒカリ「なんでついて来てるんですか」
ヴァル「心配だからだ。以上」
お節介かきとでも言われるだろうな。まあ、俺の役目はこいつを幸せにすることだったから、中身がヒカリだろうがその役目は全うする。
ヴァル「......足、治ったんだな」
ヒカリ「まだ杖が必要です」
ヴァル「それにしては治りが早すぎるな。これも、邪龍の力か」
ヒカリ「......ねぇ、ヴァル。ネイは、どんな人だったんですか。私は、1年間寝ていたので分かりません」
ヴァル「......あいつは、初めはお前と違ってスゲー臆病な奴だったよ。でも、興味のあることに対してはスゲー目をキラキラとさせて動く奴だったな。今思えば、それはお前の性格から来てたんだな」
ヒカリ「......」
ヴァル「なんだかんだあってな、あいつは邪龍になった未来の自分と出会った。そこで、1つの選択を迫られた」
ヒカリ「......邪龍になるか、ならないか」
ヴァル「そうだ。で、あいつは世界を救うために、自分自身の命までもを捧げた。お前と同じだな」
ヒカリ「少しだけ違いますね。私が死ぬことには、なんの意味もない。ネイさんが死ぬことには、意味がある」
ヴァル「自殺することに意味なんてねえよ。ただ逃げたかっただけだろ。ふざけんな」
ヒカリ「......」
お前も、ネイも、俺達の目の前で死んでいきやがって......ったく、マジで二度と俺達の目の前で死ぬな。フリじゃねえからな?
ヴァル「で、その後神様として蘇ったあいつは、心を完全に閉ざしてたわけだ。ここまで話して気づいたが、お前とまんま同じだな」
ヒカリ「仕方ありませんよ。私なんですから」
そうだな。お前だもんな。根っこの部分が変わんねぇんだから、似てて当たり前だ。
ヒカリ「で、なんだかんだあって、ネイはヴァルにベタ惚れとなる......」
ヴァル「そのなんだかんだの部分が1番大事なんだけどなぁ」
ヒカリ「いいですよ。あなたとネイの馴れ初め話なんて聞きたくありません」
ヴァル「馴れ初めって、お前なぁ......」
言うことは本当に変わんねえな。ネイであっても、ヒカリであっても。
ヴァル「その後、お前とは違うもう1つの人格が現れたり、大会に出て、なぜか世界の厄災と戦ったりして、今の足が動かないってところに辿り着くわけだ」
ヒカリ「そこの間も大事じゃないんですか!?」
ヴァル「ぶっちゃけ、ネイが今の人格になってからの話はどうでもいい。お前が変わるための素にはならんだろ」
ヒカリ「なんですか。私もあなたに惚れろとでも言うんですか」
ヴァル「ちげーよバカ!何でそうなるんだ!」
ヒカリ「......しっ」
ヴァル「どうしーー」
ヒカリ「黙っててください」
唇に指を当てられて、無理矢理「喋るな」という状態にされる。
ヒカリ「セリカさん、テミ、隠れてないで出てきたらどうですか?」
セリカ......?テミ......?
セリカ「あはは、流石、ヒカリん......」
狭い路地から2人が姿を現した。
セリカ「どうしても、心配だったから」
お前らもか......なら、なぜコソコソする必要があったんだ?
ヒカリ「......」
アルテミス「......」
どうあっても、ヒカリはアルテミスに目を合わせることはしない。やっぱり、何かと気まずいんだろうな。そうだとしても、アルテミスの方は、1年も探し続けたわけだ。もう少し、こう、なんかあるんじゃねえのか?
アルテミス「......ラク」
ヒカリ「その呼び方はやめて。ヒカリん以上に虫唾が走る」
アルテミス「......」
ラクシュミーの名前のどこが嫌なんだ。可愛らしい名前じゃね......いや、こいつはそういうのを嫌うタイプか。納得。
「おうおうおうおう、美女3人に囲まれて、お前は幸せそうだなぁ」
ヴァル「......!誰だ!」
「よう、ヒカリ。まさか、こんなところに来てたとはな」
ヴァル「まさか、あれがエンマか!?」
なんの前触れも無しに、俺達の目の前に立ちはだかった禍々しい化け物。ダミ声だが、男だろうか?
ヒカリ「っ......みんな、下がって。あいつは私がーー」
エンマ「出来ねえだろ。俺を倒すようのメモリを使えないんじゃ、お前は足の動かねえ雑魚だ」
ヒカリ「メモリが使えなくても、魔法が使える!」
エンマ「その魔法は、いくら威力が高かろうが、俺には遠く及ばねぇ」
ヒカリ「......テラ・ボルト・ライズフェーズ・∑パターン・スクリーン・37・21・11。ディスチャージ!」
エンマ「プログラムだったな、それ。なら、デリート」
ヒカリ「なっ......」
ヒカリが放った、高威力の魔法が全て消された。
エンマ「プログラムによって生み出された魔法。んなもん、その文章を消してしまえばどうって事ないからな」
見てるわけにはいかない。こいつは、確実にヤバい奴だ。だけど、俺だって龍との戦いを経て、確実に強くなった。
ヴァル「セリカ、アルテミス!こいつをぶっ飛ばすぞ!」
セリカ「分かった!サモンズスピリット!カグヤ!」
アルテミス「フェイト・アロー!」
ヴァル「地獄龍の咆哮!」
「精霊魔法に、弓魔法、そして、龍殺しか......なるほどねぇ」
そんな気はしていたが、俺達の魔法は全て消された。
ヒカリ「やっぱり、これを使うしか......」
ヒカリが取り出したのは、様々な色の飾りがついたグランメモリ。やっぱ、こいつはそれから離れてねえんだな。
ヒカリ「お願い!起動して!」
カチッ......
何も起きない。
ヒカリ「なんで......なんでなのよ......!」
エンマ「面白くねぇ。全員、まとめてあの世行きだ」
ブラックホール?しかも、ネイが作るのとはサイズが違う。
ヴァル「なんて力だ......」
カグヤ「ご主人様!1度退かせていただきます!」
セリカ「分かった!」
おいおいおいおい、こっちにブラックホールが近づいてきやがる。あんなのに吸い込まれたら......、もう考えたくねえ!
クロム「セヤァッ!」
「......?」
クロム「すまん。待たせたな」
ヴァル「クロム......」
「なぁんで聖龍の力が使えてるのかねぇ」
クロム「気持ちの問題だ。無理でも使ってやるって、思い込んだら戻ってきた。さあ、ここからが本番だ!」
人物紹介
ラヴァン
性別:男 所属ギルド:クロム自警団
好きな物:不明 嫌いな物:不明
誕生日:10月29日 身長:164cm 22歳
見た目特徴:灰色の髪をして、男にしては小柄な体型の青年。前髪によって顔が隠れている。
クロム自警団の潜入担当。影が薄く、よくメンバーから存在を忘れられている。ちなみに、作者も忘れているがためにセリフが無い。元々は盗賊の一味だったが、クロムにその腕を買われ以下省略。
次回予告
第7章11 【ヒカリ=ネイ】
そろそろ終わりですね。ザガル王国はどこに行ったんでしょうか?まあ、このザガルは結構先の章で本格的に動き出しますので、この章では関係ないです。




